聖剣を抜いた親友と、抜けなかった俺   作:雷神デス

2 / 17
なんか想定していたあらすじから大分それちゃったけど楽しかったので良し!
性癖に任せて書き続けた結果がこれだよ……()


その剣握るは誰のため

「……」

 

 

 俺は、何をしているんだろうか。

 あいつから逃げた後、故郷に帰ることもせず、それでいて何か行動を起こすわけでも無く、傭兵団に入り魔物を殺し金を得ていた。

 魔王討伐の旅に出た勇者は既に幾つもの戦果を出し、魔王討伐の切り札として世界から称えられる存在となっている。

 俺は強くなるために傭兵として増えていく魔物と戦い剣を磨き、団の中では最強と言われる程度には強くなっている。

 一度も負けたことは無いし、十四歳の若さで俺程に強かった奴はいなかったらしくそこそこ噂になる程には俺は強いらしい。

 団長からは稼ぎ頭として気に入られ、多分他の奴らからも強さは認めてもらっているだろう。

 それでも、俺の心は満たされなかった。

 

 今は魔物達との闘いの最前線となる砦で、国からの依頼を受け防衛戦に参加していた。

 何度も戦場に参加し何匹もの魔物を殺し、その報酬として団長から酒を貰い真昼間から酒を飲む。

 この異世界基準でも子供である俺の舌では酒の美味さなど感じることは出来なかったが、それでも酔っている間は全てを忘れることが出来た。

 だが、今日だけはどうにも酔うことが出来そうにも無かった。

 

 

「おい、聞いたか?この砦に千を超える魔物の軍隊が攻めてくるって話」

 

「ああ、畜生魔物共め。本気でここを落としにかかる気だな」

 

「何度も負け戦が続いてるだろうからあちらも必死なんだろうよ。ここが正念場だな」

 

「死ぬまでに一匹でも多く、魔物共をぶっ殺してやる!」

 

 

 もうすぐ魔物の大群が攻めてくる、それ自体はそれほど大した問題でもない。

 有象無象の魔物なんぞ幾ら来ようと負けはしない、俺一人が生き残るだけならとても簡単だ。

 問題は、この砦は魔王軍との戦争に重大な意味を持つ砦ということだ。もし落とされでもすれば本国が受ける被害は計り知れない。

 そしてここは既に何度も魔王軍の襲撃に合い、兵士達の数も少なく苦肉の策で雇い入れた俺達傭兵もあまり信頼はできないだろう。

 ならば、国の王が下す選択は一つだ。

 

 

「おい、魔物共が来たぞ!とっとと武器持って外に出ろ!」

 

「もう来たのか!?おいおい、あのでかい影はなんだ!」

 

「ドラゴンだ!でかいドラゴンがいるぞ!魔法を使える奴はドラゴンを殺せ!絶対にこの砦を守り切れ!」

 

 

 この先で起こる展開を確信しつつ、ゆっくりと剣も手にせず外に出る。

 もし俺が主人公であるならば、たった一人で魔物の軍勢を殺戮して称えられ、英雄としての第一歩を踏み出すかもしれない。

 それを出来る程度の力量はあり、空を飛ぶ巨大な竜を落とすなど今の俺ならば容易いだろう。

 だけど、そうはならないのだろう。

 

 

「ん?おい、なんだあの光は。砦の天辺で、何かが光ってるぞ!」

 

「あれは、剣だ!剣の形をした何かが光ってやがる!すげぇ綺麗だ……なんだありゃ」

 

「おい待てよ、ありゃもしかして!」

 

 

 どうやら、既に到着していたらしい国最強と謳われる四人の男女が光を背にして現れる。

 眩い光を放つ剣を天に掲げた勇者は、閉じていた目を開き告げる。

 

 

『聖剣よ。清浄なる光を以て、我らの敵を打ち払え』

 

 

 ―――聖剣が振り下ろされる

 

 たったそれだけの動作で、砦に迫っていた100mを超えるであろう巨大な竜達は光に飲まれ消滅する。

 骨すら残さぬその光が収まった後、残っていたのは10分の1にも満たぬ魔物達の残党のみ。

 暫くの間起こった事態に理解が追い付かない様子であった魔物達は、すぐに悲鳴を上げ逃げていく。

 

 

「勇者だ!勇者が助けに来てくれたんだ!」

 

「すげぇ、なんだありゃ!?一発であの大群を消し飛ばしやがった!」

 

「流石は、人類の希望!勇者と聖剣がある限り、人類の負けはねぇ!」

 

 

