偽典・女神転生~偽りの王編~   作:tomoko86355

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登場人物紹介

百地英雄・・・・警視庁対策安全課の刑事。
階級は警部補。
主に悪魔が起こす事件、事故を担当しており、自身も剣士職・・・銃剣士(ベヨネッタ)の資格を持っている。
『葛葉探偵事務所』所長、葛葉キョウジとは旧知の間柄で、手に負えない事件を依頼する事が度々あった。(事件解決すると自分の手柄として署に報告する為、鋼牙からは嫌われている。)しかし、警察官という役職には誇りを持っており、市民の安全の為ならば、我が身を投げ打つ覚悟がある。
因みに、離婚歴あり。




第14話 『クリフォト 』

成人男性の腕程もある太い魔界樹の根が、容赦なく自分の胸板を貫く。

魔界樹の力に抗う術も無く、背後へと引きずられるダンテ。

地下道の硬い壁を、幾枚もぶち割り、巨大な岩盤に縫い留められる形で漸く停止する。

口から大量の鮮血を吐き出し、胸元と腹部を貫いている醜悪な根を汚した。

 

「くそったれが・・・・・。」

 

常人ならば、既に即死してもおかしくない状態。

しかし、悪魔特有の頑強な肉体と、再生能力のお陰で、何とか死の憂き目から逃れていた。

大量の血液を失った為か、魔人化が解け、元の人間の姿へと戻っている。

震える両腕を叱咤し、身体を貫いている魔界樹の根へと大剣の切っ先を突き刺した。

噴き出るどす黒い魔界樹の樹液。

身体が、魔界樹の液体で汚れるのも構わず、ダンテは『リベリオン』の刀身を下へと降ろす。

魔界樹の根が切断され、支えを失ったダンテの身体が下へと落ちた。

 

「ガハッ・・・・・。」

 

強かに身体を固い石畳に打ち付け、激痛が身体中を駆け巡る。

大剣を杖代わりに、何とか立ち上がろうと試みるが、脚に力が入らず、無様に倒れてしまう。

 

(糞・・・・・情けねぇ・・・・・。)

 

ヴィランという、正体不明の男に本体を攻撃されているのか、クリフォトサップリングはそれ以上、魔狩人に攻撃を仕掛けてくる事は無かった。

俯せていた身体を仰向けに倒し、肺に空気を取り込む。

途端、激しく咳き込み、再び、口から大量の鮮血を吐き出した。

 

「ちっ・・・・こりゃ、暫く動けねぇな。」

 

悪魔特有の驚異的再生能力で、破損した肉体を修復しているものの、かなりの深手だ。

腹に大穴が空いている上に、骨も何本か折れている。

だが、己が負った傷よりも、ダンテの脳裏にあるのはヴィランという名の、謎の人物であった。

 

あの男は、ダンテと双子の兄、バージルの出自を知っている。

 

40数年前、アメリカ国防総省- ペンタゴンで秘密裏に行われていた『人造人間開発計画』。

神をも恐れぬ人体創造の実験。

その計画(プロジェクト)に、自分と双子の兄は、深く関わっている。

 

(クソッタレ・・・・・何が伝説の魔剣士の息子だ。 俺は、人間が造った化け物じゃねぇかよ。)

 

自然、乾いた笑いが血塗れの口元から漏れる。

 

20数年間、自分は人間であると思い込んでいた。

人並外れた度胸とタフさ、裏社会で便利屋として常にトップクラスに君臨していた。

だが、それは全て偽りだ。

悪魔(デーモン)の遺伝子を基に、自分は造り出されたのだ。

知らなければ、良かった。

しかし、力を得る為には、まず自分自身の事を知るのが必要だった。

だから、従軍時代、師であるケビンの眼を盗んで、軍のデーターバンクにアクセスして自分の事を調べた。

出た答えは、あまりにも残酷であったが。

 

「ライドウ・・・・・。」

 

あの悪魔使いを抱きたい。

細い身体を抱き締め、己のモノであるという楔(くさび)を打ち込みたい。

 

自分がまだ、人の心を保てているのは、偏(ひとえ)に悪魔使いの存在があったからである。

テメンニグルで打ち負かされ、その圧倒的なまでの強さに惹かれた。

ヴァチカン13機関の介入で、無理矢理引き離され、又、至極退屈な日常が待っていた。

絶海の孤島、マレット島で再び巡り逢った時は、運命を感じた。

魔帝・ムンドゥスとの激闘で、瀕死の重傷を負ったライドウを自分の事務所に連れ帰った時は、これでやっと彼を自分だけのモノに出来ると愉悦に浸った。

しかし、そんなモノは幻だ。

現実は、あまりにも残酷で、ちっぽけな自分等、意図も容易く吹き飛ばされる。

自分にとって、ライドウは決して手の届かない高嶺の花だ。

現番である玄武に、あっさりと倒され、冷酷なまでの力量の差を思い知らされた。

 

 

「あのオカッパ野郎をぶっ潰すまで、死ねるかよ。」

 

再び、身体を俯せに倒し、石畳に爪を立てる。

 

やられたら必ずやり返す。

相手が剣聖だろうが、何だろうが関係ない。

怒りのマグマが腹腔内から噴き上がり、炎の吐息を吐く。

 

刹那、地下道の硬い壁が内側から粉々に砕け散る。

凄まじい破壊音と瓦解音。

濛々と立ち込める砂煙を突き破り、白い何かが飛び出してくる。

それは、髑髏の仮面を被った純白のローブを纏う、死神であった。

 

「あ、あれは・・・・・? 」

 

ダンテがそれよりも眼を奪われたのは、その死神と対峙する異形の魔人であった。

紫を基本カラーに、襷と褌を締め、頭部に二本の角を生やしている。

その姿は、まさに『鬼』。

 

 

 

「ちっ、あのオッサン、こんな所で何やってんだぁ? 」

 

『鬼』へと転身した明は、視界の端にボロボロになって倒れているダンテの姿を見つけ、思わず舌打ちしていた。

 

赤根沢・玲子と黒井・慎二の二人と激闘を繰り広げている間、銀髪の魔狩人の存在など、すっかり失念していた。

どうやら何者かに相当痛めつけられたらしい。

全身血塗れで、自慢の銀髪が真っ赤に染まっている。

意識はあるらしく、口元が血塗れであった。

 

 

 

 

「今、考えると見捨てれば良かったな・・・・あのオッサン。」

 

『葛葉探偵事務所』がある東京都矢来区の古びた雑居ビル三階。

血で汚れた身体を浴室で綺麗に洗い落とした明は、濡れた髪をタオルで乱暴に拭いながら、鋼牙達がいる事務所のドアを開く。

およそ11畳ぐらいの広さがある事務所内。

メラミン化粧板で造られたデスクには、鋼牙がいつも通り座り、最新型のPCを前にデリバリーで取ったピザを齧っている。

事務所に置かれた書棚には、陰気な召喚術師- Vが本を物色しており、来客用に置かれたテーブルには、蝙蝠の姿をした魔神・アラストルが、好物のアップルパイに齧りついていた。

 

矢来銀座地下道での一件後、流石に血塗れの姿のままモール内を歩く事等叶わず、早々に『葛葉探偵事務所』へと戻っていた。

熱い湯を頭から被り、人心地付いたものの、やはり心の中に残る蟠(わだかま)りは払拭出来ない。

あの場に負傷したダンテがいなければ、魔人化した玲子を倒す事が出来ただろう。

否、倒す事は叶わずとも、深手を与える事が出来た筈だ。

 

