偽典・女神転生~偽りの王編~   作:tomoko86355

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戦闘兵器解説

AH-64Dアパッチ・ロングボウ・・・・陸上自衛隊やアメリカ軍等で配備されているポピュラーな戦闘ヘリ。
物語では、対悪魔用の装甲が施されており、装備している各種兵器も悪魔との戦闘を想定したモノが付けられている。
三島重工が開発を手掛けており、国防総省や陸自にも実戦配備される予定であった。
高性能エネミーソナー、ロケットポット、30mm機関砲、レールガンまで装備されている。



第19話 『理想と現実 』

異様な姿をする魔界樹が生い茂る森の中。

橙色の火花を幾つも散らし、身長5メートル近い怪物と、紅い鬼が激しくぶつかり合う。

激闘が繰り広げられている場所から、少し離れた茂みの中。

紅の鬼― 遠野・明から、無理矢理押し付けられたアサルトライフルを構える銀髪の少年・ネロがいた。

 

常人では、視認不可能な動きをする二人の異形者に、苛々した様子で舌打ちする。

 

「止せ、下手に撃つと鬼の小僧に当たってしまうぞ? 」

「じゃぁ、どうすれば良いんだよ? 」

「ワシに任せろ、攻撃をするだけが後衛役の仕事ではない。」

 

ネロの頭にしがみつく黒毛のハムスター、妖魔・シウテクトリが、力を解放する。

赤いオーラが立ち上り、ハムスターの両眼が炯々(けいけい)と光を帯びる。

 

「回避率上昇魔法(スクカジャ)、物理攻撃上昇魔法(タルカジャ)。」

 

魔法の多重発動を駆使し、紅の鬼-明を的確に補助していく。

明の移動スピードが徐々に上がり、黒井・慎二ことチャーリーが操るNe‐α型の攻撃を難なく躱し、カウンターが決まる様になった。

 

「ちっ、サポート魔法かよ? 面倒臭せぇ! 」

 

回避スピードが格段に上がり、明を捕らえきれなくなっている。

遠隔誘導攻撃端末を駆使し、後衛役であるネロの姿を探す。

しかし、その僅かな隙を見事に突き、明の繰り出した拳が、巨人の鳩尾へと減り込んだ。

 

「ぐはっ!! 」

 

衝撃で数歩、後退りする巨人。

感覚神経を否応なく刺激され、苦痛がダイレクトに慎二の脳内を駆け巡る。

 

 

 

「予想通り、かなり苦戦しているわね? 」

 

異界化した上野毛駅周辺に停車している、大型装甲車の中。

車内に設置されている巨大ディスプレイに映し出された映像を眺め、テレジア・黒井・ルドルフ博士は、小さな溜息を一つ零した。

 

「主任、AH‐64 アパッチが、到着しました。」

 

テレジアの部下である宮崎が、無表情にディスプレイを眺める女科学者の方を振り向く。

 

「すぐに強化パーツを投擲する様に伝えて・・・・それから、アンフェタミンの投薬もして頂戴。」

「主任・・・・それは・・・・。」

「早くしなさい。」

「わ、分かりました。」

 

アンフェタミンとは、脳内の中枢神経を興奮させる作用がある薬品である。

本来は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)を持つ精神疾患の患者に服用されるが、急性中毒症状を起こし、覚醒剤等の劇物として扱われる事が多い。

そんな代物を何の躊躇いも無く、我が子へと投薬させる。

およそ、一般の親が我が子へとする仕打ちではない。

 

「シンジ、もう一人の少年は、此方で始末するわ。貴方は毘羯羅大将に集中しなさい。」

「了解。」

 

母親の指示に、チャーリーも素直に従う。

彼にとって、母とは憎悪の対象であるのと同時に、逆らう事が許されぬ絶対的な存在だ。

態度こそ、母親に反抗的ではあるが、基本行動は、誰よりも母・テレジアに絶対服従である。

 

 

