仮面ライダー龍騎 Bloo-dy Answer   作:ホシボシ

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おまけ(後編)

 

「オリジンの書?」

 

「というものを管理者連中は探しているらしい。キミなら理解できるのでは?」

 

バゼル卿の問いかけに、八咫は返事をしなかった。

 

「連中は最近、並行世界のことをマルチバースと呼称しているらしい。まあ正確には他世界解釈やら、多次元宇宙論だの、定義はいろいろあるのだろうけど」

 

名は同じだが、容姿の違う本郷たちが紡ぐ物語をマルチバースといい、パラダイスロストやミッシングエースをパラレルワールドと称していると説明する。

 

「二択があって、右を選べば、左を選んだ先の未来が生まれる。それがパラレルワールドではないかとね」

 

「ああ、よくわかるよ」

 

八咫は、瀕死の折原アイを見つめている。それに気づいたのかバゼル卿は唇を吊り上げた。

 

「理想ではあるね。我々は常に選択をしている生き物だ。後悔は無限に続くよ」

 

すると、ホールが混乱し始める。

仮面ライダーアクセルと、仮面ライダーアクセルトライアルが現れ、アイを襲っていた男を蹴り飛ばした。

VIPが混乱している中、アクセルはエナジーアイテム、『回復』を指ではじいて飛ばす。

メダルほどの大きさのそれはアイに命中すると、損壊した肉体を回復させただけではなく、洋服も現れてほぼ無傷の状態となった。

 

「さあどうぞ、選んでね」

 

アクセルは、トリガーマグナムを投げた。

さらに『A』の形をした斬撃を飛ばし、出口を塞いでいた扉を破壊する。

その先に、オーロラカーテンがある。

 

「生きるか」

 

「ふふ、死ぬか」

 

アクセルトライアルが笑う。

意味を理解してくれるかどうかはわからなかった。

ほとんど何も説明していないようなものだし。

 

しかしそれでも、アイは銃口を己のこめかみに突きつけるのではなく、まして呆然と寝転ぶままでもなく、出口に向かって走り出した。

行く手を阻もうとするガードマンや邪魔なVIPをトリガーマグナムで撃ちながら、確実に前に進んでいく。

 

「わーお、強い子ねぇ」

 

その時、銃声がした。

アイを乱暴していた男の眉間に弾丸が直撃しており、さらに直後全身に弾丸が命中。

最後にドリルの性器を吹き飛ばし、男は絶命する。

 

「やれやれ。もう少し、鑑賞していたかったが、まあいい頃かもしれないね」

 

男を殺したのはバゼル卿だった。

立ち上がり、オーロラカーテンで変身アイテムを召喚する。

 

『デザイアドライバー』

 

バゼル卿はIDコアをセットした。

 

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姿が変わる。

さらに白いバックルを装填した。右に浮かび上がるエフェクトと文字。

リボルバーを回転させ、トリガーを引く。

 

「変身」【MAGNUM】

 

白いアーマーが具現し、黒いキツネに装備される。

 

「終わったゲームに存在価値などない」『ready……FIGHT』

 

クロスギーツは銃を撃ち、逃げ惑うVIPたちを次々と殺していく。

八咫は何もせず、ただ黙って座っていた。

死体の山ができるのには一分もかからなかった。クロスギーツは早撃ちには自信があるのだ。

 

「全員、私が殺したよ。ボーナスでもほしいものだね」

 

「お見事と言ったほうがいいのかしら?」

 

アクセルが変身を解除すると、一気に背が縮んでいった。

姿を見せたのは赤いゴスロリに身を包んだ、赤髪の女の子だった。

名前はフルーラという。年齢は小学生くらいに思えた。

被っていたミニベレーには『6』と刻まれている。

 

「水を差してごめんなさい。でもほら、ワタシって女の子が酷い目に合ってるの見逃せないのよー!」

 

「さすがはフルーラ! それでこそボクの女神だよ!」

 

