太陽神・ラー・・・・狭間・偉出夫が契約している最上級悪魔(グレーターデーモン)
”特異点”の力を持つ悪魔であり、知能の低い悪魔どころか、人心すら掌握する絶大なるカリスマ性を持つ。偉出夫は、この力を使って三島重工の会長並びに掲示板で『エルバの民』というサイトを作り仲間を増やしている。
10数年前に起こった一家猟奇殺人事件の唯一の生存者。
一時、沖縄にある療養施設に送られていた事がある。
この世界は不条理だ。
生まれた環境によって、自分の人生が全て決まってしまう。
横内・健太の住む世界は、理不尽な出来事で埋め尽くされていた。
二十数年前に起こった第二次関東大震災により、両親を失い、国が管理している児童養護施設で過ごした。
そこは、養護施設とは程遠い、地獄の様な場所であった。
悪魔の臓器を移植され、対悪魔部隊の戦闘員として過酷な訓練を強いられた。
成人したら、当然、特殊部隊に入隊させられ、戦争の真っ只中に放り込まれる。
同じ境遇で育った周防・達也とは、能力的にも大分劣り、彼の様な悪魔召喚術師(デビルサマナー)の適性が無かった。
唯一取得出来たのが、剣士職の銃剣士(ベヨネッタ)だけ。
それでも、生き残る為に死に物狂いで怪物共と戦った。
激戦区であるギザフに悪魔討伐部隊の一員として派遣され、そこで両足を失った。
高度なサイバネティクスで、機械仕掛けの両足を手に入れたが、国は使い物にならないと判断し、僅かばかりの報奨金を与えて、横内を放逐した。
親友である達也は、視力を失ったものの、悪魔召喚術師としての才を認められ、警視庁の特殊公安部隊へと配属された。
当時は、自分の能力の無さに怒り、親友である周防を妬んだ。
しかし、いくら憎悪を募らせても、非力な己自身で国を相手に戦争など出来る筈が無い。
横内は、己の中にある蟠(わだかま)りに視線を背け、普通に生きる道を選んだ。
就職したのは、とある大手出版会社の事務職だった。
仕事は単調でつまらないが、それでも地獄の様な戦場と比べると、天国の様な場所だった。
過去の忌まわしい記憶を全て捨てて、仕事に没頭した。
職場で、気の良い同僚達に囲まれ、生涯の伴侶となるべき女性とも巡り会えた。
かつて失った幸せを享受出来る。
そう、思っていた矢先に不幸は訪れた。
紅き死神、レッドライダーこと横内・健太は、数歩離れた位置で対峙する隻眼の悪魔召喚術師(デビルサマナー)を睨みつけていた。
この少女の如く華奢な肢体をした怪物は、自分の最愛の女性の命を奪った元凶の一人だ。
怒りの炎が腹腔内から沸き起こり、大剣『カオスイーター』の柄を握る手に力が篭(こも)る。
「じ、爺さん。」
「喋るな・・・・マベル、コイツに掛かった”石化の呪い”を解術出来るか? 」
漆黒のモーターラッドに跨る隻眼の悪魔召喚術師は、肩にしがみついている小さな妖精に問いかける。
「任せて。」
主人の意図を汲んだハイピクシーのマベルが、すぐに背後で片膝をついている銀髪の魔狩人の元へと向かった。
対峙する深紅の死神と隻眼の悪魔召喚術師。
隻眼の魔法使いが、己の魔具(デビルアーツ)、キャバリエーレを二振りの大鎌へと変える。
「おっと、これは流石に拙いな。」
一方の坂本・晋平二等陸佐。
予想外の闖入者に、内心、舌打ちする。
悪魔共が恐れ慄(おのの)く、人修羅こと17代目・葛葉ライドウの登場は、想定外だ。
折角、初代剣聖と心行くまで殺し合いが出来ると思っていたが、流石に己に課された役目を放棄する程、愚かでは無い。
美貌の女剣士が持つ魔法剣‐『七星村正』の刀身を跳ね上げ、レッドライダーの元へと跳ぶ。
「玄信! 」
「残念ですが、勝負はお預けです。初代殿。」
戸惑う初代剣聖‐ 鶴姫を他所に、新免無二斎は同胞である紅き死神の傍らへと着地した。
「潮時だ・・・・・此処は一旦引くぞ? 横内一等陸士。」
「・・・・・っ、武蔵殿。」
