『お前、うざいんだよ』
そんな理由で、何度も叩かれた。
『見下されてるようで、気色悪い』
そんな理由で、遊びに入れてもらえなかった。
『あなたと一緒にいるのは、もううんざりだもん』
しょうがない、と諦めようとしても、やっぱり納得ではできなかった。
だって、お母さんもお父さんも言っていた。
嫌いな人でも、いじめたり無視するのは良くないことだって。
人間は皆仲良くすべきだって、子供の頃からずっと言われてきた。
『なんであの子達は、私と仲良くしてくれないの?』
そんな疑問を投げかけても、二人は仲良くしなさいとしか言ってくれなかった。
だから私はいつも笑顔でいたし、二人が言う正しいことを、いつだって心掛けてきた。
二人が我慢しなさいと言えば我慢したし、二人が頑張りなさいって言うなら頑張った。
だから、二人が『一緒に死のう』って言った時も、嫌だけど頷いた。
死ぬ時は苦しくて、気持ち悪くて、変な感覚がして。
それでも、言う通りにしたらほめてもらえるから、頑張った。
ねぇ、お母さん、お父さん。
私、言う通りにしてるよね?二人の言いつけ、守ってるよね?
『グラトニカはさ、我儘の一つでも吐いた方がいいよ』
私の中にいるもう一人の子のソフィートは、とってもとってもいい子ちゃん。
いつも私のことを心配してくれて、いつも私と他愛も無い話をしてくれる。
最初は怖かったけど、暫くしてすぐに初めてのお友達になってくれた。
『なんであんなこと言われて素直に頷いちゃうかな。消えるのが怖くないの?』
『怖いですけど、あなたの方が明るい子ですし。それに、お母様はあなたのことが好きなんだもの。だから仕方ないの。我儘言っちゃ、二人を困らせてしまいますから』
勇者と魔王は、二つの魂を一つの肉体に秘めて生まれるらしい。
幼い精神では体に秘めた力に耐えきれず、魂が崩壊してしまうからだとか。だから、私みたいな存在を別世界から連れてこられてしまうんだとか。
迷惑だな、と思うけど、初めての友達を作れたことには感謝している。魔法というのを使うのは楽しいし、ソフィートはとってもいい子だし、私を仲間外れにするような子もいない。
だから、私達を産んだ今世の両親が、私に変えてくれた頼んだことも、悲しくはあるけど受け入れるつもりだ。そう思えるほど、私はこの世界で楽しい人生を送れたのだから。
『私はそんなの、納得できないよ』
『ソフィートは優しいですね』
『グラトニカ、逃げちゃおうよ。魔王を継ぐ必要なんて無い。勇者と戦う必要なんてない。遙か昔の、顔も知らないようなご先祖様達の因縁に、私たちが巻き込まれる必要なんて無い』
『我儘言っちゃダメですよ、ソフィート』
ふくれっ面の彼女を夢の中で諌めて、いよいよ私が消えることになった時。ふと、彼女はある一つの疑問を投げかけた。
『グラトニカは、何かしたいことはある?』
『したいこと?』
無い。そう答えようとして、けれど一つだけ思い浮かぶものがあった。
ずっと納得できず、今でも分からない彼等彼女等のこと。
なんであんなことをするのか、何が目的なのか、何度聞いても分からなかった。
二人は、理解しなくてもいいなんて言っていたけど。
『……一つだけ、知りたいことがありますね』
『へぇ、なになに?』
『私は──』
私の代わりに、あの子が消えた日のことだ。
だから、今この時だけはあなたに感謝してあげる。
ようやく、あの子達が言っていたことが理解できたのだもの。
「ずっと目障りでした」
いらない子のはずなのに、親に愛されているあなたが目障りだった。
同じ境遇なら、きっと皆そうなると思っていた希望が打ち砕かれた。
「見下されているようで、気色が悪かったです」
世界のせいだ、私のせいじゃない。
そう叫ぶことが、言い訳みたいになるのが嫌だった。
『なんで彼はできているのに、あなたはできないの?』って言われるようで。
「あなたと一緒にいるのは、もううんざりだ」
倒れ伏したそいつに、意味も無い言葉を投げかける。
ようやく、私の一つ目の願いが叶った。
そっか。こんな気分なんだ、嫌いな奴を叩くのって。
こんなことなら、もっと早くにやっておいた方がよかったのかもしれない。
「私は──おっと」
ギィン、という鈍く鋭い音が鳴り響いた。
