GODEATER2 AnotherBlood 作:Vekterアイギス
Vekuter先生の次回作にご期待ください。(終わりません)
螺旋の木 クロサキSide
不意に漂った花の香りに、クロサキはゆっくりと目を開ける。
辺り一面の花畑、それ以外は何もない。
というよりも、どこかで見たことのある風景だ。
「あ....」
クロサキはこの場所を覚えていた。
思い至ったのは、フライアでの最後の戦いの後のこと。
ジュリウスと最後に話したあの場所だった。
「....」
周りを見渡し誰居ないのを確認し、スッと立ち上がる。
しばらく花畑を歩いて行くと、遠くに一本の木が目に入った。
引き寄せられるようにその気へと歩みを進める。
木の根元には親しい顔が座っていた。
「どれくらい振りですかね?」
クロサキの声に気付いたジュリウスは優しく微笑んだ。
「フッ...時間なんてとっくに忘れてしまったさ...」
クロサキは木に寄りかかった。
久しぶりに会うジュリウスは変っていないように見えた。
「突然ここに来て驚いただろ?」
「はい...ここは?」
「現実とは違う世界...精神世界といった方が良いか。」
クロサキはそっと木を撫でる。
普通の木となにも変わらないさわり心地だ。
「お前の精神と螺旋の木そのものが干渉し、お前を精神ごとこの場所に呼んだ。
だから、こうして話すことも自由に動き回ることも出来る。」
その辺のことはサカキ支部長のほうが詳しいだろうと、ジュリウスは付け足した。
「そうだ。そっちだとあれから大分経つんだろ?」
「もう一年近くだ。」
一年近くこの何も無い場所に居たと思うと、自分ならどうしただろう。
「一年か...色々聞かせてくれないか?
経験を積んだんだろう?それらしい顔つきになったな。」
そうだろうかと、顔を触ってみた。
「あ、じゃあ、何から話せば良いかな...」
クロサキはこれまでのことを思い出しながらジュリウスに聞かせた。
シュンヤのこと、キュウビのこと、そして自身のこと。
当然、今何が起きているかも話して聞かせた。
ジュリウスは相槌を打ちながらも、終始無言でクロサキの話に聞き入っていた。
一通り話し終えた所で、
「そうか....」
と、一言呟きジュリウスは遠くを見つめる。
花畑の先は霧に包まれた暗黒が広がっている。
「やっぱり、戻って来れないんですか?」
聞くまいか迷ったが、自分たちの目的を果たさなくてはならないと思った。
「......」
ジュリウスは無言のままで答えない。
「ああ、済まない。少し考えごとをしていた。
....恐らく、俺はそっちには戻れない。」
「まだ戻れない」ではなく、「戻れない」。
クロサキは残念そうに肩を落とす。
「俺は特異点として、この場所に残ることを選んだ。
終末捕食を食い止め続けるためだ。
それは新たな特異点が生まれ、俺が特異点でなくなるまで続くことになる。」
「なら、特異点じゃなくなれば...」
ジュリウスは首を横に振る。
「使命を終えた特異点はやがて消滅する。
月の特異点は例外だとしてもだ。」
それがジュリウスの考えだった。
「でもそんなのは分からないじゃないか...」
全てはまだ推論だ。
それでもジュリウスは暗い顔のままだ。
「仮に戻れたとしても...」
そう言ってジュリウスは自分の腕を見る。
「俺には戦う力なんて残って無い。
残ってるのはブラッドだった頃の腕輪だけだ。
目的も戦う術も失った俺に、生きていく意味なんて無い。」
「それでも...貴方を待っている人が居る。」
クロサキの言葉は悲痛なものだった。
「.......」
「俺達が待っているのはジュリウス・ヴィスコンティだ。
神機使いでもフェンリルの軍人でも無い...貴方自身を待っているんだ。
俺達だけじゃない、極東の皆も...彼女もそれを望んでいる。」
ジュリウスがわずかに反応を見せる。
彼の脳裏に優しげな笑顔が反復する。
「俺は....」
「未来に何があるかだなんて誰にも分かりっこない。
だから人は手探りでも生きていくんです。
ジュリウス...貴方も生きてみませんか?俺達と、皆と...」
ジュリウスはクロサキの顔を見る。
彼は笑っていた。
「クロサキ...」
理由は分からない、何故だか泣きたくなった。
ジュリウスの頬を涙が伝う。
いつしかそれは大きな粒となり地面の花へと落ちていく。
救われた、という訳ではないかも知れない。
それでもクロサキの言葉はジュリウスの心に引っかかっていたものをスッと取り除いた。
ジュリウスは声を殺して泣き続けた。
ジュリウスは静かに立ち上がった。
その目に涙は無い、別の強い意志が宿っていた。
「原初の種が奪われた、という話だったな。」
「あ、はい...!」
「あれは終末捕食が引き起こされるのを防ぐために、ここの深くに封印したものだ。
それだけ、あれは危険なものだ。」
「終末捕食の準備は整い、あとは特異点の誕生を待つのみ...
