仮面ライダー龍騎 Bloo-dy Answer   作:ホシボシ

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第2話

 

『それでは今から、事前議論を行います』

 

円卓の中央にユダは立っていた。

金色の羽となって消え去った後も、声だけは残り続ける。

 

『ライダー裁判とは、仮面ライダー同士が戦い、最後の一人になったものが被告人の運命を決めることができます。当然、勝利者の責任は重いものとなりますので、他の人の意見を参考にすることも一つの選択肢であると思われます。なのでぜひ、有意義な話し合いにしてください』

 

過去には勝利者が、他の参加者の意見をそっくりそのまま結果として反映させたことがあるそうだ。

他にも、証拠不十分の状態であっても死刑が言い渡されて実行されたこともある。

 

『サイコロを投げて偶数になったから死んだ被告人もいます。悪質だと思いましたか? しかしこれは雷に当たって死んだのと変わりません。歴史の中には不条理なる結果を神の裁きと語る宗教者もいました。同じにしてもらっては困りますか? では言い方を変えて、人が人を裁くというエゴと矛盾じみたものを今一度、浮き彫りにしたといえば聞こえはいいでしょうか?』

 

ライダー裁判は民事であろうが刑事であろうが、選ばれる時は選ばれる。

ユダが承認するのは通常の天秤でははかりかねる事件であるとされていた。

 

『人は面白い生き物です。人それぞれという言葉があるように、AとBの人間に、同じことをしたとしても、感じ方が変わる。それがあなた達の本質ではありませんか? 罪も同じです。それをよく考えて答えを出してください』

 

陽炎さえも、消え失せた。話し合いのはじまりである。

 

「検事の湯川(ゆかわ)シュウイチだ。被告の折原アイは意味不明なことを言っているが、重要なのはヤツが八咫という人間を殺している一点にしかすぎない。懲役十年前後が妥当とみている」

 

「刑事の加賀(かが)ジュンです。本件を担当する刑事からのデッキ譲渡で来ました。警察は検察に同意する方向でライダー裁判を進めていきます」

 

「待て、話が急すぎるな」

 

「と、いうと?」

 

「Atashiジャーナル記者の羽黒(はぐろ)レンだ。現段階では動機の情報が少ない。まずは何があったのかを裁判中に明らかにし、それから罪状を改めるのが適切だと思うが」

 

「動機を話さないんだ。事前に配布した裁判資料にもあるだろ」

 

「もちろん読んではいるさ。俺が言いたいのは要するに、話さないなら、なおさら何かあったのだと考えるのが筋だと思うが」

 

湯川は少々わざとらしいため息をついた。

何度か羽黒たちとは戦っているが、どうにも考え方が合わない。

 

「お前らは書くネタが欲しいからそう思うんだろ? 一般人は感情で裁判をしようとしてるが、俺たち法律の人間はシステムを基準に動きたいんだよ」

 

花京院(かきょういん)ミユキです。弁護士の先生から依頼を受けて、代理で戦闘を行うことになりました。今の湯川検事の発言はよくわからないわ、現実の裁判でも動機は減刑の重要な要素だと思うのだけれど」

 

「そう、動機っていうのはあくまでも裁判のためのものなんだ。ライダー裁判は裁判とついちゃいるが裁判じゃないだろ。勝利者が無罪っていうだけで無罪になるんだぞ? 法もクソもあったもんじゃない。だからこそ、だからこそだ。俺たちはあくまでも今まで通りの裁判のやり方を突き通すべきなんだ。その前例――つまり暗黙のルールを作るのが一番いいとは思わないか? 隠し事をしているなら、正直に話すべきだ。しかしヤツはそれをしようとしていない。それを踏まえたうえで十年前後と言っている」

 

湯川はライダー裁判のやり方を現実の裁判に近いものにすることを目的としているようだ。

マジョリティというべきか、世論を『創る』というべきか。

今後も続いていくライダー裁判のやり方をマニュアル化させようという。

人を殺した場合は○○年、物を盗んだ場合は○○年というように、誰が勝とうが本当の裁判とそう判決は変わらないようにするのが理想であると。

もちろんそれを守る人間がいるのかは……微妙なところではあるが。

 

「お待ちになって、皆さま。大切なことを忘れてらっしゃらないかしら」

 

