偽典・女神転生~偽りの王編~   作:tomoko86355

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登場人物紹介

ケルベロス・鶴姫・・・・ 歴代ライドウのお目付け役兼指南役の業斗童子が『シュバルツバース破壊計画』が原因で消滅した為、一時的な代わりとなっている葛葉一族の墓守。
正体は、冥府の王・ハデス。
初代剣聖であり、『十二夜叉大将』の長、骸の師。
弟子に敗れ、新月期に以外は魔獣の姿になるという呪いを受けられる。
CSI(超常現象管轄局)NY支部長、ケビン・ブラウンとの間に一男一女の子供がいる。


第16話 『三つ首の魔女 』

その知らせは、あまりにも唐突だった。

念のためにと、八神・咲に教えた携帯の電話番号。

送話口の先で、涙ながらに少女が懇願する。

 

親友の日下・摩津理の歳が離れた妹、日摩理が今日、新宿衛生病院から退院する事。

植物生理学研究会が近い為、栽培している”マンドレイク”の報告書を作成するのに、手が離せなかった事。

摩津理の代わりに、世田谷区でケーキショップを経営している叔母に頼んだ事。

叔母の住んでいる世田谷区が、悪魔(デーモン)によるパンデミックで大変な事。

 

遠野・明は、それだけを聞くと、スマホを切り、運転席へと向かう。

 

「すまないニコ、緊急事態が起こった。 急いで高速から降りてくれ。」

「は? あともう少しで目的地に到着するんだぞ? 」

「良いから、俺だけ降ろして、アンタ達だけ先に美術館に向かってくれ。」

 

普段、感情をあまり表に出さない明にしては、珍しく語気が荒かった。

何か異変が起きたらしい。

長い付き合いで、それだけを敏感に感じ取ったニコは、世田谷区に入るとすぐに高速道路を降りる。

 

「おい、まさか一人で行くつもりじゃないよな? 」

 

高速道路を降り、路肩へと止めたニコの移動式作業場である大型のバンから、武器一式が入ったナイロン製のボストンバッグを担いで出て行こうとする明の背を、ネロが追い掛けた。

 

先程、明の傍らで、咲の通話を聞いている。

話の内容から、彼女の親友、日下・摩津理が、パンデミックが起きている世田谷に一人で向かったらしい。

だから、明は一人で摩津理とその妹を救出するつもりでいる。

 

そんなネロを完全に無視し、明は車から降りてしまう。

同じくバンから降りたネロが、長い前髪の少年の腕を掴んで止め様とする。

その手を振り払い、二人は無言で睨み合った。

 

「明、僕達も一緒に行くよ。」

 

今にも殴り合いを始めそうな二人の間に、壬生・鋼牙が割って入った。

共に戦うつもりでいるのか、右手には『備前長船兼光(びぜんおさふねかねみつ)』がしっかりと握られている。

 

「余計な事は良い、お前等は美術館に向かえ。」

「ざけんな! お前だけ一人で危険な目に合わせられるかよ! 」

「そうだよ。僕達は仲間(チーム)じゃないか。」

 

一人、激戦地帯へと向かおうとする明を、当然の如く二人が止める。

 

彼等は、既に他人では無かった。

短い期間とはいえ、”探偵部”として共に活動した。

家族と同じ、強い絆が、三人の間で芽生え始めようとしている。

 

「お前等・・・・・。」

 

何かを言いかけた明の言葉を、車のクラクションが遮った。

見ると運転席の窓から、女職人(ハンドヴェルガー)のニコが身を乗り出している。

 

「ごちゃごちゃ言い合いしている時間何かねぇんだろ? さっさと乗れ、場所を教えれば送ってやるよ。」

「ニコ・・・・・。」

 

どうやら、ニコも気持ちは鋼牙達と同じらしい。

彼女が言う通り、こんな所で問答している余裕は無かった。

一刻も早く日下姉妹を助け出したい明は、仕方が無いと言った様子で、大きく息を吐き出した。

 

 

五島美術館へと向かう環八通り。

数台の警察車両が、五島美術館の傍にある稲村山古墳(いなむらやまこふん)に向けて走っていた。

 

「どーにも腑に落ちねぇんだけどな。」

 

先頭を走る車両に乗り込んだ見事な銀色の髪を持つ青年- ダンテが、後部座席で一人呟く。

 

「何が? 」

「この事件を起こした犯人の目的だ。 一体、何のためにこんな大規模なテロを起こしたんだ? 」

 

同じく、隣に座る赤毛の忍の問い掛けに、ダンテが平らに流れていく車窓の景色を眺めながら応える。

 

これだけ、広範囲に渡る異界化。

こんな真似が出来るのは、魔王クラスの力を持った悪魔しかいない。

しかし、彼等が現世に実体化する為には、膨大な量のマグネタイトを要求される上に、此方側の協力者が必要不可欠になる。

魔王クラスの悪魔を呼び出すのだ。

それなりの理由が、必ずある筈だ。

 

