聖剣を抜いた親友と、抜けなかった俺   作:雷神デス

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FGO小説の方の筆が進まなくなったので筆休めに短編書いて落ち着こう
              ↓
  あかんやりたいこと全部ぶち込んだら長くなるぅ!
              ↓
          TRPGは面白いなぁ(今ここ)

本命小説の方も近日中に投稿するので、どうかお慈悲を……(震え)


親友が聖剣抜いた

 転生者、というジャンルのアニメや漫画があるのはもう皆知っての通りだろう。

 クソみてぇな現代社会の鬱憤を晴らすために都合のいい設定やら才能やらを持った主人公に自己投影させて非現実を楽しむ一般的な娯楽小説。

 俺も結構好きだったし、それらの小説の主人公になれたらいいななんて妄想を楽しむこともあった。

 だから、実際に俺がそうなった時は歓喜したもんだ。

 

 明らかにファンタジーと分かるような世界に剣と魔法、そして明らかなメリットとなる前世の知識と経験。

 幼少期はそりゃ優越感に浸れまくった、何せ他の同年代の奴らに比べ、俺は才能も経験も何もかもが上だったから。

 どうやら俺は前世の記憶に加え、異世界基準でも恐ろしいほどの戦闘の才能があったらしく、十歳にも満たぬ歳で大人を喧嘩でボコボコにできた。

 そんな俺に対し他の奴らがついてくるのは、とても楽しかった。

 まるで自分が世界の中心にいるかのような、主人公であるかのように思えたからだ。

 

 ただ、戦いの才能はあっても、前世の記憶なんてものがあるから、人格は元のままのわけで。

 最初は俺を慕って後ろをついてくるガキ共も、段々と俺の性格に勘づいたらしく、離れて行った。

 前世からボッチだったので寂しいわけでは無かったけど、惨めなのが嫌だったので適当な奴とつるもうと思って俺と同じようなボッチを探した。

 以前の俺ならまあ間違いなく無理だったろうけど、無駄に自信がついてたその時は自然と友達なんてすぐできると思ってた。

 

 そして、目的の人物は意外とあっさりと見つかったのだ。

 皆が遊んでる広間の片隅でポツンと座ってる明らかなボッチ、こりゃ行けるなと思い声をかけた。

 なんか顔に変な痣があり、忌子なんて呼ばれて育ての親にも嫌われてたらしいし、村八分にもなってたらしい。

 前世の感覚が尾を引いて呪いとか信じてなかった俺はちょっと優しくしたらすぐに懐き、俺のことを褒め称えるそいつのことを気に入ってた。

 割とそいつとは感性が合っていたらしく、長いこと一緒にいたが、喧嘩などはすることなく割と楽しかった時期を過ごした。

 あの頃はそんな実感無かったが、あいつとの関係性は『親友』というやつだったんだろう。

 

 十三才の頃、どこか遠くの地で魔王が復活したということを聞いた。

 そしてその魔王を倒せるのは聖剣に選ばれた勇者のみである、と。

 何のイベントも娯楽も無い村で過ごし、退屈してた俺は、自分であればその聖剣を使えるのではないか?と思った。

 自分が転生者であること、神に愛されているかのごとき闘いの才能を持っていたこと、それらが自分がこの世界の主人公なんじゃないかという考えに至らせた。

 

 親友にそのことを話し、親友もその考えに賛同したことで俺の自信は更に増長した。

 親に頼んで聖剣があるという地に連れて行ってもらおうとしたが当然反対されたので、俺と親友二人で勝手にその場所に行こうとした。

 簡単な荷物だけ集めて行われた馬鹿な計画は、困ったことに驚くほど上手く行ってしまった。

 危険な魔物も俺の剣技にかかればどうとでもなったし、前世の知識でキャンプとかのやり方もある程度知っていたので軽々と旅を続けられた。

 

 道中で立ち寄った都の武芸大会で優勝し、優勝賞金と名誉を手に入れたこともあった。

 親友の顔の痣を侮辱した奴らをぶん殴り、面倒ごとを起こしたこともあった。

 親友が女装に手を染めようとしたのを見て少し引いたりもした。

 かっこいい武器を買って、一緒に笑い合い、時には辛いことがあってもそれを乗り越え、そして―――

 

 

「ついにこの時が来たね、エンヴァ君」

 

「ああ。ようやく辿り着いたぜ、この場所に」

 

 