 その出鱈目な力を目にした傭兵や兵士達は次々に勇者を称え、崇める。

 しかし勇者はそれに興味も無いように踵を返し、小さく何かを告げると空間に門が出現する。

 どうやらもうお帰りのようだ、勇者というのも忙しいらしい。

 

 

「……ほんと、ふざけた力だ」

 

 

 聖剣に選ばれただけで、これほどの力を得れるならばなんともまあ不公平な話だ。

 努力や才能で辿り着ける領域などではない、神の御業のような絶対なる力。

 それは勇者というよりかは、まるで―――

 

 

「―――あ」

 

 

 勇者が、何かに気づいたかのようにどこかを見る。

 今まで何の感情も無かったような目に焦りの感情が浮かぶ、まるで何かを探すように視線を彷徨わせる。

 そしてその目がこちらを向く一瞬前に、俺はその場から消え去っていた。

 

 

 

 

☆〇☆〇☆

 

 

 

 

 砦から離れた森の中を死んだように歩く。

 改めて見た勇者の、聖剣の力が頭の中でこびりつき離れない。

 伝承でも知っていたはずだった、勇者の力はあらゆる魔法や剣技を超越する物であると。

 あんな魔物達などほんの数秒で片付けてしまうような、人類の枠組みを超えた何かであると。

 それでも、親友の姿を知っていた俺は考えてしまった。

 例え勇者であっても、本気で鍛えればいずれたどり着けるのではないかと。

 

 

「無理に決まってんだろ」

 

 

 幾ら筋肉を鍛えた所で、あの閃光を前には意味を成さない。

 幾ら魔法を覚えた所で、あの閃光を真似することはできない。

 幾ら剣技を磨いた所で、あの聖剣と打ち合えるような剣は存在しない。

 

 幾ら頑張っても、俺はあいつに敵わない。

 

 

「……」

 

 

 何故俺は、勇者などと張り合おうとしているのだろうか。

 所詮俺は前世の記憶を持っていて、多少剣に覚えがあるだけのクソガキだ。

 世界の希望たる勇者と競おうと思うことすら不敬な卑しい身分だ。

 それでもあいつに勝ちたいと思うのは、何故だろうか?

 分からない、俺が何故あいつを超えたいと思うのか、自分でも分からない。

 悔しさか?羨望か?怒りか?殺意か?

 

 俺は―――

 

 

「えーん、えーん」

 

「……子供が泣いている?いや、それにしては……」

 

 

 あまりにもその場に似つかわしくない音に、思考を止め周囲を見渡す。

 子供の声を真似て相手を混乱させるという卑怯な魔物も多い、俺も何度か戦ったことがある。

 しかし、これはあまりにもわざとらしすぎるし、声色も泣いているというよりかは笑っている。

 こんなものではむしろ不意打ちの機会を逃し自分の位置を知らせるだけだ、一体何のために?

 

 

「えーんえーん、悲しいですね」

 

「ッツ!?」

 

 

 いつの間にか俺の背後に立ち、俺の手を掴む小さい手を思わず振り払い、剣の柄に手を当てる。

 初めての経験だった、まったく気配を感じなかった。

 生物は大なり小なり何らかの気配を示すものだ、例え気配を薄めようと、生物として最低限生きている者が放つ気のようなものは出すはずだ。

 しかし俺の背後を取った何者かは音も気配もほぼ完全に消し、こうして触られるまで一切俺が知覚できずにいた。

 一体どれほどの達人なのだと声がした方を見ると。

 

 

「いたっ!?ちょっと、弱小貧弱雑魚魔物の私に力を加えるなんてひどいじゃないですか!思わず転んでしまいましたよ、いたた」

 

「……魔物?」

 

「はい、魔物ですよ~。と言ってもほんとに弱っちい、ありんこにすら負けちゃうような強さしかないですけどね!」

 

 

 どれほどの存在かと思えば、目の前にいる自称魔族からは一切の危険さを感じなかった。

 子供のような身長、病人のように青白い肌、ボロボロのフード。

 雄々しく強い雄の魔物とは似ても付かぬ、儚げな少女のような格好。

 魔物と相対した時に感じる威圧や魔力、肌がぴりつくような敵意などは感じられず、人形みたいに壊れやすそうな印象だった。

 

 

「魔物がこんなところで何を泣いている」

 

「あなたの事を思って悲しんでいたんですよ。なんて可哀そうなんだ、と」

 

「喧嘩を売っているのか?それとも、自殺しに来たのか?」

 

「いえ、死ぬのは痛いし怖いし勘弁です。ただ、あなたと私は似ていると思ったんですよ。それであなたに同情して泣いてしまったんです」

 

