仮面ライダー龍騎 Bloo-dy Answer   作:ホシボシ

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第4話

辰巳シンジはショッピングモールにいた。

中央が吹き抜け構造になっており、二階から三階が見える。

買い物を楽しみにやってきた人々を下にして、ピーチュがシンジを見下ろしていた。

 

お互いはカードデッキを取り出すと振り返る。

二階にいるシンジの後ろにはファッション専門店の姿見が、三階にいるピーチュの後ろにはイベントショップがあり、棚には販売されているカチューシャを確認するための鏡があった。

ほぼ同時に鏡に向かって突き出したカードデッキ。Vバックルが装着され、シンジは腕を斜めに伸ばし、ピーチュは腕を振るう。

 

「変身!」

 

「へんしーんっ!」

 

デッキをVバックルにセットすると、左右から仮面ライダーの鏡像が回転しながら飛来してきて変身者に重なった。

仮面ライダーとなり、再び二人が向き合った時、世界は無音だった。

ミラーワールド。ここにはライダー以外には誰もいない。だからこそ互いの声がよく聞こえる。

 

「判決は?」

 

龍騎が問うと、シザースは両手でピースサインをつくり、人差し指と中指をしきりに動かしていた。

チョキチョキ、そう言って指をを首の位置まで持っていく。

 

「し・け・い」

 

見間違えるわけがない、首を刈り取るジェスチャー。

 

「ちょきーん☆ ちょきV ちょきV」

 

「………」

 

「だって、怖い人なんでしょ? 人を殺していい世界から来てるんだったらきっと罪悪感なんてないよ? そんな人が帰れなくなってこの世界に留まり続けたらどうするの。きっとまた殺しちゃうよ。資料には動機も書いてあったけど、ナントカ波がどうとかって、サッパリ!」

 

「信じてるんですか」

 

「んー……でもね、そんなの関係ないでしょー?」

 

「え?」

 

「ピーチュが信じるかどうかは些細な問題。一番はさ、このピーチュのリスナーさんが信じるかどうかなの」

 

キャニミソ。それがリスナーネームである。

その数は約50万人、田舎であれば余裕で人口を超している。

 

「キャニミソたちに危害を加えるようなことがあったらやでしょ? 軍団の長として、それは見逃せない。ピーチュのボイスを買ってくれる人、グッズを買ってくれる人、スパチャをしてくれる人、大切だッちーっ!」

 

シンジたちは一度ピーチュを取材したことがある。

その際、レンが問う。配信者として一番気を付けていることはなんですかと。

すると彼女は即答で、こう答えた。

 

「ファンを大事にすることです。特に昔から登録してくれる人は、名前も完全に覚えてます」

 

だから今、現在シザースはデッキに手をかけている。

 

「ピーチュはあの子を死刑にするよ。平和のため、ぴー! す! の、ため!」

 

「判決を下す覚悟が本当にあるんですか? その姿を、リスナーたちに見せられますか?」

 

恐ろしいことをいともかんたんに口にする参加者を多く見てきた。

ライダー裁判はSNSじゃない。ただなんとなく口にした意見が現実に反映される可能性があるのだ。

ある種、それは法で守られた別殺人ともいえるだろう。

その重さを本当に目の前にいる奇抜な格好と喋り方の女は理解しているのだろうか?

ある種差別的な考えかもしれないが、今一度、龍騎は問いたかった。

 

「やだなぁ記者さんってば」

 

シザースは一枚のカードを引き抜いた。

 

「ピーチュのファンをナメないで。そのくらいで離れるタマじゃないってのッッ!」『ストライクベント』

 

巨大な蟹のハサミを装備したシザースが飛んできた。

龍騎の前に着地すると問答無用でハサミを振り回す。

威力はありそうだが──いかんせん振りが大きすぎる。

龍騎はカメラマン、一瞬を取り逃がさんとする観察眼をもってすれば、動きを読むことは容易かった。

 

「むむむ……、ぜんぜん当たらないよぉ!」

 

そう叫びながら振るった一撃も、簡単に回避されてしまう。

それだけではなく、龍騎は隙をついて蹴りを繰り出した。

足裏がシザースの肩にヒットするが──そこで気づく。

 

(硬いッ)

 

蟹には甲羅があるからか、明らかに他のライダーよりも防御力が高いような気がした。

そんなことを考えている間にも眼前に刃が迫っていた。すぐに体を反らして回避をするが、顔のすぐ近くでは閉じたハサミが見える。

龍騎も仮面ライダー、防御力はそれなりにあるだろうが、もしかしたら一撃で首を持っていかれるかもしれない。そうすれば一瞬でゲームオーバーというわけだ。

龍騎はシザースの仮面に向かって手を伸ばし、上部にある触覚のような部分をガッシリと掴んだ。

 

