偽典・女神転生~偽りの王編~   作:tomoko86355

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登場人物紹介

V・・・・ 全てが謎に包まれた悪魔召喚術師。
13代目・葛葉キョウジが使役していた三体の造魔を手足の如く操る。
本人に戦う力は殆ど無く、主に造魔達が戦闘を行う。



第11話 『V 』

鋼牙の眼前を醜悪な植物の蔦が覆い隠す。

分厚い地下道の壁を突き破り、突如現れた異形の根。

一目で、この世のモノでは無い事が分かる。

 

「明っ!! 」

 

濛々と立ち上る砂煙。

頭上から、雨の様に漆喰やコンクリートの破片が降り注ぐ。

 

17代目・葛葉ライドウの代理番であるダンテと”探偵部”の一人である遠野・明と完全に分断される形になってしまった。

予想外の事態に、鋼牙が忌々し気に舌打ちする。

 

一方の明とダンテ。

未だ赤い長外套(ロングコート)を纏う銀髪の大男に胸倉を掴まれたままの明は、無言で壁を突き破って現れた異形の根を眺めていた。

 

「ちっ、一体何が・・・・。」

 

そう言いかけた銀髪の魔狩人の言葉が途中で止まった。

見ると胸倉を掴んでいる長い前髪の少年が、ダンテの手首を無造作に掴み上げ、常人とは思えぬ握力で、無理矢理自分から引き剝がす。

 

「何時までも掴んでんじゃねぇーよ。オッサン。」

 

凄まじい膂力。

腕をねじり上げられ、ダンテの整った容姿が苦痛で歪む。

舌打ちし、乱暴に掴まれている腕を振り解く。

暫しの間、二人は無言で睨み合う。

 

この目の前にいる餓鬼は、間違いなく4年前に自分の額を穿ったあの時の小僧だ。

正直、手も足も出なかった。

相手が子供だと油断した自分に落ち度があるのは十分承知しているが、あの動きは完全に人間離れしている。

恐らく、この餓鬼も普通の人間では無いだろう。

 

不図、ダンテの右側の首筋にチクリと、針で刺された様な痛みが走った。

左手が無意識に、右の首筋へと触れる。

 

―まさかとは思うが、この餓鬼も”そう”なのか・・・・?

 

「ちっ、仕方ねぇ・・・・・あの時のケリは、外に出てから・・・・。」

 

腹腔から湧き出る怒りを必死に抑え込み、冷静に状況判断をしようとする。

しかし、眼前にいる筈の少年の姿が忽然と消えていた。

見るとダンテに背を向け、暗闇に閉ざされる地下道の奥へと進もうとしている。

 

「この糞餓鬼が! 人様を無視するとは良い度胸だな! 」

 

敵である自分にあっさりと背を向ける明の行動が、理解出来ない。

しかし、怒り心頭のダンテなどまるで眼中に無いのか、明は足を止める様子も無く更に地下道の奥へと進んでいく。

そんな無礼な若造に対し、ダンテは忌々し気に舌打ちすると、自分と幾分も背丈が違わぬその後を追いかけた。

 

 

 

 

「参ったな・・・・完全に道が塞がれてる。」

 

鋭い棘が根の表面を覆い、醜悪な姿を晒す異形の根を、黒縁眼鏡の少年が見上げる。

一体何処から湧いて出たのか皆目見当もつかないが、地下道から外へと続く通路が全て潰されている事だけは理解出来た。

 

「こりゃぁ、”クリフォトの魔界樹”だな・・・・なーんで、現世に生えてんだぁ? 」

 

仲間と分断され、困った様子で頭をかく鋼牙の背後から、聞き覚えのない年若い青年の声が聞こえた。

振り返るとハリネズミの如く、髪を逆立て、浅黒い肌に漆黒のカソックと白いストラを両肩に垂らした20代半ばぐらいの青年が立っている。

魔具から人間形態へと戻った魔神・アラストルであった。

 