技術開発部主任であるテレジアの指示に従い、米陸軍戦闘ヘリ、AH‐64D アパッチが、戦闘が繰り広げられている現場へと何かを投擲する。

特殊チタニウム合金で造られたケースは、明と黒い巨人を隔てる様に落ちて来た。

 

「これは・・・・? 」

「やっと来たか、俺の玩具! 」

 

右腕に内臓されている短機関銃で、紅い鬼を牽制しつつ、ケースの蓋を開く。

中に納まっていたのは、黒い光沢をもつ巨大なトランクケースであった。

チャーリーは、それを手に取り、取っ手に内蔵してあるスイッチを押す。

忽(たちま)ち変形するトランクケース。

巨大なガトリング砲へと変形し、紅い鬼を狙い撃つ。

 

「何だよ? アレ? 」

「小僧、狙われているぞ!! 」

 

シウテクトリが主に警告するのと、AH64d-アパッチに搭載されている30mm機関砲が火を噴くのは、ほぼ同時であった。

凶悪な牙が、地表を抉り、ネロの隠れている茂みへと容赦なく鉛の雨を降らせる。

ネロは、デビルブレイカーに内蔵されている特殊ワイヤーを射出し、逸早く、対空砲火の無慈悲な雨から逃れる。

センサーを使い移動するネロを追い掛けるAH64d‐アパッチ。

一方の明も、厄災兵器”パンドラ”を装備するチャーリーに手を焼いていた。

ガトリング砲から、巨大なブーメラン形態へと変形したパンドラが、紅い鬼を切り刻まんと襲い掛かる。

それを紙一重で躱す明。

しかし、刃から発生する衝撃波で、右腕と左足が斬り裂かれ血を噴き出す。

 

「どうだ? 中々面白い玩具だろ? 」

 

戻って来た円盤状の投擲武器を右手で受け止め、チャーリーが勝ち誇った視線を血を流し、片膝を付く紅き鬼へと向けた。

 

「魔具(デビルアーツ)か・・・・お前みたいなヘタレには勿体ない武器だぜ。」

「フン、相変わらず気に喰わない奴だぜ。」

 

ブーメラン形態から、再びトランクケースへと変わるパンドラを肩に担ぎ、チャーリーは呆れた様子で肩を竦めた。

 

この魔具は、1年前に北の小国・フォルトゥナ公国によって強奪された『パンドラ』の複製体だ。

ナノマシン技術を駆使し、オリジナルとほぼ同等の能力を持たせている。

使用者の脳波を感知し、思い通りの姿へと状態変化する。

流石に、オリジナル程の破壊力は無いにしても、それを上回る程の性能を秘めていた。

 

「偉出夫の奴は、お前を仲間に引き入れたいみたいだけどな。」

 

今度は、トランクケースをミサイルランチャーへと変える。

地面に片膝を付く鬼へと、二発のミサイルを発射した。

ミサイルが地面へと着弾し、爆発音が周囲に轟く。

濛々(もうもう)と周囲を包む黒い煙。

耐熱センサーが、反応し、チャーリーが慌てて背後を振り返る。

その腹に、コンバットナイフが深々と突き刺さった。

何時の間にか、巨人の背後へと移動した明が、腰だめにナイフを突き刺したのだ。

すぐに巨人から離れる紅い鬼。

ガトリングガンへと変形したパンドラが、狙い撃つが、あっさりと躱され、傷一つ付ける事すらも叶わなかった。

 

「ちぃ、ちょこまかちょこまか動きやがって。 面倒臭い奴だ。」

 

腹に突き刺さったナイフを忌々し気に引き抜く。

紫色の体液が付着したナイフを、地面へと投げ捨て、ミサイルランチャーをぶっ放す。

爆音が轟き、魔界樹の樹がへし折れ、地面へと横倒しになった。

 

 

AH64d‐アパッチの猛攻から逃れ、再び茂みへと身を隠すネロ。

戦闘ヘリのせいで、明との距離が大分離されてしまった。

すぐに仲間の所へ行き、戦闘をサポートしてやりたいが、高性能ヘリから逃れる術がまるで無い。

このまま隠れていても、すぐに見つかってしまうだろう。

 

