仮面ライダー龍騎 Bloo-dy Answer 作:ホシボシ
相衣が11歳の時だった。
新しい女の子が施設にやって来た。
複雑な家庭環境が原因で、いつも何かに怯えているように見えた。
相衣はかつて八咫が自分にしてくれたように、積極的に桐野に話しかけたり一緒の時間を作って、仲良くなろうと頑張った。彼女の不安を少しでも取り除いてあげたかったからだ。
そんな想いが伝わったのか桐野はよく笑うようになり、相衣も同年代の友達がまたできたことに歓喜した。
「魔法使いさんみたい」
いつだったか、桐野が相衣に向かってそう言った。
「そうだよ、ボクには魔法が使えるんだ」
相衣はどこからともなく花を出して、桐野にプレゼントをした。
稚拙な手品も、桐野にとっては魔法だったのだ。
それほどまでに純粋で無知であった。
「相衣ちゃんはすごいね」
飄々としている。
意地悪そうな人に睨まれたら、桐野は肩や足を震わせるばかりだが、相衣は時に笑い、時に冷たく睨み返す。
"ボク"という一人称も、手品も、涼しげな顔も、すべてがアニメの影響だった。
すべてがパロディだった。
体を張った二次創作でしかなかった。
しかし桐野にとってはどれもが斬新で、新鮮で、かっこいい。
相衣は風だ。桐野はずっとそう思っていた。
自由に生きている。
まわりの人間はそれを不真面目だとか、逃げているだけだとか言うけれど、桐野はそうは思わなかった。
いつもテストで満点を取る桐野ちゃんのほうが凄いよと言われたこともあったが、なんとなく記憶して取れたものに価値などない。
むしろ宿題を一度もやらない相衣の度胸に惹かれた。
桐野が勉強しているのは希望からじゃない。
成績が下がると、いつまたお湯をかけられるかわからないから机に向かっているだけの自分と、いつも笑顔を浮かべている相衣ではきっと立っている場所すら違うのだ。
そしていつか相衣の隣に立つことができたなら、それはさぞ素晴らしいことなのだろうと桐野はずっとずっと考えていた。
中学三年生の時、桐野はクラスメイトの女の子、上田さんに殴られた。
彼女は山田くんという男の子が好きだった。
その山田くんが、桐野に告白してきたのだ。
断ったが山田くんはあきらめなかった。
もう一度断ったが山田くんは食い下がった。
いい加減しつこいのでやめてほしかったが、山田くんはいいからと言ってきた。
桐野は「上田さんは山田くんのことを好きだと言っていたので、そちらにしてはどうか」と提案した。
すると山田くんは「上田なんかよりも桐野のほうがずっと魅力的だ」と言った。
「しつこい死ね」
──と、駆けつけた相衣が吐き捨てて、山田くんを睨んだ。
「お前が死ね」
そう言って山田くんは帰っていった。
その後しばらくして桐野は上田さんに殴られたのだ。
「呪いをかけてあげるよ」
孤児院のソファ、相衣が桐野の腫れた瞼をなぞりながら囁いた。
車に轢かれて山田が死ぬように。
上田が強姦されて殺されるように。
「抱え込まなくていいんだよ。怒っても、呪ってもいい」
相衣は、桐野を抱きしめた。
その夜、相衣はソファでいびきをかいていた。
スマホを買ってもらえたからずっとゲームや動画を見ていて寝落ちしたのだ。
彼女の寝顔を、桐野はジッと見ていた。
部屋は暗いが、外からの光が原因で部屋の中はぼんやりと視覚できる。