アクセルトライアルも変身を解除した。

こちらも同年代の少年だ。青いハットに青いスーツ、青髪であり、名前はゼノン。

ナンバーは『26』。彼はフルーラの腰に手を回し、ダンスでも踊るかのような体勢を取った。

 

「キミのその慈悲に満ちた愛がボクの心をいつも掴んで離さない。この死体の山の中に立つキミは赤い薔薇だ。血を吸い、妖艶に輝く美しい薔薇さ」

 

「まあお上手ねゼノン。耳が孕みそう。貴方の声は奇跡よ。数多の恋愛小説家が多くの字を使わないと表現できないものをほんの少し囁やいただけで完成させることができるのね」

 

「フルーラ……」

 

「ゼノン……」

 

「「………」」

 

「「らぶちゅ!」」

 

頬を付け合せる二人。

クロスギーツはやれやれと肩を竦める。

 

「まあ、仲がいいのは良いことだね。それよりいいのかな? 八咫くんは」

 

クォーツァ―同じく、ハンドレッドも一枚岩ではないようだ

どうやら八咫は『計画』を邪魔されたようだが、怒りの表情は見えなかった。

 

「べつに。一人取り逃したところで、些細な差でしかない」

 

「申し訳ないことをしたよ」

 

ゼノンはハットを整える。

 

「でもさ、多少の障害があったほうが燃え上げるだろ?」

 

「叶うとも」

 

クロスギーツは断言した。

 

「願い続ける限りね」

 

変身を解除し、バゼル卿は八咫を見る。

 

「理想の世界を創れ。信じ続ければ、いつか叶う」

 

「……ッ」

 

「ふふふ、まあほどほどに頑張ってくれ。行こうかフルーラ」

 

「ええ。それでは、ごきげんよう」

 

ひらひらと手を振って、ゼノンたちはオーロラの向こうに消えていった。

とにかくターゲットは逃がしてしまった。

ここに居座る意味もないと、バゼルたちも立ち去ろうとしたときだ。

 

『アギト・ライダー!』

『リュウキ・ライダー!』

『ダブル・ライダー!』

『ドライブ・ライダー!』

 

『レジェンドライド!』『マッシモ!!!!』

 

黄金の羽が見えた。

 

『タイムベント』『ゴゴゴゴージャス!』

 

死体の山が消え、人の海が生まれる。

うろたえるVIPたち。

ドリルの男。パワーアームマン。

さらにはベッドに拘束されている桐野実花が見えた。

彼女を輪切りする装置が、破壊される。

死んだと思ったら、生きていて、時間が戻っていて、そして──

わからない。混乱の中、とにかくVIPたちは逃げるべく、走り出した。

だがしかし、出口を塞ぐ仮面ライダー。

G3、アクセル、ドライブはVIPたちを拘束し、逮捕していく。

 

「趣味の悪い夜会だ」

 

金色のライダーが、歩いてきた。

 

「ゴージャスとは程遠い、下劣な成金共の哀れな茶番だな」

 

「これはこれは、仮面ライダーレジェンド」

 

バゼル卿は、わざとらしいお辞儀をしてみる。

 

「罪なき少女ではなく、その下劣な人間共も助けますか」

 

「笑わせるな」

 

「?」

 

「命救えずして、何が仮面ライダーだ。ゴージャスとは程遠い」

 

レジェンドはまっすぐ、ただまっすぐに八咫を見つめていた。

八咫は目を逸らしているから、その視線には気づけない。

 

「ミヨたん!」

 

バゼルが名を叫ぶと、オーロラが通り過ぎて髭面の肥満多型の男が現れた。

 

「お仕事をお願いします。あれを頼んだよ」

 

「はぁい!」

 

男はレジェンドの前に立つ。腕には『34』とあった。

 

「貴様は?」

 

「ミヨはミヨたん! よろしくねおにいちゃんっ!」

 

ここで一つ、バゼル卿が補足の説明を。

 