「謎の覆面男に、”黙示録の四騎士”ねぇ・・・・そいつ等が地下道内で起こっている異変の首謀者かな? 」

 

デスクに置かれたPCの液晶画面には、検索を掛けた『ヨハネの黙示録の四騎士』についての記事が表示されている。

子羊(キリスト)が解く七つの封印の内、初めの四つの封印が解かれた時に現れるという。四人の死神達に関する記述だ。

明が遭遇したのは、第一の封印が解かれた時に現れる、白馬に乗った死神。

頭に王冠を抱き、支配を得る役目を担うのだという。

 

「そいつ等は関係ない。 何処で嗅ぎつけたかは知らないが、恐らく”クリフォトルーツ”が集めたマグネタイトを狙ったんだろ。」

 

ウィリアム・ブレイクの分厚い詩集を閉じたVが、書棚に本を戻す。

 

意外にもこの事務所の持ち主、13代目・葛葉キョウジは、熱狂的なウィリアム・ブレイクのファンだ。

彼が出した詩集や、画集は全て揃えており、書棚に収まっている。

 

「随分と詳しいんだな? 」

 

冷蔵庫からダイエット・コーラを取り出した明が、タオルケットを頭に被ったまま、来客用のソファーに腰を降ろす。

浴室から出たばかりなので、上半身は裸で、下にビンテージのジーンズを履いた状態だ。

モデル並みに均整の取れた見事な肉体。

無駄な脂肪や筋肉は一切無く、まるで有名な彫刻家が長い年月をかけて彫り上げた作品を思わせた。

 

「今回の首謀者とは、ちょっとした因縁があってな・・・・今現在、都内の地下道で起こっている異変は、全て奴の仕業だ。」

「奴・・・・・? 」

 

意味深なVの言葉に、デスク前に座る鋼牙が、オウム返しに聞き返す。

 

「・・・・・かつて、魔界で四大魔王(カウントフォー)と呼ばれた大悪魔の一柱だ・・・・詳しい事は、俺より”人修羅”の方が知っているかもな。」

「17代目が・・・・・。」

 

不図、鋼牙の脳裏に、邪神・ゴリアテが漏らした言葉を思い出していた。

 

『我が主、”反逆皇・ユリゼン”様の寵愛を受けていた召喚士・・・。』

 

確か、あの邪神はそんな事を漏らしていた。

20数年前、ライドウが『異界送り』の儀式で、1年以上もの長い期間、魔界を放浪していた事は知っている。

その時に、古の森-『迷いの森』にあるという『ノモスの塔』に封じられた魔王・アモンを開放し、見事使役して現世へと帰還した。

 

「勿体つけた喋り方だな? このグリフォンといい、オタクは何者なんだ? 」

 

ダイエット・コーラを一口啜った明が、タオルケット越しに書棚の前に立つ陰気な召喚術師を鋭く睨む。

 

思えば、この術師は初めて会った時から、謎だらけだ。

天鳥港に停泊している超豪華客船『ビーシンフル号』の船長、ヴィクトルの知り合いらしいが、それ以外の経歴は一切不明。

只、分かっている事は、かつて13代目・葛葉キョウジが使役していた造魔を、何故かこの男が持っているという事だけだ。

本人の言を信じるのであれば、13代目自ら譲渡されたのだという。

 

「俺の事を知りたければ、17代目・葛葉ライドウに逢わせろ・・・・息子のお前なら、奴も素直に話を聞くだろ? 」

「何・・・・。」

 

何処か皮肉めいたその言葉に、明の表情が更に険しくなった。

 

何処で知り得たのか、この陰気な召喚術師は、明の素性を知っている。

明は、ネロと同じ、17代目に養子として引き取られた子供であった。

とある事件で、それまで順調だった親子関係に亀裂が走り、現在は、修復不能なまで溝が広がっている。

養父であるライドウは、何とか明との関係を元に戻そうと色々努力をしてはいるが、明自身にその気が全くなく、高等部に進学してからは、一度もまともに顔を合わせてはいなかった。

 

「丸瀬の豚親父に何とかアポを取って貰える様頼んじゃいるが、てんで返答が無くてな? もしかしたら、可愛い可愛い息子のお前なら人修羅ちゃんも喜んで逢ってくれるんじゃぁねぇかと思ってんだよ。」

 

それまで黙って二人のやり取りを眺めていたグリフォンが、事務所内に設置されているパーチと呼ばれる止まり木の上から、突然、割って入る。

暫しの沈黙。

鋼牙が居心地が悪そうに、険悪なムードが漂う明達を眺めている。

 

「無理だな・・・・俺に頼むのはお門違いだ。 17代目に逢いたきゃ、理事長に頼めよ。」

「それが出来ないから、お前に頼んでいる。」

「何故だ? 四大魔王(カウントフォー)が絡む事件なら、理事長だって話を聞くだろ? 」

「理由があって”クズノハ”と関わりたくない。 俺は、個人的な話でお前の父親に逢いたいんだ。」

 

明の真向かいにあるソファーに腰を降ろしたVが、真剣な表情で、頭からタオルケットを被った少年を見つめる。

 

正直言って、葛葉一族の目付け役である”マダム・銀子”を通さず、四家当主の一人、葛葉ライドウと面会する事は不可能である。

ライドウは、同じ四家当主であるキョウジと違い、組織に忠誠であり、それ故、特別な役職を与えられている。

巨大企業であるHEC(Human electronics Company)のCEOを務めているのは勿論の事、他国の依頼で現地に赴き、悪魔討伐も行っていた。

 

「残念ですけど、それは無理な話です。 元締めである清明(はるあきら)様に話を通さない限り、17代目と直接逢う事は叶いませんよ。」

 

見かねた鋼牙が、明に助け舟を出した。

しかし、Vは全く取り合おうとしない。

只、黙したまま、真向かいに座る長い前髪の少年を見つめるだけだ。

 

「・・・・・分かった。一応、あの人に連絡だけは取ってみる。」

「明? 」

 

予想外な明の応えに、鋼牙が眼鏡越しに咎める様な視線を向ける。

 

一応、此方に協力的な態度を取っているとはいえ、未だにVは正体不明の謎の人物である事に変わりは無い。

組織”クズノハ”に属する以上、そんな輩を四家当主が一人に逢わせる事に対し、多少の抵抗があるのは否めなかった。

 

「コイツの言っている事が正しいなら、魔王クラスの大物が、人間界に干渉しているという事になる。眉唾ものの胡散臭い話だが、地下道の異変が事実である以上、放置は出来ねぇ。」

 

被っていたタオルケットを両肩に掛け、早速、義理の父親である17代目に連絡する為、テーブルに置かれている自分のスマートフォンを手に取りソファーから立ち上がる。

スマホを弄りながら、部屋の隅へと向かう明の後を、デスクチェアから離れた鋼牙が追い掛けた。

 

「駄目だよ。 地下道の一件は、都知事が直々に組織に依頼している。それと、あのVって召喚術師は、危険だ。 ギルドの登録名簿を調べて見たが、彼に関する記述が一切ない・・・・つまり・・・・。」