 感慨深くそう呟くが、聖剣が突き刺さってた場所は聖なる森の奥とかではなく、王都の広場の中心だった。

 当然沢山の人でごった返しになってるし、神聖な空気もクソも無く、ごついおっさん達が並ぶ列の最後尾に俺達二人はいた。

 我こそは、と聖剣を抜こうとする者は多く、そしてその全員に剣を抜かせるのは酷く時間がかかる。

 それ故に聖剣を抜くのに挑める時間は一人一分とし、順番を守らなければいけない決まりになっていた。

 なんだか聖剣という割にはひどく俗物的なようにも思えるが、案外簡単に聖剣を抜く機会を貰えたのはその時の俺達にとっては都合が良かった。

 

 

「ひ、人がいっぱいいて緊張するね……!」

 

「おいおい、今そんな弱音言ってどうすんだよ。これから俺は世界中から注目されることになるんだぜ?勇者エンヴァとしてな!」

 

「わー……!楽しみだなぁ!エンヴァ君が勇者になって、人気者になったら僕も誇らしいや!」

 

「ワハハ!勇者になって魔王を倒した暁にゃ、ルストも勇者の親友として大注目だぜ!」

 

 

 二人で馬鹿みたいに笑いながら、列を進んでいく。

 他の奴らがそんな俺達のことを嘲り笑っていたとしても、俺達はもうそれを気にしないほどに胸が高鳴っていた。

 交通機関なんて無いこの世界で、子供二人が何もない状態で旅をしたのだ、当然ここに着くまで時間はかかり。

 一年以上の時間をかけて、ようやく王都に到着し、そして聖剣を抜くことに挑戦できる。

 初めて、たった一つの目標のために全力で頑張れた。

 だから、この旅の行き着く先はハッピーエンドだと信じていた。

 そして、そして。

 

 

 当然のように、台座に突き刺された剣は抜けなかった。

 

 

「ちっくしょう!なんで、抜けねぇん、だよ!」

 

「……よし、終わりだ。さて、どいたどいた。後がつかえてるんだ、子供の相手してる時間は無いんだよ」

 

 

 幾ら力を込めても、工夫しても、一人の挑戦者に定められた一分の時間の間に、聖剣が抜けることは無かった。

 今まで努力して、ようやく辿り着いた果てにこんな無様を晒してしまった。

 俺達二人の旅は完全なる無駄だったと示すように、無情にもタイムアップを告げる衛兵。

 目の前が真っ暗になり、目の涙が溜まった。

 

 

「エ、エンヴァ君……」

 

「……畜生!!」

 

 

 涙を振り払い、聖剣から背を向けて歩き出す。

 自分は勇者ではなかった、自分は別に特別でもなかった、ルストの期待に応えられなかった。

 それまで幸せだった記憶が全て価値の無いものに変わってしまうような感覚を覚えた。

 

 

「ほら、次の奴。さっさとしてくれ」

 

「え?あの、僕は」

 

「並んだ奴は挑戦する決まりになってんだよ。ほら、早く」

 

 

 親友が後ろをついてこないことに気づき、後ろを向く。

 そこにはおどおどと剣の柄を握り、こちらを見るルストの姿があった。

 親友の不安げな顔に気づき、涙を拭って、むすっとした顔を作る。

 

 

「さっさと終わらせて、王都の観光でもして帰ろうぜ。なんかもう色々疲れたし」

 

「う、うん!分かった、すぐ済ますね!」

 

 

 分かりやすいくらいに笑顔になって、うんしょと力を入れる親友の姿に少しだけ平静を取り戻す。

 よくよく考えれば、別にルストは俺が勇者にならなくても大して問題は無かったのだろう。

 友人と一緒に長い時間を旅できた、それだけで良かったのだろう。

 俺はそれに気づかず、勝手にルストは俺が勇者になることを期待していたのだと思い込んでいた。

 まだどんよりとした心は晴れないが、せめてこの旅が楽しい思い出で終わるよう、この後一緒に王都で遊びつくそうなんて思っている内に。

 

 

「……あ、れ?」

 

「……は?」

 

「これは、まさか……!す、すぐに王にお伝えするのだ!」

 

 

『勇者が現れたと!』

 

 

 ルスト(選ばれた人間)は、あっさりと聖剣を引き抜いた。

 

 

 

 

☆〇☆〇☆

 

 

 

 

『田舎からやってきた少年が、聖剣を引き抜いた』

 

 

 それはすぐに国中に伝わった。

 誰もが勇者の誕生に心を躍らせ、魔王を倒し平和な世を築いてくれるのだと歓喜し、勇者の名を称えた。

 そう、『勇者ルスト』の名を。

 

 

「エンヴァ君!」

 

「よぉ、久しぶりだな。いやー、色々と大変だったみてぇだなぁ」

 

 