咄嗟に水晶の身体から、己が食べた肉体の中で最も強靭な体へと変化し、その刃を受け止める。
彼女の魔法無効は強力ではあるのだが、その代償となる肉体の脆弱化が今は致命傷だ。
砕けた元の右腕の代わりに、ズルリと新たな腕を生やして、その感触を確かめる。
予想はできていた。
無様に転がっている何者でもないあれに、今代の勇者はご執心だ。
それが殺されたとなれば、巨大な殺意が私に向くのは容易に想像できていた。
「イヤル、彼をお願い。まだ助かる」
「……おう、任せとけ」
「ジャスティ、リージェ。援護お願い」
「了解です」「承知しました」
予想外だったのは、思いのほか彼女が冷静だったことだ。
獣のような殺意を溢れさせると思っていたが、存外にその眼は冷たく鋭い。
怒りはしているが、予想外ではないと言った風だった。
「驚きました。てっきり、もう少し怒るのかと──」
言葉を言い終える前に、二振り目の刃が私の喉元の寸前で止まっていた。
指で刃を止める、というのは初めてやってみたが、実際にやると少しキツイ。
滅びの魔力を纏わせてはいるが、本気の勇者相手には若干押されがちになる。
「訂正します。凄く怒ってますね」
「予想はできていたよ。できていたからこそ、残念だ。君の考えが変わらなくて」
「あら、知ってて放っておいたんですか?ますますあれが惨めで哀れですね」
おそらくは、彼女に与えた本物のエンヴァが伝えたのだろう。
不本意ではあるが、あれは私の心をよく見ていた。
結局懐柔には失敗したし、挙句の果てに酷いことを沢山言われてしまった。
早々に新しい受け渡し先ができたのは、案外運が良かったかもしれない。
「惨めなのも、哀れなのもお前だ、新たな魔王。己の父親を喰らったか」
「父親と言っていいかもわかりませんけどね。今の私はソフィートではなくグラトニカ。優しい彼女の皮を被った役者ではなく、醜いありのままの姿を見せる、ただのおせっかいな部外者です」
新たに手に入れた力を、本物の滅びの魔力を剣の形に変え振るう。
あれが振るっていた剣技の真似事だが、それでも魔王が振るえば、それは最早災害だ。
壁が修復すら間に合わず分解され、消滅し、何の形も残さずに消えていく。
彼女が振るった光の剣で相殺されて威力の大部分が無くなってもこの破壊力。
今代の勇者はおそらく歴代一の魔力を持っているが、私はおそらく歴代一の手数を持っている。
出力勝負ならば、彼女が私の一歩先を行く。
だが、絡め手がありならば、いくらでもやりようはある。
「ッツ!?」
「姑息ですが有用でしょう?」
かつて喰らったアルラウネの力を使い、彼女の足に生やした蔦を絡まらせる。
一瞬の停滞は、その命を刈り取るには有り余るほどの時間がある。
まあ、そう簡単にはいかないのだが。
「炎よ!!」
勇者ごと焼き尽くす業火によって、拘束が解かれ直前で避けられる。
魔力を纏わせている勇者にあの程度の炎は効かないのだろうが、思い切りがよいことだ。
幾つもの死線を潜り抜けてきただけはある。
「ありがと、リージェ」
「お安い御用です」
あの男を連れ部屋から脱出した竜人は、パーティーの回復役を一手に担っていたのだろう。
となれば、一番に狙うべきは最も頭が回るエルフの魔法使いなのだが……。
「そのような小手先だけの技で、押し切れるとは思わぬことだ!」
「ありがとうございます、ジャスティ」
完全に死角を突いたはずの魔法も、大盾を持った人間の騎士に防がれる。
滅びの魔力で押せば容易く崩れるだろうが、勇者を相手取りながらは厳しいだろう。
分かってはいたが、かなり連携の完成度が高い。
勇者が主力となり、魔法使いが支援を行い、狙われやすい魔法使いを騎士が守る。
それに加えて、フルメンバーなら回復役もいる。
「万全ですね。けど……」
所詮、警戒に値すべきは勇者のみ。
魔力を纏わせた、私本来のメインウェポンである触手を振るう。
海の魔物であったこの世界での母から受け継いだ、変幻自在の万能武器。
それを勇者が受け止め、押し返すと同時に空気が軋み、音を上げる。
やはり下手に武器なんかを使うより、こっちの方が肌に合う。
まあ、私がこれを使って勝てたことなんて殆ど無いのだが……。
今だけは別だ。
