多分前回に続きこの話も賛否両論、けど書いててマジで楽しかったです
私の性癖やっぱ歪んでるのかしら?
『ああ、なんておぞましい。私達の子供が、災厄を引き起こすとされる忌子だなんて!』
『だが、忌子は高く売れる。こいつが大きくなった時に売ることができれば、俺達は一生金に困らない』
私は売られるために育てられたらしい。
五歳になったときから親が何もくれなくなったので、自分で食べ物を探しに行っていた。
虫やキノコは不味くて、何度もお腹を壊して死にたくなった。魔物は不味いけど、一杯食べられたから好きだった。
『あれは忌子だから、近づいちゃダメよ?周囲に災厄をもたらすとされる呪いの印を持っているの』
『忌子め、俺達の子供に近づくんじゃねぇ!次話しかけに来たらその程度じゃ済まさねぇぞ!』
楽しそうに遊んでいる子達が羨ましくて、ぼくも入れてよと話しかけたら気味悪がられて駆けつけてきた大人達に棒で叩かれた。
何度も何度も叩かれて、血だらけになって逃げだした。
自分を殺そうとするあの目が怖くて、けど皆が羨ましくて眩しくて。
話しかけることも近づくことも出来ずに、皆が遊んでいる広場の片隅で座ってた。
『な、なぁ!お、おま、お前も一人なのか!?』
『え……?』
急に話しかけてきたあの人は、とても変な子だった。
魔物が現れた時、他の子は皆怯えて何もできなかったのに、一人だけすぐに大人を呼びに行くって言って行動した。
結局その時は私が一人で魔物を倒したけど、私と違って誰かを頼れて皆を守るために何かをできる凄い人だと思った。
けど、その日からその子が誰かと遊んでいるのを見たことが無かった。
その子はとても緊張している様子で、私に話しかけてきた。
喋り方がおかしくて、少し笑ってしまったらその子は顔を真っ赤にした。
『……ふふっ!』
『な、なに笑ってんだよ!?』
『えと、ごめん。けど、私と喋らない方がいいよ?私は……忌子だから。私と関わったら、君も嫌われるよ?』
自分でも、忌子が何なのか分からなかった。
けど、私が皆に叩かれたりする原因はそれのせいで、私と関わると皆不幸な目に合うって言われてることだけは知っていた。
だから、私が忌子だと知ってその子もすぐに離れて行くと思ってた。
『忌子?なんか知らないけど、お前何か悪いことしたのか?』
『え……?』
『人から嫌われるような悪いことしないと、誰かに嫌われるようなこと無いだろ?』
『……』
何か悪いことをしたか、と聞かれて私はどう答えようか迷った。
親には存在自体が罪だと言われて、大人達には子供に近付くなと言われて、動物や魔物を殺して食べた。
皆から気味悪がられて、どうにもできないからそれを受け入れてた。
けど、私は悪いことをしてただろうか?