「貴方・・・・確か、ダンテさんの傍にいた悪魔ですよね? 」

 

ダウンジャケットの袖口に隠し持っている鉛筆を一本取り出し、鋼牙が眼鏡越しから鋭い視線を浅黒い肌の神父へと向ける。

 

「ちょ、ちょい待ち! 俺っちは別にオタクと喧嘩する気はねぇーよ! 」

 

情け容赦無い殺気をぶつけられ、アラストルの顔色が真っ青に変わる。

少年の纏う覇気から、相当な実力者である事が否応も無く理解出来た。

あの糞忌々しい便利屋か、もしかしたらソレ以上だ。

 

「な、なぁ? 俺っちと組まねぇか? もし、仲魔になったら此処から出る方法を教えてやるぜ? 」

 

刃の如く突きつけられる鋼牙の殺気に、内心辟易しながらも、アラストルは一つの提案を出した。

曰く、仲魔にしてくれたら、この魔界樹を排除する方法を教える事。

又、効率良く敵悪魔と遭遇する事なく、相棒である明と合流できる最短のルートを教える事。

 

「大変ありがたい提案ですけど、何でダンテさんじゃなくて僕何ですか? 貴方は彼の仲魔じゃないんですか? 」

「冗談、俺っちは、愛しい人修羅様の命令で仕方なくアイツに協力しているだけなんだぜ? 本当ならぶっ殺したい程嫌いだっつーの。」

 

これは隠し様も無い、アラストルの本心だ。

何を好き好んで、憎悪の対象であるダンテに力を貸さねばならないのだ?

奴に協力するぐらいなら、目の前にいる餓鬼と手を組んだ方が遥かにマシだ。

 

「成程、だから僕に協力してくれるんですね? 」

「オフコース! 俺っちも早くこんな生臭い場所とはおさらばしたいからね。」

 

鋼牙にそう応えたものの、これはあくまで建前だ。

本心では、鋼牙の仲間、遠野・明に近寄りたく無かったのだ。

 

あの小僧からは、ダンテとは違う得体の知れない”何か”を感じる。

生まれ持ったアラストルの本能が、あの少年を危険だと判断していた。

 

 

同時刻、東京都台東区北東部・・・・通称『山谷のドヤ街』。

『ニコレット・ゴールドスタインの店』にあるダイニング・キッチンに、ネロと隻眼の悪魔使いはいた。

お互い、簡素なダイニング・チェアに向かい合う形で腰を降ろし、長い黒髪を後ろで三つ編みに束ねたスーツ姿の隻眼の少年が、見事な銀の髪を持つ少年の失った右腕に触れている。

長い睫毛(まつげ)を伏せ、じっくりと失った腕を検分する悪魔使い。

 

美しい・・・・・。

カラカラに乾いた喉を潤す為、終始生唾を呑み込むネロは、頬を真っ赤に上気させる。

良く考えたら、こんな間近でライドウの容姿を見たのは初めてだ。

何時も傍らには、あの憎たらしい銀髪の大男がいて、ロクに話しかける事すらも出来なかった。

心臓が胸を激しく叩き、微かに左手が震えているのが分かる。

 

「成程、陰陽五行思想を基に、幾重にも呪式を施してあるな・・・・流石、16代目だ。」

 

繊細な指先で、切断されていた箇所を探っていたライドウは、納得したのか、ネロの右腕から手を離す。

 

「い・・・・いんよう・・・・? もしかして、中国の呪術の・・・。」

 

その言葉なら聞いた事がある。

鋼牙から半ば無理矢理渡された古い魔導書(グリモアール)に、そんな言葉が記されていたからだ。

陰陽五行思想とは、中国の春秋戦国時代頃に発生した陰陽説であり、陰陽道の基礎とされている。

古代中国の宇宙観、世界観を表しているのだという。

 

