聖剣を抜いた親友と、抜けなかった俺   作:雷神デス

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今回はなんだかんだ王道展開かも?
物足りなかったらすいません


僕に任せて

『エンヴァ君ならきっとできるよ』

 

 

 彼は何時だってその言葉に応えてくれた。

 強大な敵と戦う時はその一言で奮い立ってくれた。

 都の武芸大会にも出場して、賞金をかっさらってくれた。

 どんな時だってその一言で立ち上がり、勝利する彼はヒーローのようだった。

 

 僕はそれを素敵な言葉だと信じて疑わなかった。

 彼の背中を後押しして、不可能だと思ったことさえ成功させる魔法の言葉。

 だから、何度言ったか覚えていないくらいその言葉を口に出した。

 その言葉にどれほどの重みがあるのかを理解せずに。

 

 

『勇者になんて、なりたくない』

 

 

 そう言った時、皆は激しく狼狽えた。

 勇者以外には聖剣が使えず、聖剣以外では魔王を討ち倒せないというのだから当然だろう。

 けれど、色んな報酬や色んなことを約束されてもとてもやる気になれなかった。

 

 

『あなたが戦ってくれなければ、大勢の人が死んでしまうのです!』

 

『あなたが魔王を倒してくれなければ、この世界が魔王に支配されてしまうのです!』

 

『沢山の人が不幸になるのですよ!?』

 

『どうか世界を救ってください』

 

 

『ならなんで僕を助けてくれなかったんだ?』

 

 

 ずっと忌子と呼ばれ、産まれたのが罪と言われ虐げられた。

 こんな痣があるだけで皆僕のことを罵倒した、親にすら人間として扱われなかった。

 忌子と呼ばれ、種族の名前すら消された遠い過去の誰かたちは何も悪いことをしていないのに、助けてきた奴らに裏切られた。

 そんな仕打ちを僕らに与えてきたお前達が今更僕に自分達を救ってくれと言うのか?

 

 そう言うと、彼らは何も言い返せず黙り込んだ。

 王都や他の街でも、忌子が虐げられているのを見てきた。

 色んな街で、忌子だからという理由で理不尽な罵声を浴びた、誰も人間として見なかった。

 そんな国の奴らを今更救えと言われても、やる気等出るはずがなかった。

 

 王が連れてきた、私と同じ痣を持つ子供達を見るまでは。

 

 

『勇者ルストよ、お主の言葉を聞いて我らは心を改めた。忌子と呼ばれた彼ら彼女らを、国が保護することにしたのだ』

 

 

 王は笑いながら、そんな空っぽな言葉を吐き出した。

 

 

『ルスト様が勇者になってくれたから、私は奴隷から解放されたの!ありがとう、ルスト様!』

 

 

 親に売られ奴隷となった少女が感謝の言葉を私に向けた。

 

 

『あなたに助けられるまで、僕はずっと皆に虐められていました。けど、あなたが勇者になってくれてから皆僕に優しくしてくれるようになったんです!ありがとうございます、ルスト様!』

 

 

 私が勇者になったことで、友達が出来た少年が笑った。

 

 

『ねぇねぇルスト様!私に名前を付けてくれませんか?親にも名前を付けられなかったら、私達を救ってくれた勇者様に名前を付けてもらいたいの!」

 

 

 名前を付けられなかった少女が名前を付けてほしいと僕にせがんだ。

 

 

『勇者ルスト。お主が勇者になったことで、これ程の人間が救われたのだ』

 

 

 つまりは、王は私を勇者にするために人質を用意したのだろう。

 この子達をまた地獄に落としたくなければ、勇者として戦えと。

 僕と同じような過去を持ちながらも、エンヴァ君では無く僕に救われた子供達がキラキラとした目で僕を見る。

 

 

勇者様(エンヴァ君)なら、魔王に勝てるよね?』

 

 

 その期待が僕の肩に重くのしかかる。

 

 

勇者様(エンヴァ君)なら、皆を救ってくれるよね?』

 

 