「ギルドに登録されていない術師なんだろ? 別に大した問題じゃない。」

「でも・・・・。」

「問題は、”異界化が急速に進んでいる”って事だ。 俺の予想じゃ、矢来区だけじゃない、朝日区や下手すりゃ臨海公園辺りまで広がってる。」

 

実際、地下道で『クリフォトの魔界樹』と対峙し、戦ったから分かる。

魔界樹の力で、異界化が一気に広がっているという事だ。

後数日もすれば、魔界樹は、その醜悪な姿を地上に晒すだろう。

そして、新たな獲物を求めて、地上で生活している一般市民達を襲い始める。

そうなってからでは、全てが遅すぎる。

 

その事実は、鋼牙自身も良く理解していた。

今は、情報が余りにも少ない。

逸早く対応するには、いくら怪しくとも、このVという術師が持っている情報だけが、頼りになるかもしれないのだ。

 

 

 

 

矢来区地下道の一件から、一夜明けた人工島-『天鳥町』泰祥堂(たいしょうどう)区二丁目。

謎の覆面男-ヴィランの襲撃と、”クリフォトの魔界樹”によって、重傷を負ったダンテは、『葛葉産婦人科医院』に収容されていた。

 

「朝日区の地下道も似た様な状態だった・・・但し、旦那がいた矢来区よりかはマシだったけどね。」

 

白いシャツにジップパーカー、ロングパンツに白いバンダナを頭に巻いた赤毛の青年- 猿飛佐助が、器用にナイフでリンゴの皮を剝いている。

佐助の座っている簡易椅子の真向かいにはシングルベッドが置かれており、清潔なシーツの上には、見事な銀色の髪をした大男が胡坐をかいて座っていた。

 

「明っちに感謝しないとね? あの子がいなかったら、今頃旦那は瓦礫の下敷きだったそうじゃない。」

「ちっ、誰も助けてくれなんて頼んでねーよ。」

 

佐助が剥いたリンゴを咀嚼しつつ、ダンテが不貞腐れた態度で、悪態を吐く。

 

佐助が言う通り、大量に血を流し、貧血で気を失ったダンテを担いで地上まで登って来たのは、4年前に、自分の額に鉛の弾丸をぶち込んだ少年だった。

近隣住民からの通報で、駆け付けた警察関係者に気絶したダンテを押し付けると、明は”探偵部”の仲間、壬生・鋼牙と共に何処(いずこ)かへと消えたのだという。

その後、組織の手回しにより、救急隊によって16代目・葛葉忍が責任者を務めているこの個人病院へと運び込まれた。

 

朧気ではあるが、昨夜起こった出来事は、何となく覚えてはいる。

白いローブを纏った死神と対峙する、深紅の鬼。

高速移動で、視認不可能な斬撃を繰り出す強敵に対し、鬼は全く臆する事無く、その攻撃の殆どを軽く往なしていた。

あの鬼は、恐らく遠野・明だろう。

ダンテが長年追い求めた完璧な戦闘スタイルを、明は意図も容易く実現してみせている。

これは、生まれながらの才能だ。

かつては、裏社会でトップクラスの便利屋として君臨し、仲介屋達から引く手あまただった己自身が、霞んで消し飛んでしまう程の力量差を明は持っていた。

嫉妬と羨望が、怒りの炎となり、無意識に切れる程、唇を噛み締めている。

 

「旦那、フォークが曲がってるよ。」

 

呆れた様子の佐助の言葉に、ダンテは、右手で握りしめている小さなフォークへと視線を落とす。

知らず知らずのうちに、力一杯握りしめていたのだろう。

フォークは、ダンテの手の中でグニャグニャに、捻じ曲がっていた。

 

「まぁ、悔しい気持ちは分らなくも無いけどね? ”十二夜叉大将”の中でも、明っちと壬生の坊ちゃんは別格だから。」

「別格? 」

「そっ、本物の天才って奴? だから、御屋形様もあの二人には甘い所があるんだよ。」

 

サイドテーブルに置かれている皿に、曲がったフォークをぞんざいに置くダンテを、苦笑交じりに佐助が眺める。

 

一般に天才とは、生まれつき備わった優れた才能の事を指す。

特定の分野において驚異的な能力を発揮する人間を言うが、明と鋼牙の二人はまさにそれであった。

鋼牙の場合は、両親共に超人なので、その間から生まれた子供が類稀(たぐいまれ)な力を秘めているのは当然であるが、明は出自が不明であり、周囲の人間達からの受けは大変悪い。

義理の父親である17代目・葛葉ライドウ自身が、蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)の血筋ではない為、上層部から嫌われているというのも一因している。

しかし、”十二夜叉大将”の長、”人喰い龍”こと、骸が明の秘められた才能を逸早く見抜き、自ら自分の組織へと迎え入れた。

骸の目論見通り、明はその才能を遺憾なく発揮し、現在に至っているのである。

 

「”探偵ごっこ”を許しているのも、組織を通さず、勝手に悪魔討伐をしているのも、全て、御屋形様が許しているお陰だよ。 普通の奴等がそんな事したら、力を封じられるか、下手したら矯正所に連行される。」

 

佐助とて、あの二人に思う所が無いと言えば、嘘になる。

だが、あの二人の背後には、恐ろしい”人喰い龍”がいる。

不満を呑み込み、口出し無用にしなければ、骸から何をされるか分からない。

 

「ちっ、あの蛇野郎に気に入られているって事か。」

「もー、そういう事を此処で言っちゃ駄目。 一応、四家当主の管轄下なんだよ? 」

 

この医院の持ち主は、葛葉四家当主の一人、16代目・葛葉忍だ。

忍は、ライドウと同じく、組織に対し忠誠的な態度を示してはいる。

だが、ライドウと決定的に違うところは、下手に波風を立てたくないだけで、”クズノハ”に対し、忠実かといえばそうでもない。

要は、『事なかれ主義』なのである。

 

怖い者知らずなダンテの態度に、佐助が呆れた様子で溜息を零している時だった。

突然、病室内が大きく揺れる。

 

「うわわっ! 何? 地震!? 」

 

震度4は軽く超えているかもしれない。

余りの出来事に、簡易椅子から転げ落ちそうになった佐助は、何とかその場で踏み止まる。

サイドテーブルに置かれたプラスチックの皿と数冊の雑誌が床へと落ちた。

 

「外が騒がしいな? 」

 

数分後、漸く地震が収まったが、次は建物の外から人の悲鳴や救急車両の音が聞こえて来た。

病衣姿のダンテがベッドから降り、窓から外の様子を伺う。

すると天鳥港の遥か向こう・・・・東京ゲートブリッジの辺りから、見たことも無い醜悪なオブジェが幾つも突き立っているのが見えた。

 

「アッチの方角は、確か雲雀ヶ丘がある辺りだ。」

 

ダンテの前に佐助が、ひょっこりと頭を出す。

東京都雲雀ヶ丘は、昨日、ダンテが調査した矢来地下道の隣の街だ。

地表から、醜い姿を晒す魔界樹の根は、更にその数を増し、絡み合い、巨大な塔を築いていく。

 

「悠長に、休んでいる場合じゃねぇよな。」

 

窓から離れたダンテは、私服が収められているクローゼットへと向かう。

その背に、大分慌てた様子の佐助が追い掛けた。

 

「ちょっと! 安静にしてろって16代目に言われたばかりでしょ? 」

「緊急事態だ。 あの女医さんには今日で退院したと伝えてくれ。」

「馬鹿言わないでよ! また俺様がお咎め喰らっちゃうでしょーが! 」

 