「テロを起こす要因なんて、この日本じゃ幾らでもある。」

 

魔狩人の疑問に応えたのは、助手席に座る百地英雄警部補であった。

 

「お前さん達も知っての通り、この国には日本人より外国人労働者の方が圧倒的に多い。 十数年前に起こった第二次関東大震災で日本人の半数以上が死んじまったからな。」

 

手の中で、愛用のジッポライターを弄びつつ、百地警部補は独白とも取れる言葉を続ける。

 

「中国、韓国、ベトナム、フィリピン、ブラジル・・・・最近じゃ、ドイツ人やイギリス人も多いな・・・兎に角、この国は、移民の見本市みたいな所になっちまった。」

 

一昔前までは、移民の受け入れが多い国として、日本は4位ぐらいになっていた。

しかし、第二次関東大震災で、日本人の約半数以上が犠牲になり、とても国として機能していける状態ではなくなった。

その為、日本政府は、国の経済を立て直す為に、積極的に移民を受け入れなければならなくなったのだ。

当然、治安は一気に低下。

大国アメリカでもっとも治安が悪い、ミシガン州デトロイトと同じ状態になってしまう。

挙句、東京湾沖で発生した巨大な異界の穴。

そこから流れ出る瘴気と共に、悪魔が次々と実体化し、市民達を襲う様になる。

混乱した事態を収束する為に、政府はアメリカ国防総省並びに、ヴァチカン市国と協力し、それらを鎮火。

異界の穴-”シュバルツバース”を強力な呪式で組んだ厚い壁で覆い、悪魔(デーモン)に対抗する為、剣士(ナイト)や魔導士(マーギア)からなる、特殊公安部隊を設立する事となる。

 

「国も違えば文化も違う、当然、宗教や互いの価値観も違う・・・おまけに議員様達が作った”大和人権保護法”なんて悪法のお陰で、移民達の不満は爆発寸前だ。大規模テロが今迄起きなかったのが、不思議なぐらいだぜ。」

 

『大和人権保護法』とは、先住民族たる日本人を保護する為の政策である。

震災により、日本人の数が半数以下になった為、他国から労働力たる移民を多く受け入れたが、その弊害として、純血の日本人の数が減ってしまった。

このままでは、日本の文化や言語が滅びると危惧した時の政治家達は、『大和人権保護法』を立ち上げ、大和民族を護ろうとしたのである。

その結果、移民と日本人との貧富の差が出来上がった。

 

「さっき、坂本二等陸佐が、マスゴミ共にPTシステムを宣伝してたろ? ありゃぁ、ただ単に国連加盟国に宣伝するだけじゃぁねぇ・・・この国にいる移民や不法就労者達に知らしめる為だ。」

「成程・・・それで治安が良くなれば、加盟国の連中もこぞってシステムを導入するよな・・・。」

 

百地警部補が、何を言いたいのか漸く合点がいった。

この大規模な悪魔(デーモン)によるパンデミックが、政府による”やらせ”である可能性もあるという事だ。

 

「え? ちょっとまって? 警部補殿は、この事件が仕組まれた事って言いたいわけ? そりゃ、流石に無理があり過ぎるよ。」

「ばーっか、誰もそんな事言ってねぇよ。 俺は只、可能性の話をしてるんだ。Ptシステムで悪魔(デーモン)や治安の問題が解消されれば、システムを導入したいという国は必ず出て来る。そして、そいつらが力を持てば、国民を管理統制したがる。独裁国家の出来上がりって事よ。」

「や、嫌だなぁ・・・おっかない話は止めてよぉ。」

 

この日本が、かつての軍国主義国家に戻る。

最悪なシナリオを想像し、佐助は引きつった笑みを口元に浮かべた。

 

「その為に、選挙権っていう尊い武器があるんだろーが。もう少し、政治に興味を持て、甘い言葉に騙されるな。相手の本質を読み取れ、この国を良くも悪くもするのは、俺達、国民なんだぞ。」

「うっ・・・・確かにその通りですよね。」

 

痛い所を、警部補に抉りこまれ、佐助は押し黙る。

 

この国の政治に対する無関心さは、深刻な問題とされている。

震災が起こる以前の日本は、有権者の投票率が、半数以下であった。

その理由として、他国と比べ、社会の安定度が高いとされている。

アメリカを例に挙げると、業種間、地域間、階級間等の格差が大きく、社会の安定が低い為、政治について多く語られている。

だが、日本では、政治の話をするのがタブーという風潮があった。

特に、世間に政治の話を持ち出すと、抑制する空気が漂い、様々なリスクが生み易い。

学校という公共の場では、リスク回避の意識が高く、何か問題が起きると隠蔽する特徴があるのだ。

社会を学ぶ場である筈の学校が、こんな体質では、政治に対し、無関心になっていくのは当然である。

 

 