 彼らの瞳に宿る希望を失わせるのが怖くて、否定の言葉を口に出来ずに黙り込む。

 どうしようもなく自分とこの子達を重ねてしまう。

 自分が勇者になる以外にこの子達が、僕と同じ忌子が救われることは無いと理解してしまう。

 彼らにとっての(勇者)が、僕にとってのエンヴァ君だと分かってしまう。

 

 初めて受けたその視線に吐き気がする程の重圧を感じた。

 自分がやらなければこの子達が救われないと、自分が逃げなければこの子達の期待を裏切ってしまうことに。

 この子達を置いて逃げれば、この子供達の笑顔が消えてしまうことに。

 そして―――そんな期待をいつも、彼に向けていたことに。

 

 その様子に不安を感じているのではないかと勘違いした彼らは、励ますために、背中を押すために、元気づけるためにある言葉を僕に向けた。

 なんてことは無いその言葉は、そう。

 かつて誰かが常日頃言っていた言葉、そっくりそのままで。

 

 

『勇者様なら、きっとできるよ!』

 

 

 その時初めて、その言葉の重みを知った。

 

 

「さあ、お前は勇者だろう?魔王を倒す者だろう。なら頑張らなくちゃ」

 

 

 数え切れない程の魔物を殺した、時には命を落としかける程の激戦があった、痛かった。

 誰かを守るための戦いというのは、こんなにも痛い物なのかと実感した。

 いつも傷ついている彼は、震えながらも戦っていた彼はこんなにも辛かったのかと考えてしまい、その度に自分がやったことの重さを理解してしまう。

 

 

「聖剣を抜いたんだろう?なら皆を救わなければ」

 

 

 勇者とは希望の象徴でなくてはならないらしい。

 例えどれだけ傷ついても、逃げることも泣くことも弱音を吐くことも許されないらしい。

 苦しんで悶えて、けれど進まなくてはいけないらしい。

 

 

「エンヴァ君の夢を奪ったのだろう?なら代わりにやれよ、勇者を」

 

 

 皆が高らかに言う、『勇者様は希望だ』と。

 子供達は僕に言う、『ルスト様は僕らを救ってくれた』と。

 

 こんなに辛いなんて思わなかった、こんなに大変なんだと思わなかった。

 ごめんなさい、今まで頼ってばかりでごめんなさい。

 自分がずっと友達だと、親友だと思っていた関係はただの一方的な依存だった。

 ただ『頑張れ』と、ただ『君ならできる』と言っていただけで何もしなかった、何もできなかった、何も分かろうとしなかった。

 

 幾ら助けてと願ってももう遅い、彼はもう僕を見限った。

 仲間達は言う、『無理をしないで』『俺らに頼れ』『あなたを守りたい』。

 そんな立派なことを言う彼等を見て、どうしようもなく後悔する。

 

 

「なんでお前は、エンヴァ君にそう言わなかったんだろうね?」

 

 

 たったそれだけで、ほんの一言だけで未来は変わったかもしれないのに。

 救われることだけを望んで、救う側の気持ちなんか考えず。

 友達という関係に固執して、それ以上を望まずに、彼を助けようなんて思わずに。

 相手が自分に合わせてくれることだけを望んで、自分が相手と合わせることなんて考えず。

 

 だからきっと、これはそんな僕への罰なのだろう。

 僕はもう救われちゃいけない、彼はずっと救われなかったんだから。

 沢山彼に救われたのに、僕は彼の救いを奪ったんだから。

 

 沢山傷ついて、沢山心が折れて、沢山の人を救って。

 きっと、それでようやく僕は彼と同じになれると思うんだ。

 その時初めて、君にその言葉を贈る資格を得られると思うんだ。

 拒絶されたって良い、罵倒されたって良い、僕に、たった一言だけ君に贈る言葉を言わせてくれ。

 

 

 

 

 

 ☆〇☆〇☆

 

 

 

 

 

「話だと?魔王の娘が勇者様に一体何の話があるというのだ」

 

 