「AH‐64D アパッチか・・・・対悪魔用に改造された特別品だな。」

 

ネロの頭にしがみついている黒毛のハムスターが、上空を飛ぶ鋼鉄の巨影を見上げる。

微力な魔力の波動すら感知する、高性能センサーを内蔵されている為、いくら茂みの中で気配を消したところで、無意味だろう。

 

「どうする? こんな豆鉄砲じゃ、あのヘリを撃ち落とすなんて無理だ。」

「落ち着け小僧。 ”かさぎ荘”の事を想い出すんだ。」

 

明から渡されたアサルトライフルを両手に持つ銀髪の少年を見下ろし、妖魔・シウテクトリが窘める。

 

「力を貸してやる・・・・ワシの魔力と同調させろ。」

「同調? どうやって? 」

「良いから、ワシに任せろ。」

 

ハムスターの小さな身体から、魔力の波動が迸(ほとばし)り、その輪郭が崩れる。

紅蓮に燃える炎の玉となったシウテクトリは、ネロの右腕に装着されている機械仕掛けの腕‐『オーバーチェア』へと同化した。

 

 

一方、ネロを探すAH64D‐アパッチ。

魔力を探知する高性能のエネミーソナーが、高エネルギーの反応を感知した。

どうやら、そのエネルギーの塊は、真っ直ぐ此方へと向かっているらしい。

複座に座るパイロットが、前にいる仲間にその事を報告する。

 

「あ、アレは・・・・・? 」

 

ヘリが機首を其方へと向けると、人間大の塊が此方に飛んで来る姿が見えた。

正体は、『聖エルミン学園』の制服を着る銀髪の少年だった。

ロケットの様な形へと変形した『デビルブレイカー』が、噴射ノズルから炎を吐き出し、ネロの身体を上空へと押し上げる。

 

「馬鹿め、狙い撃ちにしてやる。」

 

コレクティブレバーを巧みに操り、30mm機関砲の銃口をネロへと向ける。

すぐさま機関砲が火を噴いた。

少年の身体を切り刻まんと襲い来る無数の鋼の牙。

その30mm弾に向かって、ネロが左の掌を翳(かざ)す。

 

「物理反射防壁(テトラカーン)!! 」

 

シウテクトリが持つ上位魔法の一つだ。

橙色の障壁が、ネロの眼前へと高速展開し、30mm弾を全て弾き返す。

 

「うっ、うわぁあああああああっ!! 」

 

鉛の塊によってズタズタに引き千切られる戦闘ヘリのコクピット。

弾頭がエンジンを抉り、空中で大爆発が起こる。

 

受け身を取る間もなく、爆風で吹き飛ばされる銀髪の少年。

シウテクトリが主を守る為、防壁(シールド)を展開させるのと同時に、『デビルブレイカー』に内臓されているワイヤーを射出。

魔界樹の太い枝へと、主の身体を運ぶ。

 

 

五島美術館、駐車場入り口前。

ある程度、悪魔の群れを片付けた百地警部補率いる特殊機動隊の面々が、爆発を起こすAD64‐アパッチを見上げている。

 

「いっ、一体中で何が起きているんだ? 」

 

魔界樹の森へと落ちていく戦闘ヘリを眺めながら、百地警部補は低く呻く。

すると、五島美術館の高い壁を軽く飛び越え、何者かが特殊機動隊の前へと軽やかに着地した。

16代目・葛葉ライドウの番である初代剣聖・鶴姫だった。

大胆に胸倉の開いた着流しを着る黒髪の美女は、赤毛の忍びを背負っていた。

 

「アンタ・・・・確か16代目の・・・・? 」

「久しぶりだな? 百地刑事。」

 

180近い身長の成人男性を背負っている黒髪の美女は、機動隊の中に知り合いの姿を認め、口元に邪気の無い笑みを浮かべた。

 