等級田園都市線・大井町線二子玉川駅・・・・二子玉川ライズの巨大ショッピングモール。

薄い茶のダッフルコートに、『聖エルミン学園』の制服を着た日下・摩津理は、叔母が経営しているケーキショップを目指して走っていた。

魔界樹の太い蔦が、硬いコンクリートの壁を突き破り、その醜悪な姿を晒している。

逃げ遅れたであろう一般市民達の無惨な骸を目の当たりにして、摩津理は、今にも歩みが止まりそうになった。

 

「駄目だ! 絶望するな! 前を向いて走れ! 」

 

喉の奥からせり上がる悲鳴を押し殺し、摩津理は、懸命に両足を動かす。

その時、彼女の行く手を塞ぐかの様にして、周囲の空間が歪んだ。

地面を汚す血だまりがブクブクと気泡を発し、中から醜悪な怪物、夜魔・エンプーサが、次々と這い出して来る。

 

「アルラウネ! 力を貸して! 」

 

行く手に立ち塞がる怪物の群れ。

摩津理は、右手に封魔管を握り、妖樹・アルラウネを召喚する。

毒々しい黒い花弁から生まれし、淫蕩な肉体を持つ女性の悪魔。

身体中に茨の蔦を絡みつかせた女悪魔は、摩津理の背後に怪しい笑みを浮かべて立つ。

 

「あいつ等を蹴散らすわよ!」

「了解、マスター。」

 

アルラウネと摩津理が一体化する。

摩津理の右腕に茨の蔦が絡みつき、獲物を狙う蛇の如くうねった。

 

『おいたは駄目よ? 坊や達。』

 

主の指示を受け、アルラウネが障害を排除すべく、夜魔・エンプーサへと襲い掛かる。

茨の蔦が次々と、異形の怪物達へと絡みつき、縛り上げた。

 

「消えろ!化け物共! 」

 

摩津理が、右の拳を硬く握る。

するとエンプーサの群れへと絡みついた茨がきつく締まり、悪魔の群れを粉々に砕いていった。

 

爆散した死骸から、紫色の体液が地面や壁に飛び散る。

摩津理の制服にも返り血が付着するが、構っている暇は無い。

少女は、茨を鞭の様に振るい、悪魔(デーモン)共を次々に薙ぎ倒して行く。

 

(お母さん、お願い! 日摩理とヒロコ叔母さんを護って!)

 

脳裏に、彼女が幼い時に事故で死亡した母親の姿が蘇る。

 

白い清潔な病室。

生まれたばかりの妹を胸に抱き、母は優しく幼い自分に笑いかけていた。

 

『これで、摩津理もお姉ちゃんね? 』

 

病院のベッドに腰掛ける母は、まだ首も座らぬ小さな妹を摩津理に渡す。

恐る恐る赤子を抱き抱える自分。

厚いタオルケットに包まれた妹は、あまりに小さく、少しでも力を込めたら壊れてしまいそうだった。

 

「きゃぁっ! 」

 

そんな物思いに耽っている時であった。

炎の弾が、目の前で爆散する。

衝撃で、倒れる紅茶色の髪をした少女。

見上げると、無数の蝙蝠達が、我が物顔で空を飛び回っていた。

凶鳥・ピロバットだ。

 

「あっ・・・・ああっ・・・・・。」

 

恐怖で脚が竦み、上手く立ち上がる事が出来ない。

尻で後退りする摩津理の周囲を、夜魔・エンプーサと邪鬼・ヘルアンテノラの群れが取り囲む。

とうとう、我慢出来ず、悲鳴が漏れそうになった刹那。

獣の唸り声の様なエンジン音が轟き、少女の頭上を大型のワンボックスカーが飛び越えていく。

 

車体にゴールドスタインという、派手な蛍光看板を取り付けた大型のバンは、邪鬼の一体にぶち当たり急停車した。

 

「日下! 無事か!? 」

 

バンから、見事な銀色の髪をした同年代の少年が飛び出す。

右手に持つ起動大剣『クラウソラス』が唸りを上げ、エンプーサとヘルアンテノラを斬り飛ばした。

 

「ネロ! 早く日下さんを車の中に! 」

 

同じくバンから飛び出した鋼牙が、備前長船兼光(びぜんおさふねかねみつ)を駆り、異形の怪物達へと躍り掛かる。

白銀の閃光が幾度も閃き、ヘルアンテノラとエンプーサの群れを細切れにしていく。

 

「歩けるか? ニコ達がいる所まで走るぞ。」

「う・・・・うん。」

 

差し出されたネロの手を震える手で掴み、摩津理は立ち上がる。

鋼牙と明の二人が、悪魔の群れを蹴散らし、悲鳴と銃声が辺りにこだまする。

血飛沫(ちしぶき)と肉片が飛び散る中、ネロに支えられながら、摩津理は何とかニコの移動式作業場へと乗り込む事が出来た。

 

「何で、アンタ達が此処に? 」

 