クラシックワンピースに長手袋。『清楚』を具現したような女性が『待った』をかけた。

 

「イノセンス代表、美岬(みさき)湖白(こはく)です。今回はメンバーの方がデッキを受け取り、戦いを拒否したため、私にデッキが譲渡されました」

 

イノセンス。死刑撤廃を掲げている人権団体である。

それ以外にもライダー裁判において被告に対する理不尽な判決を見直すことを常々訴えているようだ。

その観点からして、湖白には引っかかることがあるらしい。

 

「今回の裁判の最も重要なポイントは、被告である折原様が、こことは違う世界から来たという点ではないでしょうか?」

 

「おい、ちょっと待ってくれ。まさか信じてるとか言わないだろうな」

 

「もちろん信じています。アイさんによればその世界は殺人が罪にはならない場所であるとか」

 

「仮に殺人を合法化していたとして、ここは俺たちの世界。つまり殺人が違法な世界だ。こっちに来たのであれば、こっちのルールに従ってもらうのは当然だろ」

 

「海外の法律であるならばまだしも、異世界となれば事前に調べることはできません。その点は考慮するべきです。今回のケースであるなら無罪も視野に入れるべきかと思っています」

 

「いやだからそもそも! どう考えても異世界ってのは嘘だろ!」

 

「しかしDNA鑑定では姉妹ではないと断言されています。一方で、どう見ても二人は同じ顔でしょう?」

 

「だが指紋と声紋が一致してない」

 

「限りなく近いと資料にはありますが」

 

「近いだけだ! 本人ならば一致する! なにかカラクリがあるに決まってる!」

 

ここで湯川はアンケートが取りたいと言った。

この中に、本当に折原アイが別世界から来たと思ってる者がいるのか知りたいらしい。

結果として、湖白はいち早く手を挙げたが続くものはいなかった。

 

「可能性はあると思います」

 

たった一人を除いて。

辰巳(たつみ)シンジだけは、手を挙げていた。

 

「Atashiジャーナルはオカルト誌だったか?」

 

「いや、そもそもミラーモンスターや仮面ライダーなんていう存在がいて、どうして異世界がないと言えるんですか?」

 

「たしかにミラーモンスターも驚くべき存在ではある。だが奴らは俺たちの世界の存在であると明言している。俺もこの世界ではまだまだありえないことがあると思っているが、異世界は妄想だ。似て非なるもの。一線を超えてる」

 

「………」

 

「それに、仮にもしもパラレルワールドがあったとしてだ。今回はピンポイントに『折原アイ』という人間だけが次元を超えてやってきたってわけか? 都合がいい話だとは思わないか?」

 

それには加賀も同意した。

折原相衣が何か特別な存在であったとしたならまだしも。

ただのコンカフェ店員の彼女にその資格があったとは思えない。

 

「そもそも、パラレルワールドがあるなら、すぐに帰ればいいだけの話では? わざわざ捕まり、裁判を受けようという意図がわかりません」

 

「帰れないのかもしれません。たとえば井戸に落ちたり、雷に打たれたり、スクリーンの中に入ってしまったりと、意図しない空間移動が行われたのかも」

 

「なら黙秘する意味がわからん。帰れないなら帰れないと言えばいい」

 

湖白は口を閉じたが、代わりにシンジが続きをぶつける。

 

「やはり逆を言えば、それは何かを隠していることになりませんか?」

 

レンと同じ意見ではあるが、湯川は否定が遅れてしまう。

なにせシンジは、かつてライダー裁判に勝利し、刑を確定させている。

今回彼が獲得しているのは勝利した時と同じ、仮面ライダー龍騎。気圧されるものがあるのだろう。

 

「ふふふ」

 

そのときだ。ウェーブかかった長髪を結んだ青年が唇を吊り上げたのは。

深水(ふかみ)タケシ。彼もまた、ライダー裁判で勝利を収めたことのある人間だった。

先ほどユダが言ったサイコロを投げて死刑にしたというのは彼のことなのである。

 

「じゃあアンタはどうするつもりだ? 辰巳シンジ」

 

「レンさんの言うとおり、何があったのかを明らかにしてからでも判決は遅くはないってことですよ」

 

「なるほどねぇ……」

 

「他は? 裁判員に選ばれた面々の意見も聞きたいが」

 