「どこまで持ち堪えられますか?」
「それは、君もだろ!」
あちらは魔力は無尽蔵でも、体力には限界がある。
こちらは魔力は有限でも、腐っても魔族だ。体力は人間より上。
普通にやれば消耗戦だ。頭のいい方が、戦いが上手い方が勝つ。
だが、彼の剣技の才と同じく、私にも一つだけ、許されざる理不尽を持つ。
「獲った!」
騎士の剣が、勇者との剣戟の合間を縫って私の右腕を斬り落とす。
痛みはあるが、慣れたものだ。右手となれば猶更に。
先ほどよりも出力の落ちた滅びの魔力、やはり魔力量の差は歴然だ。
本来ならば、このまま魔力の出力で押し負け、真っ二つにされていただろう。
「いいえ。私は別です」
触手の一つが、地面を喰らう。
それだけで私の右腕は再び再生し、弱った魔力は勢いを増す。
「なっ……!?」
「気色悪い能力してますねぇ……っとぉ!?」
「人に悪口を言ってはいけません、と学ばなかったのですか?」
「どの口が言うんですかね!?」
なんとなくエルフの魔法使いの言葉に苛立って、無駄に攻撃を行う。
まあ、母親からも散々言われていたので、別に今更気にしないのだが。
「というか、何が狙いなんですかあなたは。何故わざわざ魔王を倒させ、黒騎士を裏切ったのですか。やることなすこと意味が分からず、一貫性がありません!」
「あら、しっかり夢に向かって突き進んでいるんですよ?」
「どこがですか。私には、あなたが無計画に進んでいるようにしか見えない。端的に言えば、無駄に大物ぶってる馬鹿にしか見えません!」
ズバズバ言うな、このエルフ。
「あなたの目的は、なんなんですか!」
「世界を綺麗にしたいんです」
「はい?」
しまった、脈絡が無かっただろうか?
あの男がこういうノリの方が乗ってくるので、毎回こんな喋り方になってしまう。
もう少し分かりやすいよう、されど短く済むような表現を考えて。
「だって、おかしくありませんか?勇者と魔王が、別の世界で死んだ人間が、他の赤ん坊の身体を乗っ取って、生まれてくるんですよ?気持ち悪いじゃないですか」
ああ、そうだった。たしかそんな感じだったはずだ。
寄生虫のような、惑いはそれ以上に害悪で、気色が悪い最低なシステム。
一体この世界を作った神様は、何を思ってこんな存在を生み出したのだろう。
うん、だいたいそんな感じだったはず。
「しかも、理不尽なくらいの才能や能力を持って」
何度か考えたことがある。
なんで私達みたいなのが産まれたのだろうか、って。
その度に、結局何回も同じ結論に達してしまう。
「争いを産むだけだ。産まれる意味なんて無い。正真正銘の欠陥品です」
ああ、そうだった。
忘れちゃいけない、私はそのためにここまで頑張ってきたのだ。
一秒たりとも傍にいたくない男と共にいた地獄のような時間もそのためだ。
「そんな私達を産んでしまったこの世界は、きっとどこかで間違ってしまったんです」
ここが正しい世界なら、私じゃなくてあの子が消えてしまうわけがない。
この世界が間違っていないなら、あの子のお母さんがあんな顔するわけがない。
産まれた意味があるのなら、世界はもっと輝いているはずだ。
「だから、間違いがない世界に皆さんを連れていきたいんです!」
そうだ、それをお父様に打ち明けて、私は殺されかけたんだった。
殺される直前で、何故か見逃されたけど、ようやくお父様を倒して、力を奪えた。
私は真の魔王となった。正真正銘、最強に近い力を手に入れることができた。
「あの人を食べて、私気が付いたんです。私に食べられた人達は、私のお腹の中で、ずっとずぅーっと生きてるんだって」
ほら、今も声が聞こえる。
最初に食べたあの人の、何かの声が聞こえてくる。
何を言っているかは分からないけど、お父様も入ってきたし、多分きっと幸せだ。
本物の娘も、愛した夫も、ついでにお兄様達やお姉様達もいる。
私が死なない限りは外敵に悩まされることは無いし、私はその世界にはいないのだ。
「皆を私のおなかの中に入れてあげれば、もう悲しいことなんて無くて済むのです」
なんて幸せな世界だろうか。
「だから、どうかお願いします。私の邪魔をしないでくださいますか?」
産まれは間違っているかもしれないけれど、正しいことはしてるでしょ?