「剣聖殿が、何故こんな場所にいるんだ? 」

「それを話すと長くなる。 申し訳ないが、この中に医術士(ドクター)の資格を持つ人間はいないか? 仲間が重症なんだ。」

 

鶴姫が言う通り、赤毛の忍‐ 猿飛佐助の容態は、あまり芳(かんば)しくはなかった。

苦痛で顔を歪め、荒い呼吸を忙しなく繰り返している。

警部補は、すぐに部下達である機動隊に指示を出し、数名の救命士を呼んだ。

佐助が担架へと乗せられ、治療設備が揃っている救急車両へと運ばれる。

 

「信じられねぇ・・・・アイツは確か、”十二夜叉大将”の中でも、相当な手練れだった筈だ。」

 

百地警部補も、”八咫烏”の存在は知っている。

組織『クズノハ』の暗部であり、その中でも”十二夜叉大将”は選りすぐりのエリート部隊で構成されている。

佐助は、その中でも”魔鎧化”を取得している逸材だ。

強靭な肉体と、優れた戦闘能力を持っている人間を此処までにする輩が、あの魔の森の中にいるとでもいうのか?

 

「佐助の事はお前達に任せる。 私は、あの馬鹿者を止めなければならんからな。」

「鶴姫殿。」

 

車内で、数名の救命士に適切な措置を受ける佐助を眺めつつ、鶴姫はそれだけを百地警部補に伝えるとすぐに踵を返した。

 

 

 

春山壮門前、魔界樹の生い茂る木々の中に、銀髪の少年‐ ネロがいた。

異常に興奮しているのか、まるで過呼吸の様に忙しなく呼吸を繰り返し、時折激しく咳き込んでいる。

 

「小僧、しっかりしろ。」

 

右腕の機械仕掛けの義手‐『デビルブレイカー』に憑依したシウテクトリが、己の主を見上げた。

 

「・・・た・・・・こ・・・ろした・・・・。」

「小僧? 」

「殺した・・・・俺・・・・人間(ヒト)を・・・・。」

 

悲壮感に顔を歪ませ、ネロが絞り出す様な声で呟く。

脳裏に、跳弾した30mm機関砲の弾丸をまともに浴び、拉(ひしゃ)げ爆発する戦闘ヘリの映像が繰り返し浮かぶ。

少年の網膜には、その時の驚愕で顔を醜く歪めるヘリのパイロット達の顔が、ありありと焼き付いていた。

 

「小僧、今は戦争中だ。 下らんヒューマニズムは捨てろ。」

「・・・・・。」

「生き残る事だけを考えるんだ。 さぁ、鬼の小僧の所に行くぞ。」

 

シウテクトリの言葉は、何処までも冷徹で容赦が無い。

しかし、この状況下を鑑みれば、至極当然の言動ではある。

ネロは、瞼を硬く閉じると、大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

シウテクトリの言う通りだ。

今は、明と共闘してあの巨人を倒せなければ、日下・摩津理の妹の仇は討てない。

 

 

東急・大井町線、上野毛駅前。

駐車場に停車する大型装甲車の中で、テレジア・黒井・ルドルフは撃墜される戦闘ヘリの映像を眺め、一つ溜息を吐いた。

 

「全く・・・・本当に役立たずね。」

 

堕ちた戦闘ヘリは、対悪魔用の装甲と装備が搭載された最新型だ。

三島重工の開発部が、誇らしげにAh64d‐アパッチを解説していたのを無意識に思い出す。

 

「宮崎君、すぐに”トライセル”に連絡して・・・・増援部隊を・・・。」

「その必要はねぇよ、婆ぁ。」

 

部下に指示を出そうとしたテレジアの言葉を、息子が遮った。

 

「俺一人で十分だ。 増援部隊を寄越すよりリミッターを1段階だけ解除してくれ、拘束具が重すぎて奴の動きについていけねぇ。」

「・・・・・。」

 