「そうだ。 木(もく)、火(か)、土(ど)、金(きん)、水(すい)の五つに分けられ、それぞれ相性が決められている。木が強すぎると、金の克制(ぴんいん)を受け付けず、逆に木が金を侮るといった具合にな・・・悪魔にも属性や相性があるのは知っているな? 」

「う、うん。 騎士見習いの時に施設で習った。」

 

過去の記憶を必死に手繰り寄せ、苦手だった座学の授業を思い出す。

 

「お前の身体に憑依している堕天使・アムトゥジキアスは、風属性の悪魔だ。 風は木(もく)に分類されるから、土属性に弱い。又、金と相性は良いが、バランスが崩れると金の力が強くなりすぎて、木の力を弱める。」

「つまり、16代目は、土と金の術式を組んで、アンタの中に取り付いてる堕天使の力を抑え込んでいるって訳。」

 

ライドウの説明についていけないネロの為に、少年の頭の上に乗っている小さな妖精が分かりやすく説明してやる。

 

「えっ・・・・て、事はつまりアムトゥジキアスの力は使えないって事? 」

「そうなるな・・・・16代目は、俺など足元にも及ばぬ程の数法術師だ。緻密な数式を組んで封印式を施してある。 このままなら日常生活を送っても、何の問題も無いだろう。」

「そんな・・・・”閻魔刀”を奪われた挙句、”ソロモンの魔神”の力まで使えないんじゃ、どうやって悪魔と戦えば良いんだよ。」

 

当然といえば、当然の結果であるが、”探偵部”の一員として、鋼牙達と一緒に悪魔討伐をする事を決めたネロにとっては、死活問題である。

 

「悪魔と戦う必要はない。 お前は、このまま普通の人間として生きるんだ。」

「嫌だ! 俺は、魔剣教団の騎士だ! 力なき人々を守る義務がある! 」

 

憤ったネロが、勢いよくダイニング・チェアから立ち上がる。

驚いた妖精が、思わずネロから離れた。

 

「頼むよ! ライドウさん! 俺に悪魔を使役する術を教えてくれ! どんな辛い訓練だって耐えてみせる! お願いだよ! 」

 

今まで積りに積もった鬱憤が、一気に吐き出された。

 

ネロにとって悪魔と戦う力を失う事は、死に等しい。

それに、今は亡き義理の父、クレドと交わした誓いを叶える事が出来なくなる。

 

「父親のクレドと姉のキリエは、お前が幸せに暮らしてくれる事を願っている。二人の想いを無駄にするつもりなのか? 」

「・・・・・っ! 」

 

ライドウに痛い所を突かれ、銀髪の少年が一瞬、押し黙る。

少年の脳裏に、病室で息を引き取った姉の最後の言葉が蘇った。

 

『私や、兄さんの分まで生きて・・・・。 』

 

病魔に犯され、瘦せ細り、骨と皮だけになってしまった義理の姉。

あれ程までに美しかった彼女は、見るも無残な姿へと変わり果ててしまった。

 

「ライドウ・・・・・。」

 

暫しの沈黙がダイニング・ルームを包む。

痛い程の静寂に、小さな妖精が耐え切れなくなったのか、己の主へと哀し気な視線を向けた。

 

「うっ・・・・俺、このままじゃ嫌だ。 折角、生きる目的が出来たのに・・・。」

 

熱い涙の雫が、ネロの頬を伝う。

 

16代目の強力な呪式は、ネロの中に内在している巨神-ヨトゥンヘイムと魔剣士・スパーダの力すらも抑え込んでいる。

常人離れした膂力や、驚異的再生能力も使えない。

今のネロは、至極普通の人間と全く同じレベルまで落ちている。

幼い時、あれ程忌み嫌った能力(ちから)が、今は欲しくて堪らない。

 

『 教えてあげたら・・・・? 』

 

声も無く啜り泣く少年の姿に、どうしたものかと考えあぐねる悪魔使いの耳元を16歳ぐらいの少女の声が囁いた。

振り向かずとも分かる。

自分を救う為に、その命を捧げた『黒き魔女』の声だ。

 