鏡を見た。腫れた瞼が見えないはずなのになぜだかよく見えた。
覚えていたからだ。
父は暴力を振るう人だった。母はヘラヘラしていた。
だからなのか父が留守の日は、違う男を連れ込んでいた。
桐野は押し入れから母の現実逃避を覗く。
あるとき母に、知らない男の人が唇をくっつけているのはなぜなのかを聞いてみると、母は「不安が消えるの」と言った。
どうやらあれは好きな気持ちがないとできないらしい。
気に入るものでないとしないらしい。
なるほど、たしかに桐野は父と母がそうしているのを見たことがなかった。
前に見たドラマではお父さんがお母さんに行ってきますのチューだと口にして、同じことをしていた。
しかし桐野はそんなことをしている父と母を見たことがなかった。
だから父は母を殺すことができたのだ。
不安な気持ちが消える魔法の行為、桐野は眠っている相衣に口づけをした。
母が言っていたことは本当だったんだと理解する。
「桐野はいいよね、可愛くてさ」
その日、快晴だった。
木漏れ日のなかで、背中だけが震えている。
「ボクなんて――」
その日、桐野ははじめて学校をサボった。
相衣と一緒なら、怒られてもいいと思ったからだ。
桐野は相衣が風であり続けられるように頑張った。
相衣のことをキモいとかダサいとか、高校生であれは痛いとか言っている人間にかたっぱしから復讐をした。
ペットボトルにいろいろなものを混ぜたり、鞄にアレを入れたり、撮影したあれそれをネットにばらまいた。
相衣が持ってきた風邪薬をフリスクにすり替えた。
気づかない彼女が愛おしかった。
だから無事に目が覚めてがっかりしている彼女へ言った。
「殴っていいよ」
相衣は戸惑った。
「怒ればいい。呪えばいい」
桐野は微笑んだ。
相衣は拳を握りしめた。
桐野の肩に入った一撃は、弱弱しい。
ごめんと泣き崩れる相衣を抱きしめながら、桐野は幸福感を噛みしめた。
高校を卒業した二人は進学も就職もせず、しばらくバイトをしていた。
孤児院を出て、二人で安いアパートでの二人暮らし。
桐野は幸せだった。
そんな時だ。八咫が戻って来たのは。
「よお、久しぶり」
「あっ、うん!」
桐野は相衣の後ろにいたから、相衣の後頭部しか見えないはずだった。
なのにその日、相衣の前には鏡があったから。
鏡に映る相衣の表情が見えてしまった。
「メイド喫茶みたいな感じのカフェやることにしたんだ? こないか? お前が好きそうな世界観だろ?」
相衣は即決していた。
桐野も一緒に。そう言われたので、桐野も異世界カフェとやらでエルフになった。
「ごめんね、桐野ちゃん。今度の映画なんだけど、延期してもいい?」
気にしないでと笑おうとしたが、少しも笑えなかった。
「メル……八咫くんにミュージカル行こうって誘われて……!」
八咫と盛り上がる相衣は、見たことのない笑顔を浮かべていた。
「あれ、おもろかったよな」
八咫が笑うと、相衣も笑った。
「うん、私も好き!」
私? ボクじゃなくて?
何年もかけて構築したものが破壊される感覚。
理解できない話で盛り上がらないで。
二人が話すアニメを勉強のために見てみたけれど、面白いとは思えなかった。
わたしの笑顔がぎこちなくなったことにも相衣ちゃんは気づいてくれない。
昔だったらとっくに察してくれて声をかけてくれたのに、どうして?
もしかして、気づいてる?
