聖剣を抜いた親友と、抜けなかった俺   作:雷神デス

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多分もうだいたいの方が読んで無さそうだけど半年振りくらいに投稿。
どんな顔して戻ってきたんやろなこの作者


勇者じゃなくなった日

「……君は」

 

「とりあえず、見えるな?聞こえるな?よしよし、ようやくだ」

 

 

 まるで時が止まったかのように静止するエンヴァ君とその両親二人。

 それをしたのが目の前にいるこいつであることは明らかだ。

 半透明のエンヴァ君に似たこの少年は、間違いなくこの空間を支配していた。

 

 

「あんだけヒントが出りゃ、幻聴だのなんだの言って無視されることも無いらしい。安心したぜ勇者様。それでも目を逸らし続けるようならもうどうにもならん」

 

「……目を逸らしてたわけじゃないよ。幻聴と思う以外に選択肢が無かっただけだ」

 

「まー、そうだよな!普通頭の中でガンガン聞こえる声とか、幻聴以外の何物でもねぇしな!」

 

 

 うんうんと頷いて、そいつは以前のエンヴァ君のように快活に笑い。

 

 

「それはそれとして逆恨むわ!よくもずっと無視してくれたなこの野郎」

 

「散々僕をけなしし続けていた癖によくもまあそんなこと言えるね……」

 

「それ以外に何の反応も示さなかったお前が悪い。褒めても呼びかけても碌になんも反応しない癖に、あいつを引き合いに出しておちょくれば反応返してくれるんだもん。辛いんだよ、自分が誰からも認識されないってことは」

 

 

 決定的に、こいつはエンヴァ君とは正反対の人間だった。

 なんというか、割り切っている。

 

 自分も悪いが、相手も悪い。そう思える人間だ。

 悪意をため込むようなことはせず、悪意を吐き出せる人間だ。

 

 

「それで。君の正体は?」

 

「別の世界からやってきたあいつが入った肉体、その元の持ち主さ。あー、一応言っておくが俺はそれに関して全く気にしちゃいないからな?あいつが乗り移らない場合、俺死んでたし」

 

「何故?」

 

「知ってるだろ?魔力を持ちすぎるが故に患う奇病」

 

 

 聞いたことはあった。

 人体が許容できない程の魔力を持って生まれた子が患う、不治の病。

 発生する確率は極めて低いが、何十年かに一度だけ症例が見つかる病気。

 

 

「本来なら、俺はそれにかかって死んでいた。まあ何日かは生きれたかもしれねぇが、どっちにしろじきに衰弱して、両親の目の前で死ぬ。むしろ感謝してるんだよ。あいつがいなけりゃ、俺は生きれなかったわけだしな」

 

「……君は」

 

「あんま俺については知る必要ねぇよ」

 

 

 僕の言葉を遮るように言い、彼は指先を淡く光らせ宙を走らせる。

 それが引き金になるように、三人は再び動き出す。

 

 

「お前が知るべきは、この後起こることだろう」

 

「……人のことは散々言っておいて、自分のことは隠すの?」

 

「うっせぇよ。俺だって隠したいことの一つや二つや三つある。それにどうせもうすぐ消える。立つ鳥跡を濁さずってやつさ」

 

「どういうこと?」

 

「あいつの故郷の言葉さ。意味は後で教えてやるよ。そら、動くぞ」

 

 

 三人はしばらくの間、ささやかな誕生日会で料理に舌鼓を打った。

 その後家族皆でベッドに包まり、夜が明けるのを待つ……とはならず、エンヴァ君は布団からもぞりと抜け出し、一度持っていくはずだった荷物に目を向けた後。

 

 それには何の手も付けず、一本の剣だけ持って、音をたてぬよう扉を開き駆けだした。

 

 

「これが見終わったら、お前がやるべきことを教えてやるよ」

 

「僕が、やるべきこと?」

 

 

 彼はそれ以上何も言わず、エンヴァ君が走る先を見つめていた。

 

 そこには、相も変わらず笑みを浮かべる、あの女が立っていた。

 

 

 

 

 

 ☆〇☆〇☆

 

 

 

 

「お帰りなさい、エンヴァ」

 

「グラトニカ」

 

 

 彼女は俺の姿を見て、少し困ったように笑う。

 

 

「あら。荷物は持ってこれませんでした?」

 

