偽典・女神転生~偽りの王編~   作:tomoko86355

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登場兵器

Ne‐α型・・・・三島重工が、北アフリカの巨大軍需企業、Asa(アサ)と合同で開発したBOW(バイオニックオーガウェポン)。
T‐103型に寄生生物”ピスハンド”を寄生させ、機械的サポートを各所に施した。
脳電磁波で動かす”ビット”が数基と、特殊ワイヤーのスタンガン。
小型誘導ミサイルに、腕には内臓型のサブマシンガンを装備している。
脳は摘出され、代わりに小型チップが埋め込まれており、指揮者(コンダクター)の脳波を受信して稼働する。



第18話 『 Ne‐α型 』★

東京都千代田区永田町、帝国会議議事堂。

左右対称のシンメトリーなこの建物の真下には、別世界が広がっている。

地下数千メートル。

人工知能『オモイカネ』によって、完全に管理された地下世界。

人類の英知が結集されたその場所に、『彼』はいた。

豪奢な日本庭園が一望出来る『釣殿』、その縁側に坐する長い黒髪の美丈夫は、煙管をくゆらせ、我が物顔で池の中を泳ぐ、極彩色の錦鯉を眺めていた。

 

「お前のお陰だよ? 佐助。 大事な人柱を失わずに済んだ。」

 

屋形の主、十二夜叉大将の長・骸は、釣殿と長い廊下の間、間仕切りと呼ばれる場所で頭を垂れる形で膝まづく赤毛の忍へと視線を向ける。

薄く笑む主に反し、赤毛の忍は、真っ青な顔をして俯いていた。

 

「ナナシもお前には、甘い所がある。 やはり、監視役として選んだのは正解だったな。」

「・・・・・あの・・・・17代目は・・・・・? 」

 

陶器で出来た灰吹きに吸殻をすてる主を、佐助が恐る恐る見上げる。

 

人類の護り手たる”人柱”を強奪し、組織を裏切ろうとしたのだ。

当然、只で済む筈が無い。

 

「そうだな。 そろそろ奴に対する仕置きも良いだろう。」

 

煙管を煙草盆に戻した骸が、二回程手を叩く。

すると跪(ひざまず)く佐助の傍らに、上品な灰色の背広を着る30代ぐらいの男が、何処からともなく現れた。

佐助と同じ”十二夜叉大将”に属する一人、宮毘羅大将だった。

縁なしの眼鏡を掛け、一見温厚そうに見えるが、その実、任務は忠実に遂行し、どんな残虐な行為を行っても、眉一つ動かさない冷酷な人物であった。

骸に対する忠誠心も厚く、箱根山にある『組織・クズノハ』所有の研究所の責任者を任されている。

 

「宮毘羅、摩虎羅をナナシの所に案内してやれ。」

「はっ。」

 

主に対し恭しく一礼し、無言で佐助について来いと促す。

 

途轍もなく嫌な予感がする。

佐助は、ぐっと唇を引き結ぶと、宮毘羅の後に従った。

 

 

 

二対の巨大な翼と、爬虫類を連想させる全身を覆う真紅の鱗。

その姿を一言で現わすならば、鋭角的な鎧を纏う悪魔の騎士であった。

水面から姿を現した魔人- ダンテと共に、ボタボタと肉塊が落ちて来る。

魔人化した衝撃で爆散した、巨大蛇・ヤクママの肉片であった。

 

怒りと屈辱で、黄金色に光る双眸が、フードを目深に被る男へと注がれる。

右手に握る大剣『リベリオン』を構え、裂帛(れっぱく)の気合の元、男-13代目・葛葉キョウジへと斬り掛かった。

それを迎え撃つキョウジ。

腰だめに刀を構え、次元を斬り裂く無数の斬撃、極意居合術、雲切之剣を放つ。

意表を突かれ、身の丈程もある大剣を盾代わりにするダンテ。

情け容赦無い斬撃は、肩や腕、両足や太腿を斬り裂き、鮮血が辺りに散った。

 

「ぐわぁあっ!! 」

 

衝撃波をまともに喰らい、ダンテが吹き飛ばされる。

地面へと叩きつけられ、衝撃で元の人間体へと戻った。

 

「野郎っ!! 」

 

相当な重傷であるにも関わらず、ダンテは持ち前のタフネスさで起き上がると、双子の巨銃”アイボリー”を構え、マシンガン並みの連続速射を行う。

迫り来る無数の鋼の凶器。

しかし、その牙が、キョウジの肉体を抉り取る事は無かった。

時速500マイル(時速約804Km)で跳ぶ鋼の弾丸を、全て空中で掴み取ってしまったのだ。

 

「なっ!!!? 」

 

あまりの出来事に、驚愕で双眸を見開くダンテ。

そんな魔狩人に対し、キョウジは煙を上げている右拳をゆっくりと開き、掴んだ弾丸を地面に落とす。

そして、最後に残った鋼の牙を、指で弾き跳ばした。

殆ど条件反射で、真横へと逃れる銀髪の大男。

先程までいた地面へと、弾き飛ばした弾丸が着弾。

台地が大きく抉れ、その衝撃波が、ダンテを襲う。

 