「私は、皆を優しい世界に導きたいんです!」
今度はどうだろうか?
さっきよりは、もう少し事細かに、私の願いを説明できたと思うのだけど。
「……」
反応は返ってこない。多分絶句しているのだろうか?
まあ、予想はしていた。あまり他人から賛同を得られるような夢でも無い。
だが、それでも共感してくれるかもしれない存在は一人いる。
「あなたも、多少は私の考えを理解できるのではないでしょうか?勇者ルスト」
彼女もまた、私と同じように、産まれながらに両親から見限られていた人間だ。
そんな彼女ならば少しはわかってくれるはずだ、この世界の間違いに。
私は彼女に笑顔を向け、その返答を待ちわびて──。
「ごめん、ちょっとよく分からない……」
「え?」
──本気のトーンで、あからさまに困った顔で、首を横に振られた
「……ああ、なるほど。やはりあなたも彼と同じように──」
「悪いけど、そういうのじゃないんだ。本気で、君の言ってることが理解できない。産まれてくる意味だとかなんだとかを僕に言われても……その、困る。そういうのは、リージェの役割だし」
否定されるでも無く、怒るでも無く、ただ単純に困惑と疑問があった。
私の伝えたいことが、何一つ伝わっていないようであった。
ついでに言えば、他の二人もなんだか渋い顔をしている。
とても最終決戦の顔とは思えない。
「私に言われても困りますよ。ただ、そうですね。ある程度考察混じりになりますが、私なりに解釈して彼女の言っていることを整理します。よろしいですか?」
「お、おいリージェ……!」
「うん、お願い」
なんだろうか。何故だか、酷い既視感を覚えてしまう。
まるで前世と同じような、いたたまれなくて、嫌な気分だ。
「まず、彼女は『産まれた意味』とやらをいちいち言っていましたね。これはおそらく、人間は剣やペンのような道具と同じように、作られた以上何かの役目がある、と解釈しているのでしょう。そしてその意味を持たぬものは、不良品であると考えているようです」
「なるほど」
なるほど、じゃないが。
あまりの事態に口を閉ざしてしまう。
なんで、こういうことになっている?
「そんな考え故に、己達のような不良品を生み出す世界が悪い、という結論に至ったようですね。彼女の主張をまとめると、こんな感じです」
「なんでそこで世界が悪いってことになるの?」
「単なる責任転嫁かと。勇者様は知らないと思いますが、世の中には自分の不幸を全部世界のせいにするような奴が多いですからね。あれもその一人なのでしょう」
乗るな。これはただの挑発だ。
勇者の方はともかく、あの魔法使いは明らかに頭に血を登らせようとしている。
何も聞かずに、ただあいつを殺して、黙らせてやればいい。
「……何も知らない人が、口を挟まないでくれませんか?」
「あなたにも分かりやすく言いましょうか?不幸自慢は他所でやってください」
「不幸自慢?私が?ふざけるな、何もしらない癖に」
「知りませんし、知りたくもありませんよ。だいたいあなたは、何を当たり前のことを言っているんですか?」
当たり前?何が?