あの男はそう言ってました...」
「俺の力は弱まりつつある。
ということは特異点の誕生も時間の問題だ。」
ジュリウスは花畑の先を指さす。
「この道を真っ直ぐに進んでいけば、じきに意識はお前の肉体へと戻る。」
クロサキはジュリウスの指さす方を見る。
どこまでも暗い道が続いていた。
「もう何かしら行動を起こしているかもしれない。
ことは一刻を争う。早く行くんだ...!」
クロサキは静かに頷き駆け出す。
「あ。」
クロサキは振り向きジュリウスを見る。
「どうするんですか?これから...」
「...ギリギリまで足掻いてみるつもりさ。
諦めの悪さはお前から教わったからな...」
「ははっ...分かりました。」
「ありがとう。お前と話せて良かったよ...
皆に...ユノに待っていてくれと伝えてくれるか。」
クロサキはニッと笑い親指を立てる。
ジュリウスに背を向けまた駆け出す。
しだいに視界がぼやけていき、何かに引っ張られるような感覚に襲われる。
次にクロサキが目を開くと、ツタに覆われた天井を見上げていた。
「戻って来たのか...」
ジュリウスとの会話を思い出す。
夢なんかではない、根拠の無い確信があった。
(待ってるぜ、ジュリウス...)
不意に遠くから声が聞こえる。
自分の名を呼ぶギル達の声だ。
彼らの無事に気持ちが緩んだのか、クロサキの意識はまた遠のいて行った。
+++++
アナグラ 支部長室
「これが今回の報告書だ。
本部にはこの内容で提出する。」
「ブラッドの処罰は不問...螺旋の木では成果はなし、か。」
アイザックは無表情のまま淡々と続ける。
「多くの部下をむざむざと失ったのは私の責任だ。
神機使いの総本山としての本部も、そのあり方を見直さなくてはならないな。」
アイザックの話を神妙な面持ちで聞いていたサカキ。
「クロサキ君とは話したのかい?
まだ、病室に居たはずだが...」
「ジュリウス隊長のことか...
私の見解としてはジュリウス隊長の意見に同意だ。」
「特異点は消滅すると?」
「消滅はせずともこちらに戻ってこれる確率は限りなく低い。」
「でも、0じゃない。」
サカキは意味深にニッと笑う。
「私はこれまでに不可能とも思える事象を乗り越える意志の力を何度も見てきた。
彼の生きたい、ここに戻りたいという強い思いは、低い確率を少しでも引き上げる力になるんじゃないかな?
それほどまでに意志の力という者は未知のモノなんだ。」
アイザックは不思議そうな様子でサカキを見つめる。
「ふん...いつから人の心を説くようになった?
科学者のいうこととは思えないな...」
「人の心もまた科学だよ、アイザック。
どこまでも奥深く、そして興味深い。」
アイザックは苦笑する。
「そろそろ時間だ。これで失礼する。」
「ちょっと待った。まだ肝心な話をしていないよ。」
サカキはスッと立ち上がる。
振り向きサカキの顔を見る。
笑ってはいるが、目の奥に鋭い光を感じる。
(相変わらず食えない男だ...)
