聖剣を抜いた親友と、抜けなかった俺   作:雷神デス

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 エタってて申し訳ありません(土下座)

 待っている人がいるかはわかりませんがお待たせしました!

 ようやく進みます!


 ……視点移動多いのは許して()


勇者の記憶

 私が知らない(エンヴァ)を見る。

 泣き虫で弱気だけど、礼儀正しく行儀の良いかつての親友の姿を見る。

 そして、私が知らない女の子に恋をしている彼を見た。

 

 まるで絵本のように、エンヴァ君と彼女の日常が流れていく。

 少女と少年、一見しただけではさほど年の差も無い。少女は少年の手を引いて、少年は少女の手を掴み顔を赤らめる。少女はそれを見ておかしそうに笑う。

 

 まるで昔の私とエンヴァ君を見ているようだった。違いと言えば、手を引いているのがエンヴァ君では無く彼女であるということだ。

 

 

『な、なぁグラトニカ!今日も遊びに行こう、ぜ!』

 

『ええ、勿論。口調も随分と男らしくなってきましたね?』

 

『お、おう!何せ俺は、勇者になる男だからな!』

 

 

 私はこの時初めて、エンヴァ君が勇者になりたい理由を知った。

 

 

『俺が勇者になれば、グラトニカの夢を叶えられるんだろ?』

 

『ええ。あなたが勇者になり、私の父親である魔王を倒す。そして私が、彼の後を引き継ぐのです。そうすれば、この悲しい戦争は終わりを迎える、はずです』

 

『なら、俺もっと頑張るよ!グラトニカの夢が叶えられるよう、もっと!』

 

 

 彼女、グラトニカと名乗る何者かがエンヴァ君に語ったことは思いのほか善良だった。彼女は父を殺し魔王となり、人類と魔族の戦争を終わらせようとしていると語った。

 

 そして私が知らなかったこともいくつか明らかになった。

 勇者と魔王というのは、遥か昔から転生者という存在しかなれぬものらしい。そしてエンヴァ君は前世の記憶とやらを持つ転生者で、グラトニカと名乗る彼女もまた、転生者であるということ。

 

 

『フフッ!ありがとうございます、エンヴァ。そのためにも、もっともっと強くならなくてはいけませんね?お父様を倒せるくらいに、強くならないと』

 

『うん!あ、違った。おう!……ん~、まだ慣れねぇなぁ、これ』

 

『まだ不自然かもしれませんね。あなたの身体に住み着いている、本来エンヴァとなるはずだった少年の魂と、あなたの魂の融合は少しずつ進んでいますが……まだ、完全にはできていないのでしょう?』

 

『あー……なんか、まだダメって言われるんだ。グラトニカから、記憶を返してもらえって』

 

『それは難しいですね。だってあの記憶があれば、あなたはまた弱いあなたに戻ってしまう』

 

 

 彼女はエンヴァ君の記憶……前世の記憶の一部を、喰らいつくしたこと。

 魔王と勇者には、各代でそれぞれ常軌を逸した能力を与えられる。エンヴァ君の異常なまでの剣才もそれらしい。そして本来は魔王となるはずだった彼女の能力というのが、喰らう力……相手から何かを奪い、それを自身の物にできるというものだった。

 

 その力を持って、彼女はエンヴァ君の前世の記憶を喰らい、エンヴァ君に自信を取り戻させたという。彼の口調の変化もまた、変わったのではなく本来の物に戻っただけということらしい。

 

 

『そんなに不味い記憶、なのか?』

 

『はい。とても凄惨な記憶ですし、必要のないものなんです。だから、どうかもう一人のあなたを説得してください、エンヴァ。二つの魂が合わさりようやく、勇者と魔王は完成するのです』

 

『グラトニカも、もう一つの魂ってやつと融合したのか?』

 

『……ええ。とても悲しかったですが、そうしなければこの力を得られなかったので』

 

『そっか。じゃあ頑張って説得してみるよ!とりあえず今日はチャンバラごっこしようぜ!新しい必殺技作ったから、見てほしいんだ!』

 

 