「ミヨたん――柴山哲司さんは52歳男性ですが、自分は8歳の女の子であると宣言しています。恋愛対象は女性、つまりレズビアンでもあり、好みは年上の女性、だいたい24歳くらいの処女だけど性知識は豊富なお姉ちゃんに、赤ちゃんとして飼われたいと思っているそうです。ですよねミヨたん」

 

「えへへ! うんっ!」

 

昂っているのか、喜びなのか、ミヨたんはおしっこを漏らした。

おむつを履いているので問題ない。

むしろ生暖かさが気持ちいい。

 

「ハンドレッドはこんなものまで見境なく入れるようになったのか?」

 

ミヨたんの表情が変わった。

 

「なッ! さ、差別! 差別すんなッッ! てめこのやろッッ! 殺す!!」

 

オーロラが通過し、変身アイテムを手にした。

 

「うにゅ(嘘)!!」『マジェードドライバ―!』

 

複雑なポーズを決めて、構えを取る。

 

「ごっちゃ!(※変身という意味(適当))」『マジで?』『マジか……』『まじぃなまぁじまじ!』

 

ミヨたんが光に包まれ──

 

『仮面ライダーぁあぁ! マジェエエエエエエドッッ!!』

 

仮面ライダー・『ミリシラマジェード』に変身。

 

「……マゾです(適当)」

 

マジェードはイマジナリーお姉ちゃんを思い浮かべ、彼女に思い切り尻を叩いてもらう妄想をしながら自ら尻を叩き、高揚感に震えあがった。

 

「ヤミー(おいしいね)(オーズ)(適当)」

 

それを見てレジェンドは、たった一言。

 

「意味がわからん」

 

バゼル卿も唸る。

 

「難しいですよね、最近はいろいろ。現実も、創作も。歌とかもお洒落になってしまって。若い子に人気な人たちは全員同じ顔に見えてしまいますよ」

 

「そうは思わないな。ゴージャスなものに囲まれているせいか、紛い物はすぐにわかる」

 

「ミヨたん、べつに悪い人じゃないんですよ。ただちょっと……性欲をコントロールできないのと、そのために平気で嘘をつくところ以外は、善人なので」

 

ミリシラマジェードは叫びながらレジェンドに突っ込んでいく。

渾身のストレートではあったが、レジェンドはそれを最低必要減の動きで回避すると、銃でマジェードの右膝を撃つ。

火花が散った。マジェードは舌打ちと共に体を回転させつつ裏拳を繰り出すが、レジェンドはそれを腕を立てにして受け止めると、銃を撃ってマジェードの左膝に火花を散らす。

 

さらにマジェードの腕を掴むと側宙。

マジェードは体を回転させてそのまま地面に倒れた。

一方で彼に着地したレジェンドはマジェードを蹴り飛ばして転がしていく。

それだけでなく、カードを抜いてバックルを展開させた。

 

「罪なほどのゴージャスだ!」『ケミ―ライド!』『ゴゴゴゴージャス! ファイズ!!』

 

レジェンドは、左肩部と右腰部にかけてゴージャスな装飾が追加されたファイズに変身する。

左手に銃に変形させたファイズフォンを、右手にレジェンドライドマグナムを持ち、二つの銃を連射していく。

 

「ぐあぁあぁああああ!」

 

マジェードは両ひざの痛みから満足に動くことができず、次々に弾丸を受けていった。

これではまずいと、マジェードはオーロラを出現させた。

姿が、気配が、消える。

レジェンドはそれを見て武器を消すと、バックルを展開させてカードを装填する。

 

「ゴージャスタイムだ!」『ゴージャスアタックライド!』

 

レジェンドは後ろを蹴った。

そこにある、たしかな感触。

不意打ちをしようと現れていたマジェードが、そこにいた。

 

「浅すぎる」

 

「んんんんンんッッ!」

 

レジェンドの足には既にファイズポインターがセットされていた。

そこから放たれる赤い円錐状のロックオンエネルギー・ポインティングマーカーがマジェードを引きはがす。

さらに通常のファイズよりももちろんカグヤ様のファイズはゴージャスなので、ファイズポインターはさらにマーカーを連射。

五つの円錐が重なる形でマジェードを拘束した。

 