「ちょっとどこ掴んでるの! セクハラ! リスナーさん! ピーチュの大切なとこ掴まれちゃってるよぉぉ!」

 

「誤解だ! ファンネルを飛ばそうとするのはやめろ!」

 

龍騎はそのままシザースを引っ張り、真横に合ったファッション専門店に突っ込んだ。

己もろとも服をかけてあるラックに向かってダイブ。

コートやらなにやらを巻き込んで壁に叩きつけられたシザースは、棚を破壊し、さらに大量の服を巻き込んで床に倒れた。

 

「わぷぷぷっ! な、なに!?」

 

すぐに体を起こしたが、装甲にある突起に服が引っかかって鬱陶しい。ましてや片腕は大きなハサミになっているので、服を剥がすのに少し手こずってしまった。

 

「……ッ!?」

 

シザースの動きが止まる。

龍騎がいない。撤退するにはよくわからないタイミングだ。

 

(だとしたら!)

 

周囲を睨む。ピーチュも目には自信があった。

高速で流れてくるコメントから内容を読み取る観察眼。

それが些細な『変化』を見逃さなかった。

近くにある更衣室の一つが、先程とは違ってカーテンが閉められている。

 

「ハァア!」

 

直後、そこから龍騎が飛び出してきた。

既にソードベントを発動しているようで、ドラグセイバーを振り上げて跳んでくる。

 

「えいッ!」

 

シザースは開いたハサミで剣を受け止めると──

 

「ちょきーん☆」

 

「なにッ!?」

 

ハサミを閉じた。

ドラグセイバーが真っ二つに切断される。

龍騎はすぐに後退。追撃の一振りを回避すると、デッキから別のカードを抜き取る。

床を転がり、攻撃を回避しながら、それをバイザーへセットした。

 

『ストライクベント』

 

飛び上がり、シザースのみぞおちを蹴ると、その勢いを味方につけてバク宙。距離をあけて着地する。

素早く腰を落とし、ドラグクローの口内を光らせ、思い切り突き出した。

発射される火炎放射。だがシザースは真正面から突っ込んでいく。

 

「耐えるのは得意だよ。ストリーマー飽和時代のなかで生き抜いてきた意地があるもん!!」

 

紅蓮の中を全力疾走。

さらにちょきちょきちょきと連呼しながらハサミを突き出し、開閉を繰り返した。

見間違えでなければ炎が切り裂かれていくような──

 

「ちょきちょきちょきーんッ!」

 

「うッッ!」

 

思わず、盾にしたドラグクロー。その髭が切られて地面に落ちる。

突き出され振り回されるハサミを避けていると、突如シザースが右手を挙げる。

 

「はーい! 記者さんストーップ!」

 

「!?」

 

「突然ですが、ピーチュとジャンケンたぁーいむッ!」

 

「は? は!?」

 

「はい! いくよーッ! じゃーんけーん……! ぴー☆」

 

龍騎は反射的にドラグクローの口を閉じて前に出す。

一方でシザースはシザースピンチを開いた状態で前に出していた。

 

「ピーチュはチョキ、記者さんはぁ?」

 

「ぐ、グー、ですけど……」

 

「わぁ! 負けちっちーッ! 普通ならね!」

 

「?」

 

シザースは一気に前に出た。龍騎は困惑していたものだから反応が送れてしまい、距離を詰められてしまった

退避を。そう思えど、それができないことに龍騎は気づいた。

シザースピンチにドラグクローが挟まれている。

 

「ピーチュのチョキは! グーをも砕くッッ!」

 

「ぐッッ! がぁァ!」

 

挟み砕かれたドラグクロー。

それだけでなく、龍騎の首をガッチリと挟み捕らえたシザースバイザー。

それを引きはがそうと両手で刃を掴むが、その左腕をシザースピンチが挟み捕らえる。

 

「いでっ!」

 

シザースから声が漏れた。

龍騎が足裏でシザースの右足の甲を踏みつけたのだ。

装甲が薄い部分を狙ったようで、ダメージが通ったようだ。動きが鈍ったところで龍騎は膝蹴りでシザースの腹部を打った。

後退していくシザース。しかし龍騎はガッシリと掴んだままだ。

そのまま逆に勢いをつけて思い切り腕を振るう。

 

「とりゃー!」

 

「うわぁああ!」

 

龍騎を、投げた。

吹き抜け部分を落下して、龍騎は一階の床に叩きつけられる。

 

「ぐゥぅう!」

 

顔面を打ち付けたため、脳に衝撃が走った。

急いで立ち上がろうとするも、めまいがして、龍騎は両手を床につけて蹲る。

そうしている間にシザースはデッキからカードを抜いた。

 

「おーわりーだよー」『ファイナルベント』

 

ボルキャンサ―が現れ、シザースの背後に位置を取る。

 