 そう言って、彼はぴょんぴょんと飛び跳ね少女を急かす。少女は苦笑し、慣れた手つきで太い木の枝を持って。彼と手を繋いで、森の奥へと足を踏み入れる。

 

 吐き気がした。ここに至ってようやく私は気がついた。彼の不安定な精神の正体に。

 前世の記憶とやらを、彼は私と一緒にいる時殆ど表に出さなかった。そもそも、彼がそれを持つなら私がその違和感に気づかないわけもない。間違いない。

 

 あの口調が、本来の物だと?ふざけている。

 あれは幼くなっただけだ。人生経験が不自然に無くなったが故に、歪に幼くなっている。

 昔彼の両親に聞いたことがあった。ある時から、彼は元気になったが少し行儀が悪くなったと。

 

 二人は親に子供らしいところを見せてくれるようになった、と解釈していた。

 けれど実際は、他人に無理やり退化させられてしまっただけだ。思えば、彼は知識が豊富なのにそれを感じさせない幼さを持つ、不思議な人間だった。

 

 もし、彼があの魔物に騙され良いように使われているのだとしたら―――

 

 

「許せない」

 

 

 直感的に理解する。あの女は、以前の戦闘で私達の前に姿を現したあいつだ。

 姿形は変わっているが、性根や口調までは変わっちゃいない。まるで見下すかのように私達と彼を見る、どこまでも濁り穢れたあの女の目だ。

 

 ただ、あの時と違う点が一つだけあった。

 エンヴァ君を見る目は、あの時と違いどこか情のようなものを感じさせた。

 

 

「……許せないはず、なのに」

 

 

 きっとエンヴァ君にとって、彼女こそが光だったんだ。

 私にとってのエンヴァ君のように、彼にとって彼女こそが唯一信じられるものなんだと、彼の笑顔を見て理解してしまう。そして笑顔を向けられる彼女もまた、悪い気はしていないらしい。

 

 認めたくはないが、認めてしまう。

 二人は愛し合っている。それが恋愛的か、もしくは友愛かは分からないが。

 少なくとも彼の方は、魔王の娘を名乗る彼女を愛してしまっているのだろう。

 

 だからこそ、疑問が浮かぶ。

 私と彼が出会ったあの時に。

 彼女は何故、エンヴァ君の傍にいなかった?

 

 

 

 

 場面が、変わる

 

 

 

『エンヴァ。明日、聖剣を抜きに行きましょう』

 

『え?』

 

 

 その宣告は随分と急なようだった。

 彼の成長具合から見て、彼女が来ておよそ一年程が経ったのだろう。明るくなった彼の周りには沢山の人が集まっていた。喧嘩の強さもそうだが、彼が見せる自信が溢れた姿に多くの子供達が惹かれていったのだろう。このころの彼は、あの村の子供達のリーダー格だった。

 

 それでも彼は同年代の友人よりも、グラトニカを優先した。

 魔物である彼女が他の人間に見つからぬよう、森の奥地に立派な小屋を作ってそこに彼女を住まわせた。今や魔物どころか、見上げる程の木ですらも子供が使うような剣で斬れるのだ。知識的な面はグラトニカの方が担当したのもあって、人が住まうには十分な程の家だった。

 

 時々現れる彼女を狙う魔物達も、彼はたやすく退治した。

 蜘蛛の子を払うように並みいる魔物を追い返し、村を滅ぼしかねないような魔物すら倒せる程に強くなっていた。それが彼の自信を更に引き上げ、己が勇者になるのだと疑ってはいなかった。

 

 けれど、未だ彼の中にいるもう一つの魂……エンヴァ君の身体の本来の持ち主は、まだ彼に力を託すことを拒んでいたようだ。

 

 勇者と魔王にとって、本来あるはずだった魂とやらは融合することが出来なければ力を十全に発揮することは難しいらしい。何故なら、前世人間の魂は、この世界に産まれた者しか持ち合わせていない魔力を所持していないからだ。

 