(だが、それでは親友(クレド)との約束を破る事になる。)

『それは、アンタとクレドの二人が勝手に交わした約束でしょ? この子の意思はまるで関係ないじゃない?』

(しかし・・・・・。)

『 もー、何時からそんな硬い考えをする様になったの? この子には召喚術師(サマナー)の才能があって、本人もその力を欲してる・・・・それで十分、結論は出ているじゃない。』

 

座っているダイニング・チェアの背後から感じる”彼女”の気配。

銀色の長い髪を持つ少女は、困った様子で自分を振り向いている。

あの地獄の様な戦いを共に潜り抜けて来た、大事な相棒。

 

「分かった・・・・俺の負けだよ。 君に召喚術師の技術と知識を教えよう。」

 

深い瞑目後、隻眼の悪魔使いは、目の前に立つ銀髪の少年を見上げる。

その表情は、何か憑き物が落ちたような晴れやかな顔をしていた。

 

 

 

 

矢来銀座地下道。

薄暗い下水道の道を、手にしたLEDライトの光を頼りに一人と一匹が進んでいる。

『葛葉探偵事務所』所長代理の壬生・鋼牙と、再び、蝙蝠の姿へと変じた魔神・アラストルであった。

 

突如、地下道全体に現れた異形の根-魔界樹・クリフォト。

地上へと出る通路(ルート)は全て潰され、脱出する術が無い。

此処から出るには、道を塞いでいる邪魔なクリフォトの根を排除するしか無かった。

 

「そのクリフォト・ルーツってのを潰せば、魔界樹の根も枯れると・・・? 」

「そ、血溜まりを潰した所で、その元凶であるクリフォト・ルーツをどうにかしなきゃ、幾らでも再生しやがるからな。」

 

鋼牙の肩に留まったアラストルが、何故かふんぞり返りながらそう説明する。

 

曰く、”クリフォトの血溜まり”は、根の中継地点に過ぎず、潰してもすぐ再生してしまう。

この魔界樹の根を根絶するには、血溜まりの原因である”クリフォト・ルーツ”を倒す必要があるのだ。

 

地下道を歩む鋼牙の足がピタリと止まった。

肩に留まった黒い毛並みの蝙蝠が、訝し気に黒縁眼鏡の少年を見上げる。

すると、その耳に何者かの声が聞こえて来た。

 

「愚かさとはゴールの無い迷路、絡み合い縺(もつ)れた道だ。」

 

地下道内に微かに響く、年若い男の声。

T字の曲がり角から、この時期にはそぐわぬノースリーブのレザージャケットを着た黒髪の青年が姿を現した。

右手に分厚い詩集の本を持ち、左手には先端の尖った金属製の杖。

生気の無い白い肌に、全身を覆うタトゥー。

巨大な大鷲を従えるその青年は、豪華客船『ビーシンフル号』にある第三十四代目・村正の工房で出会った悪魔召喚術師であった。

 

「一晩中歩き回っては、死者の骨に躓(つまづ)いた事か、それなのに自分は分別があると思い込み、他人を導いてやりたい等とうぬぼれる・・・。」

 

パタンと分厚い詩集の本を閉じる。

病的に白い肌をした黒髪の青年- Vは、数歩離れた位置で対峙する黒縁眼鏡の少年へと視線を向けた。

 

「ウィリアム・ブレイク・・・ですか。良いご趣味をしていますね? 」

「ああ・・・・彼の詩からは、様々なインスピレーションが貰える・・・。」

 

鋼牙の軽口に対し、Vは皮肉な笑みを口元に貼り付かせて応える。

革製のウェストバッグに詩集を仕舞うと、ウルフヘアの青年は黒縁眼鏡の少年へと近づいた。

無意識に、鋼牙の利き手がバックパックに収まっている60CM定規へと伸びる。

 