「うおぉお!? 」

 

思わず悲鳴を上げ、ダンテが地面に転がる。

キョウジは、闘気術を使い、”アイボリー”から吐き出された鋼の牙を空中で全て掴み取り、挙句、指でその一つを弾き跳ばしたのだ。

闘気を十二分に乗せられた弾丸は、砲弾並みの威力に増し、地面へと着弾。

地を大きく削り、巨大なクレーターを造る。

 

「・・・・・。」

 

これで一応の足止めにはなった。

そう判断した男は、爆風の煙に紛れ、何処ともなく姿を消す。

土煙が漸く晴れ、銀髪の魔狩人が顔を上げる頃には、襲撃者の姿は何処にも見当たらなかった。

 

 

東京都世田谷区上野毛、五島美術館から少し離れた一般駐車場。

そこに三島重工所有の最新型装甲車が停車した。

対悪魔用の装甲が施された扉が開き、中からグレーのダウンジャケットと黒のスウェット、薄い青のトレーナーにスニーカーという軽装をした狭間・偉出夫が地面に降り立った。

背伸びをし、すっかり異界化した世田谷の街を見回す。

 

「軽率な行動は控えて下さい。魔神皇様。」

 

憮然とした表情で、化学教師の大月・清彦が装甲車から降りる。

 

周囲の状況をロクに確認もせず、外へと出た偉出夫を責めているのだ。

 

「大丈夫だよ。彼等は此方がちょっかい掛けなければ、何もしないよ? 」

 

邪気が全くない笑顔を、渋い顔をしている数学教師へと向ける。

 

確かに、偉出夫が言う通り、悪魔(デーモン)の中にも大変臆病な種族はいる。

しかし、外道や幽鬼、邪鬼と言った、人間を餌としかみなさない連中は違う。

彼等は常に飢えており、マグネタイトを求め行動しているのだ。

人間という上質な餌を見つければ、有無を言わさず襲い掛かる。

 

自由奔放な主に、呆れた様子で肩を竦める化学教師の後に、横内・健太が続く。

元自衛官という事もあり、ネイビーのトレンチコートの下からでも分かる程に、鍛え上げられた体躯をしていた。

最後に、装甲車から降りたのは、異形の姿をした怪物。

笠の様な被り物をしており、黒い布で口元を覆い、闇色のコートを着ている。

体長は優に2メートルを軽く超え、顔には横一文字、橙色の光を放つ一つ目が布の隙間から見えた。

 

「シンジ・・・・・。」

 

装甲車の拡声器から、実母であるルドルフ博士の声が流れる。

背後にある要塞の如く強固な装甲車へと、振り返る漆黒の巨人。

布の隙間から見える橙色の光が、冷たく装甲車の中にいる妙齢な女科学者へと向けられる。

 

「いくら最新型とはいえ、Ne(ネメシス)細胞は不安定よ。無理はしないで。」

「ハッ、うるせぇよ・・・婆ぁ。」

 

装甲車の中にいる母親に向かって、中指を突き立てる。

そこに親子の情はまるで無く、完全に主人とそれに従う従者という、ある種歪な形をした関係が出来上がっていた。

 

「本当に彼等は親子なんですかね? 」

 

元自衛官は、此方に向かって歩いて来る漆黒の巨人を眺めつつ、ぽつりと小さく呟く。

 

「そうだよ。 美しい親子関係とはとても言い難いけどね。」

 

そんな横内に対し、偉出夫は大袈裟に肩を竦めた。

 

テレジアは、息子の慎二に対し、愛情はあるだろう。

しかし、その愛は、芸術家が己の生み出した”作品”に対する愛着心と非常に似ており、親が子に向けるモノとは明らかに違う。

一方、慎二ことチャーリーは、母・テレジアの心を見抜いており、彼女が自分を愛してはいない事を痛い程自覚している。

ならば何故、そんな母親に素直に従っているのかというと、『生きる』為だ。

小児癌を患い、余命幾ばくも無いチャーリーを救ったのは、全身義体化手術だった。

義体化手術を行ったのは、実母であるテレジア自身であり、息子を生かすも殺すも彼女の意志次第だった。

チャーリーの望みとはいえ、脳強化手術を快く引き受けたのは母であり、息子にBOWの研究開発を手伝わせているのも母親のテレジアだ。

 

「もしかして、チャーリーに同情してる? 」

「いえ・・・・僕も同じ様な家庭環境でしたから・・・・。」

 

横内は、左手で自身の右肩に刻まれた番号を触れる。

親の愛情を知らず、養護施設で成人するまで育ち、自衛隊に入隊した。

入隊後は、周りから認められる人間になる為、がむしゃらに働いた。

そのかいあって、除隊後は警視庁に配属され、それなりのポストにつけた。

最初のうちは、確かに幸せだった。

あの事件が起きるまでは。

 