 魔王も勇者も、魔力が無ければ聖剣を振るえないし滅びの魔力も使えない。

 勇者の場合は膨大な魔力量があって初めて聖剣を抜けるようになるという。

 それ故に、魔王の娘グラトニカはエンヴァ君がもう一つの魂を説得できるまで待っていたようなのだが……どうも、これ以上待つことは彼女にはできなかったらしい。

 

 

『け、けど。まだあいつを……』

 

『おそらく、あなたの中にいるもう一人は自分が消えるのが怖いのでしょう。当然の話です。誰だって死ぬのは恐ろしい。例え世界のためとは言え、そう簡単に己の命は投げだせません』

 

『……じゃあ、どうすれば』

 

『なので、私が説得を変わりましょう。私がその方を一度食べて、対話してみるのです』

 

『そんなのできるのか!?』

 

『できますよ。魂ごと生物を食べた場合、その魂は私の腹の中で生きることになります。この村から王都までは、真っすぐ行けば三か月程度で着くはずです。その間に私が説得を成功させ、あなたに返せば問題無く聖剣を抜けるはずですよ』

 

『……けど』

 

 

 彼はその提案に渋る。きっと、彼は消したくはないのだろう。

 もう一人のエンヴァ。本来生きるはずだった勇者の贄となる誰かを。

 だってそれは、自分を大切にしてくれた二人を裏切ることになるのだから。

 自分を息子だと思って育ててくれた二人の本当の息子を、殺すことになるのだから。

 

 

『エンヴァ。どうか、お願いします。私は消えたもう一人の私のために。ソフィートと名付けられた彼女の犠牲のために、果たさなければならないんです』

 

『……』

 

『私を信じてください。私は必ず、この世界を平和にし。あなたを勇者にしてみせます。どちらにしろ、本来エンヴァと呼ばれるはずだった彼は消えて行きます。あなたが大人になる前に』

 

『……けど』

 

 

 ダメだ。頷いちゃダメだ。そう言って駆けだそうとしたのに、私の身体は動かない。

 それをしても無駄だと。無駄な体力は使うなと。感情よりも、効率が体を制御する。自分達が何故忌子と言われてきたのか。その答えがこれだった。

 

 いつもそうだった。彼が私の元から去る時も同じだった。

 斬られることを受け入れていた?そんなわけがない。もし本当にそれを受け入れていたなら、私を一歩前に踏み出すべきだった。けれど、身体はいつだって生き残るための最適解を選択した。

 

 仲間が助けてくれるのを知っていた。彼が本当は斬れないことを知っていた。

 眼球は冷静に、彼の剣筋が鈍っていることを確認した。彼が逃げることを知っていた。

 

 何かに植え付けられた戦闘の経験が、私達の身体を突き動かす。

 三代目の勇者が造り上げた、魔王達に対抗するための兵器である私達は。自分の感情を置き去りに、ただ勝つための最適解を選ぶのだ。

 

 故に、忌子。

 命じられるがままに戦い続け、その代の魔王亡き後も人同士に争いに利用され、多くの人間の命を奪った呪われた人間。感情を持たず、無慈悲に人を殺す魔物より恐ろしい兵器達。

 

 その特性故に、私はいつまでも終われない。自らに刃を突き立てることもできない。

 この光景を前に、意味が無かろうと動くことにすら、私の身体は承諾してはくれなかった。

 

 

「エンヴァ君……!」

 

 

 それでも手を伸ばす。

 これが過去の映像で、それを変えることはできないと知ったとしても。

 

 

 親友として、幼馴染として、そして何より。何より……

 

 

 プツン

 

 

 そんな気の抜けた音と同時に、私の視界が切り替わる。

 

 走っていた。森の中を駆け抜けた、どこかへと行くために走っていた。

 

 果たして彼は誰で、どこに行くのだろうか?