「ゴージャスに散れ!」『ファファファファイズ!』

 

レジェンドは飛び蹴りで、そこに飛び込んだ。

五つの円錐が重なり合い、巨大なドリルのようにマジェードの中に侵入していく。

 

「あああああああああああああああああああああ!」

 

φのマークが五つ浮かび上がり、マジェードの鎧は大破。ミヨたんは白目をむいて気絶した。

 

「………」

 

レジェンドは変身を解除する。

周囲を見回すが、バゼル卿はもちろん、八咫の姿がどこにもなかった。

 

「……それもまた一つの、選択か」

 

カグヤ様は憂いの表情を浮かべながら、オーロラの中に消えていった。

 

 

 

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

「大きくなったらボクと結婚してくれる?」

 

それは、どこにでもある。ひとつの幼馴染の約束。

中学生になった八咫はしばらくポカンとしていたが、真っ赤になっている相衣に釣られて体が熱くなった。

 

「まあ……いいよ」

 

「ほ、本当?」

 

「ああ」

 

「そ、そうだよね。約束したもんね」

 

「ああ」

 

相衣は、にまにまと笑っていた。だから八咫も釣られて笑った。

二人は小学生ぶりに小指を絡ませて、永遠を約束した。

八咫は十歳の頃、養子の約束を意地でも断って正解だと思った。

 

「ねえ、ボクと結婚してくれる?」

 

高校を卒業する時、相衣に聞かれた。

八咫は迷わず頷いた。

 

「お前みたいなオタク女、一般人じゃ扱いきれないもんな」

 

「お前みたいなオタク男、一般人じゃ満足できないもんな」

 

二人は笑って抱きしめ合った。

同じ孤児院出身で、どこまでも価値観が合う。

それだけだが、それだけで十分だった。相衣が嬉しいなら八咫も嬉しい。

美味しいものをみつけたときは誰よりも早く相衣に知らせたかったし、相衣が食べた時のリアクションが見たかった。

 

相衣の喜ぶ顔が見たかった。

 

べつに広い家じゃなくてもいい。欲しいものが買えなくても、旅行に行けなくてもいい。

相衣が隣にいてくれるなら。

相衣とずっと一緒にいられるなら、なんでもよかった。

それは相衣も同じ気持ちだった。彼女は八咫のことを愛していたからだ。

 

 

 

 

「なんで……!」

 

なのに、なぜ。

 

「あぁぁああ……ッ!」

 

八咫の腕の中で相衣は苦しんでいた。

全身を苛む苦痛。腕や足が、見たことのない色に変色していた。

ビルは崩れ、家は燃え、瓦礫に混じって死体が転がっている。

孤児院の仲間たちは臓物を零しながらバラバラになって転がっていた。

 

正体不明の『敵』が現れたとニュースでキャスターが叫んでいたのは覚えている。

だが直後、そのキャスターが弾け飛び、カメラマンの悲鳴と共に映像は途切れた。

外に出てみると、既に逃げ惑う人たちが殺されて行っているのが見えた。

八咫はわけもわからず、ただ相衣の手を掴んで逃げ出そうとした。

そんななかで相衣に"毒"が撃ち込まれた。

走るなかで毒はすぐに全身にまわり、相衣は倒れた。

 

「そんな、そんなことって……ッ!」

 

八咫は見た。

相衣の手を握ろうとして、掴んだのは白骨化した左手だった。

溶けているのだ。

 

「相衣……ッ!」

 

「だいじょうぶ……もう、痛くないから……」

 

「あぁ、あぁぁあああッ!」

 

「いき――」

 

生きて、それさえも言えない。

歯ぐきから歯が抜け落ちていき、喉に触れたとたん歯の重さに肉が負け、あんなに軽い歯が体内に沈んでいく。

それほどまでに肉が柔らかく――腐り溶けていくのだ。

 