 

五島美術館、天祐庵門前。

 

襲撃者の姿が完全に消えたのを確認すると、ダンテは力無く横たわる佐助の下へと急いで向かった。

医療の知識が無い素人が見ても、佐助がかなり酷い状態である事が分かる。

手で触れると、肋骨が数本拉(ひしゃ)げ、内臓にかなりのダメージを負っていた。

 

「待ってろ、今、回復魔法で楽にしてやる。」

「え? 旦那って医療系の魔法が使えるの? 」

 

佐助もダンテが取得している役職の種類は、把握している。

確か、白魔法(ホワイトマジック)も取得していた筈だが、今迄、それ系統の魔法を使った所を見た事がない。

 

「一応な、従軍時代に一通りの回復系魔法は覚えた。」

 

苦し気に呼吸を繰り返す忍を仰向けの姿勢にさせると、ダンテはダメージを負った箇所に手を翳(かざ)す。

口内で短く呪文を詠唱すると、翳した掌(てのひら)から淡い光が灯った。

途端、佐助の下腹部辺りから血が噴き出す。

 

「ぎゃぁっ! 血、血、血がぁああああああああっ!! 」

「あ、やべ。 呪文間違えた。」

 

慌てふためく赤毛の忍を力で抑えつけ、もう一度、違う呪文を詠唱する。

今度は、ベキベキと肋骨が折れる音。

佐助が、ガラスを引っ掻く様な悲鳴を上げる。

 

「もういいよぉ! 俺様、殺されちゃうよぉ!! 」

「あ、馬鹿! 暴れるんじゃねぇ! 」

 

これ以上、この男に任せていたら、確実に息の根を止められる。

生物の防衛本能に従い、瀕死状態である筈の佐助が、滂沱と涙を流して暴れた。

それを抑えつけ、何とか呪文を詠唱しようとするダンテ。

そんな彼等の頭上から、呆れかえった声が掛けられた。

 

「大の男が二人で、一体何をしているのだ? 」

 

妙齢な女性の声。

二人が其方に視線を向けると、額から血を流している色眼鏡の刑事に肩を貸す長い黒髪の美女が立っていた。

 

女- 鶴姫は、大分軽蔑した眼差しで、地面の上で下らないコントを繰り広げている二人の男を見下ろしている。

 

「おっ、お袋さぁあああああんっ! 」

 

ダンテの下から這い出した佐助が、大胆に胸倉が開いた着流しと腰に七星剣を帯刀している黒髪の女性に抱き着く。

 

「た、助けてぇ! このブタゴリラが俺様を虐めるんだよぉ!」

「はぁ? てめぇ! 誰がブタゴリラなんだぁ!? 」

 

重傷の割には意外と元気だ。

鶴姫は、自分の腰に縋りつく赤毛の忍に、溜息を一つ零すと、肩を貸してやっている色眼鏡の刑事へと視線を向けた。

 

「一人で立てるか? 」

「ええ・・・・何とか。」

 

額から血を流す刑事は、苦しい息の中、何とか女の質問に応える。

良く見ると、額だけではなく、下腹部からも夥(おびただ)しい血を流していた。

赤いシャツとグレーのスラックスが、血でぐっしょりと濡れている。

先程、13代目・葛葉キョウジから崖下へと落とされた時に、共に落ちたプロトアンジェロに負わされた傷であった。

何とか倒す事は出来たが、出血が思いの他酷く、その場で倒れ伏してしまった。

そこを、通りがかった鶴姫に助けられたのだ。

 

「アンタ一体何者だ? ”クズノハ”の人間か? 」

 

色眼鏡の刑事を降ろし、未だ腰に縋りついている赤毛の忍を少々強引に引き剥がす黒髪の美女を、ダンテは胡乱気に眺めた。

 

「フン、姿形が変わっただけで、もう私が誰か分からんのか。」

 

天祐庵門の大きな柱へと忍を寝かせ、傍らへと跪いた長い黒髪の美女は、傷の具合を調べながら、濃淡色の双眸を、両腕を組んで此方を見下ろしている銀髪の魔狩人へと向けた。

 

「・・・・・っ! もしかして、ワン公か? 」

「ケルベロスだ・・・・今は、16代目・葛葉ライドウの本番、鶴姫だけどな。」

 

ダメージが酷い箇所へと、上位回復魔法『ディアラハン』を唱えながら、鶴姫は改めて訂正する。

 

鶴姫曰く、彼女は十二夜叉大将が長、骸からある呪いを受けていた。

新月期から下弦の月の僅かな期間しか、人間の姿へと戻れないのだ。

それ以降、魔獣の姿でいる時は、葛葉一族の墓守兼17代目・葛葉ライドウのお目付け役兼指南役を任されている。

 