 

 転んだ拍子に見えた水たまり。そこに映る顔は、紛れも無く彼だった。

 

 背筋が凍る。彼の目を見て、確信する。

 

 

「しょうが、ないんだ。そうしなきゃ、いけないんだ」

 

「そうしなきゃ、ずっと悲劇が起きるんだ。皆のためで、二人のためなんだ」

 

「だから―――やらなきゃいけないんだ」

 

 

 彼は、今。

 

 全てを捨てて、彼女の手を握ろうとしているのだと。

 

 

 

 

 

 ☆〇☆〇☆

 

 

 

 

 

 走る、走る、走る。

 

 彼女のために。己のために。両親のために。

 

 そう自分に言い聞かせて。走り続ける。

 

 

『あなたは、私を信じてくれますよね?』

 

 

 断れなかった。

 あの瞳を前にして、あの覚悟を前にして、断れるわけが無かった。

 

 

『私達は異物なんです。本来はこの世界にいてはいけない存在なんです』

 

 

 その通りだった。

 俺達は転生者で、別の世界の住人で、元いた誰かの人生を奪って生きている。

 そうまでして生き残り、行きつく未来は命を減らすだけの兵器になるだけだ。

 

 

『私の命を託したもう一人の私から、夢も託されたのです。どうか、こんなことがもう起こらない世界を造ってほしいと。私達には、それができるんです、エンヴァ』

 

 

 彼女の理想は、彼女の夢は、俺にとって救いであった。

 やがて消滅していくだけの彼のために、俺ができる唯一の行いなのだ。

 

 記憶は無いけど、知っている。

 自分がどれだけ薄汚れた人間で、誰かを不幸にしたか。

 前世ではきっと、俺はどうしようも無い人間だったのだろう。

 

 そんな俺が、そんな僕が。

 本来生きるはずだった、誰かの命を奪ってまで生きる意味を見出(みいだ)せた。

 一体俺は、何を悩んでいるのだろうか。

 

 

『俺の分まで、たのしんで生きてほしい』

 

 

 本来生きるはずだった彼の言葉が、脳裏を過る。

 ようやく話せた彼が吐き出した、どこまでも優しい言葉が俺の足を重くする。

 

 

『そんな誰かの夢のためじゃなくて。お前自身のために、人生を送ってほしい』

 

『お前は良い奴だ。俺の友達になってくれた。俺を忘れないでくれた。俺を想ってくれた』

 

『だから。俺はお前が自分らしく生きる未来しか望まない』

 

『あんな女のために生きるんじゃねぇ。お前自身のために生きると言ってくれ!』

 

 

「無理だよ」

 

 

 出来るはずがないだろう。

 どの面下げて、そんな未来を生きられるのだ。

 実の息子を殺した男が、どうやって二人に顔を合わせられるのだ。

 

 これは償いだ。

 これは贖罪だ。

 人を殺した俺が出来る、唯一の事だ。

 

 

「俺は、勇者になる」

 

 

 子供の絵空事のようなそれを、決意のために口に出す。

 

 

「俺は、聖剣を抜く」

 

 

 自分がやらねばならぬことを、確認するように音を吐く。

 ずぶ濡れになった身体を引きずるように、脚を動かす。

 

 

「俺は、魔王を倒す」

 

 

 絶対に誰にも譲らない、譲ってはならない。

 そうしなければ。そうでなければ。

 

 

「じゃないと。()()()()が死ぬ意味が無いッ!」

 

 

 前へ進め。家はもうすぐだ。

 今日は父さんと母さんはいない。二人にバレぬように出ていくんだ。

 俺が戻ることは無いだろうけど。

 それでも、次産まれる子供は、俺のような人間に殺されない。

 

 親不孝者。そんな汚名をエンヴァに着せるのは、どうしようも無く歯がゆいけれど。

 それでもしなくちゃならない。そうしなくちゃいけない。そうすべきなんだ。

 

 絶対に、絶対に。

 

 

「……」

 

 

 エンヴァの両親の家に辿り着く。

 体にまとわりつく泥を叩き落とし、最後になるであろう家の門を潜る。

 

 誰もいない。明かりも無い。当たり前だ、優しい二人はもうすぐ来るエンヴァの誕生日に向けて食材を買いに行っている。今頃は町にいるはずだし、帰ってくるのはもう少し後だ。

 

 だから問題はない。二人に何も言わずに出ていくのは心苦しい。

 それでも行かなくちゃならない。勇者にならなきゃならない。

 エンヴァのような人間を、生まれる前に殺される人間を、作っちゃならない。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 みっともなく心の中で言い訳を並べ立て、自分の部屋にあった麻袋を持つ。