 ジャスティが私の前に出て魔王の娘を名乗る少女を睨む。

 戦いなら間違いなく私の方が強いのだが、こういう交渉事はジャスティの方が上手だ。

 未だに強烈な敵意を放つ騎士に警戒しながら、僕はジャスティの後ろに下がった。

 

 

「あなた方は魔王を……我が父を殺したいのでしょう?であれば、私と目的は同じです」

 

「ほう?貴様も魔王を殺したいというわけか。だが理由は何だ?半端な理由では信用できぬぞ」

 

「私は父に出来損ないと罵られ育てられたのです」

 

 

 目を伏せ、悲しみに満ちた顔をしながら彼女は言葉を続ける。

 その間にもリージェはすぐに魔法を放てるように詠唱を始め、イヤルは拳に魔力を纏わせる。

 何かあればすぐに戦闘に参加しているように準備をしているが……果たして彼らの実力で、あの騎士を相手にどれだけ持ちこたえられるか。

 それでも何の役にも立たない兵士達よりも数百倍マシなのだが。

 

 

「父は私が滅びの魔力を持たず、脆く弱い私に失望し、私を出来損ないと呼び続けました。他の魔物が私にどんな危害を加えようと見て見ぬ振りをしていました。幾ら父の為に働こうと、あの方は私に見向きもしてくれなかった……。やがて親への愛は憎しみへと変わり、私は父を討つためにある計画を立てることにしたのです」

 

「ほう。その計画とは?」

 

「人間と、勇者と協力し魔王を倒す。それが私にとって最も勝算のある方法だと考えたのです」

 

「つまり、魔王軍を裏切り人間の味方をするつもり、というわけか」

 

「ええ、そういうことです。もし魔王を討てた暁には、協力の報酬として誰も訪れぬ森の奥で余生を過ごさせてくれれば他に何の報酬も求めません。私は魔王を、憎き父を倒せれば―――」

 

「つまらぬ嘘ばかり吐くのはやめろ」

 

 

 饒舌に過去と理由を語っていた魔王の娘がピタリと止まる。

 

 

「貴様はまるで人間のように嘘を吐くのだな。目線や手の動き、声の抑揚。驚く程簡単に嘘かどうか判別できるぞ。小賢しくも真実を混ぜて語っていたのは多少褒めてやるが……貴様には詐欺師の才能は無いようだ」

 

「……そうですか。信じてはくださらぬのですね」

 

「お前が語った魔王から受けたという所業は信じよう。だが、それ以外がまるで信用ならない。貴様が父の憎悪を語っている間にもその目には闇は宿っていない。肉親への愛は感じることは出来たがな」

 

「凄い。そんな簡単に嘘って見抜ける物なのですね」

 

「我が身は代々王の身を守る、そして王の地位を守る盾として、数々の教育を幼き頃から叩き込まれた家の長子。謀略もできずにそれを名乗ることも出来まいよ。それに、貴様はこういった交渉事の経験は無いと見た。聞きかじった知識だけで相手をするには私は少々手ごわいぞ?」

 

 

 ニヤリと悪い顔を浮かべる、名前とは似つかわしくないその姿にイヤルがげんなりとした顔を浮かべる。何度か仕置きを受けたトラウマを思い出したのだろう。

 直接的な攻撃力はこの中では弱い方だが、代わりに防御力と駆け引きは私達の中でも随一だ。

 イヤルが良く口八丁で騙され、色々ひどい目に合ったのを見てジャスティはなるべく怒らせないように僕が気を付けるくらいには、こうなった時のジャスティは怖い。

 魔王の娘は少し悩んだ後、また口を開いた。

 

 

「分かりました。真実をお話しましょう。私は父様を救いたいのです」

 

「救う、だと?」

 

「はい。私の父様は母様と相思相愛の仲でした。けれど、母様は人間であり、魔物である父様と結ばれたことで人間達から裏切り者と呼ばれ殺されたのです。もう何百年も前の話になります……」

 

 

 そう語る彼女の言葉の嘘があるとは思えなかった。

 ジャスティもそう判断しているのか何も口出すをする様子は無い。

 