「えっと、その」

 

「フフッ、気に病む必要はありませんよ。何か事情があったのでしょう?大丈夫、私も少しではありますが保存食やお金は持ち合わせています」

 

 

 そう言って、「じゃーん」という可愛らしい声と共にお手製の鞄を開けて、金貨と食料を自慢げに見せてくる、この世界で出会った初めての友達。

 

 彼女はきっと、俺を信じて疑っていないのだろう。

 『自分と同じ境遇』という一点のみで、俺をどこまでも信じてくれている。

 それはどこまでも眩しくて……同時に、どこか不気味ですらあった。

 これまで彼女に抱いたことのない、不信感が僅かにあるのを自覚する。

 

 

()()()だけに、苦労をかけるわけには行かないでしょう?」

 

「……うん。ありがとう」

 

 

 話したいことがあるはずなのに、切り出せない。

 少女の笑顔を見て、いつものように立ち止まってしまう。

 またいつものようにこうやって、自分の意思をさらけ出せない。

 

 

「じゃあ、行きましょうエンヴァ。あなたならその辺の敵なんかには負けることはありません。たとえ剣が無かろうと、適当な枝を振るうだけで敵を倒せる力がある」

 

「ず、随分と評価高いな」

 

「当たり前でしょう?今まで見てきた中で、あなたは最高の剣士です。魔王すら遥かに凌ぐ剣才を持っている。その才能こそが、あなたの勇者としての力なのでしょう」

 

「……そっか」

 

 

 褒められて嬉しくなると同時に、本当にこれでいいのかと考える。

 自分達は異物だと、彼女は何度も言い聞かせてくれた。

 けど、本当にそうなのだろうか?

 

 ただ漠然と、不安を持っているだけだった。

 エンヴァという一人の少年を殺した俺が、許されるはず無いと。

 

 けれど、エンヴァを奪った見知らぬ他人のはずの俺を、二人は息子だと言ってくれた。

 ここに居ていいんだと。自分達の息子でいてくれていいんだと、許してくれた。

 

 

「それじゃあ行きましょう。旅のルートは予め決めています。道に迷うこともなく、楽々と目的地に着くはずですよ」

 

「……すごいな。こんな細かい地形が載ってる地図、父さんや母さんでも使ってなかった」

 

「時間に関してはいくらでもありましたから。私の手書きのオリジナルですよ」

 

「これ、全部?」

 

「はい。これでもすごーく長生きしてるので」

 

 

 言い出せない。

 

 

「その、グラトニカ」

 

「どうしました?」

 

「……その。俺達の目的ってのは。人間を憎んでいる今の魔王を殺して、グラトニカを魔王にして人間と魔族同士の戦争をなくすこと、だよな?」

 

「はい、そうですよ。そのためにもあなたの力と、聖剣の力が必要なんです」

 

「あ、いや。ちょっと考えたんだけど……誰かに相談したりしないか?」

 

「……相談?」

 

 

 本題は切り出せず、取り繕うように別の話題を出す。

 突然こんなことを言われたグラトニカは、こてんと首を傾げて顎に指を乗せる。

 まるで、俺が言っていることが理解できない、とでもいう風に。

 

 

「突然何を言っているんですか?そんなもの、あるわけないじゃないですか」

 

「けど、ほら。魔王が復活するって他の大人に言えば、誰かが協力してくれるかもしれないだろ?何も俺達だけでやる必要ないんじゃないかって、思えてきて……」

 

「……何を言っているんですか?」

 

 

 ああ、ダメだ。ここでビクついて恐れるから、俺はだめなんだ。

 誰かに自分の考えを否定されるのが怖い。それも、初恋の人から言われるのは、とても。

 

 それでも、言わなきゃダメなんだ。だって、今更だけど、どう考えても。

 

 

「なんでそんなに、二人だけでやりたがるの?僕達だけじゃ……子供の力でやれることなんて、たかが知れてると、思うんだけど……」

 

「馬鹿ですか?」

 

 

 初めて聞く、彼女の冷たい声。

 僕は初めて、彼女の出自を強く認識した。

 この子は、魔王の娘なのだと。

 

 

「子供?あなたが?あなたは、この世界に来る前は何年生きてましたか?」

 

「いたっ……!?」

 

 

 俺の腕を強く掴み、彼女は無感情に問いかける。

 まるで機械のような、虫のような目で。

 