「大橋ちゃん、かわいいね」
八咫は相衣のいないところで、マーメイドの肩を抱いていた。
「生島ちゃん、今日もセクシーだね」
八咫は相衣の知らないところで、サキュバスの連絡先を聞いていた。
「桐野ちゃん、今度さ、美味いイタリアンがあるんだけど、どう?」
八咫の目は、父に似ていた。
軽蔑する人間。
「あれ?」
アパートに帰ると、部屋が真っ暗だった。
今日は相衣が休みだから家にいるはずなのに。
不思議に思って電気をつけると、相衣がベッドでうなされていた。
「う――ッ」
急につけた部屋のライトが原因だろう。
相衣は顔をしかめ、ゆっくりと目をあける。
「あ、ごめんっ! 寝てたんだね」
「桐野……?」
「ただいま。大丈夫? なんだか汗が凄いけど体調悪い? なにか買ってこようか?」
「桐野ッッ!」
「え?」
相衣は桐野を抱きしめる。
強く、あまりにも強く、桐野は痛みに表情を歪めるがどこか心地がいい。
しかしそんなことよりも相衣の体が異常なまでに震えていることが気になった。
よく見てみれば顔も真っ青だ。
「本当に大丈夫? 救急車呼ぶ!?」
相衣は返事をしない。
代わりに、ベッドの横にあったゴミ箱を掴むと、袋の中に嘔吐した。
桐野は背中をさすりながら考える。
やはり救急車を呼んだほうがいいのだろうか? そんなことを考えていると、玄関の鍵がガチャリと音を立てた。
「え?」
相衣が、入ってきた。
「え?」
桐野も同じく、間抜けな声を上げる。
「え……?」
それはベッドで寝ている相衣も同じだった。
相衣と相衣は目を合わせて、しばらく固まっていた。
◆
折原相衣と、折原アイ。
アイはこことは違う別の世界からオーロラを越えてやって来たらしい。
なにがあったのかを聞くと、アイは再び辛そうに俯いた。
記憶が定かではないが、とても酷い場所から命からがら逃げ出してきたらしい。
追手を何人も殺したようで、何度も何度も涙を流しながら辛そうに訴えた。
どうやらアイの世界の桐野は、とてもむごたらしい方法で殺害されたらしい。
もちろん桐野としては気分がよくなかったが、とてもじゃないがアイが嘘をついているようには思えなかった。
ましてや、どう見ても相衣とアイは同じ顔だった。
念のために戸籍を調べたりもしたが、生き別れた姉妹であるとは思えない。
異世界が存在するという話を信じざるを得ない。
「好きなだけここにいていいから」
相衣はそう言った。
相衣は幼い頃より別世界の存在を信じていたらしい。
ましてや自分自身に冷たくする理由はない。
それを見て、桐野は思った。
かつて、ひとりぼっちだった自分に声をかけてくれたあの時と同じ声色だ。
桐野は相衣が変わっていないことを知って嬉しくなった。
相衣とアイはすぐに仲良くなった。
アイがいた世界は相衣がいる世界とまったく同じようで、趣味趣向もすべてシンクロしていた。
となると、当然、アイは桐野とも仲良くなる。
アイの分の生活費は増えるわけだが、賑やかになってとても楽しかった。
「私の世界ではRと書くの」
ある時、LOVEの文字を見てアイが呟いた。
アイの世界では愛のことはROVEと書くらしい。
「そうなんだ。私の世界ではLと書くんだよ」
それは『世界』も。
「似てるようで、違うところもあるんだね」
◆
アイは一元気そうに見えるが、受けた心の傷はあまりにも深く、時折ひどく錯乱するときがあった。
眠っている時も酷くうなされている時があった。
そばにいて手を握る。
あるいはもう一つ、言葉で表すのならば『希望』。
アイの世界では打ち切られた漫画が、相衣の世界ではまだ続いていた。
「これもまだあるんだ」
ファミリーレストランで見た、チキンのトマト煮、アイはそれが大好きだった。
まだ両親が生きている頃に食べさせてもらって、あまりのおいしさに感動したものだ。
アイの世界ではメニューから消えてしまったが、相衣の世界にはまだあった。
「今度、一緒に行こうね」
「うん、約束」
アイは、笑った。
アイは相衣よりも手品が上手かった。
アイは相衣よりも好き嫌いが多かった。