八咫は何も考えられなくなった。 

愛していた相衣が、どこにもいない。

そうしていると『敵』が、すぐそこまでやって来た。

爪を振るい、八咫を引き裂こうとするが──

 

「フッ!」

 

銃が爪を食い止める。

仮面ライダーレジェンドは回し蹴りで敵を弾くと、全身に弾丸を命中させて後退させていく。

 

「……大丈夫か?」

 

振り返り、八咫に声をかけた。

記憶はおぼろげだ。立ち上がり、場を離れたのか。

あるいはレジェンドが全てを終わらせてくれたのか。

いずれにせよ侵略者は消え失せ、世界には平和が訪れた。

しかし、相衣がいない。

 

「救いたい?」

 

そんな時だった。

彼と、出会ったのは。

 

「世界が救われたのに、浮かない顔だね」

 

「………」

 

喋る気力もなかった。

だが、そのなかであっても、目の前にいる男が只者ではないことだけは理解できた。

だから最後の力を振り絞って、声を出さなければと

 

「俺はただ……」

 

掠れた声だった。一言喋るだけで言葉が詰まる。

 

「一緒にいたかっただけなのに。なんでこんなことに……!」

 

歪む視界。

ボロボロと情けなく、涙をこぼした。

 

「キミならきっと、救えるよ」

 

「どうすればいい?」

 

迷いはなかった。その言葉を疑うこともなかった。

八咫が触れた内ポケット、そこには渡そうとしていた指輪がある。

もう一度、一言話すだけでもいい。そのためならなにをしてもいい。なんでもできる。本当だ。だから、お願いだ――!

 

「お願いだから!」

 

八咫にはもう生きる理由がそれしかないからだ。

 

「仲間になってほしいんだ。クリエイター……アーティストを集めているんだ」

 

「わかった! なんだっていい……! 相衣に会えるなら!」

 

「あともうひとつ、今度、選挙があるんだ。大事な選挙だ。王位総選挙。文字通り王様を決めるんだよ」

 

「わかってる!」

 

「そう? じゃあ投票、よろしくね」

 

青年は頷き、八咫へ手をかざす。

番号が──13番と、『アイテム』が与えられた。

 

「方法を教えるよ。叶えられるかどうかはキミ次第だ」

 

知識が、情報が与えられた。

八咫は何があったのか。何が起ころうとしているのか。何が起こってきたのかを理解する。

これほどまでに常識とは――脆いものだったのか。

哀れなほどに無知だったのかと、思い知らされた。

 

「覚悟は?」

 

「あるさ。俺は……相衣を、助けるんだ――ッ!!」

 

嘘ではなかった。

おそらく楽な道ではないだろうが、それでも、彼女のぬくもりを忘れていない今ならば可能だと思った。

 

「応援しているよ。仮面ライダー」

 

その青年は、『1』とある。

 

「俺は常盤ソウゴ。ソウゴZ。よろしく、八咫芽瑠斗」

 

 

 

 

2000年問題というものがあった。

コンピューターを使用した各システムが、西暦2000年以降の日付を正しく扱えないため、1999年12月31日午後12時。

つまり、2000年1月1日午前0時に誤作動が発生し得るのではないか――というものだ。

 

ソフトウェアやハードウェアが年号を2桁の数値として処理していたため『99』の次が『00』として処理されることから、数字だけ見れば『2000年』に作成されたファイルが『1900年』として──つまり100年前のものとして処理されてしまうことから危惧された問題である。

最新のファイルが、古いファイルと誤認識されてしまったり、想定できない場面が発生したとしてソフトウェアがエラーを起こしたりする可能性があった。

 

「これは機械だけの問題ではありません」

 

後に八咫は、『8』を与えられたジューヤという女性から改めて説明を受ける。

 

「付喪神はご存じかしら」

 

「えぇっと……」

 

「道具に魂が宿った存在とされています。彼らは九十九神とも呼ばれ、百年を生きた際に、道具から生命へと昇華すると」

 