『何もしてないなら、そんな渾名どうでもいいだろ。自分が悪いことしてないって思うなら胸張れって!それにこの村の奴ら嫌な奴ばっかだから、遊んでて楽しくねぇんだよな!』
『え……?あの、けど』
『遊び方知らねぇの?なら俺が教えてやるよ!とりあえず名前教えろよ!俺の名前はエンヴァな!人から羨望されるような人間になるように、って意味でつけられたんだってよ。お前は?』
『……忌子ってしか呼ばれてないから、名前分かんない』
『はぁ?』
親からはずっと忌子とだけ呼ばれて、他の人から名前なんて聞かれたこと無かったから、名前を答えることが出来なかった。
それに、誰かの名前なんて初めて聞くのも初めてで。
たった数分で、色んな初めてを体験した。
『なんだそりゃ、呼びづらいじゃねぇか。……あー、それじゃお前の名前が分かるまで、仮の名前でもつけておくか?』
『仮の名前?』
『まー、そうだなぁ。どうせ親に聞けば本当の名前分かるし、ルストとか?特に意味ある名前でもないけど』
『……ルスト』
何度もその名前を繰り返し呼んで、嬉しくて思わず口角が上がってしまう。
親からは気持ち悪いからやるなと言われた笑い方をしてしまったけど、その子、エンヴァ君はそんな僕を見て同じように笑った。
『なんだ、お前俺と同じような気持ち悪い笑い方してるな。やっぱお前俺と同類だな!同じぼっちだし!』
『ルスト、エンヴァ……。ルスト、エンヴァ……ふふっ』
『いつまで笑ってんだよ、日が暮れちまうぜ?ほら、俺友達出来たらやりたかった遊びあるんだよ!缶蹴りって言ってな?』
『うん!うん!同類……友達……ふふふっ!』
『おかしな奴だな~』
ずっと一人だと思っていた私に、初めて仲間が、友達が出来た。
世界で一人だけだと思っていたのに、私は初めて他の人を見つけることが出来た。
彼にはなんてことなかったかもしれないけど、私にはそれがどんなことよりも嬉しかった。
初めて、自分が自分であってよかったなんて思えた。
それからずっと、私とエンヴァ君は毎日のように一緒に遊んだ。
一緒に川魚を釣ったりしたし、エンヴァ君が考えた面白い遊びは毎日のようにやってても飽きなかった。
あと今になって思えばすごくやらかした思い出もあった。
『そういえば、お前って男と女どっち?胸が小さくてちょっと分からん』
『……?エンヴァ君ってどっちなの?』
『え、なんでそこで俺に聞くの?いやまあ男だけど』
『それじゃあ、私はエンヴァ君と仲間だから男だね!』
『お、おう?それじゃあ、お前のその喋り方変えた方がいいんじゃねぇの?』
『え、なんで?』
『男なのに私なんてしゃべり方、オカマっぽいしさ。僕とかにした方がいいんじゃねぇの?まあオカマは強キャラ説あるしそのままでいいかもしれないけどな』
『なら、俺にするよ!エンヴァ君と同じ喋り方だしさ!』
『それだとなんか分かりづらいし、僕にしとけ僕に!』
『え~?』
後から知ったことだけど、僕は女の子だったらしい。エンヴァ君の両親に性別に関して教えてもらったときは顔から火が出る程恥ずかしかった。
結局エンヴァ君にそのことを伝えられなかったけど、彼が自分と同じだと思ってくれるのが嬉しかったからそのままにしておいた。
エンヴァ君の両親は厳しいけど優しい人で、エンヴァ君はよく口うるさいって言ってるけど、エンヴァ君のためを思って叱ってくれてるのが傍目から見てもよく分かった。
それに、僕のことを忌子として見ずにルストとして見てくれた。とても居心地が良かった。
僕がエンヴァ君の家族になれた気がした。
『こら、エンヴァ!ルストちゃんみたいに行儀よく食べなさい、みっともないわよ!』
『うるせぇなぁ、食べ方くらい自由でいいじゃん!』
『ルストちゃんなんてたった数日でスプーンの持ち方覚えたってのにあんたは!ほら、ちゃんと食べれたらおやつにワッフル作ってあげるから』
『ほんとか!?よっしゃ、見とけよぉ!』