「丸瀬さんの所で一度すれ違いましたよね? 」

「うん? そうだったかな? 申し訳ないが、あまり記憶にない。」

 

実を言うと、Vと出会ったのは、三十四代目・村正の工房前だけではない。

一か月程前に、吉祥寺にあるハーモニカ横丁でも姿を見かけている。

あの時は、人通りも多く、V自身も鋼牙達の存在に気付いてはいなかった。

 

「ふふっ・・・・そんなに怯えるな・・・まるで子猫みたいだぞ? 」

 

背負っているバックパックから、アクリル製の定規を抜き放つ鋼牙の姿に、Vは嘲笑を浮かべる。

 

「すみません・・・・僕、怖がりなんです。」

 

そう言うのと、鋭い斬撃を繰り出したのは、ほぼ同時であった。

アクリル製の定規から発生される真空刃(ソニック・ブレード)。

ウルフヘアの青年の背後にいる醜悪な怪物の胴体を真っ二つに斬り裂く。

 

濃い紫色の体液が、地下道の壁や床を汚す。

 

「ちっ、ヒューリーかよ・・・嫌な連中に目を付けられたぜ。」

 

何もない空間から、次々に姿を現す異形の怪物達を眺め、大鷲の悪魔、グリフォンが舌打ちする。

 

彼らの名は、妖獣・ヒューリー。

中級に分類される悪魔である。

彼らは、ヒラメやカメレオンと同じく体色を背景とそっくりに変化させる能力がある。

これは、色素細胞の増殖・分化・アポトーシス等を介して、組織内の色素細胞密度や色素沈着量を自在に変化させる事が出来るのだ。

 

「俺っちも手伝ってやろうか? 」

「余計な事はしなくて結構・・・・僕の八つ当たりを邪魔しないで下さい。」

 

久しぶりの殺戮に、嬉々とするアラストルの申し出を、鋼牙があっさりと断る。

目の前に立つ黒髪の悪魔召喚術師に、眼鏡越しで、鋭い視線を向けた。

 

理由は分らないが、この男は気に入らない。

あまり人を嫌いにならない質ではあるが、この男だけは生理的に受け付ける事が出来なかった。

 

 

双子の巨銃、”エボニー&アイボリー”が火を噴く。

凶悪な鋼の牙によって身体に大穴を穿たれ、塵へと還る異形の怪物達。

深紅の長外套(ロングコート)がはためき、怪物達から吹き出る体液が地下道の壁や床を汚す。

銀髪の魔狩人、ダンテが相棒である大剣『リベリオン』を駆るその傍らでは、長い前髪をした少年、明が魔虫達の女王、エンプーサクィーンと対峙していた。

 

事の起こりは数分前に遡(さかのぼ)る。

突如、現れた魔界樹・クリフォトによって、双方の相方と分断する憂き目にあった明とダンテは、不本意ながらも共闘という形を取る事になった。

いくらお互いに蟠(わだかま)りがあるとはいえ、此処は凶悪な悪魔(デーモン)達が跳梁跋扈する危険地帯である。

何時までもいがみ合っていては、生き残れない。

 

まるで金属同士が擦れ合う耳障りな咆哮を上げ、魔虫の女王が禍々しい刃を備えた前脚を振り上げた。

少年の身体を両断せんと、振り下ろされる鎌。

それを身を捻る事で難なく躱すと、明は刃を足場に跳躍。

闘気術で脚の筋力を倍加し、軽々とエンプーサクィーンの頭上まで跳ぶと、強烈な踵落としを喰らわせる。

硬い石畳へと深々と埋まる、魔虫の頭部。

地へと着地した明は、魔法の様な速さで大型ハンドガン、MAXI8 アンリミテッドリボルバーHWを抜き放つと、エンプーサクィーンの背骨に狙いを定める。

地下道内を轟く銃声。

悪魔の弱点である心臓を撃ち抜かれ、魔虫の女王が塵へと化す。

 

(この餓鬼・・・・4年前よりも強くなってやがる。)