坂本二等陸佐は、兵法家としても名高い、宮本武蔵の転生体だ。
何らかの意図があって、撤退と言う選択を選んだのだろう。
横内は、それ以上何も言えず、不承不承従うより他に術が無かった。
そんな巨漢の剣士に、坂本は口元に皮肉な笑みを浮かべると戦闘離脱魔法(トラポート)と同じ効力を持つ札を取り出す。
「それでは、皆さん、御機嫌よう。」
札の効果が発動し、紅き死神と壮年の剣士を光が包む。
瞬く間に、他のエリアへと移動する二人、後には満身創痍のダンテと、妖艶な剣士・鶴姫、そして隻眼の召喚術師、17代目・葛葉ライドウだけが残された。
平崎古墳大迷宮、地下2階。
最深部から吹き上げる瘴気の風をまともに浴び、大月・清彦ことヴィランが、寒そうに両腕をさする。
「どうしたんですか? もしかして、怖いとか? 」
前を歩く偉出夫が、背後でしきりに両腕をさする化学教師を面白そうに眺めた。
「怖いに決まってんだろ、俺は一般人なんだ。 アンタみたいに因果律を捻じ曲げる怪物とは違うんだよ。」
まるで遠足気分ではしゃぐ主に、呆れた様子で溜息を零すと、ヴィランは悪態を吐き捨てた。
ヒンドゥー教の最高神、ヴィシュヌが宿った神器を巧みに操る事が出来ても、ヴィランは所詮、人間である事に変わりは無い。
手足が斬り落とされても、再生する事は出来ないし、心臓や人体の大事な臓器を破壊されれば、簡単に死ぬ。
「ストックは沢山あるんでしょ? なら、何も問題は無い。」
「馬鹿言え、そう簡単にとっかえひっかえ出来る訳じゃねぇーんだよ。」
「え? 違うんですか? 」
「ちゃんと手順を整えないと駄目なんだよ。 葛葉四天王の化け物連中と一緒にしないで欲しいね。」
何処までも無邪気で太平楽な主に、ヴィランは海より深い溜息を吐きだす。
葛葉四天王とは、超国家機関『クズノハ』を創設した4人の召喚術師の事である。
蘆屋道満大内鑑の血を色濃く引き継ぎ、家によって術の系統がそれぞれ異なる。
「なーんだ、随分と便利な能力だと思っていたのに。」
ヴィランとの会話に飽きたのか、偉出夫は大きく背伸びをすると、最深部に向けて歩き出す。
そんな主の背を無言で眺める覆面の男。
神器の入ったアタッシュケースを握り直し、呆れた様子で一つ溜息を零した。
平崎古墳大迷宮地下1階。
石造りの冷たい壁に背を預けたダンテは、大人しくマベルの治療を受けていた。
魔剣士・スパーダの悪魔の血故か、石化の呪いはそれ程深刻では無く、治癒魔法のお陰で、徐々に毒素が抜けていくのが分かる。
「待たんか、17代目。 」
仮番の治療を仲魔であるハイピクシーに任せ、バイク形態へと戻した魔具・キャバリエーレに跨り、最深部に向かおうとする弟子を、鶴姫が押し留める。
「いくらお前でも、13代目とメルリヌス相手では分が悪すぎる。我々と共に行動するべきだ。」
歴史の書物に名が記される程、有名な大魔導士であるアンブローズ・マーリンは、オリュンポス神族の中でも最高位である女神・ヘラの血を色濃く引き継いでいる。
おまけに今回のテロの首謀者は、葛葉四家の一人、13代目・葛葉キョウジだ。
マーリン一人が相手なら、どうとでもなるが、13代目はそう簡単にはいかない。
確実に返り討ちに合う。
「口出し無用、これは俺の戦いだ。」
「ナナシ。」
「お袋さんは還ってくれ。 後で骸の野郎から嫌がらせを受けるぞ。」
先代である16代目・葛葉ライドウの本番とはいえ、現在、鶴姫は十二夜叉大将の長である骸の所有物だ。
奴の機嫌を損ねれば、何かしらの報復を受けるのは間違いない。
「私の事等どうでもいい。今はお前だ。」
「・・・・。」
「お前と13代目の確執は良く知っている。 ”アンブラの魔女”の件では、幾度も奴とは衝突していたな? 」
「・・・・・だから何だ? アンタには関係無いだろ。」
常人ならば竦み上がるであろう殺気を、師である女剣士へと向ける。