 

「最愛の人を失ってしまった父様は、狂ってしまったのです。愛する者を奪った人間に復讐するため、魔王となり人類を滅ぼそうとその力を振るい始めたのです。……最早彼を止めるには、言葉では足りません。彼には死しか救いが無いのです」

 

「……」

 

「それを成し遂げるため、あなた達に協力してほしいんです!父様のことは未だに愛しています……けれど、もう狂い泣く彼の姿は見たくないのです!」

 

 

 ジャスティは無言で続きを促す、それを信用されていると取ったのか、魔王の娘は更に語り続ける。

 

 

「協力していただけるなら、あなた達には私が持つ城へと来てほしいのです。その城はかつて魔王軍の重役であった者の城。それをこの騎士の力により奪い、魔王を誘き出す餌とします。魔王軍にとっても要所であるその城を奪い返すには相応の戦力を送ってくるはず。それらを撃退し続ければ、いつかは魔王本人が城を奪い返しに来るでしょう。その時に、私達とあなた方で……!」

 

「魔王を倒した後、貴様はどうするつもりだ?」

 

「……どうもいたしません。私は―――」

 

「分かりやすい嘘ばかり吐くな、貴様は。その先に貴様の真の目的があるのであろう。ならば、それを吐け。吐けぬのであればこの話は無しだ。余程の危機的状況であればともかく、我々人類には未だ勇者と聖剣は健在であり、魔王軍との戦いでも優勢を保っている。わざわざ相手の策略に乗り危機を晒す必要も無い。貴様が本当に魔王を倒したいだけというのであれば考えないことも無いが……どうにも、貴様にはそれ以外の、いいやその先にある何かが本命であるように思える」

 

 

 ジャスティの追求に対し、魔王の娘は一瞬黙り込んだ後、ニチャリと何かを堪え切れぬように口を三日月のように歪め、言う。

 

 

「ハッピーエンドですよ」

 

「……何?」

 

「私は、父様を倒した後、ハッピーエンドを迎えたいんです。その言葉に嘘はありません」

 

「……嘘は無い。だが……改めて理解した」

 

 

 ジャスティが合図すると同時、リージェの詠唱が完了し魔王の娘の足元に魔法陣が描かれ、彼女を中心に大爆発を起こす。

 自分達をまきこむ程の威力、ジャスティが大盾を構えなければ、後ろにいたイヤルとリージェもただでは済まなかっただろう。

 それなのに躊躇なく自身すら巻き込む魔法を撃てるリージェの度胸と、それに誰も文句の一つも言わない事にジャスティの信頼度の高さを改めて認識する。

 これだけの期待を受けて尚、それを当然の義務として背負える彼は立派な人間なのだろう。

 

 

「貴様の目を見て確信した。貴様は壊れている。貴様のような目の奴を何人も見てきた。そしてその目をした奴は一様に、常人では理解できぬ理由や論理で行動する阿呆共だ。それが人間ならまだしも―――下手に力を持った魔物であれば、ここで殺さねば危険だ」

 

「話は終わったみたいだね。それじゃ下がってて皆。こいつの相手は―――」

 

 

 爆炎が真っ二つに切り裂かれ、私を仕留めようと刃を振るう騎士。

 その姿は、やはりかつて見た彼の剣技と似ていて。

 もしそうだとすれば、彼は僕を憎んでくれているのだろうか?

 もしそうだとすれば、彼は僕を殺すことで救われるんだろうか?