 

無駄な動きなど一切無い、明の戦い振りに、ダンテは無意識に戦慄を覚えた。

 

今から四年以上前、ダンテはこの少年に完膚なきまで叩きのめされた。

相手が子供だと油断し、気を抜いた所で、両足を銀製のナイフでズタズタに斬り裂かれた挙句、腹を抉られ、喉を貫かれた。

額を抉る鉛の弾の生々しい感触すら、今も良く覚えている。

 

その後、ダンテもUSSFに所属していたCSI(超常現象管轄局)のNY支部長、ケビン・ブラウンの下で厳しい訓練を受けてきたが、今の明と戦って果たして勝てるかどうかは分からない。

 

(ふざけんな・・・・このままで済ませてたまるかよ。)

 

大剣『リベリオン』を巧みに操り、エンプーサ二匹の身体を綺麗に両断する。

 

7年前の”テメンニグル事件”で、便利屋として培ってきた矜持は、17代目・葛葉ライドウによって、跡形もなく叩き潰された。

常人を遥かに超える身体能力と膂力を持つ自分が、素手の悪魔使いに5秒もかけずのされた。

怒りと屈辱は、憧憬へと変わり、何時か彼の傍らに立つ渇望へとなった。

 

自分の目の前に立つのは、17代目・葛葉ライドウだけで良い。

この餓鬼は、只、邪魔なだけの存在だ。

どんな手を使ってでも排除する。

 

「撃ちたきゃ撃てよ・・・・何も遠慮する必要はねぇ。」

「何? 」

 

無防備にもダンテに背を向ける明は、襲い来る魔虫の頭部に裏拳を叩き込み、まるで熟れたトマトの如く、ぐしゃぐしゃに砕く。

 

「アンタ・・・ぶっ殺したい程、俺の事憎んでいるんだろ? だったら、撃てば良いじゃねぇか。」

「・・・・・。」

「それともブルって撃てねぇか・・・・17代目・葛葉ライドウの番の癖に情けねぇ。」

 

呆れた様子で大袈裟に肩を竦める明の眉間に、”アイボリー”の照準を定める。

しかし、そこから吐き出された鋼の牙は、長い前髪の少年ではなく、彼に牙を突き立てようとしていた魔虫の一匹を吹き飛ばしていた。

 

「それがお望みならそうしてやっても良いけどよ・・・・生憎、状況が判断出来ない程、馬鹿じゃねぇんだよ。」

 

ダンテは、忌々しそうにそう吐き捨てる。

何時の間に現れたのか、今度は血錆が浮き出た大鎌を持つ幽鬼の群れと、馬鹿デカイ手斧を持つ邪鬼の群れが、二人を取り囲んでいた。

下級悪魔のヘルアンテノラとヘルカイナである。

現世と幽世(かくりょ)を彷徨う亡者達は、新たな獲物の発見に、舌なめずりをしていた。

 

「てめぇをぶちのめすのは、こいつ等を片付けた後だ。」

「・・・・・。」

 

”アイボリー”を左脇のガンホルスターへと戻し、大剣『リベリオン』の柄を握り直す。

そんな魔狩人を横目に、明はジャケットのポケットに収まっている法具へと軽く触れた。

 

 

 

矢来銀座アーケード街。

巨大なドーム型の屋根を持つその通りには、様々な店舗で犇(ひし)めいていた。

その中にある、人気ファーストフード店『ピースダイナー』。

窓際の席に、一風変わった二人組が座っていた。

 

「この下に、相当な量のマグネタイトが集まっているのは間違いないな。」

 

最新式のノートPCを前に、金色に髪を染めた17歳ぐらいの少年が、思案気に顎へと手を当てる。

 

「でも、下手に手を出す訳にはいきません。”クズノハ”と事を構えるのは得策ではありませんからね。」

 

ノーフレームの眼鏡をかけた優等生然とした少女、赤根沢・玲子が、真向かいに座る黒井・慎二に釘を刺した。

 