凄まじいスピードで、明と鋼牙の二人組に駆逐されていく悪魔の群れを横目で眺めつつ、摩津理は、当然ともいえる疑問を口にした。

 

「八神から連絡があったんだ。 お前が妹を助けに世田谷区に向かったって。」

「咲・・・・・そうか・・・・。」

 

ネロの言葉に、漸く合点がいった。

親友の八神・咲は、”薬学部”の顧問を務めている悪魔- トロルに保護されるまでは、”探偵部”の遠野・明に護衛されていた。

詳しい理由までは教えて貰えなかったが、咲が何か危険な事態に巻き込まれているのは理解出来た。

担当顧問に保護されて以降、彼女は積極的に黒魔法の技術を学んでいる。

 

「お願い、この近くに私の叔母が経営しているケーキショップがあるの。そこに、妹の日摩理が・・・。」

 

仲魔の妖樹・アルラウネを封魔管に戻しつつ、摩津理がネロに懇願したその時であった。

ショッピングモール全体が激しく揺れ、立っていられなくなる。

見ると、モールに立ち並ぶ店舗を突き破り、クリフォトの魔界樹が、その醜悪な姿を陽に晒していた。

 

「おい、そろそろ此処もやべーぞ。」

 

ガラス窓や壁を破壊しつつ、魔界樹は遥か天を目指して伸びていく。

周囲の異界化が更に進み、地面を人間の毛細血管を思わせる蔦が覆った。

 

「日摩理っ! 」

「おいっ!日下! 」

 

最早、一刻の猶予すらも無かった。

摩津理は、ネロの腕を振り払い、ニコの移動式作業場から出て行ってしまう。

 

「馬鹿! 何やってんだ! 早く追い掛けろ! 」

「分かってるよ! 」

 

ニコに叱責され、苛立った様子で、ネロが怒鳴る。

魔力か闘気術で脚力を上げているのか、信じられないスピードで摩津理の姿はモールの奥へと消えてしまった。

 

 

数時間前、 稲荷丸古墳前。

五島美術館のロビーから出て、台地の端を左へ向かうとロープで囲われた木立がある。

かつては、美しい庭園で観光客達の眼を楽しませていたその場所は、見る影すらも無かった。

醜悪な樹木が辺りを覆い、瘴気があちこちから噴き出ている。

もし、常人がこの場所に迷い込んだら、平衡感覚を失い、嘔吐と頭痛、倦怠感で立っている事すらもままならないだろう。

その異形の森を、深紅の呪術帯で顔を隠した小柄な少年- 17代目・葛葉ライドウが、何の躊躇いも無く進んで行く。

 

頭の中は、魔王・ユリゼンに囚われたパティの事でいっぱいだった。

 

何の関係も無い、ローエル親子を巻き込んでしまった。

ニーナとパティは『稀人の血』を持っている。

類稀な霊力を持つからこそ、ユリゼンに狙われ、魔導兵器の動力源にされたのだろう。

母親のニーナは、実父・ジョルジュから、厳しい魔導の訓練を受けている。

しかし、その孫娘パティは、修練を積んでもいないし、まだ年端もいかない子供だ。

もし、万が一、魔導兵器の動力源にされてしまったら、体力が持たない。

 

最悪のシナリオが脳裏を過り、呪術帯で覆われた唇を噛み締める。

 

(俺のせいだ・・・・・あの時、油断さえしなければ・・・・。)

 

数日前、東京アクアライン付近にあるサービスエリアの駐車場での出来事を想い出す。

20数年ぶりに再会した、かつての番。

とうに魔界で朽ち果てているであろうと思い込んでいた。

それが間違いだった。

奴は、驚くライドウに抱き着き、悪魔使いの思考を読んだのだ。

当然、ニーナ親子の情報も得ただろう。

あのゲス野郎は、自分の弱点を熟知している。

愛娘と同年代の少女を人質に取れば、必ず自分の下にやって来ると確信しているのだ。

 

『 しっかりしろ・・・・奴の術中にハマるぞ? 』

「お袋さん? 」

 

腰に吊るしてあるGUMPから、お目付け役兼指南役の魔獣・ケルベロスの声が、脳内へと響いた。

 

『あの娘は、お前を釣る為の大事な生餌だ。早々、無体な真似はしないだろう。』

「分かっている・・・奴の目的は、恐らく俺が奪った”真名(まな)”だろう・・・それで、力を取り戻すつもりだ。」

 

ライドウの視線が、己が背負う魔槍『ゲイ・ボルグ』へと向けられる。

この魔の槍には、マーリンの力の源たる『真名(まな)』が取り込まれていた。

 

20数年前に、奴の肉体から抉り取った”神の力”。

走馬灯の如く、脳裏に美しい金の髪をした亜人の少女と、エルフの子供達。

そして、焦土と化すイェソドの街が過った。

右手が無意識に、機械の左腕に触れる。

 