 あの後、すぐにルストは城に連れられて勇者の称号を与えられ、あれよこれよと魔王を討つための旅に出ることになった。

 再び出会ったのは、王都の片隅、所謂スラムと呼ばれる人間の掃きだめが集まる場所でだった。

 俺は相も変わらず田舎臭い恰好で、ルストは見たこと無いような煌びやかな服を着て。

 会うつもりなんて無かったのに、この勇者様は俺を探すためにわざわざ城から抜け出して来たらしい。

 今頃城は大騒ぎだろう、まったく俺なんかのために騒ぎなんて起こすなよ。

 

 

「ずっと、ずっと探してた!なんであの時居なくなっちゃったの?エンヴァ君がいない間、僕……」

 

「話しかけてくんなよ、主人公」

 

 

 自分でも底冷えするような声が、俺の口から発される。

 ダメだと思っても、心の底から湧き上がるこの感情を抑えることなどできなかった。

 可愛さ余って憎さ百倍なんていう言葉があるが、なるほどこういうことなのかと納得した。

 今まで親友だと思っていたこいつの顔が、声が、思い出が―――今はどうしようも無く憎かった。

 

 

「え……?何を、言ってるの?」

 

「勇者就任おめでとう、すげぇよまさに主人公だ。ああ、最初の頃から気づくべきだった。ずっとお前の生い立ちに同情してきたけど、ああ、そうだよな。辛い境遇は主人公の特徴だもんな」

 

「主人公……?ど、どうしたの……目が、なんだか怖いよ……?」

 

 

 勇者様の声が震える、それでも俺は構わず続ける。

 今まで特別だと思ってたが、俺なんて前世の知識を除けばどこまでもありふれた存在だった。

 人より優れた才能があり、夢見がちな子供であり、両親の手で健やかに育ち、そして今は自身が特別ではないと痛感してしまった。

 嗚呼、そうだろう、そんなありふれた奴は主人公になんてなれやしない。

 主人公になるのは、そう。

 

 

「お前のその痣、先祖返りの証なんだって?かつては凄まじい魔力を持ってて、魔王すら恐れさせた凄い奴らの末裔。魔王軍からも危険視されて狙われまくって周囲の奴らも巻き込んじゃったから忌子の証って呼ばれたって」

 

 

 自分でももう感情を抑えることが出来なかった。

 声が震える、目の涙が溜まる、目の前のこいつを殴りたくなる、勝手に裏切られたと思ってしまう。

 裏切ってるのは俺で、裏切られたのはこいつのはずなのに。

 自分の勝手な嫉妬心で、こいつのことを憎んでいる、ただそれだけだと分かっていたけど。

 心の底から湧き出るこの感情の処理の仕方が分からなくて。

 

 

「かわいそうだと思って付き合ってて損したぜ!何が忌子だ!何が勇者だ!何が、何が―――」

 

 

 この先を言うと戻れなくなると本能が告げる、それでも尚吐き出そうとして、ルストと共に居た旅の記憶を思い返す。

 あんなに楽しかった思い出を、今までの全てを否定してしまうことを俺は恐れてしまって、その先を言えなかった。

 中途半端だ、憎んでる癖に憎み切れず、ただただ八つ当たりしかできない自分に苛立つ。

 その苛立ちを誤魔化すように、俺は腰に下げていた剣を抜いた。

 聖剣のレプリカ。ルストと一緒に、いつか聖剣を抜くと誓ったあの日に買った、旅の途中に何度も助けられた聖剣の紛い物。

 それを見て、ルストは泣きそうな顔になった。

 

 

「なあルスト。前に言ったこと、覚えてるか?ほら、旅に出る前にした、英雄譚のおとぎ話」

 

 

 精神年齢は良い大人な癖して、大興奮して読み漁った数々の英雄譚。

 どんな困難にも挫けず進み、勝利を勝ち取り、最後には皆に称えられ祝われハッピーエンドを作り出す、そんな物語。

 俺はそんな幼稚な物語の主人公になりたいと、なれるはずだと思ってしまった。

 前世ではロクなことができずに、ただ死んでいくだけだった俺でも、この世界なら、なんていう幻想を抱いてしまった。

 

 

「覚え、てるよ。君と何度も読んだ、あの本を」

 

「ただその夢が破れるだけなら、死ぬほど泣いて落ち込んで、それで済ませられたかもしれないけどよ。なあルスト。なんでお前が勇者なんだ?」

 

「……分からないよ。今でも、僕自身も納得してない」

 