『ハハハ、騒がしくてすまないねぇルストちゃん』
『い、いえ!……むしろ、とても楽しいです!』
料理を教えてもらったり、片付けのやり方や礼儀作法、薬草の見分け方、色んなものを一緒に勉強した。
本当に、本当に楽しい日々だったんだ。
『ルストちゃん、エンヴァは色々とそそっかしい子だから、支えてあげてね?』
『ルストちゃんみたいな子がいれば、エンヴァも安心だ!』
『―――はい!エンヴァ君とは、ずっと友達で仲間です!』
十三歳になる時に、親が奴隷商人と話をしているのを聞くまでは。
『ふむ、十三の忌子、それも女ですか。容姿に関しても申し分なし。素晴らしい、これなら金貨三百枚は固いですな!』
『おお、そんなに高値で!今まで育ててきた甲斐があったというもの。それで、引き渡しは何時に?』
『三日後に街からの使いが来ます、そこで受け渡しを―――』
両親が僕を愛してくれる日が来るんじゃないかと希望を抱いていた。
エンヴァ君のお父さんやお母さんを見て、あの人たちもいつか、私のことを愛してくれるんじゃないかと勝手に信じて。
それを裏切られた気がした。
気が付けば、周りには両親だったものが転がってた。
家は血みどろで、血がついていない場所なんかなかったはずなのに、私の手は汚れていなかった。
両親の死体はとても人間がやったような殺し方ではなく、魔物でもこんなことはしないというくらいぐちゃぐちゃになっていた。
その時私は初めて、忌子の意味を理解した。
親を殺したというのに、私は悲しいとも思えずに淡々と死体を森に投げ入れた。
その後家の中を漁って、使えそうなものを持って家から出た。
家の中には一枚のメモが、恐らくは自分が生まれる前につけるはずだった名前が書かれた紙が親だった奴らの部屋から見つかった。
僕はその紙をすぐに破いて窓から捨てた。
それから僕はフラフラといつもエンヴァ君と遊んでいた川に向かった。
真夜中だったので当然エンヴァ君はいない、それでもそこにいればほんの少しだけ落ち着くことが出来た。
今でも手が自分の両親を殺した時の感触を覚えている。
これからどうするか、ぼんやりと考えながら座っていた、その時だった。
ガサリと森の方から音がして、魔物が唸り声を上げながら現れた。
僕に対して尋常じゃない殺意を向けていて、以前広場に現れて、私が殺した奴と似ているな、となんとなしに思った。
殺意を向ける魔物に対し、それでも私は動くこともせず、それを受け入れようとした。
私みたいな奴にはお似合いの末路だと、そう思って。
『ル、ルストから離れろテメ―!』
誰よりも見知った、誰よりも大事な人の声が、エンヴァ君の声が聞こえた。
エンヴァ君はガタガタと震えて、目尻に涙を溜めながらも長い棒を持って魔物と対峙していた。
子供が魔物と戦うにはあまりにも貧弱なその棒切れで、エンヴァ君は襲い掛かってくる魔物と戦った。
僕ならすぐ殺せただろう、エンヴァ君が戦う必要なんてなかったはずだ。
けれど。
『か、勝った……?勝った、勝ったぞぉ!ワハハ、どうだルスト!これがエンヴァ様の実力だぁ!』
エンヴァ君が震えて怯えながらも、必死に誰かを、僕を守るために戦っているのを見て。
おとぎ話に出てくるような剣技で、魔物にトドメを刺しているのを見て。
どうしようもなくそれが輝いているように、おとぎ話の主人公のように見えてしまった。
自分のためにしか誰かを殺せず、誰かを守るために戦ったことも無い僕にはその光景がとても眩しく見えた。見えてしまった。
僕に希望なんて、輝きなんて無いのに。
『……すごいね、エンヴァ君。僕には、こんなの出来ないや』
『だ、だろ!?そうだろ!やっぱ俺って才能あるよな!』
エンヴァ君は初めて倒した魔物に一通り喜んだ後、ガサゴソと鞄から何かの本を出した。
その本は勇者の聖剣について書かれた本で、いつもエンヴァ君が読んでいた、有名なおとぎ話だった。
僕はあんまり好きな話じゃないのに、エンヴァ君はこの本が好きだった。