他にも、ジューヤはお百度参りを例に挙げた。

やり方はいくつかあるとされているが、共通にして考えられているのは神に百回祈りを捧げることで願いを叶えるという方法だ。

99から100に移行する際に、特別なエネルギーが発生し、奇跡が起こると伝えられているのは決して偶然ではない。

 

ハンドレッドもそういう意味を含んでいる。

八咫はハンドレッドのロゴ、『手』と『眼』を合わせたものを見つめる。

オーロラシステムがあるのだから、死者を蘇生できるアイテムを持ち出して、相衣を蘇生させるという方法はあった。

だが八咫にもよくわからないが、ゴールデンサークルというものが存在しており、『黄金因果律』が再び相衣を殺してしまう可能性が高いとされていた。

 

「俺は相衣が死んだことでここにいる。だから俺がいるということは、相衣が死んだからという因果関係があるから、俺が俺であるということは相衣が死んでなければならない。そういうことか?」

 

「それも一つあるかもしれませんが、もっと単純に考えてくれてかまいません」

 

「?」

 

「相衣さんというキャラクターは、死ぬキャラクターなのです。仮面ライダーシザースや仮面ライダーカイザがよく死ぬのと同じです。死がキャラ付けとして成立してしまったのです。ゴールデンサークルは統計――王道を重要視しますので」

 

であるなら、抜け道を一つ。

そしてそれは八咫にとっても目指すべき世界の在り方であった。

生き返らせるのでは、苦痛はあったことになる。それは心苦しい。彼女にはずっと笑っていてほしかった。

 

「他世界は『神なる世界』に存在する神が生み出すとされていますが、パラレルワールドなら微弱な存在の我々にも創り出すことができます」

 

後にバゼル卿が口にする定義。AかBかの二択、二つの道。

Aを選べばBの世界が生まれ、Bを選べばAの世界が生まれる。

つまり、相衣が死ななかった世界の確立。

 

「願い続ければいい。試行回数を増やすともいいます。途中、神の眼に触れてくれればラッキーですね」

 

昔、ある作品があった。

ヒロインが敵と戦い、主人公は助けに行こうとするが、駆け付けた時には既にヒロインは殺された後だった。

悲劇的な結末は、神々の心にしこりを残した。

 

「多くの神が思いました。ああ。もしも主人公が間に合っていたらどうなっていただろうか? 主人公が華麗に駆け付けて彼女を守ることができたらきっと──なんてね」

 

だから、生まれた。その世界が。

その作品はのちにリメイクされ、当時の神々は思った。

今度は――もしかしたら。

 

だが結果はもう一度同じような展開が繰り返されるだけだった。

すると神々は再びあの時と同じ、『間に合った世界』を生み出した。

さらに、当時は見ていなかった神々まで加わり、より大きな力となる。

そしてついにその結末が用意されたという流れがあったらしい。

 

「これをあなたも行えばいい。ゴールデンサークルに誤認させる。バグを引き起こさせるのです」

 

八咫はかつてソウゴZに言われたことを、もう一度ジューヤに言われた。

 

「各世界に存在する折原相衣を殺害してください。一人殺すたびに選択肢が形作られていき、99人殺せば確立します」

 

「……わかってる」

 

「できればむごたらしく殺す方がいい。その方が、生きている世界の価値観が上がり、輪郭が確固たるものになる」

 

生きていてほしい。

生きてほしい。

そう神に、世界に、思わせるのだ。

 

「痛めつければ痛めつけるほど神は並行世界を望んでくれる。悲劇を変えることが二次創作を創る源、原動力となる。神だけじゃない。貴方自身にとってもね」

 

「一つ聞いてもいいか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「ゼノンとフルーラは、どっちに賭けた?」

 

「はい?」

 

「お友達だろ? アンタの」

 

「………」

 

ジューヤはニヤリと笑い八咫を睨んだ。

 

「フフフ、貴方の成功に賭けましたよ。愛は必ず勝つ。それが彼らの座右の銘みたいでね」

 

「アンタは?」

 

「失敗する方に賭けた。リ・イマジネーションされた人間は、容姿や声、名前さえ全く異なる場合もあるが、同じケースも多い」

 