「ち、キョウジの奴め。内丹術に必要な臓器を念入りに壊していきおった。私ではこれ以上治せん。医術士(ドクター)でなければ無理だ。」

 

取り合えず、応急措置は出来たものの、闘気術に必要不可欠な臓器が使い物にならないままだ。

医術士(ドクター)の役職を持つ者なら、佐助を治療出来るだろうが、生憎この場では、その資格を持つ者がいない。

 

「え? それじゃ俺様、此処でリタイアなの? やったぁ! ラッキー! 」

「・・・・・。」

 

戦場から逸早く離脱出来る事を素直に喜ぶ忍に対し、その場にいる一同の視線は限りなく冷たい。

 

「アンタは大丈夫なのか? 刑事さん。」

 

アホな忍を一旦放置し、ダンテは大門の柱に背を預ける色眼鏡の刑事に視線を向ける。

大分、血を失ったのか、顔色は紙の様に白く、苦し気に呼吸を何度も繰り返していた。

 

「ええ・・・・傷口は再生しましたが、血を流し過ぎたのか、貧血で辛いですね。」

 

苦笑いを口元へと浮かべ、周防刑事は赤いシャツを捲って、ダンテに傷口を見せる。

若い刑事が言う通り、プロトアンジェロの持つ大剣で貫かれた傷口は、綺麗に塞がり跡形も無かった。

 

「・・・・・まさか、アンタも・・・・・。」

「貴方が考えている通りですよ。 ”私も人が造り出した人間”です。」

 

ウェストポーチから、魔石を取り出した周防刑事が、口の中へと放り込む。

すぐに造血作用が起こり、吐き気がする程の貧血は、大分緩和された。

 

 

五島美術館、本館前駐車場。

 

地面から次々に這い出して来る夜魔・エンプーサと妖獣・ライアットの群れを、警視庁機動隊の面々が、命がけで応戦していた。

銃剣使い(ベヨネッタ)の操る重機関銃が火を噴き、黒魔術師(ブラックマジシャン)達が、魔法を詠唱して氷や炎の槍で悪魔達を薙ぎ払う。

しかし、所詮は実戦経験に乏しい、即席の兵隊達だ。

物量の前に押し流され、仲間達が次々と倒されていく。

 

「糞っ! 本部からの増援部隊は何をしていやがるんだ! 」

 

ショットガンで、夜魔・エンプーサの頭部を吹き飛ばした百地警部補が、次第に後退を余儀なくされる部隊の面々を横目で眺めながら舌打ちする。

このままでは、百地含め、警視庁の特殊機動隊が全滅すると思われた刹那、凄まじいバイクのエキゾースト音が、周囲に轟いた。

悪魔の群れを次々と薙ぎ払い、巨大な黒い影が、苦戦する機動隊の眼前へと躍り出る。

六連装大口径リボルバー、”ブルーローズ”から鉛の牙が吐き出され、幽鬼・ヘルカイナの頭蓋を叩き割った。

大型ネイキッドバイク、ホンダCB1300SFの前輪が、両手に巨大な鉈を持つ邪鬼・ヘルアンテノラの身体を圧し潰し、大きな車体が地へと降り立つ。

 

「お、お前は確か”葛葉探偵事務所”の・・・・。」

「通りすがりの調査員だ。」

 

百地警部補の言葉を無感情な声が遮り、アサルトライフルの銃口が火を噴いた。

対悪魔用特殊弾が、悪魔の群れを次々と蹂躙し、物言わぬ肉塊へと変えていく。

時間にして数分の殺戮劇。

ジェット推進器付きの起動大剣『クラウソラス』が、悪魔を撫で斬りにしていき、二丁の巨大ハンドガンが、舞い踊る様に敵を屠(ほふ)る。

悪魔の軍団は、突如現れた少年二人組に成す術も無く、倒されていき、死屍累々と死骸の山を築いていた。

 

「これだけ数を減らしゃ、アンタ等でもどうにかなるだろ? 」

 

僅か数体を残し、悪魔の群れはほぼ全滅。

恐慌状態で逃げ惑う悪魔達を、特殊機動隊の隊員達が始末する姿を眺め、長い前髪の少年- 遠野明が両手に持った二丁のハンドガンを腰のホルスターへと戻す。

 

「この糞餓鬼共が・・・・余計な真似しやがって。」

 

大型バイクに跨(またが)る長身の少年に、百地警部補は、忌々し気に舌打ちした。

 

「その糞餓鬼のお陰で助かったんだろ? ちったぁ感謝しろよ? 」

 

機動大剣『クラウソラス』を肩に担いだ銀髪の少年・ネロが、苦虫を噛み潰した様な渋い表情で、明を睨み付ける警部補の脇を通り過ぎる。

再び後部座席へと乗り込み、五島美術館へと入ろうとする二人の少年を、壮年の刑事が慌てて止めた。

 

「お、おい! この先は危険だ! 警視庁から特殊公安部隊の連中が来るまで・・・・っ! 」

 

