仮面ライダー龍騎 Bloo-dy Answer   作:ホシボシ

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第3話

 

三日前。

 

「最近気になるニュースはありますか?」

 

そこでシンジはハッとした。

湖白はダージリンを飲もうとしていたが、その手を止めてほほ笑んでいる。

 

「うふふ、なんだか取材を受けてるみたい」

 

「す、すみません」

 

仲良くなってそれなりに経ったが、まともに顔を合わせて話すのは二か月ぶりだった。

お互い忙しく、いつのまにか湖白は『イノセンスの聖女』とあだ名がつくほどに団体のなかで出世していた。

純粋無垢といった様子から、淑女のように落ち着いた雰囲気になっている。

ユダにもイノセンスの理念が気に入られたようで、ライダー裁判の参戦率は高く、その興味からつい質問を繰り返してしまうのだ。

 

「あら、お気になさらないで。職業病なのかしら?」

 

「……一番は焦りかもしれません。ここ最近、奇妙な感覚があるんです。上手くは言えないけどライダー裁判という単語を忘れていたような」

 

「まあ……大丈夫でしょうか。ストレスの影響じゃないといいのだけれど」

 

「というより、仮面ライダーであったこと、仮面ライダーが存在していたことを知らなかったといえばいいのか……」

 

「それはたしかに奇妙ですね。お医者様を紹介しましょうか?」

 

「ああいえッ、そこまで大げさなものじゃないと思うんですけど……今はそんなこともなくて。仮面ライダーもライダー裁判もしっかりと覚えているんですけど……あれがなんだったのかが知りたくてつい様々な情報を手に入れようとしてしまうんです」

 

するとそこで店員がコーヒーを持ってやってきた。

 

「お待たせしました。アメリカンです」

 

「あぁ、どうも、ありが……」

 

言葉が止まった。店員が持ってきたコーヒーを受け取ったはいいが、目線はおぼんに釘付けのまま。

同じくコーヒーなのだが、たっぷりのクリームにこれでもかと金粉がちりばめられている。

それだけではなく、ソーサーのほうにはパーティスパークがいくつもくっついており火花が四散していた。

はて、あんなド派手な商品はあっただろうか?

ついつい店員を目で追うと、気品あふれる男が向かいに座っていることに気が付いた。

 

「お待たせしました。アメリカンドリームです」

 

シンジはすぐにメニューを探す。

この喫茶店にはそれなりに通い詰めているが、アメリカンドリームなんて聞いたことがない。

期間限定にもないし、となると裏メニューだろうか? やはり、そんなのは聞いたことがないが……

 

「勘違いをするな。これは貴様と同じ、アメリカンだ」

 

「えっ?」

 

「俺は貴様と同じ、アメリカンを注文したのだ」

 

「で、でも……」

 

「そう。貴様がアメリカンを注文すればアメリカンが来る。だが、このカグヤ様がアメリカンを注文すればアメリカンはアメリカンドリームとなるのだ。なぜかわかるか?」

 

「え? え……!?」

 

その時、シンジは気づいた。

湖白が止まっている。時間が止まっている。

 

「少し違う。正確には時間の概念が消えているのだ」

 

「それは、どういう――ッ?」

 

「単純な話だ。カグヤ様がいる場所と、貴様がいる場所は近いようで別の世界。違う世界と違う世界が同じ空間に在るのだ。二つの世界、流れる時間は同じではないぞ」

 

だからこそ、この『今』に、時間は存在しない。

 

「それだけだ」

 

(それだけって……かなり複雑だと思うけど……)

 

「だいたい、そんなことはどうでもいいことだ。重要なのは貴様が龍騎としての記憶を忘れ、思い出したこと。違うか?」

 

「!」

 

「継承だ。ジオウが龍騎の力を手に入れ、そしてそれを返却した」

 

「貴方は一体……? それにジオウ?」

 

「そうだ。我らの王だ」

 

シンジはその名を知っているような気がした。だが思い出せない。

 

「今の話を聞いて、貴様はどう感じた? 手に入れて戻したなら、それは何も起こらなかったとみるべきか。あるいは返すことそのものに意味を見出すか?」

 