しかし、美貌の女剣士は怯まない。
ハンドルを抑える手に力を込める。
「関係無くはない、メルリヌスは私の甥・・・・・。」
「臍曲りの爺に何を言っても無駄だぜ? 冥府の王様よ。」
永遠平行線を漂う二人の会話に、銀髪の大男が割って入った。
石化の呪いは粗方解けたとはいえ、未だに四肢に痺れが残る。
特殊繊維で編まれた真紅の長外套を素肌の上に纏い、銀髪の魔狩人は両者の元へと近づいて来た。
「アンタが何に拘(こだわ)っているのか何て興味がねぇ・・・だが、此処まで舐められた真似されて黙って引き下がるなんて御免だぜ。」
売られた喧嘩は必ず買う。
特に、双子の兄、バージルの偽物を演じていたあの男だけは許す事が出来ない。
息子可愛さのあまり、何の関係も無い大勢の命を平然と犠牲にしたのだ。
それ相応の報いを受けさせてやる。
静かな怒りに燃える蒼い瞳と、黒曜石の隻眼が激しくぶつかり合う。
暫しの静寂。
そんな不穏な空気が漂う一同の前に、三人の闖入者が現れた。
平崎古墳大迷宮へと足を踏み入れたネロ達”探偵部”の面々。
途中、妖虫・エンプーサや幽鬼・ヘルカイナの群れに襲われたが、彼等の敵では無かった。
鋼の弾丸が、悪魔の肉体を抉り、繰り出される斬撃が、細切れの肉片へと変える。
「おい、俺の分も残してくれよな? 」
機械仕掛けの大剣‐クラウソラスを肩に担いだ銀髪の少年、ネロが呆れた様子で、鋼牙と明の背に声を掛ける。
誰の目から見ても、二人は相当不機嫌だった。
それは、襲い来る悪魔達を秒も掛からず返り討ちにしている姿から容易に知れる。
(ちっ、何だってんだよ? 俺だってムカついているのに・・・・。)
鋼牙は、恩師である13代目・葛葉キョウジに対し、また一方の明は、クラスメートである日下・摩津理の一件を未だに引きずっていた。
言葉に出来ない理不尽さで、二人共気が立っている。
それは、ネロも同様だった。
悪魔の右腕‐デビルブリンガーを奪われた上に、プライドまで傷つけられている。
おまけに狭間・偉出夫という不気味な存在。
(・・・・奴も此処にいるのか? )
世田谷区にある稲荷丸古墳での激闘が蘇る。
狭間は、ネロの持つ六連装大口径リボルバー、ブルーローズの銃口を己の額に当て、「殺せ」と挑発した。
奴の言葉によると、自分と狭間はかつて兄弟と言う間柄だったらしい。
正直言って、馬鹿々々しいと思う。
あんなイカレた奴と自分が、前世で兄弟だったなんて、何かの悪い冗談だ。
そんな取り留めも無い事を考えている時であった。
ネロの視界に、見知った人物達が映る。
恩師である17代目・葛葉ライドウとその仮番であるダンテ、そして見知らぬ美女がそこにいた。
「ネロ! 」
まず最初に、自分達の存在に気が付いたのは小さな妖精‐ マベルであった。
気まずい場の雰囲気についていけず、どうして良いかと思っている矢先に、ネロ達”探偵部”の三人を見つけたのである。
「ヒュースリー家の小倅(こせがれ)か・・・・?」
大胆に胸倉の開いた着流しを着る妙齢の美女が、三人の少年達へと視線を向ける。
濡れ羽色の黒髪を頭頂部で一つに纏め、着流しの合わせ目からは、豊満な乳房が覗く。
新雪の如き白い肌と妖艶な美しさに、ネロは自然と頬が熱くなるのを感じていた。
「ちっ、またお前かよ。」
女剣士‐ 鶴姫の傍らにいる銀髪の大男は、ネロの背後に天敵とも呼べる遠野・明の姿を見つけ、思わず舌打ちする。
矢来銀座と五島美術館の異界化した日本庭園で、二度も明に助けられている。
4年前に自分の額を抉り、完膚無きまで叩きのめされた相手。
「・・・・・。」
一方の明も、ダンテに対しては何か思う所があるらしい。
長い前髪から覗く鋭い眼光で、養父である17代目と銀髪の魔狩人を睨みつけていた。
「良かった、どうやらパーティーには間に合いそうですね?」
火花が散りそうな程の睨み合いをする二人の間に、黒縁眼鏡の少年、壬生・鋼牙が割って入る。