『な、なぁ。俺、勇者になれるって思ってるとか言ったら、笑うか?』
『……ううん、笑わないよ』
『そ、そっか!実はよ、俺お前を誘いに来たんだ!一緒に王都に行かないか!?』
『王都に?』
『おう!俺は聖剣を抜くのに挑戦してみてぇんだ!だから親にそれ言ってみたんだけど、絶対行くな、お前にゃ無理だとか言われたんだぜ!?酷いよな、まったく!だから、俺母さんと父さんに内緒で行こうと思ってるんだ!そんで勇者になって帰ってきて、あの二人を驚かせてやるんだよ!』
『……』
故郷の村から王都に行くまでの道はとても険しく、馬車も転移魔法も使えないような人達が行けるような場所ではない。
村を出て街に行くのすら危険だというのに、子供を連れて行けるような旅ではないだろう。
もし辿り着けたとしても、聖剣を抜けなければ徒労になるし、自分の大切な子供をそんな危険な旅に出したくないのは当然のことだ。
ましてや、十三歳の子供二人で辿り着ける可能性は果たしてどれほどのものか。
エンヴァ君のためを思うなら、断るべきだったのだろう。けれど。
エンヴァ君の希望に満ちた、年相応の笑顔を見て、私はこう答えてしまった。
『……エンヴァ君なら、きっとできるよ』
『だよな!?よっしゃ、自信出てきたぜ!』
エンヴァ君の親を裏切ることであると知りながらも、僕は彼の言うことを肯定した。
死ぬことだってあり得るのに、聖剣を引き抜けなければ無意味な旅になると分かっているはずなのに。
僕が彼を止めなければならないと分かっているのに、私はそれをしなかった。
『けど、僕は忌子だよ?きっと他の街に行ったって、僕と一緒だと苦労しちゃうかもしれない』
『なんだ、まだそんなこと言ってるのかよ!勇者の仲間かつ親友になりゃ、そんな変な肩書無くなるって、安心しろって!それに、もし旅の途中でそんなこと言う奴がいたら俺がぶん殴ってやる!なんせ俺は強いからな!それに―――』
『俺とお前が揃えば、どんな困難だって打ち破れるだろ!』
自信満々に、まるで当然のようにそう言う希望に満ちた笑顔のエンヴァ君。
その自信は、その希望は、王都に着いた時に打ち砕かれた。
僕はいつも後悔する。
なんであの時、僕はエンヴァ君を止めなかったのか。
きっと彼を止めれば、あんなことにはならなかったはずだ。彼は誰かに肯定されないと自信を持てない人だった。
だから、僕がそれは無理だと言えば、簡単に諦めてくれただろう。それでも僕はそれをしなかった。
彼が勇者になった姿を見たかったから?
彼と一緒に旅をしたかったから?
両親を殺してしまって、村から逃げ出したかったから?
「違うだろう?」
エンヴァ君が聖剣を抜こうとしている光景が見える。
幾ら頑張ろうと抜けず、希望を打ち砕かれた姿を一番近くで見ている誰かがいる。
口だけでは心配しつつも、その内心で歓喜していたおぞましい何かがいる。
希望が砕かれた彼の姿を見て、かつて親に裏切られた姿を重ねてしまった誰かがいる。
悲しんでいるふりして口を押えている私がいる。
嬉しさを抑えきれない、親に気持ち悪いと言われた笑みを隠している私がいる。
悲しみではなく、嬉しさの涙を流している私がいる。
「お前が後悔してるのは、止めなかったことじゃないだろ?」
ああ、そうだ。私はこうなることを望んでいた。
だって、あの時私とあなたは同じじゃなかった。
私は希望を失って、あなたには希望があって。
私にはあなた以外いなくて、あなたには私以外があって。
だって、それじゃあ、あなたがそんなに輝いていたままじゃ。
「ああ、気持ち悪い」
私とあなたが、同じじゃなくなるでしょう?
私とあなたが、友達じゃなくなるでしょう?
あなたが友達になってくれた僕は、あなたと同じだから。
あなたが同類だと言ってくれた私は、あなたと同じだったから。
それなら、同じことを経験しないと。私だけじゃズルいでしょ?あなただけじゃズルいでしょ?