チャーリーの言う通り、鬼人化した明の動きに対処がまるで出来てはいない。

腕と足を負傷しているにも拘わらず、明は不利な戦況を見事立て直し、流れを有利に進めている。

戦闘経験も、センスも技術も明の方がチャーリーより遥かに上。

それを覆すには、圧倒的な力が必要だ。

 

「やれそうなの? シンジ? 」

「当たり前だろ? 俺は先生が造った最高傑作なんだぜ? 」

 

チャーリーの言葉に、テレジアは無意識にほくそ笑む。

徐に、息子の本体が眠る制御室(シーケンスコントローラー)の所まで近づくと、設置されているパネルに暗証番号を何桁か打ち込んだ。

 

「む、無茶です!主任! 指揮者(コンダクター)の脳が焼き切れてしまいます!」

 

この常軌を逸したやり取りに、部下である宮崎が異を唱えた。

 

Ne(ネメシス)細胞は、寄生虫である”ピスハンド”が、制御統制している事で、その不安定さを何とか解消している。

Ne(ネメシス)には、未知な部分が多く、活性化させると何が起きるか分からないのだ。

 

「あの子が出来ると言ったのよ・・・人の親なら、子供を信じるのが当たり前でしょ? 」

「し、しかし・・・・っ! 」

 

尚も食い下がる宮崎を、テレジアは冷酷に光るアイスブルーの双眸で黙らせた。

まだ、何かを言いたそうな部下を無視し、何の躊躇いすらも見せず、リミッターを解除する。

 

 

その異変は、唐突であった。

突然、目の前で対峙する怪物が苦しみ出し、四つん這いになる。

巨人が纏う装甲が吹き飛び、外れていく。

背中から飛び出る四つの突起物、背骨を思わせる長い尾が出現し、両足が踵が無い猫科特有の形へと変形していった。

 

どうやら、相手も本気になったらしい。

完全なメタモルフォーゼを阻止する為、明はコンバットナイフを構えるとNe‐α型へと肉迫する。

しかし、その行動は当然読まれていた。

間合いを一気に詰める紅い鬼に対し、Ne‐α型は鞭の様にしなる長い尾を振り回す。

身を捻る事で、躱す真紅の鬼。

だが、怪物の追撃は止まらない。

ガトリング砲に変形した”パンドラ”の複製体が、至近距離から明を狙い撃つ。

 

「ちっ!! 」

 

両腕で急所を庇いつつ、防御シールドを展開。

襲い来る鋼の牙を何とか防ぐが、その衝撃までは殺しきれなかった。

あっさりと吹き飛ばされ、魔界樹の樹々を薙ぎ倒す。

 

「ぶっ潰れやがれぇ! 」

 

脳に与えられる負荷により、毛細血管が幾つか切れたのか、鼻孔から血を流したチャーリーが、半身であるNe‐α型に追撃の指示を出す。

しかし、真横から思いっきり頬を引っ叩かれた。

何事かと其方を振り向くと、アサルトライフルを構える銀髪の少年の姿が映る。

シウテクトリの魔力を借り、5.56mm弾の威力を倍加させたのだ。

 

「止せ! 出て来るんじゃない! 」

 

倒れた魔界樹の大木を脇へとどかせ、明が立ち上がる。

だが、その声がネロに届く事は無かった。

地中へと潜った獣化形態へと変形したNe‐α型の長い尾が、銀髪の少年の身体を貫いていた。

 

 

 

同時刻、警視庁、緊急対策特命係の刑事である周防・克哉は、遥か上空で大爆発を起こし、墜落する戦闘ヘリを見上げていた。

 

「あのヘリのロゴは・・・・確か三島重工が所持しているPMC(Private Military Company-民間軍事企業)”トライセル”か。」

 

常人よりも遥かに優れた視力を持つ周防刑事は、戦闘ヘリの装甲に刻まれた会社のロゴをはっきりと視認していた。

三島重工は、典型的な軍需企業であり、”トライセル”は子飼いにしている民間軍事企業の一つだ。

主に、対悪魔を想定し、開発した武器を実戦テストしたり、時には違法なBOW(バイオニックオーガウェポン)を現地に派遣したりしている。

三島重工のいわば、暗部的存在である。

 

