聖剣を抜いた親友と、抜けなかった俺   作:雷神デス

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ちょうどに投稿したかったけど間に合わなかったぁ!
中途半端でごめんね!


魔王討伐戦前夜

 

 

 

「……」

 

 

 それまでの光景を見終えて、手にした聖剣を強く握る。

 途切れ途切れの記憶の中でも、しっかりと理解した。

 

 

「そっか。あの時の魔物が、今のあいつか」

 

「ああ。この後のことは、お前も記憶に残っているはずだろう?」

 

 

『彼の代わりに、あなたがなって。魔王を殺せる最強の──』

 

 

 それを忘れていた、というわけではない。

 ただ、この時の悍ましい魔物と、あの魔族との姿があまりにも違い過ぎた。だからその可能性を最初から排除していて、この時の言葉を魔物の戯言だと切り捨てた。

 

 あの後エンヴァ君は叫び声をあげながら逃げて、それを見た子供たちは彼を見限り、そして一人ぼっち同士の交友が始まった。

 

 魔物は完全には殺せておらず、もう一度あの場所に行くと血の道を作って彼女はいなくなっていた。仕留め損なったが、あの傷では生きてはいられないだろうと踏んで追跡はしなかった。

 

 それがこんなことにつながるとは思ってはいなかったが。

 

 

「なんでそいつは、お前を僕の体に入れたの?」

 

「魔王を殺す勇者が、聖剣を抜く人間が欲しかったのさ。それがなければ魔王を倒せない。だけど、あいつが勇者になるのはいやだ。そんな理由だろうな、お前が勇者になったのは」

 

「そんな理由で、僕は勇者に選ばれたんだね。彼女に刃を突き立てたのが、たまたま僕だった。それだけの理由で、僕が聖剣を抜いたのか」

 

 

 なんてつまらない、そしてどうしようも無い理由だろうか。

 人間性や能力なんて一切関係なく、ただ成り行きで僕は勇者になったのだ。

 

 

「けど、僕には魔王を倒すだけの力はまだない」

 

「ああ。そうするためには、魔王の娘が言っていた通りの工程が必要だ」

 

 

 つまりは。

 

 

「嫌そうな顔すんな、俺も嫌だわ。けどやらなきゃならねぇだろ」

 

「分かってはいる、分かってはいるけどさ」

 

 

 ただでさえ今まで煩わしかったそいつが、自分の一部になるのはなんか気持ちが悪い。

 まあそうも言っていられない状況だし、エンヴァ君を救うためにはやるべきだ。

 本当にしかたなーく、僕はそいつに手を伸ばす。

 

 

「一瞬で終わるから、先にあいつへの遺言を残させてくれ」

 

「聞くよ。君はエンヴァ君にとっては大事な人だったらしいから」

 

 

 そいつは憎たらしくも太陽のように笑って、見慣れた顔を浮かべて。

 

 

「────」

 

 

 それはそいつなりの、精一杯の激励だったのだろう。

 一言一句、全て胸に刻み付け、僕はそいつから流れる力を受け止める。

 

 

「……対抗できなかったわけだ」

 

 

 無尽蔵ともいえる魔力が、過去の勇者たちの経験が、僕の体に吸い込まれていく。

 幾万の戦いが、幾千の悲劇が、そして勇者の材料となっていった魂達が。

 魔王を倒せと、それがお前の使命であると奮い立たせようとしてくる。

 

 

「煩いな」

 

 

 そんなくだらない使命を切り捨てて、光が増していく聖剣を睨んだ。

 こいつはただのシステムであり、ただの兵器であり、ただの剣だ。

 何の想いも乗らないそれは、酷く軽い。

 

 

「……あの時の剣の方が、よほど重いや」

 

 

 楽しかった思い出が脳裏を浮かべ、一瞬はにかみ剣を振るった。

 空間が切り裂かれ、回想の世界は崩壊し、王が座す玉座の間にて口を開く。

 

 

「魔王を殺す準備は整いました」

 

「そうか。では行け、今代の勇者」

 

 

 小さく礼をし、茫然とする仲間達の視線に一瞥して歩き去る。

 もはや立ち止まる理由はない。後は全て切り伏せるだけ。

 

 

「お、おいコラ!?何一人で納得してんだよルスト!俺らにも説明しろ!」

 

「そうですよ、何があったんですかあそこで!?魔力量がすごいことになってるし、聖剣もなんだか様変わりしてるし……!」

 

「落ち着け!勇者様が準備ができたといったのだ。我らの役割はそれについていくことだけ。さあ、決着をつけに参りましょう勇者ルスト!」

 

「てめぇは黙っとけ盲目ジャスティ!」

 

「なんだと貴様!」

 

 

 騒がしい彼らの様子に、なんだか楽しくなってくる。

 村の外に眼を向けてみれば、僕にだって友達はできたのだ。

 本来の彼ならばきっと、もっと沢山の、素晴らしい友人達ができるはずだ。

 

 

「移動しながら話すさ。ほら、行くよ皆。最終決戦の始まりだ」

 

 

 笑って、僕は彼との再会の地であろう都市セリティアの方角を眺める。

 

 

「待っててね、エンヴァ」

 

 

 あなたに言いたいことなんて、まだまだ沢山あるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆〇☆〇☆

 

 

 

 

 

 

「あら。目覚めましたね」

 

 

 (まなこ)を開き、美しい宝石の髪を靡かせる彼女を見る。

 今の言葉が、俺の目覚めを告げるための言葉じゃないのは明白だ。

 