「何のことだ?」
「もちろん...君たちがきた理由さ。
螺旋の木に異常が見られた、だからその調査をしよう。
それだけの理由で本部が動くとは思えない。
極東の職員にも優秀な人材が揃っているからそれでこと足りるはずだ。」
「....他に理由があると?」
「ふむ...例えば、クロサキ君の話にあった"原初の種"だ。
あれの存在を君たちは既に掴んでいたんじゃないのかい?」
アイザックが観念したようにため息をつく。
隠し事は出来ないと判断したようだ。
「昔からそうだったな。
他人の気にしないようなことを、気が済むまで徹底的に調べ上げ真実を掴もうとする。
厄介な男だ、お前は...」
「光栄だね。」
サカキは眼鏡を押し上げ笑って見せる。
「お前の言った通りだ。
過去の終末捕食のデータから、その発生源ともいえるエネルギー体の存在を研究部が報告してきた。
今回の螺旋の木の異常がそのエネルギー体の活性化によるものだと判断した我々は、
それを回収する為に我々を派遣することに決めたのだ。」
「まぁ、失敗したわけだけどね。」
アイザックがギロッとサカキを睨む
もっとも当の本人は応えていない。
「原初の種は終末捕食を引き起こすための起爆剤という訳か。
それを欲しがるということは...」
アイザックは苦しげに小さく頷いた。
「本部ではそのエネルギーを軍事利用できないかと画策していた。」
サカキの表情が険しくなる。
「その為にも、極東の人間には邪魔されるわけにいかなかった。」
しばらく沈黙の後、サカキは壁の方へと歩いていく。
分厚い本や書類の山がある棚には写真が立てられていた。
「科学というものは何にでも応用が利く。
生活を豊かにする為にも、英知を高める為にも、もちろん...人々を救う為にも。」
サカキが言わんとしていることは分かった。
サカキの見つめる写真には若き頃のサカキ自身ともう一人の科学者の姿。
"人類の生存策"を必死に探し、大を殺して小を殺そうとした男。
アイザックとっても尊敬に値する人物だった。
「次の終末捕食は必ず止めなくてはならない。
これまでに散って行った者の想いに応えるためにも...」
サカキはそれっきり黙ってしまう。
「私はこれで失礼する。
本部の役人には原初の種の件は諦める様に進言してみよう。」
「そうか...」
サカキはこちらを見ずに呟いた。
「アイザック。」
「なんだ?」
「久しぶりに話せて良かったよ。
今度はプライベートで来るといい。歓迎するよ。」
アイザックは振り返らずそのまま部屋を出る。
「それは願い下げだな...」
出際に彼はそう呟くと、出撃ゲートへと向かうエレベーターに乗り込んだ。
サカキは満足げに微笑むとデスクに向かった。
+++++
「後、少しだ。」
アルバートはニヤッと笑った。
輝く原初の種に照らされてその表情は一層不気味に見える。
「邪魔はさせない。」
そう呟いて、アイザックは機械を操作する。
小さな揺れと共に窓の外の景色が赤く染まる。
その光は深夜の極東を突然照らした。
極東支部内にも警報が鳴り響く。
慌ただしく動く職員、そして神機使い達。
彼らの選択は何をもたらすのか。
全てが決まる戦いが始まろうとしていた。
活動報告でも伝えましたが
冬休み(23日ごろ)から最終章開始です。
その前にクリスマス番外編挟むけどね...
それではこれからもよろしくお願いします!
感想とご意見もお待ちしております!
それではサラダバー!!
安定の雑談のコーナー
1.おまけ絵
今回も安定のリッカ絵。
PIXIVには投稿済みなのですが...
ちなみにR-NIGHT12月#1にこの絵の描写があります。
是非そちらもよろしくお願いします。
【挿絵表示】
リッカ可愛いよリッカ。