「世界が間違っているなんて、とっくの昔に誰もかれもが諦めてることです。神を信仰している者達ですら、神が正しいことしかしないなんて考えちゃいません。不満なんて山ほどあるけど、それでも生きているんですよ」
……ああ、嫌だ。
なんだか酷く、憂鬱になる。
「まあ、そうだな。……たしかに、世界は、神は全てを拾い上げてくれるようなお方ではない。だがそれでも、だからこそ我々は神に仕えている。神ですら間違うことがある世界を、少しでも正しくするために。それを自分勝手に諦めて、ひとくくりにするのはやめてくれ」
苛立たしい。
すぐに口を閉じてほしい。
なのに、私は反論を口にする。
感情が脳を通らずに、そのまま口から吐き出されていく。
「あなた達がそんなことを言えるのは、あなた達が特別だからでしょう?きっと、この世界に絶望してる人は沢山います。その人達を見捨てることを、あなた達は正しいことだと言えますか?」
「言えますよ」
「何故」
「絶望して、それでも立ち上がった人を見てきましたからね」
そういって、二人は聖剣を携えた少女を見やる。
ああ、ムカつく。なんでこんなにむかむかするんだろうか。
そうだ。あの時と同じだからだ。
あいつが私を裏切った、あの時と同じだからだ。
「……君は、仲間が欲しかったんだね」
知った風な口を利くな。
「だから、彼から奪った勇者の資格を、もう一人のエンヴァを。僕の身体に混ぜ込んだ。多分、僕が君を斬ったあの時に」
私を蔑んだ目で見るな。
「なんでそんなことをしたのかずっと分からなかったけど。今ようやく理解できた。自分の弱さを肯定してくれる人が欲しかったんだ。だからエンヴァ君に近づいた」
そんな目で私を見るな。
「けど、僕は君が思うより幸せだ。僕を実の子供のように育ててくれた人達がいた。僕を支えてくれる仲間達がいた。こんな僕でも、救える命があったんだ。そして何より、僕を救ってくれる、大好きな人がいてくれた」
ああ、やっぱりあなたも同じなんですね。
「自分勝手なその願望に、僕らの明日を巻き込むな。優しい世界に行きたいのなら、一人で勝手に落ちていろ。我儘な戯言に付き合ってあげるほど、僕らは暇じゃない!」
ズルい。
『ソフィートはかわいいわね』
ズルい。
『私、あなたと一緒にいて幸せだった!』
ズルい。
『二人は僕を、それでも愛してるって言ってくれた!』
ズルいよ。
『くだらぬ。お前は誰かを救おうなどとは考えてなどいない。お前はただ、私達が憎いだけだ。己を愛してくれない他人が憎いだけだ。それを憎しみと認識できていない。だから、心の底から嬉しく思う。ようやく成長できたじゃないか、なぁ?』
『ああ、なんて哀れな子。あなたは別に、同情されるような子じゃないわ。私の子供を食べて、私達まで食べて。己を正当化するために、あんな戯言を吐き出す女を、一体誰が憐れんでくれるのかしら?』
『馬鹿な奴。自分が誰も愛さない癖に、なんで誰かから愛してもらえるだなんて考えたんだ?結局あいつも勇者も、お前なんかいらなかったじゃないか』
『面白いね。無駄に大物ぶって、誰かから恐れられたかった?残念でした、薄っぺらいあなたのことなんて、だーれも見てはくれません』
『自分は何も作れない癖に、食べるのだけはお上手ね。流石はグラトニカ!』
『『『『『『無駄飯喰らいのグラトニカ。次はどんな物を食い漁る?』』』』』』
ああ、楽しそうに笑っている。
クスクス、クスクスと、彼等は私の中で笑ってる。
間違いのはずがない、だってこんなにも幸せそうだもの。
ズルい
なんでそこに、私はいないの?
「ッ避けろ、リージェ!!」
「えっ?……は?」
一人目。
赤い染みが壁に広がる。
エルフの血も赤いらしい。
「ジャスティ!!」
「ぐっ、う!?」
二人目。
足が千切れて、床を汚す。
息はあるが戦闘不能。
「急に、速く……!?」
三人目。
防がれた。流石に強い。
光の奔流が上半分を消し飛ばす。
すぐに生える。問題なし。
「お前……!」
「ズルいです」
最初からこれでよかったや。
「なんで、あなたやエンヴァは幸せなんですか?」
「何を……!」
「私は今、こんなに辛いのに」
なんで私だけ、子供として認められていないの?
なんで私だけ、皆から責められるの?
答えなんてとっくに知ってるけど。
「あなた達は正しいですね」
「そう思うなら、なんでこんなことを続けてるんだ!!」
「なんででしょうか」
なんでだろうか?
どうでもいいよ、とても気分がいい。
気分がいいから、しょうがない。
「けど、なんだかとっても楽しいんです」
勇者の敵意に溢れる視線を受けて。
私は、ようやく満面の笑みを浮かべることができた。