「ッ、意味深な発言よりも、ハッキリとした言葉が欲しいです」

 

「やめたほうがいい。あまりに強い輝きは目を潰す」

 

だがもちろん、カグヤも悪戯にこの場に来たのではない。たしかな警告があるのだ。

 

「リ・イマジネーションは挑戦であり限界だった。だがその壁が壊れようとしている。仮面ライダーは次のステージに進もうとしているのだ。お前は真の龍騎になろうとしている」

 

「真の龍騎……?」

 

「そうだ。そのヒントがまもなく訪れるだろう」

 

灰色のオーロラが見えた。

 

「ゴージャスであれ、辰巳シンジ」

 

気づけば、カグヤが消えていた。

 

「なんだったんだ……?」

 

シンジは、カグヤを忘れてはいない。

 

 

そして現在、シンジはレンと共にアイの面会に来ていた。

彼女が来るまでの間、シンジはカグヤのことを思い出す。

カグヤの警告のあとに、アイがやってきたことは偶然なのだろうか?

 

(もしかしたら、これが彼が言っていた仮面ライダーが進む次のステージとやらなのか……)

 

それを判断するためにもアイのことが知りたかった。

 

「凄いシステムがあるんだね」

 

席に座ったアイは微笑んでいた。ライダー裁判のシステムは新鮮らしい。

 

「Atashiジャーナルの羽黒レンです。仮面ライダーとして裁判に参加します」

 

「同じく裁判に参加するAtashiジャーナルの辰巳シンジです」

 

「やあ、はじめまして、ボクは折原アイ。異世界から来たよ」

 

アイは怯えていたり、混乱しているようには見えなかった。

口調は軽いが、かといって楽しそうというわけでもない。

飄々と、淡々としている。のちに彼女は自分のことを「そこにあるだけの人」と称した。

その表れだったのだろう。

 

「私が質問をし、シンジが記録します」

 

「うん。それでいいよ。よろしくね羽黒さん」

 

「まず、折原さんはどうやってこの世界に? 何か目的が?」

 

「いや、とくには……ボクにもどうやってきたのかわからないんだ。オーロラが見えて、それで気づいたらコッチにいたとしか言いようがない」

 

「なぜ八咫を殺したんですか?」

 

「警察にも話したけれど、しいて理由をあげるとするなら殺したいから殺したとしか言いようがありません。貴方たちがあたりまえのように虫を潰すみたいに、ボクは八咫を退かしたいと思って殺しました。それがボクの世界では普通のことだったんです」

 

「なぜ八咫を邪魔だと思ったんですか?」

 

「ベータ波長を出すものだったから」

 

「なんですかそれは」

 

「ボクらの世界では『波長』という概念があるんです。波長は血液型のように相性があって、八咫さんは所謂天敵というのか……あまり好ましくない波長を出す人間でしたから」

 

「我々の波長は?」

 

「アルファ。ボクと同じです。今のところベータはあの男以外いませんから安心してください」

 

「なぜ八咫はベータだったのでしょう?」

 

「さあ。これもまた人によってとしか」

 

「では他にベータの人間がいたら殺していましたか?」

 

「波長には濃度があって一定値以下でしたら大丈夫です。八咫のような濃い人間はそうそういませんが……まあそうですね。八咫クラスの波長を出すのであれば殺していたでしょうね」

 

「わかりました。質問を変えます。ライダー裁判の結果によっては死刑もありえますが、その点についてはどう考えていますか?」

 

「ボクの世界では殺人が合法化されています。これはなぜかというと、死という存在の受け止め方があなた達よりも遥かに軽いからなんだ。生と死は特別なことではなく、当たり前にあって存在するもの。ですから特に何も感じません。怖いとか、嫌だとか、生きたいだとか、死にたいだとか。そういうものがないんですよ」

 

「どんな結果でも受け入れると?」

 

「ええ、まあ」

 

「本当に未練はないんですか? 死ねば終わる。あなたの世界でも同じでしょう?」

 