アイは相衣よりもお風呂の時間が長かった。
アイは相衣よりも桐野が──
「ごめんね」
それは、あまりにも小さな声だった。
自分自身にすら聞かせないほどの声量。
しかし言葉として世界に生み落とさなければ気が済まないから、口をついて出たのだ。
「………」
桐野はたまたま起きていた。
真夜中、また悪夢を見て起きたアイが行ったことは口をゆすぎ、顔を洗い、へばりついた脂汗を拭い、そして桐野にキスをして謝罪をすることだった。
「……っ」
アイが寝付いたころ、桐野は唇を抑える。
嬉しかった。
でも同時に、言いようのない焦りが心に宿る。
これは本当の喜びなのだろうか。
真の愛なのだろうか。
わからない。
だから、確かめる必要があった。
相衣と桐野のシフトが被った日。
アイがアパートでアニメを見ている頃、桐野は相衣へ気持ちを打ち明けた。
ずっと。
ずっと。
ずっと、好きでした。
「ごめんなさい」
返ってきた言葉がこれだ。
なかば確信めいていていた勝利。虚像の希望がガラガラと音を立てて砕けていく。
「桐野ちゃんのことは親友だと思ってるから……気持ちは嬉しいけど、やっぱり恋人のそれとは少し違うの」
どんな顔をしていたかは覚えていない。桐野にそんな余裕はなかった。
「八咫?」
相衣は、頷いた。
「ずっと、ずっと、ずっとメルトくんのことが好きだったから」
桐野はなんだかとても悔しくなった。
とても惨めになった。どうして異世界人なんてとんどもない現実離れをした存在と触れ合えているのに。映画みたいな日常にいるのに。
好きな人と両想いになるベタな結末が来ないのか。
そこらへんにいる人間が当たり前みたいにできていることができないんだろうか。
「気にしないで相衣ちゃん。これからもわたしと友達でいてくれる?」
「もちろん! 桐野ちゃんは、親友だから!」
どうしてこの期におよんでヘラヘラと作り笑いを浮かべようとしているのか。
惨めだ。
◆
家に帰ると、部屋の中が荒れていた。
鏡という鏡が割られており、アイは帰ってきた相衣と桐野を見るなり、ただひたすらに謝った。どうやらフラッシュバックが起きて、こうなってしまったようだった。
アニメに映し出された性的なシーンがトリガーになったらしい。
今までは本能が心を守るために、記憶に靄をかけていたが、それが取り払われたのである。
アイはあの狂った夜会のことを次々に口にした。
それは打ち明けるというよりも本当にただぶちまけるという行為に思えた。
伝えるのではなく、ただ吐き捨てていく。
おぞましい行為は、本当に行われたものなのだろうか? 桐野はとてもじゃないが信じられなかった。
アイ曰く、桐野は生きたまま輪切りにされて、VIPたちのお土産にされたらしい。
アイは続いて歯が痛いと連呼した。
歯をドリルでバラバラにされたからだというが、もちろん今のアイには傷一つない。それはある種の幻肢痛のようなものなのだろうか?
「落ち着いて! それは本当なの?」
相衣がアイの肩を掴んで落ち着かせようとする。
「本当だよ! あの日、あの日……ッッ! 八咫さんに会って、八咫さんと会って、それから一緒にお酒を飲んで、デートをして……! それから帰りに記憶がなくなって、気づいたら──」
その後もアイはベラベラと悲劇の話をしていたが、桐野の耳に情報は入ってこなかった。
なんだか、すべてがどうでもよくなった。というのが正しいだろうか。
アイさえも、その名を出すのか。
真夜中に口づけてきたアイでさえ、八咫とのデートだなんて口にするのか。
ひどく、がっかりした。軽蔑とも言っていい。
「八咫さんなんじゃないの?」
だからそんなことを言ってみせる。
「八咫さんに騙されて、そんな場所に連れていかれたんじゃないの? お酒に薬でも入れられたんじゃないの? 騙されたんじゃないの? 幼馴染だか知らないけど途中でいなくなった人でしょ? 空白の時間に人が変わっただなんて話、よく聞くよ? そもそもあの人、女の人にだらしなさそうだし。知ってる? キャストの子たちにみんな声かけて。わたしだってデートに誘われたよ? もちろん断ったけどなかにはオーケーした子だっているでしょ? 言おうかどうか迷ってたけど、前、バックにコンドームの包み紙の切れ端が落ちてたよ。休憩所に出入りする男の人はオーナーの八咫さんだけだよね? 女の子の間では怪しい薬を勧められたこともあるから、反社と繋がってるんじゃないかって──」