(剣聖殿が言う通り、第三者が介入しているという事か。)

 

異界化した天祐庵門前での出来事が、脳裏を過る。

16代目・葛葉ライドウの本番である鶴姫は、重傷の佐助を軽々と背に担ぐ。

 

「私は、一度外に出て特殊機動隊と合流する。 ダンテ、お前は稲荷丸古墳へ向かえ、そこに17代目がいる。」

「やっぱり、爺さんも此処にいるのか。」

 

お目付け役兼指南役であるケルベロスこと、鶴姫がこの場にいる以上、ある程度予想はしていた。

何故、ライドウがこの魔の森に来ているのか、その目的は不明である。

しかし、代理とはいえ番である以上、主を護るのは当然であった。

 

「それから周防刑事、貴方は西側にある春山壮門に向かってくれ。明とネロの小僧達がこの森に入り込んだ。彼等の力になって欲しい。」

 

鶴姫の優れた感知能力が、遠野・明とネロ、両名の気を感じ取っていた。

そして、不穏な空気を多分に孕む、第三者の存在も。

 

「この宴には招待されていない奴等が、森の中で好き放題暴れている。もし、奴等と子供達がかち合ったら、只では済まない。」

「・・・・・成程、矢来区地下水道で会った覆面野郎とその仲間がいるって訳か。」

 

ダンテの脳裏に、幾何学模様をした覆面を被るトレンチコートと中折れの帽子を被る、正体不明の男の姿が蘇った。

自分の父親と名乗るその人物は、魔神・ヴィシュヌが宿った神器、”スダルサナ”を巧みに操り、ダンテを窮地へと追い込んだ。

その謎の男が、仲間を引き連れてこの異界化した魔の森にいる。

 

「ダンテ、馬鹿な事は考えるなよ? お前は、17代目を護衛する役目がある。」

「分かってるよ。 ムカつくが、今はアンタに従う。」

 

覆面男と、自分にフザケタ真似をした糞餓鬼は気になるが、今はそれ以上に主であるライドウの身が心配であった。

悪魔使いの実力は、骨身に染みている程、分かってはいるが、何故、彼がこの場に入り込んだのか、その理由が気になる。

 

こうして、三人は別行動を取る事になった。

 

魔力を使い、飛ぶように樹々を移動する周防刑事は、ある気配を感じて、脚を止める。

地へと降り立ち、魔法の様な速さでブローニング自動式拳銃を腰のホルダーから、引き抜き構えた。

暗闇に閉ざされた樹々の物陰へと狙いを定める。

 

「そこにいるのは、分かっている。 両手を上げて出て来い。」

 

色眼鏡の奥に光る鋭い眼光が、大樹の物陰を睨み付ける。

と、その視線が急に緩んだ。

両手を上げ、物陰から姿を現した人物は、かつて自衛官時代に共に死線を潜り抜けて来た戦友だったからである。

 

「よ、横内・・・・・? 」

「久しぶりだな? 克哉。」

 

構えていたブローニング自動式拳銃を降ろす。

 

黒のダウンジャケットからでも分かる、鍛え上げられ、がっしりとした体躯。

灰色のフード付きトレーナーにジーンズを履き、髪は短めに刈り上げている。

容姿は、周防刑事の記憶の中にあるかつての友、そのままであった。

 

「どうして此処に・・・・? お前が勤めていた雑誌社から失踪したと、連絡があったんだぞ? 」

「・・・・・・。」

「今迄、一体何処で何をしていたんだ? 自宅にも戻らず、俺がどれだけ心配したと・・・・。」

「僕が送ったメッセージは、ちゃんと受け取ったか? 」

 

矢継ぎ早に、質問攻めにする周防刑事の言葉を、横内が静かに遮った。

 