『 ライドウ・・・・・。』

 

弟子の心中を察し、ケルベロスが何かを言い掛けたその時であった。

背後から殺気を感じ、悪魔使いの身体が無意識に真横へと跳ぶ。

刹那、地を削り取る赤い閃光。

主の命を受けた魔神・アラストルが、蝙蝠から二振りの双剣へと姿を変え、悪魔使いの両腕に収まる。

彼等を襲ったのは、高速移動の能力を持つ、妖獣・ヒューリーであった。

目視不能な速さで移動し、群れで連携し、獲物を狩る。

双剣を構える悪魔使いから数歩離れた位置で、完全に退路を断つ形で、ヒューリーは深紅の鱗に包まれた、大型トカゲを連想する爬虫類的な姿を現した。

 

「ふふっ・・・・流石は”人修羅”、今のを避けるか。」

 

暗闇に閉ざされた森の奥から、ローブを目深に被った妙齢な女性が浮かび出た。

ヒューリーの群れを従え、ゆっくりと悪魔使いの傍へと近寄る。

 

「マルファスか・・・・お前も生きていたんだな? 」

 

双剣を構える悪魔使いが、女の正体に気付く。

 

女の名は、”マルファス”。

ダークエルフの女で、スヴァルトアールヴ族と双璧を成すドラウ族の一人だ。

反逆皇・ユリゼンの片腕であり、魔界では諜報活動をしていた。

 

「一度は死んだ・・・・貴様が、我が盟主を裏切り、イェソドの街を焼き尽くしたあの時にな・・・・。」

「・・・・・。」

「ユリゼン様の寵愛を受けていながら何故、あの方を裏切った? 迷いの森を抜けられたのも、ノモスの塔に封印されていた”神殺し”の力を得られたのも、全てはかのお方のお陰。」

「・・・・・・。」

「応えてみよ! 人修羅!! 」

 

ローブの下から覗く双眸が、隻眼の悪魔使いを鋭く睨む。

 

「そんな下らねぇ事を知ってどうする? 折角、生き返ったんだろ? だったら、大人しく魔界に還って残りの余生を楽しんだらどうだ? 」

「貴様! よくもぬけぬけとそのような・・・・っ!! 」

 

そこから先の言葉が止まった。

マルファスの喉元に、雷神剣『アラストル』の切っ先が突き付けられたからだ。

ダークエルフの女を護る様に立っていた妖獣達が、まるで糸が切れた操り人形の様に次々と倒れた。

見ると、悪魔(デーモン)の弱点である心臓に、深々と八角棒手裏剣が突き刺さっている。

この間、僅か数秒。

たったそれだけで、勝負は決まっていた。

 

「ば、馬鹿な・・・・・・。」

 

塵と化していく仲魔の亡骸を、マルファスは信じられないかの様に眺めていた。

20数年前よりも遥かに強くなっている。

自分の想像を遥かに超える怪物に、女は瘧(おこり)が掛かった様に振るえた。

 

「俺は今、虫の居所が悪い・・・・手加減してやる程、優しくはなれねぇ。」

 

浅黒い女の肌に、双剣の切っ先を押し当てる隻眼の悪魔使い。

深紅の呪術帯に覆われた左眼から、蒼い炎が噴き出す。

 

「ふっ・・・・私もだ。 貴様を見ていると殺意が抑えきれない。」

 

喉元に刃を押し付けられた女が、引き攣(つ)った笑みを口元へと浮かべる。

と、次の瞬間、女の身体が倍以上に膨れ上がった。

 

危急を察知し、逸早くマルファスから離れるライドウ。

女の下半身から這い出す、不気味な凶鳥。

眼窩は無く、その代わり鋭い嘴(くちばし)と鉤爪を連想させる巨大な翼と両脚が現れる。

纏っていたローブが破れ、下から三つの頭と三本の腕が露わになった。

 

「ホホッ、どうだ? ユリゼン様から頂いた新しい肉体だ。」

 

己を見上げる悪魔使いを見下ろし、マルファスが勝ち誇った笑みを浮かべる。

その姿はあまりにも醜悪であった。

例えるならば、巨大な怪鳥に乗った三つ首の魔女、といったところか。

 

「可哀想な奴だ。 あの変態野郎は、お前の忠義なんてこれっぽっちも感じちゃいない。お前の一族が実験体にされた挙句、クリフォトの苗床にされたのがその証拠だ。」

「黙れ! 」

 

怒り狂った魔女が、隻眼の悪魔使いへと襲い掛かる。

しかし、何処からともなく現れた白銀の疾風が、魔鳥の頭を蹴り飛ばし、異形の大樹へと叩きつけた。

 

「お袋さん? 」

「こ奴の相手は、私がする。お前はユリゼンの所へ行け。」

 

悪魔使いの前に悠然と現れたのは、見事な白銀の鬣(たてがみ)を持つ魔獣であった。

金色の双眸が、呻き声を上げながら巨体を起こす魔女へと向けられる。

 