このまま両者を放逐していたら、互いに得物を取り出して、殺し合いを起こしかねない。
「僕達も混ぜて下さいよ? 今度こそ抜け駆けは無しにしてね? 」
「下らん。」
涼やかな笑みを浮かべる鋼牙に、17代目は忌々し気に吐き捨てると、師父の手を振り切りモーターラッドを発進させてしまう。
「ナナシ! 」
慌てて呼び止めるも、時すでに遅し。
華奢な悪魔使いの姿は、大迷宮の暗闇へと消えてしまう。
後に残される一同。
「馬鹿者が・・・・。」
あくまで、ライドウは一人で事件を終わらせる気でいる。
既に視界から消えた愛弟子を、鶴姫は哀し気に呟いた。
東京都新宿区市谷本村町・・・・そこに防衛相の庁舎がある。
豪奢な私室。
そこに二人の人物がいた。
「ふん、帝都の魔人が、態々こんな所まで来るとはな? 」
この私室の持ち主である五島公夫事務次官が、革張りのソファーに座り真向かいにいる人物を胡乱気に眺める。
「久しぶりに外の空気が吸いたくなった・・・ついでに君の様子も伺いたくてね。」
高級ブランドの背広に身を包むのは、国会議事堂の地下、数千メートルに住む”人喰い龍”こと骸であった。
執務室の出入り口には、見事な銀髪を短く刈り上げた20代半ばぐらいの青年が壁に背を預けて二人の様子を伺っている。
骸が護衛役として連れて来た四神の一人、白虎であった。
「卑しい国津神の息を吸ったら、肺が爛(ただ)れるんじゃないのか? 」
「まさか・・・・私が中立な立場でいる事は、君も良く知っているだろ? 建御名方神(たけみなかたのかみ)? 」
心外だ、とばかりに骸は大袈裟に肩を竦める。
そんな美貌の訪問者に対し、五島は臨戦態勢を崩そうとはしなかった。
不埒な態度を取れば、すぐさま発砲出来る様に、懐には自動式拳銃を忍ばせている。
最も、この怪物に弾丸が効けば、の話ではあるが。
「外が随分と騒がしいな? 世田谷と矢来区では、大勢の市民が悪魔の犠牲になったと聞く・・・・当然、君も周知の事実であるとは思うが。」
「勿論、今、”飛竜”を派遣して調査中だ。」
五島の言葉に嘘偽りは一切ない。
事実、部下の自衛官達を現場に送り込み、生存者の救助活動を行わせている。
「まさかとは思うが・・・・貴公はそんな下らない事を確認する為に此処に来たのか? 」
この男が、態々地上まで這い出て来た理由は、大体ではあるが察しがつく。
「建布都神(たけふのかみ)に何を吹き込まれたか知らんが、”賢者の石”は諦めろ、アレを手に入れても君達の為にはならない。」
予想通りの言葉に、五島は内心溜息を吐く。
この帝都の魔人は、全てを見透かしている。
『賢者の石』は、膨大なエネルギーの塊だ。
それを軍事目的に使用すれば、各国のパワーバランスを覆す結果になる。
「・・・・貴公は、例の噂を聞いた事があるか? 」
「噂? 」
唐突に話が切り替わった事に、骸は胡乱気に国津神の長を眺める。
「我々の”父”が死んだ・・・・という話だ。」
「・・・・・・。」
衝撃的な内容に、骸は怪しい光を放つ紅玉の双眸を細める。
建御名方神が言う”父”とは、勿論、唯一神の事だ。
この世界に存在する様々な神の始祖。
天地開闢(てんちかいびゃく)の時代から存在し、様々な呼び名を持つモノ。
「俄かには信じられない話ではあるが、ヘブライ神族の連中の動きを見れば、嫌でも推測出来る。 奴等は、父上に一番近い場所にいるからな。」
「・・・・・成程、つまり君等は戦争がしたい訳か。」
建御名方神の言葉の端々に見える暗い意図を察し、骸は小さく吐息を吐いた。
世界各地に存在しうる神々にとって、唯一無二の神たる下僕であるヘブライ神の存在は、眼の上のたん瘤と同じである。
武闘派で有名なアースガルドやオリュンポス、三皇五帝の神々や四海竜王等が厄介者扱いするのは当然であった。