 だとすれば、それはどれだけ簡単で、素晴らしいのだろうか。

 僕の命一つで、彼が救われるのだとすれば。

 

 

「僕に任せて」

 

 

 そんな、都合の良過ぎる妄想を振り払って。

 僕はいつも通りに聖剣を抜いた。

 

 

 

 

 

 ☆〇☆〇☆

 

 

 

 

 

 剣戟が鳴り響く、二つの剣が交差し火花が散り、水晶の剣と聖なる光を放つ剣がぶつかり合う。

 光の魔力を纏う聖剣はいつも通りならどんな剣だろうと一振りで折れ、どんな物であろうと切り裂くが―――この水晶の剣はどれほど打ち合おうと折れることは無かった。

 それどころか聖剣を打ち払い、受け流し、痛烈な反撃をして来る。

 すぐにその剣の特性に気づく、水晶の剣は魔力を消失させる効果を持っているのだと。

 勿論そんなことを可能にする鉱石など聞いたことは無いし、魔力を纏わせている様子も無いので普通に考えれば有り得ないことだ。

 だが、先ほどの爆炎を切り裂いたのもそう考えれば納得できた。

 この騎士は、いやこの剣士は魔力を使わず、己の技量だけで戦っているのだと。

 

 

「その程度か!?何故あの光を出さない!何故手を抜いている!?」

 

 

 それに加えて、今までの戦い方を見てその剣士が背負うハンデにも気づく。

 この剣士が扱う剣はとても脆く、壊れやすいのだと。

 剣に負担をかけぬよう受け流し、極力剣を衝突させず、衝突したとしても剣が壊れぬよう力の流れを瞬時に理解し剣を動かす。

 それに比べて僕の剣は聖剣、言わずと知れた世界最強の剣でありどれだけのダメージを受けた所で瞬時に再生し、その刀身が折れることは有り得ない。

 だからどれほど粗雑に扱っても折れることは無いし、折れたとしてもすぐ直るから安心して振れる。

 だと言うのに、互角―――どころか、押されている。

 

 

「ぐっ……!?」

 

「何故聖剣の力を使わない!俺にはそれを使う必要が無いとでもいうのか!?」

 

 

 使わせる隙を晒してから言え、と心の中で悪態をつく。

 これまで戦ったどの敵よりも速く、そして鋭い連撃。

 反撃の隙を伺おうにも攻撃を捌くだけで手一杯、逆にこちらがほんの僅かにでも隙見せればこちらの首が容易く刎ねられてしまうだろう。

 

 

「僕も頑張ったんだけどなぁ……!」

 

 

 やはり、僕は彼のようにはいかないのだろう。

 もしここに彼がいれば、傷つきながらも苦しみながらも、例え誰の助けが無かったって頑張って、叫んで、勝ってしまうのだろう。

 やっぱりエンヴァ君は凄い、僕でも到底届かぬほどに。

 

 

「それでも……!」

 

 

 まだ彼に何も言葉を伝えられていない。

 まだ彼に謝罪の言葉も、言いたいことも言えていない。

 子供達の期待に応えなければ、彼らにとっての希望でなければならない。

 だから。

 

 

「諦めるわけには、いかない!」

 

「ッツ!?」

 

 

 剣士の振るう刃が僕の頬を切り裂きながらも、懐に飛び込んで魔力を纏わせた拳で殴りつける。

 必要以上に聖剣ばかり目で追っている剣士は意表を突かれたようで、まともに一撃を食らい腹の鎧が砕け、後ろに吹っ飛ばされる。

 追撃に繰り出した聖剣の一撃はすぐに態勢を整えた剣士により防がれる。

 

 

「貴様……!」

 

「聖剣ばっかに頼っていると思ったら大間違いだ!」

 

 

 パワーと技術では間違いなく僕の方が弱い、けれど他は別だ。

 短く魔法を詠唱し、周囲に何本もの魔力の矢を作り上げる。

 

 

「魔法まで……!?」

 

「得意な奴が仲間にいてね、そいつに教えてもらった!」

 

 

 と言っても、リージェと違って大雑把な術式なので毎度怒られるのだが。

 それでも彼女以上の魔力を持つ私が使えば、威力だけは超一級らしい。

 一本だけでも人体を抉るには十分な質量を持つ魔力の矢を剣士の全方位に展開し一気にそれらが剣士に襲い掛かる。

 

 

「本当に、すごい奴だなお前は!!」

 

「なっ……!?」

 

 