「この世界で生きていたならあったかもしれません。しかしボクの世界にはボクの世界のルールがある。それが私を創ったんだ。貴方たちには理解できないかもしれませんが」

 

死にたくない理由。たとえば趣味があるからとか、人間関係があるからとか。

アイにも理解できるが、イコールで同じ気持ちになるとは限らない。

べつに死んでも仕方ないと思っている。ただそれだけだ。

だから会話は発展していかず、その後の応答も淡々としていた。

 

「今でも思ってる。人をたった一人殺しただけで牢屋に入るなんて、ずいぶんとコスパの悪い世界だってね」

 

面会時間が終わる頃、アイは俯いて言った。

そういうものなんだろうか?

シンジにはよくわからなかった。

 

 

 

 

「世界が罪だと言ったとしても、わたしはあなたの味方だよ! 元気いっぱい! 笑顔で頑張るパッション担当! 青山(あおやま)ミズキです!」

 

うおおおおお! ミズキィイイ!

 

「魅惑の笑顔は罪かしら? いい子にしてたらご褒美あげる! セクシー担当、黄瀬(きせ)ピリカでぇす」

 

うおおおおお! ピリちゃぁぁあっ!

 

「白黒善悪どーでもいいし。好きにやるのがあたしのルール。クール担当、緑川イツカ」

 

うおおおおおおお! イッツゥゥウ!

 

「あーだるい。アンタも一緒? やることないならアタシを推せば? ダウナー担当、赤井(あかい)レンカでーす」

 

うおおおおおお! レンカァアア!

 

「わたしたち! ライダー裁判アイドル!」

 

「「「「エックスキュートです!」」」」

 

おおおおおおおおおおおお! プリティベントォオオオオ!

 

「いくよー! みんな裁かれちゃってね! エキューズラブ!」

 

ッシャア! りゃりゃりゃりゃりゃああああ!

 

「ルールじゃ! 縛れないっ! 貴方と! 私のExcuse!」

 

うりゃおいうりゃおいうりゃおい!

 

「有罪なの? 無罪なの? 判決まで迷わせないでよ」

 

うりゃおいうりゃおいうりゃおい!

 

「言葉じゃ飾れない。抱きしめる理由は資料にないでしょ」

 

うりゃおいうりゃおいうりゃおい!

 

「証拠は昔の思い出。ハート聴かせてみせてよ」

 

うりゃおいうりゃおいうりゃおい!

 

俺のハートにファイナルベントォオオ!

お前の瞳にレボリューション!

果てなき命が希望をファイアアアアアアアアアア!

ファイア! サバイブ! タイガー! ライア―! アドベントォオオオ!

 

「「「「祭りの場所はここですかぁあああああああああああああ!」」」」

 

オタクたちの叫びが歌をかき消し、会場に響き渡った。

 

 

 

細くて小さなビルの二階、そこがマリスプロの事務所だった。

マネージャー兼プロデューサ―の女性、町田(まちだ)は、玄米茶のティーバッグが入った急須に十一度目のお湯を入れ、もはやお湯なんだかお茶なんだかよくわからない液体をマグカップに注いでいた。

 

「わあ! やったねイツカちゃんっ! いよいよだね!」

 

青いリボンの小柄な少女『ミズキ』は目を輝かせる。

 

「本当によかったぁ私じゃなく……んんッ! ず、ずっと応募してたもんねぇ」

 

泣きボクロが特徴的な『ピリカ』は、その大きな胸に手を当ててため息をつく。

 

「大丈夫?」

 

やる気のなさそうな『レンカ』は、デッキを持ったまま俯くイツカを見る。

 

「マネージャー、やっぱあたし無理ですってぇ……!」

 

「なーに言ってんのよ、経験者でしょ?」

 

「や、そうですけどぉ。一回だけだし」

 

緑川イツカはアイドルだ。

エックスキュートは加入条件がライダー裁判参加者であること。

チラリとマネージャーのノートPCを見ると、なにやら『冷酷な判決者』とのキャッチコピーが目に入った。

 

「な、なんですかそれ」

 

「裁判は配信されるでしょ? 名を売るチャンスよ。バッタバッタと参加者を華麗に粉砕して、みんなを魅了してね。そしたらこのグッズも爆売れ……! むふふ!」

 