湯川はまず、緑色の服を着た少女を指す。

 

「あっ、えッと、あたし緑川(みどりかわ)イツカです。い、異世界っていうのはさすがに嘘かなぁって思いますけど……はい」

 

湯川は次に青いメッシュが入った少年を示す。

 

最上(もがみ)円土(えんど)っす。まあ、なんつーか……今の時点じゃなんとも。異世界は嘘だとは思いますけど、ぶっちゃけどっちでもいいっていうか。んなとこ関係あるんすか? 検事さんの言うとおり、こっちの世界じゃ犯罪なんだからそれでいいと思うんすけど」

 

「関係はあるさ。突飛なことを言い出す理由はなんだ? 精神鑑定を狙っての嘘だとしたら反省の色はないとみるべきだろ」

 

なるほどと円土は唸った。

直接的な表現はしていないが、アイはつまり無罪を主張しているわけだ。

人を殺しておいて言い訳をしようとしているなら、罪を重くさせるには十分な要因である。

 

「異チェ界はありゅよーっ☆」

 

そのとき、一人の少女が立ち上がった。

派手な服装に、髪は黄色に近いオレンジ色のツーサイドアップ。

とてもじゃないが一般人とは思えない。

 

「ぐー! ちょき! ぴーっちゅ!」

 

それもそのはず、人気の動画配信者、蟹江(かにえ)ピーチュである。

 

「いきなりだけど誰かー、じゃんけんしよー!」

 

するとピーチュはニヤリと笑う。

 

「あれあれ刑事たん。なんだか茹でガニみたいな色になってるよ」

 

「じ、自分……蟹江さんのチャンネル登録してます」

 

「んはー! ありがとー! じゃあ最初はちーっ!」

 

「え? あ、は、はい……ッ! 最初はチーッ!」

 

「じゃーんけーんっ! ぴーっ! ちゅっ☆」

 

「ぐああああ! かわいーっ!」

 

「ぴぃーすっ!」

 

「……世界で一番無駄な時間だったな」

 

湯川にはサッパリだが定番のノリらしい。

もともとはブイチューバ―として活動していたのだが、顔出しした際にビジュアルが二次元のときのアバターと瓜二つということで話題になっていた。

シンジとレンも活躍中の動画配信者としてインタビューを行ったことがある。

 

「蟹江さん。異世界があるってどういうことですか……ッ?」

 

「やだな辰巳さん。ピーチュでいいよ。パラレルワールドのピーチュはね、チョキピーナ星の王女様なの!」

 

「えっ? 令和ですよ?」

 

「……えー? なにー? それって、どーゆーいみぃ?」

 

「あっ」

 

「………」

 

「「………」」

 

「ねえどういう意味?」

 

なんとなく年齢がわかりそうではある。

シンジは俯いて沈黙し、以後は何もしゃべらなかったし、ピーチュはニコニコと仮面のような笑顔を貼り付けていた。

 

「いとおかし、ではありませんか」

 

シンジとそう歳の変わらない若い坊主がいた。

名は斎苑(さいえん)という。

面白いことにこの男、本物の坊主ではない。SNSで仲間を集い、我流で悟りを開いた集団のリーダーなのだ。

シンジも取材したこそないが、謎の坊主集団『永帝(えいてい)鏡経(きょうきょう)』という存在があるとは聞いていた。

 

「宇宙の果て、星の一つ一つに仏国土があり、数多の如来世界が広がっているとの教えがあります。他にも蓮の細かな穴の一つ一つに世界があると記した経典もありますから、古来より人は空想の世界を想像してきました。天国と地獄もその一つにしかすぎません」

 

湯川はため息をつく。

 

「教えはいいさ。問題は、それが現実としてあるかどうかだ」

 

「あると思っていますよ。ですが決して交わらない。それが並行世界というものです」

 

「つまりアンタは折原アイはパラレルワールドの人間ではないと思ってるわけだな」

 

「ええ。ですが本当だと思うことを否定はしません。それに本当であるという可能性もありますから、異世界同士の問題にならぬよう、死刑はやめるべきであると考えております」

 

「よし。じゃあ次の話だ。責任能力の有無については裁判において重要な──」

 

ここで一人のマッチョが脇を隠しながら手を控えめに挙げた。

 

