仮面ライダー龍騎 Bloo-dy Answer   作:ホシボシ

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最終話

 

「アイツが……八咫がきっとあなたを騙したんだよ! 協力できることがあったらなんでも言って!」

 

アイは頷いた。

桐野は歓喜していた。

その後、桐野とアイは閉店後のコンカフェに向かった。

中で八咫が死んでいた。

相衣が殺したのだ。

 

 

◆

 

 

「なんで……」

 

桐野は弱弱しく呟いた。

アイと共にアパートに帰ってきたら、相衣が部屋にいなかった。

買い物にでも行ったのかとしばらく待ってみたが帰ってこない。近くのコンビニも確認したが、姿はなかった。

嫌な予感がして、桐野はスマホを見る。

位置情報を把握するアプリを、相衣のスマホにこっそりと入れておいたのだ。

それが示したのが、コンカフェだった。

急いで向かうと、裏口の鍵が開いていた。

中に入ると八咫が死んでおり、近くで相衣がへたり込んでいた。

 

「どうして!?」

 

アイが、相衣の肩を掴み、激しくゆする。

 

「やめて!」

 

相衣はアイを振り払った。

その拒絶は慈しみのためだ。

相衣は八咫の子を妊娠していた。

 

「アイツ、他の女と会ってた! ホテルにも行ってた! おまけにここでもしてたなんて最悪ッッ!」

 

避妊具の袋の切れ端が落ちていたと報告を受けた後、相衣は休憩所に小型カメラを仕込んだ。

その結果、八咫と他のキャストの情事を目撃することとなる。

それが殺意につながったと言うだけの話だ。

 

「そんな……」

 

桐野は信じられなかった。

 

「そんなことで……?」

 

信じられなかった。

告白を断られた時と同じだ。

こんな、奇跡的な体験をしている自分たちが、こんな、あまりにもありふれた、つまらない、マジョリティもいいところの原因で、殺した?

人を? なんで?

 

「殺すつもりはなかった! 話し合いで終われば……!」

 

ちなみにこの世の殺人のほとんどが衝動的なものであるとされているらしい。

 

「桐野にはわからないよ……」

 

相衣はポツリと呟いた。

桐野は真顔になって固まる。

 

「ずっと八咫くんが好きだったのに……」

 

相衣は泣いていた。

 

(わからない? わかるよ。わかるでしょ?)

 

でも、なにも、言えなかった。

 

「……ボクがやったことにしようよ」

 

しばらくして、アイが震えながら言った。

 

「ボクでよかったんだよ!!」

 

泣きながら叫んだ。

ぜんぶ、アイのせいにしよう。

それで、すべてがうまくいく。

 

 

 

 

「それでいいのかい?」

 

「………」

 

高城王慈の問いかけに、桐野は無言で首を振った。

最近、彼女は仕事でミスばかりするという。

心ここにあらず。それは友人である相衣が原因なのだと同僚たちは思っているが、少しだけ違う。

 

「あれから、よく、よく、考えて……!」

 

絞り出すような声だ。

 

「わたしは、アイちゃんのことをまだよく知らない。でも違う世界のわたしはアイちゃんと友達だった」

 

きっと同じようなことがあったのだろう。

アイは同じように、自分を助けてくれた。

孤独で苦しかった自分を、きっと守って、助けてくれたんだ。

 

「なのにわたしは──ッ! うぅぅあぁッ!」

 

頭を掻きむしる。

涙と鼻水が出てきた。ひどく醜い姿だった。

しかしそれでも──

 

「これを」

 

王慈はそんな桐野を美しいと思った。

だからカードデッキを差し出した。

 

「誰もが迷路に迷いこむときがある。俺もそうだった。それは苦しく、辛く……だからこそ俺は同じような人間を照らす光になりたかった。俺の光が出口から差し込めば、迷宮から抜け出すヒントになれるんじゃないかって」

 

ユダには意地でも話を通すと王慈は約束する。

 

「思うままに戦うといい。これはそのための力だ」

 

「戦う……」

 

「ああ。自分との闘いだ。受け取ってくれるね、子猫ちゃん」

 

王慈はそう言ってデッキを渡す。

 

「今、キミの心の鏡には何が映ってる? 恐怖か? 憎しみか? 後悔か?」

 

王慈は世界で一番優しい笑みを浮かべた。

 

「仮面ライダーならその鏡、壊せるよ」

 

だから桐野はタイガとなり、アイを『助ける』ためにライダー裁判に参加したのだ。

 

 

◆

 

 

「罪は消えない」

 

勝利者である緑川イツカはそう言った。

アイは無罪になった。

しかしアイは人を殺しているらしい。

人を殺しても合法な世界はどこかにあるだろう。

しかしアイの世界はそうではない。殺人は違法行為だ。

それを何度も繰り返したらしい彼女は、これから自らの中にある良心に苦しめられることとなるだろう。

ましてや相衣を庇うことを失敗したことについてもだ。

 

「それでも、戦い続けるしかない」

 

罪悪感。焦燥感。劣等感。

過去の痛み、トラウマ。

無限に湧いて出る心の闇がある。

けれども、戦うことができるのも人だ。

 

「人間はみんな、ライダーなんです」

 

ライダー裁判を通してわかった。

そのままの意味でもある。明日にはどこかのだれかがベルデを纏っているかもしれない。

一方で、桐野のように、出したい答えを目指して抗い続ける者が現れる。

みんな大なり小なり、罪を抱えている。

鏡の中にいる自分が、不敵な笑みを浮かべている。

砕けるのは、自分の拳だけだ。

赦せるのは、自分自身だけだ。

 