 

「前世と合わせた年齢を言ってみてくださいよ。ねぇ、あなた何歳ですか?自分が子供?アハッ。あなたが?」

 

 

 かと思えば、まるで童女のようにおかしそうに。

 どちらが本当の彼女なのか、分からなくなってくる。

 

 

「気色悪いなぁ、子供のフリは楽しいか?自分がやるべきことを、子供だと騙して赤の他人にやらせるのは気分がいいですか?」

 

「グラト、ニカ?」

 

「ああ、もう馬鹿馬鹿しくなってきた。わざわざあなた好みの性格を演じてやったんですよ?好きなんでしょ、こう言うの。自分が守らなきゃ生きていけないような儚い女の子。わざわざやる気出させるために、そういうキャラでいてやったのに」

 

 

 腕を握る力が強くなり、爪が食い込んで血が流れる。

 どうにか引き剥がそうとしても、彼女の普段の様子からは考えられないほどの力で捕まれ、引き剥がさない。

 

 

「あなたはまだ自分がどんな境遇なのが分かってないんですね?あんなに丁寧に教えたのにまだ理解できてない。一向に成長しないガキ用に絵本でも書いてあげるべきでしたか?あなたは産まれちゃいけなかったんですよ」

 

「そんなこと……!?」

 

 反論しようとして、首を掴まれる。

 呼吸が止まる、息ができない。

 彼女の手が不自然に大きくなって、形を変えていく。

 

 

「『そんなこと』?続きを言ってみろよ。何が違う?腹を痛めて産んだ子が、実際は血の繋がらない赤の他人だったんだぞ?おぞましい気色悪い息をするなよ臭いんだよ」

 

 

 首から手を離され、ゴミのように地面に放り投げられる。

 咳き込んで酸素を確保し、僕を見下す彼女の目を見る。

 

 嫌悪。

 憎悪。

 失望。

 

 少し笑ってしまう。

 どうやら僕は、初恋の人のことすら碌に理解できちゃいなかったようだ。

 

 

「あなたにも分かりやすいように言うから、よく聞いてくださいね?」

 

 

 聞き分けのない子供をあやすように、彼女は聖女のような笑みを浮かべて。

 

 

「あなたと私は、この世界のゴミなんです」

 

「違う」

 

 

 一度目の否定。

 空気が歪む。

 

 

「ゴミはゴミらしくしてなければいけないんです」

 

「違う」

 

 

 二度目の否定。

 剣の柄に手を当てる。

 

 

「私達は、産まれてきちゃいけなかったんです」

 

「違う!」

 

 

 三度目の否定。

 恐怖で歯がガチガチと音を立てる。

 それでも、それだけは否定しなきゃいけなかった。

 

 

「何が違う?何故違う。私達は──」

 

「二人は僕を、それでも愛してるって言ってくれた!」

 

 

 自分はたしかに、どうしようも無い人間かもしれない。

 エンヴァという少年の人生を奪った僕に、こんなこと言う資格はないかもしれない。

 

 だけど

 

 

「それでも、息子になってくれてありがとうって、言ってくれた!」

 

 

 二人が言ってくれたことを、二人が僕を認めてくれたことを。

 否定なんて、させたくない。

 

 

「だから──」

 

 

 自分たち以外の誰かにも、頼ってみようよ。

 そう、続けようとして。

 

 

「は???」

 

 

 ──彼女の目が、紫色に光り輝いた

 

 

「……アハ。アハハハハ。そうなんですね。すいませんエンヴァ。勘違いしてました、私」

 

「え……?」

 

 

 彼女は、枷が外れたように笑う。

 何かが壊れたように、ケタケタと嗤う。

 

 

「最初から、異物だったのは私一人だけでした」

 

「グラトニカ?何を言って……!?」

 

 

 咄嗟に剣を抜いた。

 殺意が載った視覚外からの、背後からの一撃に剣を振るい、弾き飛ばす。

 威力を殺しきれず地面を擦りながら、彼女のすぐ目の前まで後ずさってしまう。

 

 

「ごめんなさい。差し出がましかったですね!あなたを勝手に同類にして、ごめんなさい」

 

「待って、待ってよ。グラトニカ、何を」

 

 

 ギュッ、と抱きしめられる。

 普段なら赤くなる顔が、今はひどく青ざめる。

 