「ふざけるな、俺は魔物等ではない。あまり変なことを言っていると、この場で叩き切るぞ!」

 

「種族のことなんかじゃないですよ。それに、私にとって同じ種族の奴らなんて皆、私とはまるっきり違う別の生物です。私は特別、オンリーワンです。悪い意味で、ですけどね」

 

「つまり、他の奴らに比べても特別弱いと?」

 

「そうそう。けど闘いの強さに関してはあなたと私じゃ正反対ですね。だってあなたは、人間の中でも特別強い。いずれ勇者さえも超えかねないほどに」

 

「ほざけ。鍛えた程度で届くのであれば、俺は今頃こんなところに来ちゃいない。幾ら鍛えた所で無駄なのさ」

 

 

 かつて幾人もの剣豪、賢者、英雄が歴史に名を記したが、その中のただ一人とて聖剣を持った勇者に勝てはしない。

 憶測ではなく歴史が証明している。魔王が現れる度に勇者は現れ、そしてその度に勇者ではなく自分が魔王を倒そうとする人間が現れた。

 それらは当たり前のように魔王に傷一つすら与えられず死んでいった。

 聖剣を持つ勇者にしか魔王が倒せない理由は魔力だ。

 魔王にはどんな攻撃であろうと防ぐ最強の盾にして全てを滅ぼす鉾、滅びの魔力を鎧として纏っている。

 そして聖剣は、その滅びの魔力を正面から吹き飛ばす程の聖なる力を小さな刀身に蓄えている。

 当然魔王の魔力すら打ち破る聖剣の力に対応できる人間などいない。

 故に、今も昔もこれからも、人類最強は勇者であり、それらは決して不変であろうと言われていた。

 だから今更俺が努力したところで、あいつには勝てない。

 

 

「そうですか?けどその割には顔が歪んでる。今でもまだ、人類最強の勇者様に勝ちたいと思ってるんじゃないですか?」

 

「……」

 

「ほら、また揺れ動いてる。あなたは届かないはずのものに手を伸ばしたいのでしょう?分かりますよ」

 

「お前に何が分かるって言うんだ!」

 

 

 頭に血が上り胸倉を掴み、苦しそうにしながらも笑みを浮かべる魔物を睨む。

 俺の心を見透かしているかのような態度のこいつに腹が立ち、無抵抗なのを良いことに斬り殺そうかと考えて。

 

 

 

「怖いんですよね、必要とされなくなるのが」

 

 

 

 頭が、真っ白になる。

 反論を出そうと口を開けても、そこから言葉は出てこない。

 

 

「誰からも必要とされず、意味のない人生を送るのが怖いのでしょう?」

 

「何を、言っている」

 

「私はずっとあなたに目をつけてました。あなたが旅をしている途中に見かけたあなたとあなたの友人のことを、ずっと見ていました。勇者になれなかった、選ばれなかった者、体と技は至高の領域に達しているというのに、心はこの世界の誰よりも弱いあなたのことを」

 

 

 ニコニコとほほ笑む目の前の少女に、思わず掴んでいた胸倉を離す。

 彼女は小さく咳き込み、苦しさで滲んだ涙を拭い取って言葉を続ける。

 

 

「分かりますよ、分かりますとも。孤独は怖いですよね?ましてやここはあなたの価値観が通じない未知の世界、一人ぼっちで進む暗がりほど怖いものなんてありません」

 

「お前は、どこまで知って……」

 

「私とあなたは同類であると同時に同郷です。私も前世を持つ、あなたと同じ転生者。違いは魔物に転生したことと、魔物なのに人間よりも弱い体と才能を持ってしまったこと」

 

「俺と、同じ?」

 

「はい、あなたと同じですよ。弱いが故に誰とも一緒にいられなかったあぶれ者。誰からも必要とされない一人ぼっち」

 

 

 少女は俺に近づき、ぎゅっ、と小さい体で抱きついてくる。

 しかしその肌からは熱を感じられず、少しでも触ってしまえば壊れてしまいそうな、氷のような冷たさだった

 

 

「あなたも薄々感じていたでしょう?この世界の人たちは強さを尊び、弱きに目を向けることは無い。今あなたの周囲に誰も仲間がいないのは、あなたが弱いから。どこにもあなたの居場所は無く、あったと思っても薄氷のように罅割れ壊れていく。あなたの村の子供達も、あなたの親友のあの人も、あなたの今いる傭兵団も。皆強いあなたを求めてる。弱いあなたは求めていない」

 

 

 苦い思い出が脳裏の浮かぶ。

 子供の頃は強いからと皆から慕われ、大人からも褒められて、皆俺と遊びたいと、助けてほしいと言ってくれて。

 自分でもこの世界では誰かのためになれるのだと、そう思っていた。

 