 しかし、氷の矢は怒声と共に放たれた一振りと共に纏めて薙ぎ払われる。

 明らかに空間とか位置とかを無視したそれに思わず驚きの声を上げる。

 魔力は相変わらず使われていない、つまり奴、あの剣士は魔法でもなんでも無く、ただ剣技のみで逃げ場がない程に作られた氷の矢を切り裂いたのだ。

 驚愕で隙を晒してしまった僕を見逃すはずも無く、一足跳びで僕の眼前に近付いてくる剣士に思わず一瞬死を覚悟する。

 だが、感じたのは刃の感触ではなく固い足の感触。

 どうやら、蹴りをまともに食らってしまい吹っ飛んだらしい。

 剣を杖代わりに立ち上がる、それを見て剣士は笑う。

 

 

「ハ、ハハッ!ああ、そうだ!お前は勇者になったんだろう!そうなる素質があったんだろう!?そうなる理由が、そうなる強さが、お前にはあったんだろう!?さあ、見せろ、見せてみろ!勇者の、いいやルスト!お前自身の実力を!!」

 

 

 ―――ああ、やっぱりそうなんだ

 

 

 彼の正体を、剣士の鎧の下にある顔を確信し、笑みを浮かべる。

 そりゃ僕が勝てないはずだ、そして強いはずだ。

 エンヴァ君がどうしてあいつの部下になってるかは、知らない。

 けど、これだけは分かる。

 

 エンヴァ君はきっと、あの時もこうして僕と戦いたかったんだ

 

 あの時の僕は、まだ彼に助けられるだけの人間だった。

 だから拒んだ、だから出来なかった、彼と戦うことに怖気ついて、結局彼を救えなかった。

 ほんの少しの勇気があれば、彼と一緒に剣を取り、魔王を倒していたかもしれないのに。

 

 けれど、今は違う。

 今の僕は、ほんの少しだけど、君に近付くことが出来たんだ。

 だから。

 

 

「ようやく」

 

 

 君の心を教えて、君の強さを教えて、君のことを教えて。

 そして、今までずっと守ってくれた彼に、僕がどれだけ強くなれたかを伝えたくて。

 

 

「君と同じ場所にいられる……!」

 

 

 

 

 ☆〇☆〇☆

 

 

 

 

 聖剣が光り輝くのを見ながら、俺は兜の下で笑みを浮かべる。

 ああ、そうだ。それでいい。

 

 

「さあ来い、ルスト……!」

 

 

 あらゆる不浄を滅ぼす聖なる光、世界を救う者のみが放つその一撃。

 それが敵を滅ぼすのを何度も見てきた。

 それを見る度に、『自分では勝てない』と思ってきた。

 その光が今、俺に向けられている。

 その事実に、自身がその光に立ち向かえることに心の底から歓喜が湧き上がる。

 そして何よりも―――!

 

 

「ずっとずっと、お前と戦いたかったんだ。お前が勇者になったあの日から―――!」

 

 

 俺が聖剣を抜けなくて、あいつが聖剣を抜けた理由なんて分かってる。

 あいつは凄い奴だ。

 誰かのために努力して、こんな俺なんかのために辛い旅についてきてくれて。

 親が自分を愛してくれなくたって、いつかは愛してくれると信じられる優しさがあって。

 ああ、畜生、俺とは大違いに出来た奴だよ、お前は。

 俺が必要無いことを分かってしまうくらいに。

 

 必要とされたかったんだ、お前に。

 お前が持たないたった一つを埋められる、そんな奴でいたかったんだ。

 勇者になって、お前が俺を信じてくれたのは正しかったって証明したかった。

 

 

「これだけは、剣だけは。お前には負けたくねぇんだよ……!」

 

 

 俺に新たな居場所をくれたあの人のために、そして自分の気持ちに踏ん切りをつけるために。

 俺は、お前に。

 

 

「―――!?ソフィート様!!」

 

「勇者様、後ろに!!」

 

 

 

 聖剣の輝きが増し、ついにそれが放たれる、そう思った瞬間に。

 空から紅い太陽のような、滅びの魔力が俺達に降り注いだ。

 

 





多分次回は性癖爆発回です
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