「ああ、だろうな。お前とは何もかもが正反対だった。照れくさいけど、俺はお前のこと自慢の親友だと思ってたんだぜ?料理洗濯勉強、全部できて一人でも生きていけそうなくらい色々やってくれた。お前のおかげで、旅はすげぇ快適だった」

 

「けど、僕は戦えなかった」

 

「だな。だから俺が剣を握って、襲ってくる魔物共を全員ぶっ倒した。正直なところ、俺は前からお前のことを羨ましく思ってた。なんでもできて、顔も俺なんかよりずっといいし、肌も綺麗でさ。あとイケメンだし」

 

「……イケメン?」

 

「あ、こっちの世界じゃイケメンって無かったっけ?忘れてくれ。それでもまあ、お前のことを羨みはしても、悪く思ったことなんて一回も無かったんだ。お前はなんでも出来たけど、戦いは出来なかった。だから俺が戦ってお前を守ってることで、俺達は対等なんだって思えたんだ。今は違うけどな」

 

「今でも、僕らは対等だ」

 

「勇者様と田舎のガキでか?馬鹿言うなよ」

 

 

 戦うことが、勇者になれることだけが俺にとってこいつと対等でいられる唯一の条件だと思っていた。

 前世の経験合わせてもルストには他のことでは勝てないけど、戦いだけはルストに勝てる唯一のことだと思い込んでいた。

 けど、今はもうそれすらない。

 

 

「聖剣を抜いた勇者様と、棒切れ持っただけのガキンチョが戦えば、どっちが勝つかなんて誰でも分かるだろ?」

 

「僕は、君に勝てるなんて思ったことは無いよ!だって、君は」

 

「そう思うなら剣を抜けよ、勇者!お前だって本当は分かってんだろ!?俺じゃお前に勝てないってのはよ!」

 

 

 叫ぶ俺に、ルストは何も言わずに俯き、震え、動かなくなる。

 聖剣の力があれば、きっと俺なんかを殺すのはいとも容易いのだろう。

 それだけの力があることは、俺なんかでも分かってしまう。

 だけどこいつは剣を抜こうとせず、ただ立っているだけだった。

 知っていた、こいつが俺と戦うような真似をしたくないなんて知っていたけど、それでも。

 

 

「エンヴァ君と、戦いたくない」

 

「それじゃ俺は納得しない!本気のお前を倒さなけりゃ、俺はずっとお前に全部負けたままなんだ!お前に勝たなけりゃ、俺は―――!!」

 

 

 剣を構え、突撃する。それでも奴は聖剣を抜かない。

 剣を振り上げ、奴の頭を叩き斬ろうとする。それでもこいつは、聖剣を抜かない。

 ルストの頭を、剣が真っ二つに両断しようとして。

 

 

「勇者様!」

 

 

 キン、と鉄同士がぶつかり合う音が響き真っ二つに折れた俺の剣が地面に突き刺さる。

 眉目秀麗(びもくしゅうれい)な容姿をしたいかにも騎士然とした男が、勇者の前に立ちふさがり俺を睨む。

 気づけば他にも美しいエルフの女と、竜人らしい男が俺を囲むように立ち、武器を構えていた。

 三人の顔に見覚えのある、王都でふと見た新聞に書かれていた、勇者の旅に同行すべく集められたこの国屈指の実力者達。

 勇者を守る、そのためだけに集められた英雄譚の登場人物。

 

 

「勇者様、お下がりを。こやつめは我々が」

 

「勇者様の首を狙う蛮族め。魔王軍の刺客ですか?」

 

「国の希望を刈り取らせはしねぇ。勇者の首を獲るつもりなら、俺達を倒してからにすることだな」

 

 

 勇者を守るために並び立つ、国最強の戦士達。ああ、畜生。

 憎たらしいほどに、絵になるなぁ。

 

 

「違う!あの人は僕の―――」

 

「聖剣を抜かなかったな、ルスト」

 

 

 折れてしまった剣を鞘に納める。他の奴らは不審気に俺を見るが、ルストは俺が逃げようとしていることに気づいたのか走り出す。

 だが、俺の逃げ足はお前が一番よく知ってるはずだろう?

 事前に購入しておいた転移石を割ると、体が青い光に包まれる。

 

 

「待って、待ってくれ!僕は君の!」

 

「じゃあな、ルスト。俺はもう」

 

 

 最後の一言を、拒絶の一言を告げるのに一瞬の間が空いて。

 

 

「お前を親友とは思わない」

 

 

 勇者になってしまった元親友に向けてそれだけ言って。

 俺は転移した場所で、ただただ自分の醜さに怒り、泣いた。

 

 

 

 




どうでもいいけどお労しい兄上みたいなキャラ好きです(唐突な自分語り)
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