「………」

 

「既に一人殺したらしいようだな。気分はどうだ? 手が震えているぞ」

 

「……ッ」

 

八咫は拳を握りしめた。

この魔女に感謝しなければならない。

真に、覚悟が固まった瞬間でもあるのだから。

 

 

 

 

「ま、待ってくれ……! なんなんだお前は!」

 

「ほとほと、自分がむかつくぜ」

 

鎧を纏い、八咫は片手で八咫の首を掴んで持ち上げる。

八咫の手足はない。

切断した。

 

「た――ッ! 頼む! 助けてくれ! 命だけは──」

 

「守れなかった、お前が悪い」

 

ましてや他の女と交わろうだなんて考えていること自体が死刑に値する。

なので八咫は八咫を。

別世界の自分を殺し、入れ替わった。

そしてアイと会い、薬を飲ませて眠らせた後、VIPたちが集まる夜会へ招待したのだ。

 

(酷い目に合えば、酷い目に合わない世界線が生まれる……)

 

うわごとのように、繰り返す。

 

「大丈夫かね?」

 

バゼル卿がまるで馬鹿にしたように笑うものだから、八咫はムッとして返した。

 

「ただちょっと最悪なだけだ。顔が、声が、同じなんだよ」

 

そう言って、八咫はドリルに犯される最愛の人を見つめていた。

立ち止まることはない。

進むべき道を見つけたからだ。希望が、そこにはあるからだ。

それになにより── 

あまりにも単純な理由が一つだけあった。

 

 

 

 

「似ているな。あの時と同じだ」

 

その日、八咫は懐かしい光景を目の当たりにした。

ビルが崩れ、家が燃え、人が死んでいる。

腐り落ちた人の欠片を踏みにじり、彼は歩いていく。

あの時と同じ敵がいた。だが恐れはない。八咫は持っていた剣で、次々と敵を切り殺していった。

 

「どうして生きてるの?」

 

女が前に立つ。

その後ろ、孤児院跡地で、相衣は眠っていた。

今は一糸まとわぬ姿にシーツを纏っている。

 

女は苛立っていた。

事後だから、頭が重いのもある。

なによりもあの夢のような時間の余韻を、台無しにされたからだ。

 

「せっかく孤独を、埋めてあげたのに……!」

 

「安心しろ、八咫は死んだよ。この世界じゃお前の一撃が成功していたみたいだな」

 

あの日――相衣が死んだ日。

ソウゴZと出会った日。相衣を守れなかった日。

彼女は、毒の牙から自分を守ってくれたんだ。

 

つまり本来死ぬのは八咫のはずだった。

相衣は八咫を庇い、代わりに毒を受けたのだ。

それを見て攻撃をしてきた女は叫び狂い、罪悪感からかすぐに舌を噛み切った。

そして契約した化け物に体を奪われ、ただの怪物となって暴れまわった。

 

「お前が勝った世界も……あっただろうな」

 

そういって八咫は、カードデッキを取りだした。

それを持っていた大きな黒い西洋剣・ダークブレードへセットする。

 

「変身」

 

デッキを刃にあるくぼみに差し込むと、埋め込まれていたフルボトルが発光し、スチームが巻き起こる。

空間が割れた。

鏡が割れる音が聞こえ、八咫の姿が仮面ライダーナイトへと変わる。

それはレジェンドライダー・秋山蓮が変身する同名のライダーとは大きく容姿が変わっていた。

面影はあるが、体の至る所に機械的な装甲が目立つ。

 

それは契約モンスターも同じだ。

ダークウイングは体のほとんどが機械だった。

ナイトとダークイング、どちらもサイボーグのような見た目になっている。

 

「なんで? なんで……? ねえ、なんで?」

 

まただ。せっかく終わったと、思ったのに。

 

「なんであなたは邪魔ばかりするの?」

 