「勘違いするな、我々はあくまで自国を護りたいのだ。 他の連中と同じだと思わないでくれ。」
”父”が不在である・・・という噂は、当然、他の神々とて知っている。
もし、その話が事実であるならば、各国の神達が、我こそが唯一無二の神であると名乗る出て来る可能性は十二分にあった。
事実、兵を揃え、武力を整える輩まで出て来ている。
「アースガルド、オリュンポス、アスラ神族、エネアド・・・・様々な神が、創世の神となるべく動き出している・・・1年前のフォルトゥナ侵攻戦は覚えているかな? 」
「ああ、実に下らん茶番劇だったな。」
遠い、北の台地で起こった小さな戦争。
たった一日で終結してしまったが、それでも人々の記憶の中には、生々しく残っている。
「あの戦争で、スラヴの軍神達が深く関わっていた。」
五島曰く、スラヴ神達は、アースガルドと同盟を組み、フォルトゥナ公国を嗾(けしか)け、隣国のディヴァイド共和国と戦争を起こそうとした。
しかし、アメリカ国防総省の依頼で、子飼いの甲賀忍軍並びに坂本晋平二等陸佐を内偵として潜り込ませていた為、情報を逸早く手に入れる事が出来た五島は、国防総省と結託し、ロシアの現大統領であるアレクセイ・ネモフと内密な極秘会談を開いた。
「セルビアの秘密結社(フリーメーソン)の黒手組(ブラックハンド)は、アポフィスが引退して、現在、太陽神ラデガストが長になっている。 奴は、裏でアースガルドの長、オーディンと結託して、先の戦争を画策したのだそうだ。」
ロシア現大統領であるアレクセイ・ネモフは、生粋のスラブ人だ。
彼は、太陽神ラデガストを信奉しており、彼の力で大統領選を勝ち抜き今の地位に納まっている。
故に、ラデガストの命令は絶対で、彼の手足となり政務を行っていた。
「幸い、ラデガストはそこまで愚か者ではない。我々の圧力に簡単に屈し、フォルトゥナから手を引いた・・・まぁ、それはあくまで見せかけかもしれんが。」
奴等にとって、小国『フォルトゥナ』等、消耗品に過ぎない。
膨大な”精霊石”の鉱脈が眠るフォルトゥナの地を手放すのは惜しいが、他の神々に目を付けられ、武力を持って抑えつけられるのは、厄介なのだ。
「アースガルドの連中が、武力を高め、我々に戦争を仕掛けると? 」
「有り得ない話では無いだろ? ラデガストは兎も角、あの野心家が創世の神の座を狙わん訳が無い。」
建御名方神が危惧するところはまさにそれで、下手をすると日本等の小さな国如き、跡形も無く吹き飛ばされてしまう。
「で? 君は、そんな世迷言を信じていると? 」
「世迷言ではない。 既に神々は戦争に向けて準備している・・・・私はな、月読、この国を愛し護りたいと切に願っているのだ。」
これは、嘘偽りの無い、本心だ。
日本は、現在”シュバルツバース”という大きな爆弾を抱えている。
他国の神が創世を目指し、『受胎』を引き起こすには、シュバルツバースを解放する必要があった。
「君は、今の現状で満足しているのか? 」
「まさか・・・・同胞達の悲惨な状況をどうにかしたいとは思っているさ。」
天津神の台頭により、国津神の威厳は完全に地に堕ちた。
人々の信仰心を失えば、当然、神もその力を失う。
今、現在、同胞達は泥水を啜り、何とか生き永らえている状態であった。
「だからこその”賢者の石”か・・・・益々、愚かだな。」
呆れた様子で、溜息を一つ零すと、骸は座っていた革張りのソファから立ち上がる。
忠告はした、後は建御名方神がどの様な行動に出るかは、全て自己責任だ。
「愚かは貴公等、天津神だ。 天使共の走狗に成り果て、それで満足なのか? 」
部下が待つ執務室の出入り口へと向かう骸の背に、五島の皮肉が飛ぶ。
元々、天津神の始祖は外来から来た異邦の神だ。
当然、土着神である自分達とはモノの考え方が、根本的に違う。
「別に・・・・只、同志の一人を平然と捨て駒に使う君等の気持ちは到底理解出来ないだけだ。」