「あぁ失敬。検事、わたくしがまだ残っていますが」

 

「こちらも失敬。残したのではなく、無視をしました」

 

「わお、予想外の答えにわたくしも困惑」

 

「恐怖を感じたので話しかけませんでした」

 

「偏見です。確かにわたくしの筋肉は圧倒的ですが、これは何かを握りつぶすためではなく、肉体美の象徴。ですのでお気になさらず、どうか怖がらないで」

 

「だから服を着ていないと? 裁判所で裸の男がいたら怖いですよ」

 

「ほほほ、またまた。裸だなんて。パンツは履いています」

 

「パンツだけですよね。警備員を呼ぶかどうか迷いました」

 

「ふむ、そういうことでしたか。みなさんお気になさらないで。これはセクハラではなく立派な芸術なので。自己紹介が遅れました。わたくし、アパッチ白居(しらい)と申します。ボディビル大会では驚異の六連覇中です。マッスルマッスル☆」

 

「そうですか、ありがとうございます。それでは次の話題ですが──」

 

「ちょっと検事さん。白居さんの意見も聞きなさい」

 

「そうですよ。彼も立派な参加者なのですから」

 

花京院と湖白に促されて、湯川は嫌そうにしながら異世界があるかどうかを聞いてみた。

すると白居は一度、白いTシャツを着て立ち上がると、すかさずポージング。

筋骨隆々の肉体がいかんなく発揮され、Tシャツが千切れ飛ぶ。

 

「ムンッッ! おっと、いやはや失敬……ついつい出ましたね。ダブルバイセップスが。これは最もみなさんが想像する筋肉を象徴するポージングではないでしょうか。えー、それでは今からわたくしの胸筋ルーレットで異世界があるかないかを……あ、あ、すごい。誰とも目が合わない。誰も私を見てない。こん――ッ、え? こんな無視されることってあるんだ。あ、すごい。もう次の話題にいっちゃってる。誰もわたくしを見ようともしない。こんな筋肉凄いのに無視されてる……! あ、湖白さんが優しい目でお茶を差し出してくれた。すごい優しいのにどうして心はこんなに痛──」

 

 

 

「嘘をついて、何が悪い」

 

白居の雑音を塗りつぶすように、澄んだ一声が飛んできた。

 

「秘密が多い女性はそれだけで魅力的だ」

 

高城(たかじょう)王慈(おうじ)は、超人気アイドルグループ・Crystalのセンターだ。

折原相衣のスマホを調べたところ、ファンクラブに入っていたことが判明したので、今回ライダーに選ばれたのである。

 

「俺も異世界なんてものは信じちゃいないさ。だけど俺を応援してくれている愛すべき子猫ちゃんの一人だ。大きな慈悲は与えてあげたいね」

 

とまあ、各々の参加者が自分の考えを口にしていくなか、辰巳シンジは困惑していた。

彼だけは、他の参加者と抱えているものが違っている。

 

ある。のだ。

"存在している"のだ。

 

異世界は確かに存在して、それを超える方法も確かに存在しているのだ。

それをどうやら、なぜか、辰巳シンジだけが知っている。

門矢士。かつて共に戦った『仲間』のことを思い出した。

 

(この世界とは違う世界は……確かにあるんだ!)

 

ドラスとの戦い。そこで目にした各世界の仮面ライダーたち。

クウガ、アギト、ファイズ、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ。あれがなによりの証明。

だから折原アイという少女が異世界から来たというのならば──

シンジはその時、手元にある資料を見た。

 

アイはパラレルワールドから来たという情報以外、なにも喋ってはいないようだった。

それは口を閉じたまま、黙秘という意味ではない。理解できる発言をしていないというだけだ。

資料には、彼女が口にした単語がいくつか羅列されている。

異世界から来た。そこは殺人が罪ではない。などなど。

そのなかに見覚えのある単語があった。

 

『色のないオーロラ』

 

それは、辰巳シンジだけが知っている確固たる証拠なのだ。

 

(おそらく彼女は本当にこことは違う世界から来たんだ……!)

 

それはなぜか? 彼女は何者なんだろうか。

まさかショッカーの一員なのか?

わからない。わからないからこそ、真実に近づく必要がある。

そのためにはこの裁判に参加し、勝つのが一番早いのではないかとシンジは考えていた。

 

 

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