「良いのか? 俺に手を貸したら骸の野郎が煩せぇんじゃねぇのか? 」

「ふん、あの下郎など関係ない。 偶には私に花を持たせろ。」

 

背後にいる愛弟子に対し、冥界の門番は大袈裟な溜息を吐く。

1年前の『フォルトゥナ侵攻戦』で暴れられなかった分、此処で鬱憤晴らしをさせろと言っているのだ。

そんな師に対し、愛弟子は呆れた様子で肩を竦める。

 

「了解、もう歳何ですから、程々にしといて下さいよ? 」

「戯け・・・・さっさと行かんか。」

 

憎まれ口を叩く弟子に、舌打ちすると、改めて三つ首の魔女へと向き直る。

一方のマルファスは、腹腔を焼き尽くす怒りに、歯を剥き出しにしていた。

上位クラスとはいえ、魔獣如きに良い様にあしらわれたのだ。

その怒りたるや筆舌しがたいだろう。

 

「卑しい魔獣如きがよくもっ! 」

 

マルファスが、巨大な魔鳥をケルベロスとライドウにけしかける。

振り下ろされる巨大な嘴(くちばし)。

魔獣と悪魔使いは左右に別れ、それを回避する。

硬い岩盤を魔鳥の凶悪な顎が深々と抉った。

 

「ぎゃぁっ!! 」

 

刹那、魔女の頬に強烈な一撃が炸裂する。

勢いで、二歩三歩とたたらを踏むマルファス。

何時の間に移動したのか、ケルベロスが、三つ首の魔女へと肉迫し、硬い鱗で覆われた尾で、殴り飛ばしたのだ。

続いて、ケルベロスの後ろ脚が、魔女の胸板を叩く。

地響きを上げて、地面へと沈む三つ首の魔女。

白銀の獣が、華麗に台地へと着地する。

 

「どうした? もう終わりか? つまらぬ奴よ。」

「ううっ・・・・おのれぇ。」

 

唇の端から血を流した魔女が、怒りに燃える双眸で、魔獣を睨み付ける。

そんな両者の激闘を他所に、ライドウは手甲に仕込まれたワイヤーを射出し、魔界樹の一本に撃ち込んだ。

超小型の電動リールを使い、遥か上空へと舞い上がる。

 

「おのれ!逃さぬ! 」

 

マルファスが、両手を前方へと翳(かざ)す。

すると幾つもの魔法陣が、高速展開され、そこから槍の様に鋭利に尖った結晶が、まるでマシンガンの如く吐き出された。

だが、白銀の突風と化したケルベロスが、爪と尾を使い、結晶弾を悉く粉砕。

一本を口に咥え、魔鳥の額へと投擲する。

寸分違わぬ正確さで、魔鳥の眉間へと深々と埋まる結晶の矢。

あまりの激痛に、魔鳥が奇声を発し、矢鱈目鱈に暴れまくる。

 

「えーい! 大人しくならぬか! この馬鹿鳥め! 」

「ハハッ、滑稽だな。」

 

激痛でのたうち回る魔鳥と、それに戸惑う魔女の哀れな姿に、ケルベロスが冷酷な笑い声を上げた。

 

両者の力量は、歴然としている。

マルファスは、全く歯が立たず、魔獣に傷の一つすら付けられない。

完全に遊ばれていると知り、魔女の顔が怒りで歪んだ。

 

「おのれぇ、貴様の肉体を100の肉片に切り分け、亡者共に喰わしてくれよぅ!」

「ほぅ、それは怖いな? 」

 

獲物である悪魔使いの姿を見失い、挙句、卑しい魔獣如きに此処までコケにされている。

怒り狂う三つ首の魔女に、魔獣は大袈裟に肩を竦めた。

その身体が、淡い光へと包まれる。

 

「な、何事だ? 」

「ふむ、忘れていたが、今日は新月だったな? 」

 

光に覆われた魔獣の輪郭が崩れた。

瞬く間に、人の姿へと変わる肉体。

光が晴れたそこには、美しい濡れ羽色の長い黒髪を持った、新雪の如き白い肌を持つ美女が立っていた。

 

「き・・・貴様、一体何者。」

 

惜しげも無く見事な裸身を晒す黒髪の女から、怖気が走る程の鬼気を感じ取る。

主から、底知れぬ力を与えられた筈の自分が、恐怖を感じていた。

一体、この女は何なのだ?