彼ら二人も又、ダンテ達と同様、矢来銀座の地下で起こっている『異変』を調べる為に、此処に来ていた。

東京都知事の依頼で、”クズノハ”の人間が異変調査をしているという情報が入っている為、地上で彼等の動きを探っているというのが、今の現状だ。

 

「ちぇ、面倒くせぇ。 宝の山が目の前にあるってのによぉ。」

 

ピースダイナーでも人気のあるドリンク、『ピースシェイク』のストローを口に咥え、黒井・慎二ことチャーリーは、苛々した様子で口を尖らせる。

 

北の小国、”フォルトゥナ公国”から冥府の魔界樹-クリフォトの種籾を回収し、”ゼブラ”を精製。

裏社会でバラ撒き、かなりの収入を得てはいるが、彼等の夢を叶えるにはまだ足りない。

肝心のマグネタイトが不足しているのだ。

 

 

「すまん、待たせたな。」

 

ブツブツと愚痴を零すチャーリーを困った様子で眺める玲子の耳に、30代半ばぐらいの男の声が聞こえた。

振り返ると、灰色のスーツを着た如何にも教師風の男が二人を見下ろしている。

玲子達の仲間、軽子坂高等学校、化学教師・大月清彦であった。

 

右手に、プラスチックのトレーを持った化学教師は、玲子の隣へと腰を下ろす。

トレーには、灰皿とコーヒーが入った紙コップが乗っていた。

 

玲子は、改めて今の状況を分かりやすく化学教師に教えてやる。

 

「フン、案の定だな。 小森の婆ぁめ、特殊公安部隊ではなく”クズノハ”に調査依頼を出したのか。」

 

小森とは、東京都知事の小森・恵子の事である。

京都大学を首席で卒業、その後、NHKのニュースキャスターとなり、フリーのアナウンサーとなったその後は、参議院選に出馬し、見事当選している。

約5年間、総務政務次官を務めた後は、都知事選に出馬し、初の女性東京都知事となった。

尚、特殊公安部隊とは、警察機構が持つ対悪魔掃討部隊であり、隊員の殆どが得Aクラスの実力者で占められている。

 

「仕方ないよねぇ、特公を出すほど被害は出てないし、下手に事を荒立てると面倒な事になり兼ねない。」

 

チャーリーは、ノート型PCの液晶画面を真向かいに座る大月へと向ける。

そこには、仲魔- 邪鬼・グレムリンの視覚を借りた映像が映し出されていた。

 

「・・・・・No.34? 」

 

何気なく画面を覗いた瞬間、化学教師の表情が明らかに変わった。

 

そこに映し出されているのは、数体の邪鬼と幽鬼を相手に大剣『リベリオン』を駆る見事な銀の髪をした大男の姿があった。

 

「ふん、まさか生きていたとはな・・・・しかも、ウロボロスの餓鬼まで一緒だとは・・こりゃ何かの運命か? 」

 

皮肉な笑みを口元へと貼り付かせ、大月が眼鏡越しの双眸を細める。

 

脳裏に、無残な母親の亡骸の前で放心状態の幼い少年の姿が過る。

口元と細い両腕を、母親の返り血で真っ赤に染め、茫然自失としていた。

 

「知り合いですか? 」

 

邪鬼と幽鬼の群れを相手に、大立ち回りをする明とダンテの姿を、画面越しで面白そうに眺める化学教師に、玲子が胡乱気に問いかけた。

 

「ああ、この二人とはちょっとした因縁があってな・・・・丁度良い、コイツの試運転も兼ねて、挨拶しにいくか。」

 

大月は、足元に置かれている特殊チタニウム製のアタッシュケースを片手に、立ち上がる。

このケースの中には、アメリカ国防総省、ペンタゴンの地下研究施設で開発された”あるモノ”が収まっていた。

 




久しぶりの投稿。大分短くなってしまいました。
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