 けれど、ある日現れたちっぽけな弱い魔物に、それらすべては壊された。

 子供達と一緒に遊んでいる時に現れたそいつに、俺は怖くて腰抜かして、一目散に逃げ出して。

 大人を連れてきたときには、すでにそいつは他の子どもの手によって殺されていて。

 殺した奴はヒーロー扱い、俺は臆病者として誰からも構われなくなって。

 その時に、俺は故郷の村での居場所を失った。

 

 その後に出会った、俺と同じような一人ぼっちのあいつ。

 話しかけたらとても嬉しそうに笑うあいつに、俺は救われた気がしたんだ。

 

 

「だから自分の力を褒めてくれるあの人と一緒にいたのでしょう?自分が必要とされていることが嬉しくて、役割があるのが嬉しくて」

 

「……俺、は」

 

「けどあの人は勇者であり、あなたの助けなんて必要なかった。あなたがいなくても生きていける、あなたの居た場所には既に他の人が居座っていますね。今いる場所とて、あなたが本当は臆病だと知れば、きっと離れて行きますよ。だって危険を前に逃げてしまうような奴に背中なんて預けられません。そして捨てられた後も、あなたはまた同じようなことを繰り返すのでしょうね」

 

「やめろ……やめてくれ」

 

「ほら、現実から目を背けるような弱い人、誰からも必要とされませんよ?頑張れ頑張れ!ここで立って私を殺して、また傭兵団で頑張りましょう!大丈夫、彼らと同じようにすればあなたは捨てられませんよ!命の危機があっても怯えず逃げず剣を取り、負け戦だと分かっていても文句ひとつ言わずに命を捧げましょう!そうすればきっと、あなたが死んだあと仲間はあなたのことを覚えていてくれますよ!」

 

「できない……そんなこと、できるわけが無い……」

 

「けどできなければ誰からも覚えられません。誰からも大切な人だと思われません。誰からも必要とされません。―――それでもいいのですか?」

 

「いいわけ無いだろぉが!!」

 

 

 最後の一言で、せき止めていた心の枷が外れてしまう。少女の抱擁を振り払い叫ぶ。

 出しちゃいけないと分かっていた、ずっと心の奥底で眠らせていたそれが吐き出される。

 

 

「けどどうしろって言うんだよ!死ぬのが怖いなんて当たり前だろ!?なんで皆揃いも揃って命賭けられるんだよ馬鹿じゃねぇのか!死ぬのは怖いんだよ、目の前が真っ黒になって何にも無くなって、自分が消えて行く感覚なんてもう二度と味わいたくないくらいに怖いんだ!幾ら力が強くても、自分を殺せるかもしれない奴になんで平気で立ち向かえる!!」

 

 

 俺はこの世界で一度だって、一人命を懸けた闘いなんてしたことは無かった。

 初めて魔物を倒した時だって、ガタガタ震えてみっともなく戦って、結果的には傷一つつかずに倒せたのに、肉を抉る感覚が忘れられずにいて。

 それでも、ルストと一緒なら震えも止まって守らなくちゃってなって、俺もあいつに助けられながら旅をして自信をつけることもできて。

 ようやく聖剣の元に辿り着いて、これからも一緒に助け合いながら魔王を倒して伝説になるんだと思って。

 そして、俺は聖剣には選ばれず、あいつが聖剣に選ばれた。

 

 

「ようやく俺がすべき役割を見つけられたと思った!主人公みたいに活躍できると思ってた!守るべき存在が出来て、夢が叶って!憧れてた何かになれると、こんなに苦しい思いしてきたんだから報われると思ってたんだよ!聖剣を抜いて、魔王を倒して、皆から認められて……!なのに、全部全部全部、俺が欲しかった声は全部あいつに向けられてる!!」

 

 

 あいつが知識で俺を助けて、俺はあいつを力で助ける。

 そんな関係が、一緒になんでもできるような関係が、ずっとずっと続くと思ってた。

 勇者になってからも関係は変わらず、魔王との闘いであいつに助けてもらって魔王を倒して、一緒に皆に称えられて。

 

 

「あいつが力まで身に着けたら、俺は何をすればいいんだ?俺にあってあいつに無かった物は、他に何があるんだ……?」

 

 

 前世でもそうだった、俺は何にも出来なかった。

 皆俺の手助けなんて必要無くて、俺だけ皆から助けてもらって、いずれ呆れられ嫌悪され何もできずに忘れ去られ。

 この世界でようやく皆にはないものを見つけて、そしてその役目さえ奪われて。

 