 

「ズルい」

 

 

 グチャリ。

 彼女の腹が、まるで口を開くように割れた。

 

 

「ヒッ!?」

 

「何故あなただけが?」

 

 

 恐怖し、彼女を突き飛ばすように離れる。

 何の抵抗も無く彼女は尻もちをついて、腹の口はケタケタと騒音をまき散らす。

 

 

「一緒だって、思ってたのに」

 

 

 恐ろしい大口の中には、何かが犇めいていた。

 それの正体を、僕は運の悪いことに察してしまった。

 それらは全て、人間や魔物が忽然として笑みを浮かべる顔だった。

 

 

「あなたは私を裏切ったのね」

 

「グラトニカ、僕は……ッ!」

 

 

 言葉を出そうとした途端に、再び不可視の攻撃が飛んでくる。

 それを切り払い、僕は踵を返し逃げ出した。

 このまま突っ立てっていれば、間違いなく殺される。

 

 

「ああ、逃げるのね。あなたなんて勇者になんかなれないわ、臆病者」

 

 

 泣きそうになりながら、走る。

 どうしてこうなったのだろうと考えても、何も分からない。

 違う。答えを出すことすらからも逃げている。

 

 木々が薙ぎ倒され、凄まじい轟音を響かせて倒れていく。

 森の中を、恐ろしい怪物のような容貌の彼女が追ってくる。

 

 不可視の攻撃の正体は、透明の物質でできたムチのような……いや、どちらかと言えば触手と言った方がいいのだろうか。

 

 速度も早く、攻撃力があり、何より避けづらい。

 理不尽とすら思える攻撃を、しかし体は勝手に対処する。

 

 こんな形で、グラトニカとの修行の成果を確認したくなかった。

 重い心とは裏腹に、天賦の才を秘めた肉体は最高のパフォーマンスを発揮する。

 

 

「ツッ……!」

 

「馬鹿ですね。今のあなたなら私なんて、いくらでも殺せるでしょうに。何もかもから逃げるしか能が無い」

 

 

 攻勢に出れば、問題なく倒せるという確信はあった。

 けど、俺はそれができなかった。

 

 

「アハハ。なら、殺しやすいようにいいことを教えてあげますね。なんで二人だけでやろうとするか、ですか?私は別に、人間と魔族の争いだとかには一切興味がないんです」

 

「じゃあ、どうして」

 

「可哀想じゃないですか」

 

 

 可哀想?何が?

 

 

「私を産んじゃった人はね。何度も何度も私に言ってましたよ。『娘を返して』って」

 

 

 なんで

 

 

「なんで?だって私、本当の娘じゃないんですもん。夢の中で何度もあの子と出会いましたよ。とってもかわいい子でしたよ。私にいつも笑顔でいてくれましたよ」

 

 

 (エンヴァ)もそうだった

 

 

「私はあの子に体を明け渡すべきだったんです。けどあの子は優しいから、私なんかに体をくれるって言ってたんです。おかしいですよね?私達は本来いていいはずの魂じゃないのに、本来生きるべきだった子達は私達のために死ぬんですよ?間違っていますよね?」

 

 

 そうかもしれない

 

 

「だから、私は持って生まれた力を使って、彼女の願いをかなえることにしたんです!」

 

 

 それは

 

 

「私の中にいるあの子を食べました」

 

 

 それは

 

 

「私のおなかの中って、一つの宇宙みたいなものらしいんですよ!ほら、見てください!皆私のおなかの中で、愛しい人と出会えているでしょう?お母さまとあの子が、一緒にいられるんですよ!?それってとっても素敵でしょ?」

 

「ダメだ、そんなこと」

 

 

 口から言葉が漏れ出た。

 

 

「本来会えなかった二人が、会えたんですよ?それの何がダメなんですか?だから、私の本当の目的はね、エンヴァ。お父様を、あの子と会わせてあげることなの!」

 

「そんなこと、間違ってる」

 

「あなたからすればそうでしょうね?」

 

 

 彼女の憎悪が肌を撫でる。

 

 

「よかったじゃないですか。自分の存在が許されて。なんで私があなたを連れて行こうとしたか分かりますか?あなたがこの世界にいちゃいけないゴミだからですよ?」

 

「ゴミだから……?」

 