 この日のために村の仕事を手伝って貯めておいた旅の資金。

 雨風を凌ぐためのマントに、初めて自分の金で買った鉄の剣。

 

 持っていくものはこれだけで十分だ。

 後は、家を出てグラトニカと合流して―――

 

 

「エンヴァ?」

 

 

 思考が、凍った。

 

 

 

 

 ☆〇☆〇☆

 

 

 

 

「何をしているんだ、こんな夜中に。うわ、びしょぬれじゃないか!全く、少し早めに帰ってきてよかったよ」

 

「もー、何やってるの。ほら、拭いてあげるからこっちに来なさい?」

 

 

 呆れて笑う母さんと父さん……否、()()()()()父と母。

 なんでもないように笑う二人だけれど、分かっているはずだ。

 俺がこの家を出ようとしたことを。何も言わず、どこかへと行こうとしたことを。

 

 それを二人は、咎めようともしなかった。

 父は蝋燭に明かりを付けて、いつものようにテーブルに食事が並べている。

 母は優しく俺を抱き留め、自分のために買ってきたのであろう高い布で俺を拭く。

 

 

「……やめてくれ」

 

「ん?どうした、エンヴァ。そら、早く着替えて席に着きなさい」

 

「今日はエンヴァの誕生日なんだから。主役がいなきゃ始まらないわよ?」

 

「優しい言葉を、かけないでくれ」

 

 

 絞り出すように声を出す。

 限界だった。涙が零れ落ちた。罪悪感で吐きそうだった。

 

 二人が誕生日を祝うべき人間は、エンヴァはもう俺の中にはいなかった。

 今彼は、グラトニカの腹の中にいる。彼女に説得されている。

 この誕生日会は無意味なものだ。俺が受けるべきものではないものだ。

 

 

「いないんだよ。今日が誕生日の奴なんて」

 

「何を言っているんだ、お前は。目の前にいるだろ?」

 

「俺は、僕はエンヴァじゃない!」

 

 

 吐き出した。吐き出してしまった。

 二人は困惑したように俺を見ている。もう後戻りはできない。

 けどもう無理だった。これ以上隠し通すなんてこと、俺にはできなかった。

 

 

「俺、ほんとは別の世界で生きてたんだよ」

 

 

 全てをぶちまけた。

 この世界ではない別の世界のこと。俺がそこで生きていたこと。

 俺が転生者であり、本来生きるべきだったエンヴァがいたことを。

 

 

「本当は、二人の息子は殺されてるんだよ」

 

 

 自分は異物だ。二人の息子ではない。

 歯が鳴る音を止められず、二人の顔が見れないほど涙が溢れ。

 それでも、言わなければどうにかなってしまいそうだった。

 

 もしくは、もうどうにかなってしまったか。

 

 二人は何も言わない。ただ俺の言葉を待っている。

 それとも絶句し、俺を睨んでいるのだろうか。

 

 

「……なんとなく、俺が変だって分かってたはずだろ?俺、転生者ってやつなんだ。別の世界で産まれて、死んで。その癖この世界であんた達の子供の身体を乗っ取って、生きてきたんだよ」

 

 

 まだ十にもなってない子供がするには、あまりに不可解なことばかりしていた。

 最近では喧嘩を売ってきた大人を素手でぶちのめしたり、相手の方に非があることを証明するため他の子供や大人達と口裏合わせをしたりしていたか。

 

 多分あの時から、村の人々の視線に恐怖のようなものが宿っていたのだろう。

 子供にしてはあまりにも手際が良く、大人にしても大した教育を受けられないこの村では、金持ちの家の息子とは言えあまりにも計画的な行動だった。

 

 二人だけはずっと同じように接してくれたが、今ではすっかり大人達から奇怪な目を向けられるようになっていた。ついてくるのは子供達だけで、その子供達も大人になる頃には違和感に気づくのだろう。そして、きっと離れていく。

 