その先の言葉は、獣の唸り声の様なエキゾースト音で掻き消された。

馬の嘶(いなな)きの如く、一度前輪を浮かせてウィリー状態にすると大型バイクは、凄まじいスピードで、魔の森と化した五島美術館の中へと消えていく。

 

「この、糞餓鬼共がぁ!! 」

 

彼等を止める術を持たない百地警部補の遠吠えだけが、周囲へと虚しく響いた。

 

 

「何故ついてきた? 」

 

美術館を突っ切り、春山壮門へと向かう道すがら、明は今迄溜めていた疑問を後部座席に座るネロへとぶつけた。

 

「は? 別に良いだろ? ニコから貰った”デビルブレイカー(コイツ)”を試してみたいだけだよ。」

 

後部座席に座るネロは、右腕の機械仕掛けの義手を閉じたり開いたりしてみせる。

ネロが装備している義手-”オーバーチェア”は、数千万ボルトの電撃を周囲へと発する能力を持つ対悪魔用の武器だ。

ニコの師、トロルが持って来たガントレットを基に製作されており、使用者の精神力で、攻撃力が増大する特殊な仕組みになっている。

 

「臍曲りめ、子供の死体を見て義憤に駆られたと素直に言ったらどうなんだ? 」

「煩せぇな、お前は黙ってろ! 」

 

ネロの右肩にしがみつく黒い毛並みのハムスターが、大分、冷めた表情で己の主を眺めた。

 

クラスメートである日下・摩津理の妹、日摩理の死に対し、怒りを覚えたのは何も明だけではない。

ネロも、年端もいかぬ少女が、理不尽に命を奪われた事に対し、明と同じ感情を抱いたのだ。

 

「此処から先は、悪魔のスキルが段違いに上がって来る。 お前をカバーしてやれる程、俺は器用じゃない。」

「へっ、安心しろ。自分の事は自分で何とかするからよ。」

 

そうお互い軽口を叩き合っている時であった。

突如、彼等の頭上から何かが降って来る。

まるで大砲の弾が落ちて来たかの様な爆発音と衝撃に、明は大型バイクのハンドルを切り、急停車した。

濛々(もうもう)と立ち上る黒い煙。

ユラリと揺らめく巨大な影が、二人の傍へと近づいて来る。

 

「言ってる傍から、敵さんのご登場か? 」

「気を付けろ? 小僧。 とてつもない魔力を感じるぞ。」

 

皮肉な笑みを口元へと浮かべ、ネロが大型バイクの後部座席から降りる。

余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な主に反し、肩に乗る黒い毛並みのハムスター・炎の神・シウテクトリは、早くも臨戦態勢に入っていた。

 

煙の壁を通り抜け、ネロと明の前に現れたのは、漆黒のマントと巨大な傘を被る巨人であった。

横一文字に光る真紅のバイザーが、二人を不気味に照らす。

 

 

 

五島美術館、庭園、大日如来像前。

異界化が進み、魔界樹”クリフォト”が生い茂る森の中に三人の人影があった。

稲荷丸古墳の最下層に眠る”あるモノ”を狙って庭園に侵入した狭間達『魔神皇』一派であった。

 

「ち、黒井の奴、勝手な真似を・・・・。」

 

横内・健太が何処かへと消えた巨人に対し、忌々し気に舌打ちした。

 

「放っておけよ。 新しい玩具を手に入れてはしゃいでんだよ。」

 

幾何学模様のマスクを被った大月・清彦が、そんな横内に対して呆れた様に肩を竦めた。

 

つい先程まで、彼等は異界の森と化した五島美術館の広い庭園で、悪魔を排除しつつ稲荷丸古墳(いなまるこふん)を目指していた。

異界化に伴い、地形は大分歪み、普段は軽い散策程度で済む道程(みちのり)が、恐ろしい程、広大な魔の森へと変貌している。

それでも、順調に古墳へと近づく彼等、一行にある異変が起きた。

Ne‐α型の外装を纏う黒井・慎二が、二つの強い気を感知したのだ。

外装に内臓されているビットを飛ばし、気の正体を探る。

チャーリーの予想通り、二つの気の正体は、明とネロであった。

 

「明・・・・・。」

 

大型バイクに跨る長い前髪の少年をビットが送る振動伝播で知ったチャーリーは、小さく呟く。

矢来区地下水道で、散々煽られた怒りが腹腔内を満たすのが分かった。

特殊繊維で編まれたワイヤーを射出し、明達がいる春山荘門へと向かう。

突然の暴挙に、横内達は止める間すらもなかった。

 

「流石、新型、大した機動力だね? 」

 

何が一体楽しいのか、偉出夫は口元に邪気の無い子供の様な笑みを浮かべていた。

 

「彼を放置して大丈夫でしょうか? 」

「大月先生・・・・おっと、”今はヴィランさん”だったかな? の言う通りにしておこう。俺達の組織は自由行動がモットーだからね? 」

「そうそう、規律なんざぁ糞喰らえ・・・だぜ? 横内一尉殿。」

 