それだけを吐き捨て、骸は四神の一人である白虎を促し、執務室から出て行く。
後に残される五島。
ソファの背凭れに身を預け、深く瞑目していた。
平崎古墳大迷宮。
鋼牙達”探偵部”の面々と合流した鶴姫は、隠し通路を使用し、最短ルートで最深部である地下8階を目指す事にした。
「随分と詳しいんだな? 」
ネロが持っていたGUMPのマッピング機能を使い、隠し通路の場所を説明する美貌の剣士に、ダンテが言った。
「秦氏の姫君の怒りを鎮める為に、私の相棒(パートナー)である16代目も手を貸していたからな・・・・。」
今から30数年前、ファントムソサエティの構成員であったシド・デイヴィスは、平崎市に封印されていた大怨霊・イナンナ姫の封印を解いた。
彼女が持つ、膨大な量の魔力を手に入れる為である。
その事件に、当時、駆け出し召喚術師であった13代目・葛葉キョウジと先代ライドウである16代目が関わっていたのだ。
「この隠し通路にいる悪魔(デーモン)共は、通常の奴等とは比べ物にならない程スキルが高い。 頼むから、下らん痴話喧嘩だけは止めてくれよ? 」
胡乱気な双眸で、鶴姫が長い前髪をしている少年‐明と銀髪の大男‐ダンテを交互に睨む。
途端、渋い顔をする二人。
一瞬、双方の目が合うが、すぐに視線を逸らす。
「何としても、馬鹿弟子より先に魔王・ユリゼン・・・否、マーリンの所に行かなければならない。 各々、覚悟は当然出来ているんだろうな? 」
「はっ、当たり前だろ? 派手に暴れられると思うとワクワクするぜ。」
「頼むから飛ばし過ぎてガス欠になるなよ?ネロ。」
鶴姫相手に軽口を叩く銀髪の少年‐ネロに、黒縁眼鏡の少年‐ 鋼牙が釘を刺す。
ダンテと明は、互いに牽制している為か、終始無言だ。
一癖どころか三癖もある連中を眺め、鶴姫は海より深い溜息を吐いた。
平崎古墳大迷宮3階。
肩に凶鳥・ピロバットを乗せた狭間・偉出夫が鼻歌を歌いながら、隠し通路を歩いている。
傍らには、まるで護衛の様に妖獣・ライアット二体を従えていた。
「アンタと一緒にいると悪魔(デーモン)共が襲って来ないから凄い楽だぜ。」
数歩離れた斜め後ろを歩く幾何学的模様のマスクを被った男‐ヴィランが、何処か不満気な軽口を叩いた。
「彼等はとてもか弱いんだ・・・・君等みたいに悪魔(デーモン)だからという理由だけで、殺してしまうのは野蛮な発想だよ? 」
偉出夫は、傍らを歩くライアットの頭を優しく撫でる。
大好きな主に撫でられたのが嬉しいのか、妖獣は喉を鳴らしていた。
偉出夫の持つ最上位悪魔(グレーターデーモン)、太陽神・ラーの持つ力は、絶対的なカリスマ性だ。
全てを服従させ、支配する。
故に、知能が低い悪魔達は、意図も容易く偉出夫に従い、彼に絶対的な忠誠を誓うのだ。
「に、しても横内と防衛相の役人さんを簡単に帰して良かったのか? 」
『エルバの民』の同志である横内・健太と五島の懐刀、坂本二等陸佐は、既に平崎古墳から離脱している。
残されているのは、ヴィランと偉出夫の二人だけだ。
「ああ、横内君はこれ以上”レッドライダー”の力を使わせる訳にはいかないし、もう一人は、建御名方神殿の部下だ。 」
尊い同志である横内には、まだまだ創世の為に働いて貰うつもりだ。
坂本二等陸佐は、五島事務次官の部下である為、当然論外である。
「それに、彼等がいない方が、貴方も仕事がし易いんじゃないのか? 」
「・・・・・っ、フッ、参ったね。全部お見通しと言う訳か。」
偉出夫に内心を見透かされ、ヴィランは思わず覆面の下で苦笑いを浮かべる。
この怪物は、自分がヴァチカン市国から派遣された異端審問官である事を知っている。
ヴァチカン13機関(イスカリオテ)第10席、コード・ネーム、”ロールシャッハ”。
それが、軽子坂高校、科学教師、大月・清彦のもう一つの顔であった。