「・・・・・、ああ・・・俄(にわ)かには信じられないが。」

「そうか・・・・で? ちゃんと応えは持ってきてくれたんだろうな? 」

「・・・・・。」

「もう、分かっているんだろ? 僕達が普通の人間じゃないって事ぐらい。」

 

『自分達の仲間になれ。』 横内は無言でそう要求しているのだ。

しかし、警察官という立場にある周防刑事は、おいそれと首を縦に振る事が出来ない。

彼等が、これからする事は、テロ行為に他ならないからだ。

 

「・・・・・済まないがお前の要求を呑む事は出来ない。」

「克哉・・・・。」

 

暫しの逡巡後、周防刑事は、色眼鏡の奥から確固たる意志を秘める双眸を、数歩離れた位置に立つ、友達へと向けた。

 

「真紀さんを失い、辛いお前の気持ちは分る。 だが、彼女の死が”あの壁”と関係があるとは到底思えない。」

 

右手に持つブローニング自動式拳銃を、再び、対峙するかつての親友へと向ける。

 

横内が所属する組織『魔神皇』がこれから行おうとしている事は、日本にとって、否、世界中にいる人類にとっての裏切り行為だ。

東京湾を包む様に建設された巨大な壁を破壊する。

シュバルツバースを解放し、『受胎』を引き起こす。

もし、そんな事が起これば、人類の大半が死滅してしまうだろう。

 

「・・・・・やはり、分かっては貰えなかったか。」

 

望んだ応えが得られず、横内は落胆する。

そして、着ているダウンジャケットのポケットから、銀色に光る筒‐封魔管を取り出した。

 

「この世界は間違っている・・・・・だから、僕達が”正す”んだ。」

 

封印が解放され、天から稲妻の柱が横内へと降り注ぐ。

真っ白に視界を染める光と、激しく叩きつける風。

左腕で視界を護り、前傾姿勢で暴風から吹き飛ばされぬ様、己の身を構える。

吹きすさぶ嵐が収まったその場所には、深紅の長外套(ロングコート)に、左腕には金色に光るガントレット。

右腕には、身の丈を優に超える大剣を担ぐ、紅き死神が立っていた。

目深に被ったフードの下から、不気味に光る真紅の双眸が、眼前にいる若い警官を眺めている。

 

「よ、横内・・・・・。」

「僕達は、新しく世界を造り直す・・・・・その為にも、邪魔者は排除しなければならない。」

 

大剣を構え、驚愕に端正な顔を歪める友へと斬り掛かる。

大剣『カオスイーター』が、周防刑事の頭上へと振り下ろされた。

 

 

 

稲荷丸古墳へと続く、異界化した魔の森の中を、真紅の長外套(ロングコート)を纏う、銀髪の魔狩人が疾走していた。

通常ならば、数十分程度の道程である。

しかし、異界化が進み、空間が歪んでいる為か、森林公園は広大な迷路へと姿を変えていた。

主の僅かな魔力の痕跡を辿り、銀髪の大男‐ダンテは、森の中を走る。

 

不図、頭上から轟く爆発音に、ダンテは驚いて脚を止める。

見ると、上空を撃墜されたヘリが世田谷の住宅街へと落ちていった。

 

「あのヘリは、一体なんだ? 」

「喜作君が子飼いにしているPMC(民間軍事会社)の戦闘ヘリだよ。」

 

知らず口から零れ出た疑問に、背後から誰かが応えた。

振り返ると、グレーのダウンジャケットと、黒いスエットを履く10代後半辺りの少年が立っていた。

肩口まで伸ばした癖のある黒髪と、人形の様に整った容姿をしている。

 

「対悪魔を想定して作られた最新型だったのになぁ、 ああもあっさりと堕とされちゃう様じゃぁ、実戦配備は見直した方が良いね。」

 

涼やかな笑みを口元へと浮かべ、少年‐ 狭間・偉出夫は、落ちていくヘリを眺めていた。

 

「生き残った世田谷市民・・・・て、訳じゃぁ無さそうだな? 」

 