 

「どうせ、死にゆく者に・・・名前など名乗る必要など無かろう。」

 

再び光が女の肉体を包む。

魔力で衣服を精製したのだ。

白を基調にした大胆に胸倉の開いた着物と、赤い腰帯。

そして腰には七星村正を下げていた。

 

「さぁ、魔女よ。 精々、主から与えられた力とやらで、私を楽しませてみよ。」

「げ、下郎が! 」

 

頭に血が昇り過ぎた為か、それとも、あまりの恐怖故か、三つ首の魔女は、最早、冷静な判断力を失っていた。

空間に亀裂を造り、そこに巨体を隠す。

どうやら、この魔女は、任意で肉体の一部を移動させる事が出来るらしい。

巨大な魔鳥に乗った三つ首の魔女が、正体不明の女の頭上へと躍り出る。

その巨体さを生かし、女を圧し潰そうとしたのだ。

 

「死ぬが良い!! 」

 

躱す事が出来ぬ、必殺の一撃。

しかし、女は全く臆する事無く、口元に冷酷な笑みを浮かべた。

 

 

五島美術館、庭園内にある旧清水邸書院内。

現清水建設副社長宅を再現した邸宅内の畳には、金色の髪をした女性-ニーナ・ジェンコ・ルッソが毛布にくるまれ、横たわっていた。

その傍らに寄り添う、小さな妖精。

回復魔法を唱え、ニーナの意識が戻るのを辛抱強く待つ。

 

 

「なぁ? バージル。 俺達の仕事は終わった。 後は、ユリゼンと親父さんの二人に任せてずらかろうぜ? 」

 

造魔・グリフォンが、縁側に座る黒髪の魔術師に向かって、小声で囁く。

 

元々、彼等の役目は、四大魔王(カウントフォー)の一人、魔王・ユリゼンの元まで”人修羅”をおびき出す事にある。

これ以上、馬鹿正直に此処に長居する理由は無い。

 

「ユリゼンは信用出来ない。奴が素直にアレを造るとも思えんしな。」

「まぁ、確かにお前の言いたい事も分かるけどよぉ、アレを精製出来るのはユリゼンだけだ。 今は、奴を信じるしかない。」

「・・・・・。」

「それに、ヴィクトルのオッサンが言ってたろ? ユリゼンにとってアレを完成させるのは奴の悲願だって・・・大丈夫、”賢者の石”を奴は必ず造る。」

「・・・・・そうだな。」

 

Vことバージルは、背後で治療に専念している小さな妖精を振り返った。

どうやら、マベルもバージル達の事が気になるらしい。

自然と目が合い、慌てて顔を背ける。

 

「・・・・・すまない。 信じては貰えないだろうが、俺達は、関係の無い人間をこれ以上巻き込むつもりは無かったんだ。」

 

自然と、謝罪の言葉が口から漏れる。

 

「今更、言い訳なんて聞きたくない。 アンタは7年前にも大勢の人間を殺してる。 その人達の怒りと哀しみをアンタは、どうやって償っていくつもりなの? 」

 

マベルも又、何故、こんな問い掛けをしているのか理解出来なかった。

だが、聞かずにはおれなかった。

返って来る応えは、予想通りかもしれないが、この男の心理を少しでも知りたかった。

 

「テメンニグルの事か・・・・確かに、あの一件で俺は取り返しのつかない事をした。」

 

7年前、アメリカのスラム一番街で、バージルは、古の塔”テメンニグル”を現世に復活させた。

その時に、自分が開けた異界の穴から、大量の悪魔を現世に実体化させてしまった。

スラム一番街で、生活する多くの住民達が悪魔の餌食となり、生き残った市民達も、ヴァチカンの空爆により、犠牲となった。

 

「どうする事も出来なかった。 あの時の俺は、恐怖に支配されていた。そこから逃れる為に、父親である魔剣士・スパーダの絶大なる力を欲した。」

「恐怖・・・・? 一体、それは何。」

「母の・・・・俺達二人の母・エヴァを喰い殺した悪魔の事だ。」

 

バージルは見た。

記憶の彼方に封じていた記憶の断片を。

かつて大学院に在籍していた時に、家庭教師として訪れた、とある邸宅の地下で。

無惨に内臓を引きずり出され、四肢を引き裂かれる実母、エヴァの幻影を。

そして、ソレを行っていた深紅の巨大な悪魔の姿を。

 

「毎夜・・・毎夜、悪夢となって俺の心を蝕む・・・・ヤツは、まだ生きている。母の次は、必ずこの俺を殺しに来る・・・。」

「バージル。」

 

頭を掻きむしり、言葉に出来ぬ恐怖に震える黒髪の青年を、マベルは訝し気に眺める。

その時、妖精の耳に小さな呻き声が聞こえた。

見ると、意識を失っていたニーナが、眉間に皺を寄せ、大きく息を吐き出している。

開かれる蒼い双眸。

その視線が、赤毛の小さな妖精へと向けられた。

 

 

紫色の体液を撒き散らし、斬り飛ばされる魔鳥の翼。

同じく綺麗に切断された魔鳥の頭が、宙を跳び、凶悪な嘴(くちばし)が地面へと突き刺さる。

 

「馬鹿な・・・・そんな、馬鹿な・・・・。」

 

半身とも言える魔鳥を失い、無様に地面へと横倒しになる三つ首の魔女。

彼女も三本の腕を失い、左肩から胸にかけて大きく斬り裂かれている。

 