かつて所属していた自衛隊の階級で呼ばれ、横内の表情が鋭くなった。

 

「僕はもう自衛官じゃない。 その呼び名は止めてくれ。」

「ハハッ、そいつはぁ、悪かった。」

 

不快感を隠しもせず、此方を睨みつけて来る青年に、覆面の男はからかう様に笑った。

 

「そうだ・・・・ペイルライダーだけが自由行動ってのもおかしいよね? 丁度良いから此処で別々に分かれるってのはどうだろう。 」

 

狭間偉出夫曰く、周囲の悪魔を狩ってMAGを集めるも良し、瘴気によって生み出された薬草や、鉱物を回収するも良し、又、当初の目的通り、稲荷丸古墳(いなまるこふん)に向かうのも個人の好みで決めるという、とんでもない提案を出して来た。

 

「古墳の最下層に行って”賢者の石”を回収するんじゃないんですか? 」

「それは俺がやる。 君も無理に付き合う必要は無いんだよ? 」

 

まるで、全てを見透かす様な深紫(こきむらさき)の瞳を向けられ、横内はそれ以上何も言えなくなる。

ヴィランの言う通り、”魔神皇”という組織は、何者にも縛られず、個人が好きな事を好きなだけするという、一組織では有り得ない戒律がある。

組織の長である偉出夫が、『ちょっと手伝って欲しい。』という指示があれば、それに従わざる負えないが、今回の件はそれがない。

稲荷丸古墳の最下層にある”賢者の石”強奪も、パトロンである三島重工から装甲車等の資材を借りる為の建前であり、本音は、『ただ面白そうな事が世田谷区で起きているから見に行きたい。』というのが理由であった。

 

「全く、相変わらずいい加減だな? 良く三島の爺さんを納得させられたもんだぜ? 」

 

そんなリーダーの提案に、ヴィランは呆れた様子で肩を竦めた。

三島の爺さんとは、当然、三島重工の会長、三島・喜作の事である。

日本を代表するH・E・C(Human electronics company )と双璧を成す巨大軍需企業であり、典型的な戦争成金だ。

薬品製造等にも、深く根を張り、BOW(バイオニックオーガウェポン)開発等にも率先して取り組んでいる。

その会長である喜作は、偉出夫を神の如く崇め、自身の右腕である松坂を通して、色々と手を貸していた。

1年前に起こった”フォルトゥナ侵攻戦”でも、資金面で偉出夫に尽くしている。

そのお陰で、”ゼブラ開発”という金の卵を産む鶏を手に入れる事が出来たが。

 

「喜作君は、お金があり過ぎて使い道が分からないらしい。 まぁ、有体な言葉を使うと金持ちの道楽だよ。」

「金持ちの道楽・・・・・ねぇ。」

 

自分より遥かに人生の先輩である筈なのに、偉出夫はクライアントを態と下の名前で呼ぶ。

要は、三島会長を心底馬鹿にしているのだが、当の本人は、それを知りつつも尚、偉出夫を崇拝する事を止めない。

逆に見下されれば見下される程、三島は喜びを感じるのだ。

 

「おい、何処に行くんだ? 兄ちゃん。」

 

そんな二人のやり取りを他所に、天祐庵門方面へと向かおうとする元自衛官の背に、覆面男が胡乱気な声を掛けた。

 

「自由行動なんでしょ? なら、僕は僕の好きな様に動く。」

 

横内は、着ているジャケットのポケットから銀色に光る封魔管を取り出すと、その封印を解く。

すると、天から雷の柱が横内の身体を貫き、周囲を光の渦が包んだ。

光が晴れると、そこには真紅のマントを纏った巨漢の騎士が立っている。

肩に大剣を担いだ騎士- レッドライダーは、雷鳴を轟かせるとヴィランと偉出夫の目の前から忽然(こつぜん)と消えた。

 

 

 

 

佐助が、同胞である”十二夜叉大将”が一人、宮毘羅の案内で地下の座敷牢へと案内されると、そのあまりな光景に一瞬息を呑んだ。

両手を鉄の枷で、背後に一纏めにされた黒髪の少年が、胡坐をかいた巨漢の大男の膝に乗せられ、秘所に太い肉の杭を打ち込まれていた。

 

「じゅ、17代目っ!! 」

 

意識は朦朧としているのか、右耳から血を流す傷だらけの少年- 17代目・葛葉ライドウは、力無く身体を上下に揺さぶられている。

その姿を目にした佐助は、怒りの形相も露わに、格子戸へと一歩踏み出す。

しかし、背後に控えた宮毘羅に肩を掴まれ、無理矢理押し止められた。

 

「離せよ! 」

「おやおや・・・・こうなるのは、分かっていたんじゃないんですか? 摩虎羅殿。」

 

飄々とした態度からは想像も出来ない形相に、宮毘羅は呆れた様子で肩を竦める。

 