桐野は急いで言葉を止めた。
気のせいだろうか? 相衣に睨まれた気がする。
気のせいで合ってくれ。そんな神の祈りが天に届いたのか、相衣は優しげに微笑んでいた。
「八咫さんはみんなのモチベーションを上げるために可愛いって声をかけてるんだよ。休憩所は清掃業者さんも出入りするでしょ? 知ってる? 前田ちゃんはあそこのバイトの人と付き合ってるんだよ」
「え? あ……」
「それに浅利ちゃんだってレズの気があるって言ったし、もしかしたら玩具をつかったのかも。おふざけで持ってきた可能性もあるしね」
ハッとした。
桐野は相衣しか友達がいなかった。同僚のことなど何も知らなかった。
もちろん、八咫のことも。
「ご、ごめん」
『大丈夫。気にしないで』
最後の言葉は願望が生んだ幻聴だった。
相衣はなにも返していない。
◆
その日は、アイの思い出の品、チキンのトマト煮を食べに行こうと決めた日だった。
相衣は気分が悪いから、二人で行ってきてと提案してきた。
三人でと決めていたが、ファミレスくらい、いつでも行けるからと。
「食べたいと決めたものが変わるのは嫌い、自分が一番知ってる、でしょ?」
「わかってくれるじゃん、私」
「私だし」
相衣とアイは笑いあった。
そのアイが、一時間後には声を押し殺して泣いていた。
桐野はそれを黙って見ていることしかできない。
アイの前にはお目当てのチキンのトマト煮が置かれていた。一口だけ食べて、あとは手をつけていない思い出の品があった。
一つ、改めて感じた異世界に来たという不安。
帰る方法がわからない。
一生ここにいたとして、いずれは居場所を失うだろう。
一つ、味が変わっていなかったこと。
今は亡き両親と食べた、思い出の味だ。
一つ、味が変わっていないのに美味しいと思えなかったこと。
トマトの色がフラッシュバックを起こした。
肉がフラッシュバックを起こした。
「なんにも悪いこと……してないのに――ッ! どうしてこんなに苦しまなきゃいけないの?」
桐野は俯いた。
何を言っていいのか、本当にわからなかった。
「桐野ちゃんの言うとおりかもしれない」
「え……?」
「八咫だよ。あの人が会場にいた気がする……!」
アイは震える手で、ずっとフォークを掴んでいた。
皮肉にも思い出の品を食べられなかったという深い悲しみが、彼女を前に進ませる決心を抱かせたのだ。
アイは改めて、最悪な夜会を思い出した。
誰かが助けてくれたのは覚えている。その人物が銃をくれた。
アイは死に物狂いでそれを撃って逃げた。
凄惨なショーを楽しむVIPたちが逃げ惑うなか、次々と銃殺した。
その中に八咫の姿を見かけた気がしたのだ。
「桐野ちゃんの言う通り、八咫さんと会った後に私は記憶を失った。きっと、なにかを混ぜられてたんだと思う」
「………」
「いや、いた。絶対いた。間違いない……いた! そうだ、八咫だった! アイツだったんだ!」
「………」
「きっとこのままじゃ、この世界の私も、貴女も、不幸になる……ッッ! アイツをどうにかしないとまたあんなショーに連れていかれる! ひっ! ひぃい!」
落ち着いてと口にすることは簡単だった。
なのに、桐野はそれをしない。
その先を期待したからだ。
「どうすればいいと思う?」
そう、聞いてみる。
「……きッ、桐野ちゃん。わ、たし――ぼ、ぼぼボク、決めたよ」
「え?」
「八咫を殺そうと思う。どうせボクはもう、たくさん殺しちゃったし。今更一人増えたってなにも変わらない」
桐野は、自然に、笑みを浮かべていた。
やっぱり相衣は、自分の想いを汲んで形にしてくれる。
なにも変わっていない。嬉しかった。
「それがいいと思う!」
桐野は強く頷いた。
怒ってもいい。恨んでもいい。
呪ってもいい。
そうでしょう?