本当に勘弁してくれ。

ダンテの勝手極まりない行動のお陰で、今までロクな目に合っていないのだ。

遺物の横流しだって、この男が余計な真似さえしなければ、17代目に指摘される事も無かった。

 

「あらあら? 一体何の騒ぎかしら? 」

 

私服に着替えようとしているダンテを、佐助が慌てて押し留めている時であった。

病室のドアが開き、中から20代半ばぐらいの白衣姿の美女が姿を現す。

長い黒髪を頭の上で、アップに結い上げているこの女性は、『葛葉産婦人科医院』の責任者、16代目・葛葉忍、その人であった。

 

「良い所に来てくれた! 16代目! この馬鹿ゴリラをどーにかして! 」

 

地獄に仏とはまさにこの事。

佐助は直ぐに、助手の看護師を背後に従えた、モデル並みに均整の取れた美女に助けを求める。

 

「誰がゴリラだ! この糞猿!! 」

「うっさい! これ以上、俺様は信用を堕としたくないんだよぉー! 」

 

ギャーギャーと、不毛過ぎる争いをする二人の男を眺め、16代目が呆れた様子で溜息を一つ零す。

 

「雲雀ヶ丘の異変なら、特殊公安部隊と自衛隊が向かっているわ。 残念だとは思うけど、貴方の出番は無いと思うけど? 」

 

赤毛の青年の首を締め上げている銀髪の大男に向かって、16代目が窘める。

女医の背後に控えている看護師の早乙女・桜子は、どうして良いのか分からず、狼狽していた。

 

「あぁ? そんなもん関係ねぇ。面白そうなパーティーが目の前で始まってんだ。指を咥えたままお預けなんて御免だぜ。」

 

佐助の首を見事にロックしつつ、ダンテがモデル並みの体系をした美しい女医へと視線を向ける。

 

生まれ持った悪魔の血故か、ダンテの闘争心は人並以上だ。

目の前で繰り広げられている戦闘を、黙って見過ごす等、出来よう筈もない。

 

「そう、なら仕方ないわね。」

 

女医は、諦めた様子で肩を竦めると、すっかり怯えている看護師の方へと振り返った。

 

「桜子ちゃん、予備で置いてある防具と彼の武器を持って来て頂戴。」

「先生・・・・でも・・・・。」

 

内臓に重い損傷を受けた状態で、この病院に運び込まれたのだ。

いくら悪魔の再生能力を持つとはいえ、そんな患者を再び戦場に送り出して良いものだろうか?

 

「何言ってんの? 16代目! 組織からの指示がない悪魔討伐は規律違反だよ? 」

 

何とかダンテの腕を振り解いた佐助が、桜子の気持ちを代弁するかの様に、目の前の女医を睨み付ける。

 

「あら? 何も元締めの指示を受ける必要なんてないわ。 悪魔討伐の指令を出す権利は、私達、葛葉四家にもあるのよ? 」

「そ、そりゃそうですけどね・・・・。」

「それに、特殊公安と自衛隊よりも、私達の方が雲雀ヶ丘に近い。より多くの市民を助けられるかもしれないわ。」

「うぐ・・・・でも、旦那は怪我人・・・・。」

「なら、貴方も彼の監視役として現場に行けば良いじゃない。 まさか、怪我人の彼一人だけを行かせるつもりじゃないわよね? 摩虎羅君。」

 

16代目の指摘に、佐助はもうそれ以上、反論する余地は無かった。

苦虫を1000匹以上、噛み潰した様な渋い表情で、何も言えずに押し黙る。

 

「決まりだな。 佐助。」

「ううっ・・・・何で俺様ばっかりこんな目にぃ・・・・。」

 

ダンテと佐助の装備&武器を用意する為に、女医の指示で備品保管庫へと向かう看護師の後姿を、赤毛の青年は恨めしそうに眺めていた。

 

 

 

天鳥港、豪華客船『ビーシンフル号』のラウンジ内。

豪奢な照明や、幾つもの革張りのソファーやテーブルが設置されたその一つに、大分、場違いな恰好をした少年が座っていた。

フード付きのパーカーに、白のジャケット。

ビンテージのジーンズにジャケットと同色のスニーカーを履いている。

その肩には、小さな妖精が不安そうに主の顔色を窺っていた。

 

「落ち着きなよ? ライドウ。 周りの人が見てるよ? 」

 

左眼に黒い眼帯をつける少年- 17代目・葛葉ライドウに対し、小さな妖精、ハイピクシーのマベルが呆れた様子で溜息を零す。

 

マベルの指摘する通り、苛々と立ったり座ったりを繰り返すライドウの挙動不審な行動に、周囲の客達は、奇異の眼で此方を眺めている。

平日で、時間帯も大分早い為、宿泊客の姿は少ないが、それでも、10代後半ぐらいの少年が、一人、豪華なホテルのラウンジにいるのは流石に目立つ。

 

「わ、分かってるよ。 でも、まさかあの子が俺に連絡とか・・・・一体、どういう顔して逢えば良いのか分からないんだよ。」

 

今にも泣きそうな情けない顔で、組織最強の召喚術師は、小さな妖精に縋りつく。

 

あの忌まわしい出来事以来、ライドウと彼の愛息子である明との関係は、深い亀裂が入ったまま未だに修復出来ていない。

出来る事なら、昔の様に、良好な関係に戻りたいとは思っている。

しかし、それは決して叶わぬ願いだ。

明は、自分を父親としてではなく、異性として意識している。

歪な愛情を抱いていると知った以上、再び、昔の様に戻れる訳が無いのだ。

 

「あ、明が来たよ。」

 

マベルの声に、弾かれた様にラウンジの入口へと視線を向ける。

するとそこには、およそ一年ぶりに逢う義理の息子の姿があった。

 

「あ・・・・あ・・・・あき・・・・。」

 

激しい緊張感で、喉がカラカラに乾く。

中等部に進学してから、まともに息子の顔を見ていない。

あの頃よりも、大分、逞しく成長した明。

ボアパーカーに長袖のフリース、黒のパンツを履いていた。

身長も驚く程、伸び、モデル並みに均整の取れた見事な体躯をしている。

 

明は、義理父の姿を認めると、背後に控えている冬の季節にそぐわぬノースリーブのロングコートを着た黒髪の男に振り向き、何事かを二言三言交わすと、その肩を軽く叩いて、あっさりとラウンジに背を向けた。

 

「明っ!! 」

 

周囲の目など気にも留めず、大声で息子の名を呼ぶ。

しかし、明は応えない。

まるで、用事は済んだとばかりに、さっさとラウンジから去って行く。

 

思わず息子の後を追い掛けようと一歩、前へと踏み出す悪魔使い。

だが、それ以上前へと進む事は叶わなかった。

明は、ライドウと関わる事を拒絶している。

去っていくその背が、言葉も無く物語っている。

 

「お初にお目に掛かる・・・・17代目・葛葉ライドウ殿。」

 

意気消沈するライドウの前に、先程の黒髪の男が近づいた。

ノースリーブから覗く、全身を覆うタトゥー。

一目で、魔導士である事が分かる。

 

「俺の名はV、 貴方に頼みたい事があって此処に来た。」

「V・・・・? 」

 

既に、ラウンジから姿を消した息子の背から、視線を黒髪の陰気な男へと向ける。

男の唇が、皮肉な笑みの形へと歪んだ。

 