17代目・葛葉ライドウが、箱根山にある隔離施設から『人柱』を強奪する計画を、組織”クズノハ”の暗部である”八咫烏”に密告したのは、誰あろう佐助本人である。

人類に対する明確な”裏切り”行為が、どんな形で本人に跳ね返るかなど、口で言わずとも分かる筈であった。

 

「まぁ、これ以上、貴方の傷口を抉るのは無粋ですね? 招住羅、いい加減、17代目を離してあげなさい。」

 

佐助を抑えていた30代半ばぐらいのスーツと眼鏡の男が、ライドウを弄んでいる大男へと声を掛ける。

大男- ”十二夜叉大将”が一人、招住羅は胡乱気な視線を格子戸の向こう側にいる二人の男へと向けた。

 

「ちっ、折角、良い所だったのによ。」

 

小山の如く巨漢な体躯をしている男は、忌々し気に舌打ちすると、半ば意識を失い、項垂れているライドウの顔を上げさせ、その唇を貪った。

佐助に見せつける様に、暫く悪魔使いの口内を堪能した招住羅は、唇を離し、凌辱の跡も生々しい、華奢な肢体を畳みへと投げ出す。

はだけていた着物を直し、立ち上がるその姿は、優に2メートルを遥かに超え、狭い座敷牢の天井に頭が届きそうであった。

 

「殺してしまったか? 」

「馬鹿言え、ちゃんと手加減してるよ。」

 

ライドウを跨ぎ、格子戸を開けて宮毘羅達がいる通路へと出た招住羅が、皮肉な笑みを口元へと浮かべて応えた。

そして、怒りで震える佐助を一瞥すると、そのまま無言で、通路の奥へと消えていった。

 

 

 

「佐助・・・・・おい、佐助! しっかりせぬか! 」

 

”お袋さん”の声に、赤毛の忍は漸く意識を現実へと引き戻す。

気が付くと、自分はモデル並みに均整が取れた長い黒髪の女性に背負われ、魔界と化した五島美術館の庭園を高速移動していた。

 

「もう少しで、あの刑事が連れて来た機動隊の所に着く。それまで勝手に死ぬんじゃないぞ? 」

「や、嫌だなぁもう・・・・縁起でも無い事言わないでよ? 」

 

黒髪の美女- 鶴姫の言葉に、佐助は苦笑いを浮かべた。

 

どうやら、自分は予想以上に酷い状態らしい。

傷の痛みからか、暫く意識を失っていた様であった。

過去の愚行を思い出すとは、何とも嫌な夢である。

 

 

天祐庵門前での死闘後、謎の襲撃者- 葛葉キョウジに瀕死の重傷を負わされた佐助は、鶴姫の応急処置を受けた。

しかし、内丹田に必要な臓器を壊されており、専門職である医師(ドクター)以外治療が出来ない。

周防警部が所属する特殊機動隊には、専門職である医師(ドクター)が何名かいる。

彼等がいるのは五島美術館前なので、一旦、ダンテ達とは別れ、鶴姫は負傷した佐助を背負って、一路、特殊機動隊がいる美術館駐車場へ向かう事となった。

 

 

「ははっ、それにしてもこうやってお袋さんにおんぶされてると子供の時を想い出すねぇ。」

 

鶴姫から漂う懐かしい柑橘系の香り。

その甘い匂いを嗅ぎながら、佐助は遠い過去の出来事を想い出す。

幼い頃、訓練が余りにもキツ過ぎて、修練場から逃げ出した事が幾度かあった。

大社跡地で啜り泣く自分を、何時も迎えに来てくれたのが鶴姫だった。

 

「あの頃は、17代目が滅茶苦茶怖くってさぁ・・・・訓練の時は、いっつも逃げ回っていた。」

「・・・・・・・。」

「社に隠れている俺をお袋さんが見つけては、おんぶして”葛城の里”まで帰ったっけ。」

「・・・・・過去を悔いているのか? 」

 

佐助の独白を黙って聞いていた女剣士が、ポツリと呟く。

 

「お前は与えられた役目を、只遂行しただけだ・・・・何も間違ってはいない。」

「・・・・・。」

 

佐助が何を想い悩み、何を後悔しているのかなんて、手に取る様に分かる。

4年前、17代目・葛葉ライドウが、”人柱”として選ばれた愛娘、ハルを救う為に、彼女が収容されている箱根山の研究施設に潜入した。

途中までは、何の障害も無く、無事に救出出来たが、それは骸が仕組んだ罠だった。

監視役として、常に傍にいた佐助が、己の主である骸に密告していたのだ。

当然、計画は失敗。

ライドウは、柱強奪に手を貸した息子共々捉えられ、苛烈極まる拷問を受けた。

 

「あの馬鹿者だって、自分のしでかした事を十二分に理解している。 その証拠にお前に対して、何も言ってきてはいないだろ? 」

「うん、何時もと変わらない・・・・優しくって怖い17代目だよ。」

 