「戦わなければ、生き残れない」

 

イツカが無罪と言ったところで、アイ自身が無罪にできない。

いつかまた、その日が来る時まで、彼女の苦しみは続く。

 

「傍にいるから!」

 

泣きじゃくるアイを、桐野は抱きしめた。

 

「ずっとずっと隣にいる。苦しみも、怒りも全部ぶつけていいから! だからお願い──ッ」

 

桐野も同じくらい泣いていた。

 

「生きて!」

 

心の底から、そう叫んだ。

 

 

◆

 

 

「なぜはじめから桐野実花を参加者の中に入れなかった」

 

すべてが終わった後、王慈はユダに問いかけた。

 

『そもそもはじまりは八咫メルト殺しの犯人は誰かという話ではなく、殺人が罪ではない世界から来たという折原アイに罪はあるかないかの裁判でした』

 

「本当に異世界人だったとはね……なぜ、彼女だったんだろうか?」

 

『さあ』

 

「ディケイドとは?」

 

『さあ、これはあくまでも予想ですが、ディケイドと折原アイ様に直接的な関係などないのではないかと。正確に言えば、オーロラがこの世界に現れ、アイ様がやって来たからこそ、ディケイドが来訪したのではないかと思っています』

 

ユダがタイムベントで殺害現場を確認したとき、オーロラが現れ、その向こうでディケイドが緑色の複眼を光らせていた。

 

『あなたは……!』

 

オーディン――ユダが問うと、ディケイドは自らを『悪魔』と名乗った。

 

『何者ですか? 目的は』

 

「これから、ライダー裁判が始まる」

 

『ええ』

 

「この世界は復讐も……悲しみも、懺悔、損壊でさえも、エンターテイメントに昇華させてしまう」

 

『?』

 

「それがライダー裁判――龍騎の世界。それが創作というものなんだ」

 

『っ? なにを言って──』

 

「俺は、それが気に食わない」

 

最後に一言を残し、ディケイドは消えていった。

 

『ディケイドはデウスエクスマキナになろうとしたのではないでしょうか?』

 

「機械仕掛けの神」

 

『超常的な力で舞台を終わらせる。現代では悪手とされているようですね。積み上げてきたものを破壊し、物語を終結させる力』

 

であるからして、ディケイドは今回の裁判を、脈絡のない収束不可能にしようと試みた。

異世界から龍騎とは関係のない全く別の仮面ライダーが来て暴れまわる。

それは起承転結や定石の破壊、物語のていをなさないことこそ、この龍騎の二次創作の世界にダメージを与えることができると知っているからではないか。

 

「この世界(ものがたり)は破壊されるべきだ」

 

ディケイドは最後のそう言ったという。

そしてユダの予想通り、ディケイドは圧倒的な力をぶら下げてライダー裁判に参戦してきた。

メチャクチャになろうとした世界を、もっとメチャクチャにするためにだ。

なぜそんなことをしたのか。それはやはり、アイの存在が鍵なのではないかと思う。

 

『本当にアイさんはたまたま来たのかもしれません。ある日、全くなんでもない日に、違う世界から自分がやって来る。そんなことが本当に起こりえるのかもしれません』

 

「馬鹿な」

 

『そう、だからディケイドが来た。ディケイドがやって来てくれた。言い方を変えればそれは意味か、あるいは理由か……。あっていいはずのない現象を形作るために』

 

「よくわからないが、いずれにせよ皮肉なものだね」

 

『?』

 

「愛には勝てない」

 

『……?』

 

ユダにはその意味がいまひとつ理解できなかった。

壊すのも創るのも、愛がきっかけだった。

はじめからディケイドなど、必要なかったのだ。

 

王慈は踵を返す。

手を繋いでゆっくりと、本当にゆっくりとだが、桐野とアイは前に進みだした。

それを見守るほど野暮な男ではないからだ。

 

 

 

 

仮面ライダー龍騎 New wor『L』d Order

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、どこに行くの?」

 

アパートに帰るだけなのに、なぜか聞いてみたくなった。

それだけ胸がざわざわしている。こんなことは初めてだった。

洒落たシチュエーションでもあった。踏切を挟んで、彼女たちは見つめ合う。

 

「どこにも、行かないよ」

 

相衣は笑った。

まだ電車は来ない。赤いランプもついていない。

今すぐ桐野は相衣のもとへ走るべきだった。

しかし、足が重たいのは、アイのことが頭をよぎるからだろう。

 

まもなくアイの裁判が始まる。

場合によっては死刑もあるらしい。

それを思えば、吐きそうになって、動けなくなる。

 

「桐野ちゃんが好きだったよ」

 

相衣は笑っていた。

 

「でも、桐野ちゃんは私のことを知らないでしょ」

 

「え……?」

 

「私、べつに、特別じゃないよ。ただ不真面目なダメオタクなだけ。手品とか、ボクとか黒歴史もいいところで、痛いキャラ演じてた痛い女だったの。知ってる? あのキャラ、アンチスレまだ動いてるんだよ。SNSのこの時代に、まだ掲示板であのキャラ叩いてるんだよ。覗いたら笑っちゃった。どれも正論」

 

「……ッ」

 

「仮面を愛してくれたのはありがたかったけど、重圧だった……」

 

相衣は泣いたまま笑っていた。

 

「ただ……」

 

桐野も同じだった。

 

「傍にいられるだけで、嬉しかったのに……っ」

 

そこで、踏切が鳴ってしまった。

桐野は立ち尽くした。

黙って、立って、電車が通って、遮断桿が上がる。

相衣はもうそこにはいなかった。

 

それきりもう帰ってくることはなかった。

 

 

 

 

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