 

 

数時間前、東京都臨海公園。

蒼い乗用車の後部座席の開いたドアから両足を降ろし、赤根沢・玲子が座っている。

誰かに殴られたのか、右頬が真っ赤に腫れ、濡らしたタオルで抑えていた。

 

「大丈夫か? 赤根沢。」

 

化学教師の大月・清彦が、蜂蜜色の液体が入った試験管を玲子に差し出す。

インクの染みが広がった様な模様があるマスクを外し、元の陰気な性格へと戻っていた。

 

「はい。ありがとうございます。」

 

玲子は、差し出された試験管-宝玉を素直に受け取る。

先程の戦闘で、大分体力と魔力を失っている。

正直、口を開いて喋るのですら、辛い状態であった。

 

「やれやれ、女の顔を殴るとは酷い奴だ。」

 

アルミの包装を外し、試験管に満たされている液体を飲み干す玲子の姿を横目で眺めつつ、大月は、懐から愛用の煙草とジッポライターを取り出した。

 

「殺し合いに男も女も関係ないですよ? 」

「まぁ、確かにその通りだな。」

 

空になった試験管を乗用車に備え付けられている屑籠に捨てた玲子が、咥えた煙草に火をつける化学教師を見上げる。

 

矢来区の地下水道での戦いで、玲子は明から予想以上の深手を負わされた。

高速移動する玲子に明は、難なく対応し、挙句、此方の攻撃を全て往なしてみせたのだ。

玲子の腫れた右頬は、その時の戦闘で負った傷である。

 

「先生、 あの魔界の植物は一体何だったんですか? 」

 

気を取り直し、今まで抱いていた質問を化学教師にぶつけてみる。

思えば、今回の出来事は分からない事だらけであった。

地下水道全体を覆っていた、醜悪な植物らしき根。

恐らく、あの植物が今回の異変の原因である事に間違いは無いだろう。

 

「”クリフォトの魔界樹”だ。 本来は冥府にしか生息しない植物で、人間の血液を与えなければ、無害な代物らしい。」

「”クリフォト”・・・・。」

 

一年前に、遠い北の国で起こった戦争を想い出す。

確か彼の国では、”クリフォトの種籾”を原料に魔薬『ゼブラ』を開発していた。

玲子達は、その情報を得ると、冬休みを利用して、北の国、フォルトゥナ公国に観光客を装って入国。

フォルトゥナ城に潜入し、地下研究施設から『クリフォトの種籾』と保管されていた大量のマグネタイトを強奪した。

 

「あの植物が、あんな巨大に成長するなんて・・・。」

「お前等が飼育しているヤツとは全くの別モノだ。 アレは血液ではなく、生物のマグネタイトを餌にしてる。」

「マグネタイト・・・・・だから、地下道の悪魔達は、その植物に喰われていたんですね。」

 

玲子の脳裏に、魔界樹の根に貫かれ、息絶える哀れな怪物達の姿が過(よぎ)る。

クリフォトの魔界樹に襲撃された悪魔達は、出口を求め、恐慌状態になっていた。

だから、自分達が行く手を塞ぐ障害に思えたのだろう。

地下道の異変を調査する為に、訪れた都の調査員を無差別に襲っていたのは、それが原因である。

 

「よぉ、大丈夫か? 玲子。」

 

臨海公園駐車場入り口から、一人の少年が現れた。

仲間の黒井・慎二である。

 

矢来区のショッピングモールにあるピースダイナーで、”留守番”をしていた慎二は、大月の連絡を受けて、臨海公園に来たのだ。

 

「んで? 先生、お土産持ってきてくれたんだろ? 」

「ああ、良い子でお留守番していたご褒美をやるよ。」

 

何の悪びれも無く、右手を差し出す慎二に、大月は思わず苦笑を浮かべ、コートのポケットに収まっていた筒状の容器を渡してやる。

濃い緑色の液体が、たっぷり詰まった容器を見た慎二は、にんまりと満足そうな笑みを口元に浮かべた。

 

「すげぇ、こんなに純度が高いマグネタイトは初めて見たぜ。」

 

容器に詰まったエメラルドグリーンの液体を眺め、一人はしゃぐ。

生体マグネタイトは、悪魔が物質界・・・つまり人間界で活動する為のエネルギー源である。

激しい感情を持つ生物だけが多く持つ物質だと言われ、特に霊格の高い人間が多くのMAG(マグネタイト)を保有している。

又、魔導職の中でも、数が少ないと言われる悪魔召喚術師(デビルサマナー)は、高ランクな術師程、霊格が高く、保有しているMAGも常人より数十倍であると言われていた。

 

「うーん、軽く見積もって200・・・否、相場によっちゃぁ、400以上はするかな?これで暫く遊べるぜ。」

「こらこら、そいつは大事な”マガツヒ”の供物に使うんだろ? 勝手な真似すると魔神皇様に叱られるぞ? 」

 

高速演算で、金に換算するチャーリーを、大月が軽く窘める。

そんな二人を他所に、後部座席に座る玲子は、天空に輝く月を見上げていた。

大月から渡された『宝玉』のお陰で、明から受けたダメージはすっかり癒えている。

しかし、彼女の心の中は、すっかり様変わりした家族に対する戸惑いが残っていた。

 

「明の事なら諦めろよ? アイツはもう、俺達が知っている”明”じゃないからな? 」

 

ぼんやりと夜空を見上げている玲子に対し、何かを察したのかチャーリーが忌々しそうに舌打ちする。

 

沖縄で過ごした児童養護施設での生活。

ほんの数日間という短い期間ではあったが、彼等にとっては掛け替えのない宝物として美しく記憶の中に留まっている。

 

「頭の中では理解しているんですけどね・・・・明君は、もう私達の知っている彼じゃないって・・・・。」

 

地下水道での壮絶な戦いが脳裏を過る。

大月が助けに入らなければ、やられていたのは自分の方だった。

いくら黙示録の四騎士の力を持つとはいえ、その実力は歴然だ。

今の彼に対抗出来るのは、玲子が崇拝している狭間以外いないだろう。

 

 

 

数時間後、天鳥港、超豪華客船『ビーシンフル号』ラウンジ内。

 

上質な革張りのソファーに、パーカー姿の小柄な少年と、ノースリーブの長外套(ロングコート)を纏う、陰気な青年が向かい合う形で座っている。

 

「・・・・・・俺の話をちゃんと聞いているのか? 17代目。」

 

終始俯き、此方を見ようともしない悪魔使いの姿に、黒髪の青年- Vは、少々苛立った様子で睨み付けた。

 

「ライドウ・・・・。」

 

テーブルの上に座る妖精が、心配そうに主の顔を覗き込む。

 

1年振りに個人回線を使って、愛息子- 遠野・明から連絡が入った。

息子との間に入った深い溝を埋めるチャンスだと、ライドウは思ったに違いない。

だから、指定された時間の1時間前に待ち合わせ場所である、『業魔殿』に到着し、期待と不安の入り混じった悶々とした想いを抱えていたのだ。

しかし、結果は予想通りの空振り。

明は、義理父であるライドウの姿を確認しただけで、言葉すら交わす事無く、あっさりとラウンジから去った。

 

「あぁ・・・・・おーい、人修羅ちゃんよぉって、駄目だなこりゃ。 明ちゃんにシカトされたのが相当ショックみたいだぜ? 」

 