それが理解できたから、桐野実花は叫んだ。

黒魔術によって作り上げたベルトが光り、彼女の体が仮面契約者である王蛇へと変わる。

ナイトはベルトにあったハンドガン・ダークブラスターを抜いた。

連射し、王蛇を撃っていく。

火花が散って、王蛇は苦痛に呻いた。

その中で杖を取り出し、コブラの装飾の目を光らせる。

 

「!」

 

ナイトの影が動き出し、ナイトの足を掴んだ。

さらに影でできた無数の蛇が絡みついて動きを封じようとする。

だからその前にナイトは『念じた』。

頭に思い浮かべたカードが電気信号となりて発信され、挿し込まれたデッキへ伝わっていく。

するとカードを抜いていなくとも、剣が自動でデッキの中にあるカード情報を読み取り、効果を発動する。

 

『ソードベント』

 

ナイトの周りにエネルギーで構成された剣が13本出現した。

スラッシュシャドウ。無数の剣は自動的にナイトを拘束しようとする蛇たちを切り裂き、さらに空中を飛び回り、王蛇を攻撃していく。

 

「あっ」

 

王蛇の右手が飛んだ。

 

「うあぁッ」

 

左腕が地面に落ちた。

 

「あぁぁぁあぁあ!」

 

わき腹から腸が零れた。

 

「あ……あ──」

 

膝をつき、王蛇は動かなくなった。

ナイトは腰を落とし、剣を構える。

 

『ファイナルベント』

 

ダークウイングがナイトと合体し、マントとなる。

一瞬だった。

ナイトは王蛇の背後に立っていた。

 

「俺は、相衣を救う」

 

超高速で相手を斬る必殺技、飛翔斬。

王蛇の首が落ちた。

ここまで来た理由は、あまりにも単純なもの。

 

「俺は、仮面ライダー!」

 

ナイトは眠っている相衣の顔、そのど真ん中に剣先を突き立てた。

 

 

 

 

「――て」

 

「………」

 

「ねえ――て」

 

「………」

 

「芽瑠斗くん。起きて」

 

優しい口調だった。

八咫はゆっくりと、目を開ける。

 

「そんなとこで寝てると、風邪引いちゃうよ?」

 

「………」

 

「わあ! あはは! なに、いきなり、どうしたの!?」

 

「………」

 

「え? ど、どうしたの? 大丈夫?」

 

「なんでもない」

 

「……そっか。ふふふ」

 

相衣は、八咫の頭を優しくなでる。

子供のように泣きじゃくる彼が、愛しく思えた。

 

「よしよし」

 

「………」

 

「またボク――私のために頑張ってくれたの?」

 

「………」

 

「夢で視たんだ。あんまり覚えてないけど」

 

「え?」

 

不安げに、八咫は相衣をのぞき込む。

 

「大丈夫。苦しいことは覚えてないから。ただ、八咫くんが頑張ってくれたことだけはちゃんと伝わってるから」

 

相衣は、八咫に、キスをした。

 

「助けてくれて、本当にありがとう……!」

 

八咫は震えた。

すべての痛みが、今日この日、喜びになったのだとわかったのだ。

 

「――渡したいものがあるんだ」

 

八咫はあの日からずっと持っていたケースを、相衣に見せた。

 

 

「哀れなもんだな」

 

門矢士は、幸せそうな二人をカメラに収める。今から市役所に行くようだ。

 

「さあ、どうかな。過程はどうあれ、おれには輝いて見えるけど」

 

中国の袍を身に纏い、帽子をかぶった長髪の少年、常磐ソウゴ──ソウゴAは笑ってみせる。

 

「行くぞ。我々にとっては終わった話だが──」

 

止めることができなかった。

敗北感を覚えつつも、カグヤは無表情だった。

 

「ヤツにとっては、これ以上ないゴージャスな時間だからな」

 

オーロラが生まれ、カグヤたちは消え去った。

現在、折原相衣の左手の薬指には指輪がある。

彼女は太陽のような笑顔を浮かべていた。

 

 

なぜなら彼女は、世界で一番幸せな人間だからだ。

 

 

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