ライドウは、何も言わない。

あれだけ酷い目に合わされながらも、何一つとして佐助を責める言葉を浴びせる事はしなかった。

自分の有能な片腕として、接してくれる。

それが、佐助には辛くて堪らない。

 

あの日、同じ”十二夜叉大将”の一人である招住羅大将とその配下達に、凌辱の限りを尽くされたライドウは、力無く座敷牢の床に倒れていた。

そんな彼の姿に、あろう事か、自分は欲情した。

あられもない17代目の姿に、自慰行為をした。

欲を吐き出し、汚液で汚れる自分の手を見た瞬間、吐き気を催(もよお)した。

 

「俺ってば最低・・・・。」

「・・・・・。」

「何回生まれ変わっても、同じ事を繰り返している・・・・守りたいのに・・・。」

「独眼竜政宗の事か・・・・・もういい加減、過去に囚われるのは止めろ。今を見据えて生きろ。」

「分かってるよ。」

 

天高く舞い上がる美しい蒼き龍。

しかし、その龍を地へと堕とし、泥に塗(まみ)れさせたのは、他ならぬ己自身だ。

過去の愚行を想い出し、佐助は唇を切れる程、噛み締めた。

 

 

Ne‐α型が被るマスクの紅いバイザーの光が、不気味に二人の少年を照らす。

まるでキノコの様に張り出した傘を被り、漆黒のマントと、その下から覗く強化外骨格のスーツ。

関節部から蒸気を吐き出し、エンジンの駆動音が微かに聞こえる。

 

「またスゲェのが出て来たな? 何なんだ? コイツ。」

「俺の知り合いだ。」

「はぁ? 」

 

右隣にいる明の言葉に、銀髪の少年、ネロは訝し気な視線を向ける。

すると機械仕掛けの怪物から、くぐもった笑い声が聞こえて来た。

 

「よぉ、矢来地下水道以来だよなぁ、元気にしてたかぁ? 」

 

10代後半辺りと思われる、同年代の声。

間違いない。

狭間偉出夫の配下である、チャーリーこと黒井・慎二だ。

 

高らかに笑うチャーリーに対し、明は数個の手榴弾を投擲する事で返事を返した。

凄まじい爆音と火炎。

明がネロの腕を掴み、魔界樹の茂みへと引きずり込む。

 

「いきなり何すっ・・・・!? 」

「お前は後衛役だ。 俺が奴に突っ込むから、その鼠と一緒にサポートに回れ。」

「はぁ? 」

 

ネロが不満を口にする前に、明は手に持っていたアサルトライフルを押し付ける。

そして、法具を右手に握り、未だ火柱を上げている巨人に向かって、無謀にも駆けだした。

 

「明っ!! 」

 

呼び止める暇すら無い。

法具の力で真紅の鬼へと転身する明に、ネロは忌々し気に舌打ちした。

 

「糞っ! 勝手に決めやがって!! 」

 

押し付けられたアサルトライフルを構え、ネロが機械仕掛けの巨人に向かって引き金を引く。

しかし、何処からともなく飛来して来た小型のビットが防御シールドを張り、無数に吐き出される鋼の牙を悉(ことごと)く弾き返した。

 

「なっ! 」

「物理反射防壁(テトラカーン)だと? あの人形、高等魔法まで使えるのか? 」

 

驚く二人を尻目に、炎を突き破って巨人が姿を現す。

先程の手榴弾によって、頭に被っていた傘と漆黒の長外套(ロングコート)はボロボロの状態だった。

剥き出しになった特殊チタニウム合金の腕が、鬼化した明の頭上から振り下ろされる。

それを紙一重で躱す明。

剛腕が硬い岩盤を砕き、地面が大きく陥没する。

 

ギュウゥウン!

 

宙で華麗にトンボを切る最中、右手に握るコンバットナイフが、巨人の装甲を斬り裂く。

しかし、幾ら闘気で強化された刃でも、ウルツァイト窒化ホウ素で出来た特殊装甲に傷をつける事は叶わなかった。

火花が散り、数メートルの距離を置いて両者が対峙する。

 

「酷ぇな? それが友達にする事なのかよ? 」

「友達? 寝言は寝て言えよ? 引きこもり。」

 

破損した重い傘を外し、序(ついで)に破れた長外套(ロングコート)を脱ぎ捨てる。

そこに現れたのは、黒い光沢のある鎧を纏った狐面の怪物であった。

頭部には、兎の耳の様に尖ったセンサーが付いており、不気味に光る一つ目が、数歩離れた位置に立つ紅き鬼を眺めている。

 

「T-103型か? 随分と物騒な着ぐるみだぜ。」

「ハッ、あんな出来損ないとコイツを一緒にするなよ? 」

 

地面を蹴り割り、巨人が一気に明との間合いを詰める。

両腕の装甲が、刃の様な形態に変化し、紅い鬼へと襲い掛かった。

 




取り合えず此処まで。
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