Vのタトゥーから、実体化した造魔・グリフォンが、マベルがいるテーブルの上に降り立つと、真っ白になって俯く悪魔使いを眺め、海よりも深い溜息を吐く。

 

「ちっ・・・・面倒な奴め。 それでも、『クズノハ』最強の召喚術師なのか? 」

 

大分、呆れた様子で、Vが舌打ちする。

彼の脳裏には、7年前、アメリカのスラム街で起きた『テメンニグル事件』で、対峙した悪魔使いの姿を想い出していた。

居合の範囲外に難なく入り込み、自分の技の出鼻を悉(ことごと)く潰した。

挙句、手も足も出ない状態で、あっさりと悪魔使いの術中にハマった。

あの屈辱と怒りは、今も尚、己の腹腔の中で燻(くすぶ)り続けている。

 

「お前の大事な息子・・・・・遠野・明もこの事件に関わっている。 」

「・・・・・っ! 何? 」

 

明の名前が出た途端、ライドウの眼の色に生気が宿った。

鋭い隻眼を、真向かいに座る黒髪の青年へと向ける。

 

「今現在、強大な力を持つ悪魔が、この現世に実体化しようとしている・・・・矢来区と朝日区・・・・そして、臨海公園の地下水道で起きている異変はそれが原因だ。 」

 

Vは、懐からスマートフォンを取り出すと、テーブルの上に置く。

病的な程、細い指先で液晶画面を操作すると、空中に矢来区を中心とした東京都の地図が、立体映像となって浮かび上がった。

 

「”クリフォトの魔界樹”は、お前も知っているな? 」

 

細い指先が、空中に浮かんだ一枚の写真を拡大させる。

一目で、この世のモノとは思えぬ醜悪なる植物。

かつて、魔界を放浪している時に、幾度も目にした事がある魔界樹の根だ。

 

「奴は、この魔界樹の力で、矢来区一体を異界化させようとしている・・・・と、此処まで話せば、お前もその悪魔が何者か、分かる筈だと思うが・・・。」

 

意味ありげに一旦、言葉を切り、Vは真向かいに座る悪魔使いの表情を伺う。

 

「悪いが、何を言いたいのかさっぱり分からねぇ。」

「分からない筈は無い。 20数年前、お前はこの悪魔と番契約をしていた。」

「・・・・・。」

「奴の走狗となり、悪逆非道の限りを尽くした・・・・・そして、お前は目的の力を手に入れると奴を裏切り、イェソドの街を焼き尽くした。」

 

暫しの沈黙。

青年の蒼い双眸と、悪魔使いの隻眼が静かにぶつかり合う。

 

「随分と詳しいな・・・・誰からその話を聞いたんだ? 」

「・・・・・アンブロシウス・メルリヌスという魔術師だ。」

「・・・・・っ! まさか、アンタ!? 」

 

黒髪の召喚術師の口から出た名前に、ライドウではなく、主の肩に座っている小さな妖精が反応を返した。

今にも噛みつかんばかりの鋭い双眸で、真向かいに座るVを睨み付ける。

 

「俺の言葉を信じる信じないは、貴方の勝手だ・・・・だが、俺は奴の蛮行を止めたい。 これ以上の悲劇が起こる前に。」

 

静かだが、その言葉には揺るがぬ信念が否応なく伝わって来る。

ライドウは、真向かいに座る青年をつぶさに観察した。

病的に白い肌に、痩せ細った身体。

ノースリーブのコートから覗く肌には、タトゥーが全身に刻まれている。

恐らく、あの刺青自体が召喚器の役割を担(にな)っているのだろう。

 

「・・・・・成程、お前の言いたい事は分かった。」

 

Vの言葉に一人納得すると、ライドウは視線を黒髪の術師の背後に控える大鷲の造魔へと向ける。

 

「13代目もこの件に関わっているのか? グリフォン。」

 

いきなり質問を投げかけられ、ソファーの背凭れに留まる大鷲が一瞬だが、たじろぐ。

 

「さぁな・・・・俺は唯の魔具(デビルアーツ)だ。 親父さんがコイツと契約しろと命令されたから従っただけだ。 それ以上は、何も知らねぇよ。」

 

グリフォンは、馴れ馴れしい口調で、大袈裟に首を捻る。

例え真実を知っていたとしても、目の前に座る人修羅に話す事はしないだろう。

魔具(デビルアーツ)とはいえ、人並に感情はある。

一番、信頼する主を裏切れる筈が無い。

 

「ライドウ・・・・。」

 

この魔術師は、明らかに真実を隠している。

依頼自体も、ライドウを嵌める為の罠だろう。

主の肩に座る小さな妖精が、不安気な表情で見上げる。

 

「分かった・・・・・装備を整えるから場所と時間を指定してくれ。」

 

この青年の意図が何なのか、それは全く分からない。

しかし、かつて自分が犯した大罪がこんな形で、東京都に住む市民達に降りかかるのだとするなら、見過ごす訳にはいかなかった。

 

 

 

東京都雲雀ヶ丘。

商業ビルや銀行、各種店舗が立ち並ぶ幹線道路内。

コンクリートの厚い地面を突き破り、異形の姿をした醜悪な魔界樹の根が、車や逃げ惑う人々を薙ぎ倒し、その鋭い切っ先で突き刺していく。

 

「百地警部補! 此処は危険ですから下がって下さい! 」

「馬鹿野郎っ! 一般市民の盾となる警官が逃げてどうするんだよっ! 」

 

5連発の回転式(リボルバー)、ニューナンブを右手に持った百地・英雄警部補が、部下であり相棒の周防・克哉警部に向かって怒鳴る。

 

現在、彼等『特命係』は、数名の武装した特殊警察隊と一緒に、市民を避難誘導する任務に当たっていた。

魔界樹の贄として襲われる一般市民と警ら隊。

銃声と悲鳴が轟き、阿鼻叫喚の地獄絵図を描いている。

 

そんな彼等の眼前に、何処からともなく飛来した巨大卍手裏剣が、”クリフォトの魔界樹”を斬り裂いていく。

続いて、大剣を背負う深紅の疾風。

銀色の閃光が幾度も閃き、魔界樹と異界から姿を現した醜悪な怪物、夜魔・エンプーサの群れを細切れへと変える。

 

「お・・・・お前は確か、矢来区の地下水道で・・・・・? 」

「よぉ、あの時は、随分と世話になったな? 」

 

百地警部補達の眼前に立つ、大柄な体躯をした銀髪の青年。

昨日、天鳥町にある『葛葉産婦人科医院』に収容された、魔狩人、ダンテがそこにいた。

 

「もー、一人で突っ走っちゃ駄目って、何度言ったら分かるのよ。」

 

一振りして刃に付着した悪魔の血を振るい落とし、大剣を肩に担ぐダンテの傍らに、忍び装束を纏った赤毛の青年が降り立った。

『十二夜叉大将』が一人、摩虎羅大将こと猿飛・佐助だ。

何時もの迷彩柄の忍び装束ではなく、革の肩当に手甲と具足、薄い茶を基調とした装束を纏っている。

 

「ごちゃごちゃ文句は後だ。 早速、お代わりが来たぜ? 」

 

地面から流れ出るドス黒い血溜まりから、夜魔・エンプーサの群れに混じって、彼等の女王・エンプーサ・クィーンが姿を現す。

醜悪極まりない異形の怪物を前に、佐助は盛大な溜息を吐き出した。

 