 全てを吐き出した。勇者と魔王のこと、転生者のこと、俺のこと。

 そうして、それ以上は言葉を続けられずに、二人からの反応を待つ。

 どうなるか考えるだけで息が荒くなった。

 

 俺ならきっと、目の前の殺人者を殺している。

 よくも自分の子供をと、ナイフを胸に突き立てるに違いない。

 

 そうされるべきだ。

 そうなるべきだ。

 そうであるべきだというのに。

 

 それでも、怖くてたまらなかった。

 

 

 

 

「「―――ぷっ」」

 

 

 二人は、ほぼ同時に口を抑えて。

 そして、同時に噴き出した。

 

 

「「ハッハッハッ!馬鹿なことを考えるなぁ、この子は!」」

 

「……へ?」

 

 

 この世界に生まれて初めて見るくらい、二人は腹を抱えて笑っていた。

 そこに悲壮感は一切ない。本当に、息子が馬鹿なことを言っているな、くらいの反応。

 

 

「し、信じてないのか!?本当だ!俺は……!」

 

「そんなものがあったとしても、君はずっと僕らの子供さ」

 

 

 二人は俺の言葉を信じていない、わけではなかった。

 信じた上で、俺を息子だと言っているのだ、この二人は。

 

 

「……なん、で」

 

「ええ。だって大人ぶろうと背伸びしてる所や褒めてもらおうと頑張ってる所なんて、子供そのものだものね。それに幾ら言っても食事中にご飯こぼすし、注意したら不貞腐れるし」

 

「片付けも未だちゃんと出来てないしね。他の子よりも多少賢いかもしれないけど、僕らから見ればまだまだ子供だとも」

 

「それで悩んで、傷ついて。いたかも分からない誰かのために涙を流し続けたんだろう?夜中にすすり泣く声がずっと聞こえて少し怖かったくらいだよ」

 

「そんな涙を流せる優しい子、他の誰かやあなたがなんと言おうと私達の息子に違いない。だって私の夫は、とっても優しい人で」

 

「僕の妻は、誰かのために涙を流せる人なんだから」

 

「―――」

 

 

 否定、すべきだった。

 

 これを受け入れちゃダメなはずだった。

 

 俺は、僕は、それを一度受けているんだ。

 

 彼が受けるはずだったそれを、僕が横取りしてしまっているんだ。

 

 

「ち、がう。その言葉は、エンヴァに……!」

 

「何年君と一緒にいると思ってるんだい」

 

「もうとっくに、あなたを他人だと思えるような時間は過ぎてるのよ?」

 

 

 だというのに。

 

 向けられる優しい言葉は、僕の心にしがみついて放してくれない。

 

 

「けど、僕は偽物で」

 

「なら、君が僕らと暮らした十年間も偽物なのかい?」

 

「……けど」

 

「エンヴァ」

 

 

 二人に優しく抱き留められて、頭を撫でられて。

 

 ダメなのに、いけないのに。

 

 

「君はエンヴァだ。他の誰でもない、僕らの息子だ」

 

「私達の息子になってくれてありがとね」

 

「―――う、あ」

 

 

 もう、限界だった。

 

 

 

 

 ☆〇☆〇☆

 

 

 

 

「……良かった」

 

 

 泣きじゃくるエンヴァ君を見て、涙を拭う。

 大丈夫だ。少なくとも今の彼は、もう彼女の手を取らない。

 

 

「けど、じゃあなんで今更……」

 

「それを教えるために俺がいるわけだ」

 

 

 背後から聞こえてきた声の主に、剣先を突きつける。

 その声の主……エンヴァ君とそっくりな姿をした幼い男は、ニッと笑って私を見ていた。

 

 

「よう。やっと反応してくれて嬉しいよ、勇者様」

 

「……君は」

 

 

 その声に聞き覚えがあった。その雰囲気に見覚えがあった。

 ずっと無視していた。己の中にある幻聴だと思って、ずっと聞かぬフリをしていた。

 

 

「初めまして。エンヴァの中にいた誰かです、ってな!」

 

 

 そう言って、性格が悪いそいつは面白そうに両手を上げた。

 

 

 

 

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