素早く腰のホルスターから双子の巨銃の片割れ、”エボニー”を引き抜き、その銃口を数歩離れた位置に立つ偉出夫へと向ける。

 

一体何者かは知らないが、この少年からは只ならぬプレッシャーを感じる。

生かしておいたら、何をするか分からない。

そんな危険性を、この少年は多分に孕んでいた。

 

「ああ、自己紹介がまだでしたね? 俺の名前は、狭間・偉出夫と言います。」

 

にっこりと邪気の無い笑顔を向ける少年は、胸元に光る銀色のクルスを引き千切る様に、チェーンから取り外す。

 

「そして、さようなら・・・ダンテさん。」

 

続く周囲に飛び散る血の飛沫。

見ると銀髪の魔狩人の腹が、横一文字に斬り裂かれていた。

鮮血が地面を汚し、肺から溢れ出た血が、口から吐き出される。

驚愕に見開かれる双眸が、数歩離れた位置に立つ少年へと注がれた。

少年の右手には、青白い光を放つ刀剣が握られている。

 

ぐらりと傾ぐ肉体。

バランスを崩したダンテは、そのまま背後にある崖へと真っ逆さまに堕ちて行った。

 

「あれぇ? おっかしいなぁ、真っ二つにしたつもりだったんだけど? 」

 

どうやら踏み込みが、少しだけ甘かったらしい。

手応えはしたが、男の身体を両断するには至らなかった。

詰まらなそうに唇を尖らせた偉出夫は、ダンテが堕ちて行った滝壺を覗き込む。

暗闇に閉ざされた底の全く見えぬ崖。

生臭い大量の血液が、谷底へと落ちて行く。

 

「ま、いっかぁ・・・・どうせ、”入れ物”を壊す事は出来ないんだし。」

「魔神皇様。」

 

青白く光る刀剣‐『アスカロン』を元の十字架(クルス)へと戻し、チェーンに付ける偉出夫の背後から、化学教師の大月が声を掛けた。

突然、消えた偉出夫の姿をあちこちと探し回ったのか、大分息が切れている。

 

「たく、勘弁してくれよ。”この身体は、肉体労働向き”じゃ、ねぇんだからよぉ。」

 

覆面の下から荒い吐息を吐き出し、主に向かって恨み節を唱える。

途中、遭遇した悪魔を始末していたのか、茶のトレンチコートの裾には、返り血がドス黒く残っていた。

 

「ごめんごめん、迷惑掛けたね? 先生。」

「ち、分かっててやってんだから、始末に負えねぇ。」

 

大月‐ ヴィランは、大きく深呼吸をすると呆れた様子で肩を竦めた。

そして、ダンテが堕ちた滝壺へと視線を向けた。

 

「ペイルライダーが、”十二夜叉大将”の餓鬼と元”魔剣教団”の平騎士と交戦中、レッドライダーは、警視庁の刑事を懐柔若しくは始末しに行きました。」

 

ロボットの様に無機質な声で、主に淡々と報告を続ける。

 

「それと、一つだけ厄介な事が・・・・・。」

「初代剣聖殿だろ? 彼女の性格だから、絶対この件に関わって来るだろうね? 」

「”冥府の王”は面倒です。 下手に怒らせると、”四大魔王(カウントフォー)”を始末し兼ねない。 そうなると、賢者の石が永遠に失われる。」

「確かに・・・・・あの奥方様なら、身内でも平気で殺しちゃうからねぇ。」

 

賢者の石は、喉から手が出る程欲しい。

あの石は、各国の軍事関係を一変させてしまう程の力がある。

もし、自分達がその石を手に入れる事が出来れば、流石に魔導士ギルドも無視する事が出来なくなる。

 

「ま、何はともあれ、メルリヌス君が真名を取り戻さなければ、賢者の石は精製出来ない・・・・今は、神様に祈るしかないね。」

 

目的地である稲荷丸古墳へと歩を向ける。

そんな余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な主の態度に、ヴィランはもう一度、大袈裟な溜息を吐き出した。

 




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