「だって、この世界は間違ってるじゃないですか?なんでお腹を痛めて産んだ子どもが、別の人間に成り変わられてるんですか?なんでそんなことが許されているんですか?許されるわけないのに。そんな悲劇、あってはいけないのに」

 

 

 彼女の言葉は止まらない。

 溢れ出す水のように、彼女の吐露は僕の頭に流れ込んでくる。

 

 

「だから、魔王の力と勇者の力を手に入れて。この世界の生物全てを飲み込もうと思ったんです」

 

「……無茶だ」

 

「可能です。私にならできる。私のおなかの中なら、皆幸せに愛しい人と会えるんです。新しい命が不純物に穢される心配も無いんです」

 

 

 逃げながら問答をしている内に、少し開けた場所に出ていることに気づいた。

 そこは、村の子供たちの遊び場だ。この時間であれば、皆そろそろ集まってくる。

 

 

「その世界に、あなたと私は不要でしょう?だって、たった二人の、いてはいけない存在だから」

 

「……」

 

 

 ああ、そうか。

 彼女は。

 

 

「うわあああああああああ!?魔物だ!」

 

 

 村の子供達の悲鳴が響き渡った。

 

 

「ああ。集まってきたんですね。ちょうどいいよ」

 

「何を……!?」

 

 

 叫び声をあげた子供に迫った殺意を切り払う。

 どこから出たかも分からない触手はビチビチと撥ねる。

 

 

「こいつ、襲ってくるぞ!?」

 

「エンヴァ!早くやっつけてくれよ!誰にも負けないんだろ!?」

 

「助けてぇ!殺される!」

 

 

 待ってくれよ。

 まだ、何も話し合いをできちゃいないんだ。

 

 

「何を悠長にしてるんですか?ほら、早くしないと子供が死にますよ」

 

「なんの意味があるんだよ、こんなことに!?」

 

「あなたに選択肢をあげるためですよ?」

 

 

 笑顔と共に放たれた二撃目を、辛くも打ち払う。

 これ以上は、守り切れるかどうか分からない。

 

 

「せん、たくし?」

 

「あなたは私の理想が気に入らないんでしょう?なら、ここで私を斬ればいい」

 

 

 三撃目。

 いや、四撃目か。それは二つ同時に放たれた。

 二人を同時に狙うそれを、腕の痛みを代償に防御する。

 血が噴き出る。

 

 痛い、痛い、痛い。

 

 

「何やってんだよ!?早くそいつを倒してよ!」

 

「ずっと威張ってた癖に、こんな時くらい役に立てよ!」

 

 

 煩い。

 

 

「私についてきてくれるのなら、この村を食べつくすのを見ていてください」

 

「なんでそんな──!」

 

「分かりやすく言いましょうか?」

 

 

 実に楽しそうに、彼女は嗤った。

 

 

「あなたは私と、地獄に落ちてくれますか?」

 

 

 それはきっと、最後の警告だったのだろう。

 どちらかを選べという、情けない僕への最終通告。

 

 自分を取るか。村を取るか。

 初恋を取るか。家族を取るか。

 

 

 僕は、それに。

 

 

「グラトニカ、君は──」

 

 

 ザシュッ、という呆気ない音が響いた。

 

 彼女は僕に気を取られ過ぎていた。

 そして僕も、彼女しか目に写ってはいなかった。

 

 村を襲う魔物に手を下したのは、忌子と恐れられていたあの少女で。

 

 

「大丈夫?」

 

 

 善意であったのだろう。

 きっと僕を助けるために、手に持ったナイフを、振り下ろしてくれたのだろう。

 誰にも気配を悟らせず、彼女の背後に回り込み、彼女の心臓にナイフを突き立てた彼女に。

 

 

「──ァ」

 

 

 僕は、俺は、何を血迷ったのか。

 その手に持った剣を、彼女に振り下ろそうと一瞬考えて。

 

 

「……ああ、やっぱり」

 

 

 彼女の、呆れたような笑いに動きを止めて。

 

 

「意気地なし」

 

 

 血を流し、地面を倒れる怪物(恋した人)を目の前にして。

 僕の視界は、真っ黒になって。

 

 

「あなたなんて──」

 

 

 彼女の手が、僕の頬を撫でて。

 

 

「世界で一番、大嫌い」

 

 

 その日、僕は勇者となる資格を失った。

 

 

 

 

 

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