 

「ついに、ルストが」

 

「ええ。もはやあなたでも勝てるかどうか分からない、真の勇者へと覚醒しました」

 

 

 以前から聞いていた話ではある。

 ルストは未だ勇者として完全に覚醒してはおらず、ある条件を満たし覚醒してしまえば、あいつはそれまでの数倍もの力を手に入れるであろうことは。

 

 しかし、なるほど。

 これは予想以上だ。

 

 

「こんなに遠くにいても、魔力が伝わってくる」

 

「魔術師形無しですね。流石は古代エルフが作り上げた人間兵器、その末裔。人類、いや魔族ですら、今の彼女の魔力量に敵う存在はいないでしょう。そして、それに伴う実力も」

 

 

 ああ、そうだろう。あんなものであいつが終わるわけがない。

 あいつは勇者だ。俺がなれなかった、最強の勇者なのだ。

 そんなあいつが、負けっぱなしで終わるわけがないだろう!

 

 

「勝てますか?」

 

「勝ちます」

 

 

 力を与えてくれたソフィートの信頼に応えるために。

 俺があいつと対等であると証明するするために。

 そして何より、()()()()を果たすため、に?

 

 

「……あれ?」

 

 

 なんだっけ、約束って。

 とても大事な、誰よりも愛しい人と、それをした気がするのに。

 

 

「どうしました?エンヴァ」

 

「……いえ、失礼しました。なんでもありません。ただ」

 

「ただ?」

 

「何か、酷く大切なものを忘れていた気がしただけです」

 

 

 それが何なのかは、よく思い出せない。

 大切な誰かと共に過ごした日々が、もう一つあった気がするのだけれど。

 

 

「フフッ、変なエンヴァですね」

 

「も、申し訳ありません。こんな調子では行けませんね!剣の腕が鈍ってしまう」

 

「そこは心配していませんよ、エンヴァ」

 

 

 ソフィート様は、何かを懐かしむように目を細めて。

 

 

「あなたはどんな状況でも、剣を振るえるなら最強です。どんなに傷を負っても、どんなに揺らいでいても。剣を振るう意思があるなら、あなたはこの世界で最も秀でた騎士でしょう」

 

「ありがとうございます、ソフィート様。その言葉だけで俺は──」

 

「剣を振るえれば、ですけどね?」

 

 

 感涙しながら頭を下げようとした俺を諫めるように、彼女は俺の頭を撫でる。

 硬いが、一切の角質が無い真珠のような手に触れられ、俺は思わず硬くなる。

 

 

「ソフィート様?」

 

「剣が振るえなければ、あなたはただの役立たずです。どうか私を失望させないでくださいね、エンヴァ。私についてきてくれるなら、その剣を振るえるはずですよね?」

 

「……え、ええ。勿論。何を当たり前のことを」

 

「ならよかった。信じていますからね?私の剣。私だけの騎士」

 

 

 そうだとも。

 魔王も、あいつも、立ちふさがる者全てを倒し、己が最強だと唄う。

 そうすることでしか、俺はこの世界に産まれた意味を証明することができない。

 与えられた剣の才能しかない俺には、それを振るうことにしか価値がない。

 

 

「あら、ウフフ。エンヴァ。お客さんですよ?」

 

「ええ。随分と数が多いようで。ソフィート様、どうか俺から離れぬように」

 

 

 彼女を背に置き、彼女の左手で作られた宝石の剣を振るう。

 魔王により差し向けられた魔族の軍勢が放つ魔法を一太刀で切り捨て、数百はいるであろう精鋭達に向かって、俺と主はゆっくりと前進する。

 

 

「少しだけ感謝しておこう」

 

 

 久しぶりに、何の憂いも無い戦いができそうだ。

 ずっと何かに縛られた戦いばかりだった。何かに悩んでばかりだった。

 分かりやすく相手が敵だと言うのなら──これ以上戦いやすいものはない。

 

 

「ギッ!?」

 

「貴様……!?」

 

 

 背後から近づいてきていた二体の内一体の魔族の首を、返り血を彼女に当てぬよう斬り落とす。二体目はそこそこの手練れだったのであろう。一撃目を避け、反撃を行ってくる。

 

 だが、遅い。

 ルストと比べれば、あまりにも。

 

 

「あら。流石ですね」

 

 

 心臓を一突き。体勢を崩した二体目は躱す余地も無く、命を落とす。

 懐かしい感覚だった。旅をしてきた時と同じ、全能感にも似たそれは。

 きっと前世において、殺戮、と呼ぶものなのだろう。

 

 

「彼、魔王軍でもそこそこ腕の立つ方だと記憶していたのに」

 

「俺はあなたの剣ですから」

 

 

 この程度であれば、問題なく。増してや、相手が魔族ならば猶更に。

 今更引き返すつもりはない。どうせ俺に退路など存在しない。

 彼女の手を取った時点で、俺は魔族にも人間にも居場所はない。

 

 

「かかってくるといい」

 

 

 ゆっくりと前に進みながら、俺は自嘲する。

 ああ、そうだ。己はたった一人の少女のために、否。

 俺自身の欲望のために、こいつらを殺すのだ。

 

 だから、せめて強くいてやろう。

 お前達が、負けたのは、最強の剣士を相手にした故だと証明してやるために。

 彼女と敵対してしまった事実こそが、何よりの悪手だったのだと証明してやるために。

 

 

「お前達に、最強の剣を見せてやろう」

 

 

 その後のことは、言うまでも無い。

 数百の屍が転がるだけだ。

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