私が希望を無くしたように、あなたも希望を無くさないと。
私にはあなたしかいないように、あなたには私しかいなくならなきゃ。
大丈夫だよ、大丈夫。あなたが希望を無くしても、私があなたにしてもらったようにちゃんと救ってあげるから。
君が生きる意味をくれたように、僕も君に生きる意味をあげるから。
ずっと二人でなんとかなるって、この旅で分かったでしょう?
あなたと私が揃えばどんな物だって乗り越えられるって分かったでしょう?
勇者なんかならなくていい、私と一緒にいてくれるだけでいい。
他の人なんて知らない、誰に馬鹿にされたって、あなたが私を褒めて、私があなたが褒めてればいい。
私とあなた以外にこの世界で仲間はいらない、友達はいらない。
名誉なんていらない、他人からの評価なんかいらない、勇者なんていらない、聖剣なんていらない。
あなたと私が一緒に買った偽物で十分だから、本物の聖剣なんていらないでしょう?
君と僕はずっと一緒、ずっと友達、ずっと似た者同士。
ああ、私達はようやく、同じになれた!
はずだったのに
『話しかけてくんなよ、主人公』
主人公って、何?
『勇者様と田舎のガキでか?馬鹿言うなよ』
僕と君は、同じだよ?
『聖剣を抜いた勇者様と、棒切れ持っただけのガキンチョが戦えば、どっちが勝つかなんて誰でも分かるだろ?』
やめてよ、僕と君が違うようなこと言うの、やめてよ
『じゃあな、ルスト。俺はもう』
やめてやめてやめてやめてやめて
『お前を親友とは思わない』
その言葉だけは、言わないで
「勇者様!」
ハッ、と目を開き、僕を覗き込んでいる傷一つない綺麗な顔をした、プリプリと怒る少女―――エルフの魔導士リージェは、馬車の中でうたた寝していた僕を覗き込んでいた。
そんなリージェの様子に苦笑している人間の騎士ジャスティと、やれやれと肩を竦めながら食事を取っている竜人の拳闘士イヤル。
勇者になった時からずっと共に戦ってきたこの三人と共に、僕は魔物の大群が発生したと報告を受けた廃村に向かっていた。
「まったく、いけませんよ?勇者様とあろうものが、目的地に向かう途中で寝てしまうなんて」
「……ああ、うん。ごめんごめん。懐かしい夢を、見てたんだ」
「夢を見るのはいいが、襲撃に遭った時はちゃんと起きてくれよ?あんたは俺らの最高戦力なんだからな」
「分かってるさ。迷惑をかけてごめんね?」
「こら二人とも。勇者様は連日の戦闘で疲れているのだ。こんな時くらい身体を休めていても良いだろう。勇者様、見張りは我らにお任せを。あなたは身体をお休めになってください」
「……そうも言ってられないさ。丁度寝起きの相手には良さそうな奴らが来てるみたいだしさ」
馬車の外から感じる魔物の気配に三人も遅れて気づき、それぞれが武器を構える。
いつものような雑魚とは違う、強力な魔力を持った気配。
その魔物は馬車に向け赤黒い魔力の塊を放つが、その程度でやられるほどこの三人は弱くない。
攻撃はリージェの作った障壁に難なく防がれ、すぐに皆が反撃に転じる。
「皆さん、私が攻撃を防ぎます!皆さんは攻撃を!」
「今回は結構骨のある奴だ、気をつけろよ!」
「この魔力……まさかとは思うが、滅びの魔力か?」
「それって魔王のやつ?けど、それにしては弱いけど」