「………」

 

龍騎はあえて、仮面の裏で目を閉じた。

広がる過去と文字。フラッシュバックする光景。

 

「思い出した」

 

「ちっちっちー、ピーチュを油断させようなんてそんな手には──」

 

「死刑だなんて、ピーちゃんらしくないよ」

 

「へぇ?」

 

「って、スベスベまんでゅーガニさんがSNSに書き込んでましたよ」

 

「う゛ッ!」

 

シザースは右を見た。その後、すぐに左を見た。右を、左を、右左……。

 

「あ、あー、えー……ちょ、ちょきー…ちょきん。ち、ち、ちー……」

 

シザースの様子が明らかにおかしい。

 

「ちょきちょきち……なんだか、お、おなかピーすピーす……だからちょっと……うんちょきしてくるねー……ボルちゃんちょっと場を繋いどいてー……!」

 

そう言ってシザースは急いで廊下を走っていった。

これには思わずボルキャンサーも二度見である。

ファイナルベントを使った後でトイレにいくライダーは初めてかもしれない。

 

とはいえ、だ。

なにも本当にトイレに用を足しに走ったわけではない。

シザースは女子トイレに入るやいなや、鏡の前で手を出して念じる。

すると彼女が使っているスマホが現れた。

 

「えーっと、えーっと……!」

 

龍騎が口にした『スベスベまんでゅーガニ』のアカウントに飛んで、呟きをチェックする。

彼、あるいは彼女かもしれないそのユーザーはピーチュの初配信に初めてコメントを打ち込んだ人物であった。

メンバーシップにもいち早く入って、配信があればいつも応援コメントを送って、スパチャもバシバシしてくれる人物だ。

割と迷走していた時期にアップした賛否両論企画『壁に埋め込まれてみました!』にもいちはやく好意的なコメントをしてくれたのを覚えている。

そんなスベまんさんが、こともあろうに苦言を呈している?

それはピーチュからしてみればなによりもゾッとする話であった。

 

「んー、んー? あれー?」

 

遡れども遡れども、呟きは応援コメントばかりである。

裏垢なのかとも思ったが、シザースですら知らないことを、龍騎が知っているとは思えなかった。

ということは──?

 

「だまされちーッ!」

 

スタンプでも人気の変顔ダブルピースを決めてはみたが、肝心の変顔は仮面が隠してしまう。

そして轟音。光と熱。炎を纏った龍騎が突っ込んできたのが見えた。

次に見えたのは爆炎。光が迸り、ピーチュは鏡から排出されると、人でごった返すショッピングモールの床を転がっていく。

 

「あじゃばばびばぶべべべべぼばぁ!」

 

休憩用のソファに当たって停止。

目を回しているピーチュはまだ完全にわかっていないようだが、ファンが苦言を呈していたというのは龍騎がついた嘘である。

 

取材をした際、シンジは事前にピーチュのことを調べていた。

何度か動画を見ているうち、そこで長文で赤スパ(高額スパチャ)をしているファンを見つけた。

それがスベスベまんでゅーガニさんである。

 

きっとピーチュもその存在を知っているに違いない。

そして彼女の言うことを信じるのであれば、大切な存在なはずだ。

もちろんただのリップサービスで、ただの金づるにしか思っていない可能性もあったが、自分のファンのためにアイを死刑にしようと言うのであれば、本心の可能性が高いのではないかと睨んだ。

結果としては成功だ。

その揺さぶりのせいでシザースはファイナルベントを中断し、こともあろうに戦線離脱である。

ボルキャンサーだけなら撒くのは難しくなかった。

 

「でも結構カードを使ってしまったな……」

 

同じカードを再び使うにはカードごとに設定されたクールタイムを待つ必要がある。

ただし敗北したライダーのカードはまるままその場に散らばり、それを拾ったものが使うことができる。

龍騎はピーチュのカードを拾い、デッキに入れた。

 

(それにしても、ちょっと卑怯な勝ち方だったかな?)

 

ピーチュのファンに叩かれるかもしれないと思うと、冷や汗ものである。

特にスベスベまんでゅーガニからは恨まれるだろうと思うと、気が重い。

 

(でもあんなにスパチャして……どんな人なんだろう)

 

アイコンはアオサギだった。

そういえばピーチュファンの友人が、この前、大きな鳥を見つけてテンションが上がったと言っていたっけ?

 

「まさかな……」

 

 

 

「くしゅん!」

 

風邪かな? 加賀ジュンはそう思った。

だが少し楽しみでもある。ピーチュの看病ボイスをついに使う時がやってくるのかと。

これもあの大きな鳥のご加護かもしれない。

鳥は全然詳しくないのでよくわからないが、大きな鳥だったからきっと珍しいに違いない。

加賀はそう思った。

 

 

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