「ふむ・・・・流石は威神・アリラトだな。大した切れ味だ。」

 

長い黒髪を頭の上で結い上げた美女- ケルベロスこと鶴姫が、紫色に輝く刀身を繁々(しげしげ)と眺める。

この七星村正は、本当の持ち主である17代目・葛葉ライドウから、無断で拝借した代物だ。

鶴姫は、七星村正を鞘に納めると、血反吐を吐き、此方を恨めしそうに睨みつけている魔女の傍へと歩み寄る。

 

「メルリヌスから高次元魔法を与えられたらしいが、扱う術者が未熟では話にならんな? まぁ、奴にとってお前は単なる捨て駒だったんだろう。」

 

先程の戦闘で、この魔女が使った力は、任意に空間を歪曲(わいきょく)させ、肉体の一部、又は身体全体をワープさせる能力だ。

この能力は、高次元魔法と呼ばれ、同じ種類の魔法、転移魔法(トラポート)よりもかなり上の魔術とされている。

 

マルファスは、己と魔鳥を鶴姫の頭上に転送させ、その重量で圧し潰そうとしたのだ。

しかし、予め敵の攻撃を予想していた女剣士は、高速斬撃で魔鳥の首を切断し、その肉体を解体した。

 

「ううっ・・・・何故、その名前を・・・・? 」

「アレは、我々、オリュンポス神族の血筋に連なる者だ。 私が知っていても何ら不思議はない。」

「何? では、貴様はオリュンポス十二神の一人なのか? 」

「残念ながら違う・・・・私は、神の位を剥奪された”咎人”だ。」

 

鶴姫は、何の躊躇いも無く、魔鳥の上へと昇ると、三つ首の魔女の側へと膝を付く。

 

「貴様に一つだけ問う、”賢者の石”を知っているか? 」

「”賢者の石”? 」

「生と死を逆転させると言われる程、膨大な魔力を秘める霊石だ。お前の主、ユリゼン・・・否、アンブロシウス・メルリヌスが長年、”クリフォトの魔界樹”を材料に研究していた代物だな。」

「・・・・・知っている・・・・あの方が・・・メルリヌス様が言っていた。”大事な友達”を生き返らせる為に必要だと・・・・しかし、完成間近で、あの憎き人修羅が、メルリヌス様の”真名”を奪い、石は不完全なままだった。」

 

マルファスが、激しく咳き込み、どす黒い血を吐き出す。

最早、喋る力すら無いのだろう。

魔女の双眸から、生気が失われていくのが分かった。

 

「そうか・・・・漸く合点がいった。 これは礼だ。ゆっくり眠るが良い。」

 

鶴姫が、血を吐く魔女の額に手を翳(かざ)す。

すると魔女を苛むあらゆる苦痛が遠のき、安らかな眠りが訪れた。

三つ首の魔女の肉体から力が抜け、がっくりと首が頽(くずお)れる。

実体化が保てず、塵へと還る魔女と魔鳥の亡骸。

そこから、飛び降りた鶴姫が、軽やかに地へと降り立つ。

 

女剣士の視線が、自分が立つ場所から遥か頭上の崖へと向けられた。

 

「”賢者の石”を手に入れて・・・・一体、何を企む? 13代目。」

 

今はそこから離れた人物に向けて、鶴姫は一人呟くと、諦めたかの様に小さな吐息を吐いた。

 

 

 

稲荷丸古墳石碑前。

普段は、鬱蒼と茂る森の中にひっそりと建つ石碑だが、今は見る影すらも無く、異形の植物が生い茂り、その少し先は、まるでグラウンドの様に拓(ひら)けていた。

その中央に穿たれる巨大な穴。

直径、優に300メートルはありそうなその巨大な穴の入口に、漆黒のローブを纏った男が立っている。

鼻頭から首元に掛けて、ローブと同色の包帯が巻かれ、右手にはやや反り返った刃が特徴的な東洋の”刀”と呼ばれる武器を持っていた。

 

「はぁ・・・参ったぜ・・・まさか、”お袋さん”まで、出て来るとはな。」

 

困った様子で、ローブの剣士は、左手で頭を掻く。

墓守の魔獣が、出て来るとは予想外であった。

否、17代目を捕らえるのが目的だから、そのお目付け役たる墓守が拘わって来るであろうと予想はしていたが、まさか新月期を迎え、本来の姿に戻るとは予想外であった。

運命の女神は、何処までも自分達親子に試練を課すのが好きらしい。

 

「仕方ない。 一番楽な所から潰していくか。」

 

腰に備え付けられているガンホルスターから、愛用のGUMPを引き抜く。

トリガーを引くと、GUMPが携帯型小型PCへと変形した。

開かれた液晶画面に、二人の男が映る。

警察隊と共に、五島美術館に到着したダンテと猿飛佐助であった。

 




今日から仕事です。
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