「滅びの魔力は魔王の血を持つ子にも受け継がれると言います。恐らくはその類かと。ですが、この程度であれば勇者様の聖剣も必要無いでしょう。我らだけで十分です」
「そっか。滅びの魔力を見るのは初めてだしね。僕がすぐ決着つけちゃうと何も分からないから、暫くは皆に任せるね。三分経ったら僕が出る」
「了解しました。では、行ってまいります!」
私が戦うとすぐに決着をつけてしまうので、馬車の屋根に飛び乗って空を飛ぶ魔物の姿を観察する。
魔物は荒い息で赤黒い魔力を纏っているが、奇妙なことに既にかなり消耗しているようであり、その表情から余裕の無さを伺えた。
「問おう!貴様らは聖剣を持つ勇者の一行か!?」
「……うん、一応そういうことになってるよ」
「我が名はマモン!魔王の第四子に産まれた、滅びの魔力を持つ者なり!勇者よ、お前に勝負を挑む!」
「魔王の息子が、なんでこんなところで僕らを襲うのさ。それに、随分と余裕がないようだけど何があったのかな?」
「黙れ!我は貴様を殺し、戦果を挙げなければいけぬのだ!!」
滅びの魔力が形を成し、数十を超える魔力の槍となりその場にいた全員を襲う。
地面に命中した槍は爆発し、クレーターを作る程の威力を持つ、そんな攻撃をこれ程の規模でできる時点でこの魔物は強いのだろう。
こいつ一匹街に放り込めばものの数分で壊滅させられる程の危険度だ、しかし。
「弱っちいなぁおい!」
「なっ……!?」
イヤルが飛び上がり、魔力を纏う拳の連打を放ったことにより大量の槍が消え去る。
魔力を身体に纏わせやすい特性を持つ竜人だからこそできる、超スピードと超パワーの単純なごり押し。
それでも普段であればそのまま本体を仕留めるイヤルが舌打ちしながら迫りくる槍を躱しているあたり、やはり滅びの魔力とやらは一筋縄ではいかないのだろう。
「おいジャスティ、あの魔力は面倒だぜ。鎧とか貫通して空間ごと消滅させるみてぇだ、当たればただじゃ済まねぇ」
「問題は無い。魔力を纏わせた拳で打ち砕ける程度であれば、私の盾で防げる」
「んじゃ、時間はかけちまうがなんとかなりそうだな。……ま、今回は諦めるとするかね」
しかし、その程度の強敵であれば何度も潜り抜けてきた猛者たちだ。
一対一ならともかく、三人が力を合わせて戦えばマモンに負けることはまずないだろう、それ程までに力量の差がはっきりしている。
本気でこちらを倒すつもりであれば夜まで待って夜襲なり、誰か一人になった時を狙う等の手段が必要だったのだろう。
「……何を焦ってるんだろ?」
マモンはまるで何かに怯えるように、一心不乱に私達に向け無造作に魔力を放つ。
勿論それだけでもかなり脅威となるが、他にも色々と手段があるはずなのに正面から勝負を挑んできた理由が分からない。
何かそうせざる得ない理由があったのか……?
「ふん縛って聞いてみるかな」
時間になったので、剣を抜いて立ち上がる。
それに気づいた三人が武器を下ろし、巻き込まれないようにすぐにその場から離れる。
「あーあ、タイムアップかよ」
「しょうがないですよ。こんなところで消耗するわけにもいきませんから」
「鍛錬不足か。不甲斐ない」
魔王の息子、マモンは輝く聖剣を見て冷や汗を流しながらも退く気配は無い。
普通ならこの時点で怯えたりするものだけど……何かそれ以上の恐怖で抑圧されている?
だとしたら、一体どんな奴が魔王の息子に恐怖を与えている?