「だから無理ですってぇ! あたしが参加した時は、みなさん親睦会の牡蠣が当たったせいで勝手に自滅していっただけで、戦闘なんて全然……!」

 

そもそも怖い。アイドルのときはクールキャラを名乗ってはいるが、それは『キャラ』があったほうがいいとのことで、本当のイツカはいたって普通の人間なのだ。

 

「ムリはよくないですって。ねえ、ピリカさんだってそう思うでしょ!?」

 

「本当にそうですよぉ。私、ちょっとえっちなお姉さんキャラなのにコミュ障陰キャってバレたら炎上しますってぇ」

 

「いいじゃない受け入れてもらえるわよ。ギャップギャップ。それにちょっとえっちなのは事実じゃない。ミズキ、ピリカの乳首抓ってみて」

 

「なんてお願いしてんだ!」

 

「いいですよー、ぎゅー」

 

「んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

「抓るな!」

 

「だいぶえっちなオホ声お姉さんでもいけるわよね。それでエヌステでましょっか」

 

「でれるか! なに言ってんだアンタ!!」

 

「まあまあイツカ落ち着いて。清濁云々、どんな要素も人間持ち合わせてるもんよ。だからどんなキャラでもそれは真実なの。慌てずクールに冷静に戦う。簡単なことじゃない。誰でもできるわよ」

 

「無責任なぁ!」

 

「ほらできた」

 

そういってマネージャーは編集を終えた画像を保存した。

かっこよくポーズを取ったイツカと仮面ライダーベルデが一緒に写っており、例のキャッチコピーが貼り付けられている。

 

「決めた。やっぱこのブロマイド。買ってくれたファンに配信を優先で見られるようにしよ」

 

「許されるんですか?」

 

「んあ。ワタシ、ユダと友達だから」

 

「はぁ」

 

「とにかく頑張ってねイツカ。すぐやられちゃったら皆ガッカリするし、かと言って透明になって隠れてるのもなし。それで前の人、叩かれてたでしょ? 被告やその関係者にとっては運命を決める大一番ではあるけれど、それ以外の人間からしてみればただのエンタメなんだから」

 

「だから! そんな無責任な……!!」

 

「がんばってねイツカちゃん! わたしたちも応援しに行くからね!」

 

「そう言うなら代わってよミズキぃ!」

 

「だめだめ! SNS確認したけどね、イツカちゃんのファンが楽しみにしてるもん!」

 

「はぁーッ! 最ッ悪!」

 

アイドルになりたかったからオーディションに応募して見事にメンバーになれたはいいが、イツカはライダー裁判が好きではなかった。

ルールがおかしい。勝ったら罪を決められる? 常人には耐えられないことだ。

イツカはかつて親戚が被告となったため、関係者枠で参戦した。

 

先ほどの発言の通り、あのときは他の参加者が今回のように話し合いを行いたいと海鮮居酒屋で食事会をすることになった。

結果としてその際に食べた牡蠣が原因で、オーディンが「俺のケツからファイナルベントがもうちょっと出てるから頼むからファイナルベントを使ってくれ」などと叫びながら突進してきたので、望み通りにしてあげた結果、イツカは最後の一人になったわけだ。

 

自分が他人の運命を決めるだなんて、今でもあの時のことを思い出すと気分が悪くなる。

湯川が言っていたように実際の裁判で考えるなら──というのを下敷きにして懲役六年を言い渡したが、今でもあれでよかったのかと思っている。

執行猶予を付けるべきだったのではないか、だとか。

境遇を考え、四年でよかったのではないか、だとか。

あるいは誰かを庇っていて、真犯人は別にいたのではないか、だとか。

 

それに、もしかしたら被告は自分のことを恨んでいるかもしれない。だとか。

幸いに手紙で『気にしないでほしい。与えられた刑は妥当であり、まっとうに更生する』との知らせを受けたので、まだ救われたが……

 

「おえ」

 

ちょっと頑張って、適当なところで適当に負けよう。イツカはそう思った。

 

 

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