「はぁ、特別手当貰わないと割に合わないねぇ。」

 

両手に持つ巨大卍手裏剣を構える。

 

「マダムに交渉してみたらどうだ? 」

「パス、あの人ケチだからね。適当な理由並べられて、はぐらかされるのがオチだよ。」

 

にやにやと人の悪い笑みを浮かべるダンテに対し、佐助は拗ねた様に唇を尖らせる。

と、その時、彼等の背後に数台の装甲車が急停車した。

陸上自衛隊の装甲兵員輸送車、60式装甲車だ。

備え付けられている重機関銃が火を噴き、エンプーサの群れを鉛の弾丸が蹂躙していく。

 

「陸自の特殊部隊”飛龍”か!? 」

 

対悪魔用の特殊装甲版には、赤い龍がとぐろを巻くエンブレムが刻まれている。

陸上自衛隊が持つ悪魔討伐隊の一つだ。

少数精鋭部隊であり、特Aクラスの猛者達で構成されている。

 

「おいおい、撃ち過ぎだぞ? 又、財務省のぼんくら共に嫌味を言われるだろうが。」

 

3台停車している装甲車の一つから、胡麻塩頭の如何にも中間管理職といった風体の男が降り立った。

悪魔討伐隊第二師団『飛龍』隊長、坂本晋平二等陸佐だ。

 

坂本二等陸佐は、先程の一斉射撃で肉片と化し、塵へと還るエンプーサの群れを欠伸を嚙み殺しながら眺めていた。

 

「てめぇ・・・・確かフォルトゥナにいた・・・。」

「やぁ、久しぶりだね? ダンテ君。」

 

ダンテの姿を認めた坂本二等陸佐が、気安く右手を上げてみせる。

装甲車から次々と降り立つ、ボディーアーマーを装着する兵士達。

その中でも、特別警備のき章を右胸に付け、自衛官の制服を着ている坂本二等陸佐は、かなり場違いに見えた。

 

「あ、あれが新免無二斎殿ですか・・・・・。」

「そうだよ・・・・後藤事務次官が子飼いにしている怪物の一人だ。」

 

呻くように呟く周防警部に対し、百地警部補は、嫌悪感を隠そうともせず、数歩離れた位置にいる坂本二等陸佐を眺める。

 

見た目は、何処にでも良そうな、痩せぎすの中年の小男だが、中身は常人の常識を遥かに超える化け物だ。

政治の陰で暗躍し、様々な要人暗殺に手を染めている。

 

刹那、周囲から市民の悲鳴と怒号が轟いた。

見ると、陸自の一斉射撃から唯一生き残ったのか、エンプーサ・クィーンがガラスを引っ掻く様な耳障りな咆哮を上げて、暴れまわっている。

早速、始末せんと前に出ようとする特殊部隊の兵士達。

しかし、そんな彼等を坂本が無言で押し留める。

 

「先生? 」

「そういう無粋な兵器はどうも好きになれん。 下がりなさい。」

 

胡乱気に上司を眺める部下の一人を後方へと下がらせ、坂本は胸ポケットに刺さっている天然木製で造られた高級万年筆を取り出す。

 

「ダンテ君、知っているかね? ”ペンは剣よりも強し”なのだよ? 」

 

何の警戒も無く、ダンテと佐助の傍らを通り過ぎる自衛官。

怒り狂う魔蟲達の女王の前へと立つ。

右手に握るのは、何の変哲もない万年筆。

武器も持たず、自分に戦いを挑む愚かな人間に制裁を加えんと、エンプーサ・クィーンが鋭い爪が付いた前脚を振りかざす。

しかし、その凶悪な刃が獲物の肉体を切り刻む事は叶わなかった。

見えない刃によって、あっさりと両前脚を斬り落とされた挙句、頭部と胴体が綺麗に切断される。

坂本二等陸佐が、真空刃(ソニックブレード)で怪物の身体を斬り裂いたのだ。

地へと沈む悪魔の巨体。

切断面から、紫色の体液が間欠泉の如く噴き出す。

 

「はぁ・・・・・相変わらずおっかないねぇ、藤原玄信(ふじはらはるのぶ)殿は。」

 

天然木の万年筆を胸ポケットへと仕舞う坂本の姿を眺め、赤毛の忍が大袈裟に肩を竦めた。

 

「何しに来やがった? 」

「決まっている。此処にいる一般市民を避難させる為だよ。」

 

牙を剥き出しにして、警戒心を露わにするダンテに対し、坂本二等陸佐は苦笑を浮かべる。

 

そんな二人のやり取りを他所に、陸自の特殊部隊は黙々と仕事を進める。

パニック状態の市民達を的確に、シェルターまで誘導し、悪魔の群れを処理していく。

まるでロボットの様な精密な動きだ。

 

「Ptシステムですか・・・もう採用されたんですねぇ。」

 

両腕を頭の後ろで組んだ佐助が、粛々と仕事をこなしていく特殊部隊の様子をのんびりと眺める。

 

Ptシステムとは、Puppet(操り人形)の事を指す。

兵士の身体に個体IDが記録されたナノマシンを注入し、肉体の損傷、仲間達との五感を共有、そして感情すらも抑制するシステムの事である。

1年前のフォルトゥナ侵攻作戦で、数体の強化歩兵部隊が投入され、予想された結果以上の働きを彼等はした。

その後、幾度か改良され、漸く本日、日本でもお披露目する事が出来たのである。

 

「流石、”八咫烏”だ。 その通りだよ。」

 

皮肉な笑みを口元に浮かべた自衛官は、雲一つない快晴の青空を仰ぎ見る。

 

「マスコミ各社にも大々的に宣伝して貰わなければならないからねぇ。 このシステムを導入するのに、大分予算をつぎ込んだからね。」

 

晴天の青空には、何機かマスコミのモノと思われるヘリコプターが飛んでいた。

彼等は、雲雀ヶ丘で発生した悪魔達を使って、Ptシステムを国連加盟国に売り込みたいのだ。

悪魔によるパンデミックは、何も日本だけではない。

世界各地にシステム導入を促せば、それだけの収益が日本の防衛省やアメリカ国防総省に流れ込む。

 

「ちっ、オタクらの宣伝に使われる悪魔共が気の毒だぜ。」

 

坂本二等陸佐が放つ言葉の裏を理解したダンテは、嫌悪感に顔を歪めた。

大剣『リベリオン』を肩に担いだダンテが、忌々しそうに舌打ちする。

それは、警視庁『特命係』の二人も同じらしい。

手持無沙汰な様子で、遠くから坂本二等陸佐とダンテ達の会話を聞いている。

 

「此処は、我々に任せて貰おう・・・・その代わり、君等には稲荷丸古墳(いなまるこふん)に向かって貰う。」

「稲荷丸古墳・・・・? 」

 

聞きなれぬ言葉に、銀髪の青年が秀麗な眉根を寄せた。

 

「内調(内閣情報調査室)が調べたところ、異変の発生源と思われる場所が、世田谷にある稲荷丸古墳だと分かったのだよ。 君等二人は、直ちにそちらに向かい、事態を鎮圧して貰いたい。」

「え? たった二人で? ”飛龍”のお兄さん達、貸してくんないんスかぁ? 」

 

坂本二等陸佐の無茶とも取れる依頼に、当然の如く、佐助が異を唱える。

 