「う……うおおおおおおお!!」
「叫ばなくていいよ。もう終わってる」
「……は?」
剣を鞘に入れ、翼がもがれ地面に落ちたマモンに近付く。
暫くの間茫然としていたマモンだが、自分の状況に気づき絶叫しながら、全力であろう魔法を唱えるため詠唱を始めた。
「魔物はこういうところが楽でいいね。ちょっとやそっとじゃ死なないから、多少乱暴に扱っても良い」
だがその詠唱は僕に頭を蹴られたことで強制的に中断され、逃げようと足掻くマモンの頭を踏みつけ固定する。
「それじゃ、教えてもらえるかな?君が何故こんなことをしたのか、そして君の後ろにいる何かは誰なのかを」
マモンは暫くの間足掻き続けるが、無駄だと分かったのか歯ぎしりをしながら負の感情をありったけぶち込んだような声色で話す。
「おのれ、おのれおのれおのれぇ!!何故我がこんな目に合っている!?我は魔王の第四子、滅びの魔力すら使えぬ出来損ないにこんな……!」
「出来損ない?」
「全て、全て全てあの魔剣士のせいだ!あの魔剣士がいなければ全ては順調に進んでいたのだ!我が地位を追われることも無く、魔王の後継者の一人として存在できたのだ!!」
「おい、要領を得ない話はやめろ。もっと明確に」
「どうせ我は死ぬ!あの魔剣士に殺されてな!!ハハハハハハ!ほら見るがいい!もうすぐそこに居るぞ!醜き隻腕の魔姫、出来損ないの妹!その右腕が!」
ストン、と間抜けにも思える音が響いて、マモンの首が切り離される。
その後に感じた一瞬の殺気に身を震わせて、咄嗟にその場から離れた瞬間、マモンの身体が細切れになり地面に落ちる。
そしてそれを実行した何者かは、マモンだったものを見下しながら僕を見る。
黒い甲冑に身を包み、透き通る透明な剣を持つその騎士を見て、僕は何故だか今まで感じたことのないような悪寒を感じた。
まるで、取り返しのつかない何かを見てしまったような。
「……君は、一体」
「勇者ルスト」
心底冷たい声で僕の名を呼ぶその騎士は、剣を僕に構え、言った。
「貴様は、俺の敵だ」
超高温の炎の球が、避ける隙間等ない拳の連打が、殺気を隠そうともしない刃が、三方向から騎士を襲う。
しかしそれを一瞥もせずに振るった剣はそれら全てを返り討つ。
火球は跡形もなく消え、拳は血を吹き出し、刃は根元から折れ地面に刺さる。
「馬鹿な、これほどの実力を……!?」
「お前達じゃ役不足……あーいや、役不足は誉め言葉だったか?まあいい、邪魔だ」
もう一度剣を振れば、たったそれだけでイヤルとジャスティを吹っ飛ばし、気絶させる。
ほんの一瞬で二人を無力化してしまった騎士に長らく感じなかった危機感が生まれる。
まず間違いなく、この騎士は今まで戦ってきた誰よりも強いと分かった。
しかし騎士はそれ以上何をするまでも無く、やることは終わったというように踵を返し去っていく。
「……戦わないのかい?」
「決着はここではつけない。俺の主の前でつけてこそ、価値のある勝利となる。それに、仲間を庇ったまま戦うお前に勝っても意味はない」
それだけ言い、マントをたなびかせ消えて行く黒い騎士。
それになんだか嫌な既視感を感じたが、ひとまず敵がいなくなったことに安心し息をつく。
「勇者様!無事ですか!?」
「……うん。僕より、二人を回復させてあげて。幸い重傷ではないみたいだから」
「は、はい!……あの、勇者様」
「ん?どうしたの?」
「顔色がとても悪いのですが、本当に大丈夫なんですか……?」
ビクリと震える、まるで誰かに叱られてるように、心細かった。
いつものように胸を張って、答えることができなかった。
まるで、まるで―――
「……大丈夫だよ。大丈夫、きっと大丈夫……」
悪いことした、報いに怯えてるみたいに。
ふぅ~……すっきりしたぜ!
次回更新は多分20日以内に出せます。
追記:ちょっと設定ミスが生じたので修正しました(2回目)