 

「俺は一体、どうすればいいんだ?」

 

「では、私に乗り換えません?」

 

 

 彼女の小さい手が俺の手を優しく包む。

 少し叩けば壊れてしまうような硝子のような―――いや、真実硝子のような手に包まれ、俺は思わずビクリと震える。

 魔法で隠されていた肌が露わになり、魔物の真の姿が露わになる。

 水晶で出来た身体、光を反射する髪、虹色の瞳。

 おおよそ人間とも魔物ともかけ離れた透明色の少女は、これまで見たあらゆる全てよりも美しかった。

 

 

「私の名はソフィート。魔王の第十二子であり、滅びの魔力を宿せぬ、魔力を拒絶する身体に産まれた出来損ないの娘」

 

「魔王の……娘?」

 

「ええ、これでもあなたよりずっと年上ですよ?ですけど、見ての通り私の身体は脆い。魔法には絶対なる耐性を持ってる代わりに、転べば罅が入る程に」

 

 

 そう言いながら、背中を見せる。そこには僅かながら小さな罅が痛々しく残っている。

 それが最初に転んだ時のものであることはすぐに察しがついた。

 

 

「こんな体で更に魔力も使えませんので、私はどんな奴にも勝てません。箸より重いものなんて持てませんし、多分小動物にも負けます。ほら、ほら」

 

 

 彼女はニコリとほほ笑むと。

 

 

「あなたが求めてた、理想の守られ系ヒロインですよ?」

 

「―――」

 

 

 それは、きっと俺が求めていたものなのだろう。

 結局のところ、俺はきっと彼女のような存在を求めていたのだ。

 都合よく自分に守られ、笑いかけ、そして自分を求めてくれる存在を。

 

 

「私にはやりたいことがあります。けれどそれを私がやり遂げるにはあまりにも困難で、誰かの助けが必要になります」

 

 

 その言葉は甘い蜜のように心を溶かす。

 

 

「魔物は強い者に従い、私のような弱者には見向きもしません。人間は魔物である私を殺そうとするでしょう。私を助けてくれるかもしれない存在は、『あなたしかいないんです』」

 

 

 この魔物に、ソフィートに従うということは人間を裏切るということだ。

 それはかつて自分が目指した勇者というものにはあまりにも遠い行為だ、だけど。

 

 

「あなたが私を助けてくれるのであれば、私はあなたに居場所を。そして、聖剣を打ち破るための力を預けます」

 

「聖剣を打ち破る、力?」

 

「勇者に勝ちたくありませんか?最強になりたくはありませんか?自身の存在意義を取り戻したくはないのですか?」

 

「……」

 

「であれば、私に仕えてください。私を助け、そして私に導かれてください。あなたはただ戦うだけでいい。難しいことなんて考えなくていい。ただ私のために剣を振るえばそれでいい」

 

「俺の剣が……あなたの役に立つのか?」

 

「いいえ。あなたが私の剣になるんです。もし私に仕える気があるのであれば、私の欠片を飲みなさい。そしてあなたは今日よりこう名乗るのです。人間エンヴァではなく、勇者の親友エンヴァでもなく。私に、魔王の娘に仕える魔剣士エンヴァと」

 

 

 魔物の身体を食べてしまうと、その人間は魔物になってしまう。

 古いおとぎ話の話であり、実際に魔物になることは無い、ただの言い伝え。

 魔物の肉は美味しくなく、腹を壊すからと先人が子供に食べさせなくするために作ったただの創作。

 けれど、彼女が文字通り身を削って出したであろうその欠片を飲めば、俺はきっと本当に人間ではなくなるのだろう。

 身体は人間であろうと、心は人間を裏切り堕ちた魔物となるのであろう。

 

 それでも答えは決まっていた。

 彼女の―――自身を必要としてくれた魔物の姫に傅き、答える。

 

 

「誓おう。俺はあなたの剣になろう。あなたが俺を必要としてくれる限り、俺はあなたのものだ」

 

「ならば私も誓いましょう。あなたが私を助ける限り、私はあなたの居場所であり続けると」

 

 

 少女の口が怪しく歪み、三日月のように吊り上がる。それを見て尚、俺はこの方の傍にいたいと思ってしまった。

 ルストに勝つため、そして己の居場所を得るために。

 

 俺はその日から、世界のためではなく彼女のために剣を握ることを誓った。

 

 

 




主人公の心情とか考えている内に性癖詰め込んだキャラ登場させてしまった経験ありませんか?
私は今初めて体験しました。代償は投稿が遅くなってしまったことです()
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。