相手がどんな悪魔かまるで情報が無いのだ。

これだけの規模の異界化ならば、敵は相当な高位悪魔だと判断するのが普通だろう。

ならば、流石にダンテと二人だけでは、手に余る。

 

「すまんが、今日が彼等の初舞台なんだ。 おまけに”壁内調査”で、私の部下達の殆どが出払っていてね。とても君等に手を回す程の人員がおらんのだよ。」

 

困った様子で、胡麻塩頭の自衛官が大袈裟に肩を竦める。

 

「そんな無茶苦茶な・・・・・。」

「我々が同行しよう。」

 

途方に暮れる佐助に対し、思わぬ所から助け舟が出た。

警視庁『特命係』の百地警部補だ。

 

「我々だって、対悪魔特殊警ら隊の端くれだ。 悪魔(デーモン)の脅威から市民を護る義務がある。」

「警部補・・・。」

 

無謀ともいえる上司の申し出に、周防警部が咎める様に言葉を漏らす。

 

「ヒュー♪ 良いねぇ。中々ガッツがあるじゃねぇか? オッサン。」

 

それまで黙って事の成り行きを眺めていたダンテが、百地警部補の男気に、思わず口笛を吹いた。

 

 

 

東京都台東区北東部・・・・・通称”山谷のドヤ街”。

『ゴールドスタインの店』というネオン看板が、あるガレージショップに、壬生・鋼牙と遠野・明がいた。

 

「全く・・・・戦争でもする気か? 」

 

店の作業台に並べられた様々な武器。

サブマシンガンにアサルトライフル、ライトマシンガンにショットガンとピストル。

各種グレネードに、様々な形状をしたコンバットナイフまで置かれていた。

店主であるニコレット・ゴールドスタインが、呆れた様子で小型グレネードランチャーが装備されたアサルトライフルの調整をする明を眺める。

 

「今回ばかりは、今迄の相手とは大分違う。 僕達もそれなりの装備でいかないとね? 」

「・・・・・。」

 

無言で作業を続ける明の代わりに、鋼牙が応える。

大業物(おおわざもの)である備前長船兼光(びぜんおさふねかねみつ)を鞘から半分抜き、鏡の様に磨き抜かれた刀身を眺めた。

これは、『葛城の森』を出る時に、母親から無理矢理持たされたモノだった。

幼少時から、嫌な思い出しかなく、ガレージショップの倉庫に寝かせていた太刀であった。

 

明が武器一式をボストンバッグに仕舞い、鋼牙が、自分のハンドガンを確認している時であった。

店の出入り口が開き、頭に黒い毛並みのハムスターを乗せた銀髪の少年が姿を現す。

 

「ネロ? 」

「よぉ、面白そうな事やってんな? 俺も混ぜてくれよ? 」

 

ギターバッグを肩に引っ掛けた片腕の少年が、皮肉な笑みを口元に浮かべる。

執事である岡本氏に学校に行くと言って嘘を吐いて来たのだろう。

鋼牙達と同じ、エルミン学園の制服を着ていた。

 

「残念だけど、僕達のつまらない意地に、君を巻き込む訳にはいかない。」

 

”探偵部”部長兼、『葛葉探偵事務所』所長代理として、鋼牙は至極当然の事を言った。

 

此処から先、自分達が行おうとしている事は、当初の依頼内容とは、明らかに逸脱した行為だ。

矢来地区・・・・否、東京都全体が、異界化するという未曽有の大惨事が起きようとしている。

その異常事態を喰い止めるべく、その発生源と思われる『稲荷丸古墳(いなまるこふん)』にこれから向かうのだ。

同じ、探偵部とはいえ、片腕を失う程の大怪我をした仲間をこれ以上巻き込めない。

 

「”閻魔刀”を奪われた事を言ってんのか? なら安心しろ。”新しい力”は、手に入れてる。」

 

心配そうに此方を見つめる黒縁眼鏡の少年を安心させるかの様に、ネロは担いでいたギターバッグを降ろすと、ジッパーを開け、中から機械仕掛けの義手を取り出した。

 

「それは・・・・・。」

「アタシが、トロル師匠(せんせい)の設計を基に造った。」

 

自慢気に右腕の袖を捲り上げ、義手を装着するネロを眺める鋼牙と明に、簡易椅子に座る女店主が説明する。

 

 

 

『かさぎ荘』の一件から数日後、ニコの店に職人(ハンドヴェルガー)の師である悪魔講師のトロルが訪れた。

巨漢の悪魔講師は、店にある作業台の上に特殊ジェラルミンケースを置く。

そして、中から金色に輝くガントレットを取り出した。

 

「これって・・・・。」

「ヤールグレイプル、その昔、親友の為に俺が造った武具だ。」

 

ヤールグレイプル・・・・古ノルド語で、鉄で出来た掴むためのモノ、又は鉄の手袋という意味がある。

アース神族の一人、雷神ソーの為に創り出したガントレットであった。

 

「このガントレットを参考に、人間でも扱える武具を造れ・・・・お前なら出来る筈だ。」

 

トロルはそれだけ伝えると、ガントレットと特殊ジェラルミンケースを置いたまま、天鳥町にある『聖エルミン学園』へと戻ろうとする。

その背を、教え子であるニコが慌てて呼び止めた。

 

「ちょ、ちょっと! いきなり店に来たと思ったら、こんなヤバいもん置いて帰るなよ! 」

 

ニコの言う通り、神器は扱い方を間違えると大惨事を引き起こす、いわばパンドラの箱と同じだ。

それは、魔具(デビルアーツ)も同じ事なのだが、トロル・・・・魔王・スルトルが創り出した神器とは危険度が比べ物にならない。

いくら腕に覚えがある職人(ハンドヴェルガー)でも、ニコは、魔具(デビルアーツ)の修繕、鍛え直しを専門としている。

神器は、正直門外漢だ。

 

「何だ? お前が学生の時は、一度扱い方を教えてやったろ? それに、神器も魔具も基本は同じだ。」

「でも・・・・・。」

「お前は、常日頃、自分を”天才武器アーティスト”だと豪語していただろうが。 アレは嘘だったのか? 」

 

呆れた様子で溜息を零す恩師に、ニコの負けん気に火が付いた。

 

「は? ざけんな! いきなりアタシの店に来て、好き勝手ほざきやがって!理由の一つぐらい言ってみろってんだ! 」

 

怒り心頭のニコに対し、トロルはあくまで冷静だった。

まるで、愛しい我が子を見る様な優しい眼差しで、かつての教え子を見下ろす。

 

「ネロという少年が、『閻魔刀』を奪われた挙句、16代目・葛葉忍の手で悪魔の力を封じられた・・・・。」

「ネロ・・・・もしかして、鋼牙が連れて来た転入生の事か? 」

 

ニコの脳裏に、弟分の壬生・鋼牙が連れて来た銀髪の少年の姿が過る。

歳相応のあどけない顔をしていたが、明や鋼牙同様、人を喰った様な生意気な眼をしていた。

 

「あの子はいずれ、この国を・・・否、世界を救う守護者の一人になる。 お前が支え、力になってやるんだ。」

 

トロルは、それだけ弟子に伝えると、それ以上何も応える事無く店を後にする。

後に残されたニコ。

無言で去っていく恩師の広い背中を、只、眺めているより他に術が無かった。

 




ネタが・・・・無い。
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