「だが、勘違いするなよ? 俺は、コイツの試運転を上から頼まれただけで、”賢者の石”には全く興味がねぇ。」
覆面の異端審問官は、右手に持つ鉄製の丈夫なアタッシュケースを偉出夫に見せる。
この中には、17代目・葛葉ライドウから奪い取った最上級悪魔(グレーターデーモン)魔神・ヴィシュヌを封じた神器が納められている。
その名を神器‐スダルサナ。
威力は、矢来区地下水道で実証済みだ。
「ほぅ、意外ですね。」
スパイとしてエルバの民に潜り込んでいるならば、当然、『賢者の石』についての情報も既に手に入れている筈だ。
傲慢な天使が、神の座を脅かす程の脅威を放置しているとは、到底思えない。
「当たり前だろ? そんな眉唾みたいな御伽噺を上に持っていけるかよ。 下手すりゃ俺の首が飛ぶっての。」
ヴィランの言い分は最もで、長い人間(ヒト)の歴史で、『賢者の石』や不老不死の霊薬とされる『エリクサー』を精製出来た錬金術師は誰一人としていない。
唯一、歴史に名を遺す魔導師、アンブローズ・マーリンのみが精製したと言われているが、その逸話も本当か嘘か未だ判然としないのだ。
「で? 貴方のお仕事は上手くいってるんですか? 」
この男の言葉を半分も信じる気は無い。
しかし、ヴィランが持っている特殊素材で造られた頑強なアタッシュケースに収まっている神器は気になった。
「一言で片づけるなら、駄作だな。 月の女神様には申し訳ねぇけど、一般の兵士が扱いきれる代物じゃねぇ。」
魔神・ヴィシュヌが封じられた神器‐ スダルサナは、使用結果によっては、量産化を目的としている。
しかし、扱い方が大変難しく、下手をすると一都市どころか、日本そのものが焦土と化す。
神の血を引くヴィランですら、スダルサナの性能を十分に発揮出来ていない。
型落ちの粗悪品なら、幾らでも精製出来るだろうが、そんな危険極まりない代物を一般兵に支給出来る筈が無い。
「人修羅ちゃんをヘッドハンティングするか・・・それが駄目なら、一生、国防総省の倉庫で寝かせるしかねぇな。」
「勿体ないですねぇ。」
職人(ハンドヴェルガー)の中でも、巨匠(マイスター)と呼ばれる月の女神・ヘカーテが創り出した至高の逸品ではあるが、扱えないのであれば、欠陥品と呼ばざる負えない。
そんな取り留めのない会話を交わしていると、巨大なクリフォトの根の前に辿り着いた。
人間の生き血を吸い上げるパイプの一本らしい。
どす黒い血で満たされたそれは、まるで血管の如く、不気味に脈打っていた。
「おい、まさかこの中に入れとか言うんじゃねぇよなぁ。」
ヴィランが、覆面の下で露骨に嫌な顔をする。
「これは、反逆皇・ユリゼンがいる最下層までの直通便だ。 乗って行けば、彼がいる霊廟までひとっ飛びだよ。」
尻込みする科学教師を尻目に、偉出夫は何の躊躇いすら見せずに、血管の中へと分け入る。
後に残される覆面の男。
偉出夫が此処まで連れて来た妖獣や凶鳥に白い目で見られ、渋々と言った態で主の後を追い掛けた。
モーターラッド型の魔具を巧みに操り、最下層にある霊廟へと向かう17代目・葛葉ライドウ。
途中、邪神・ルサキアやバフォメット、幽鬼・ヘルカイナを率いるヘルジュデッガに襲われたが、組織『クズノハ』最強と謳われる悪魔召喚術師の敵では無かった。
ものの数秒と掛からず殲滅され、跡形も無く塵へと還っている。
(何故だ・・・・何故、裏切った。)
かつて、魔界で仮契約を結んでいた四大魔王(カウントフォー)の一人、反逆皇・ユリゼン。
その協力者は、こともあろうに葛葉四家、葛葉・キョウジの銘を継ぐ人物であった。
ライドウが初めてキョウジと出会ったのは、今から30数年前。
超国家機関『クズノハ』に入り、暗部”八咫烏”の中でもエリート部隊と称される”十二夜叉大将”に属したばかりの時であった。
来る日も来る日も殺戮に明け暮れ、心が荒み、血反吐の中をもがき苦しんでいる時に、13代目・葛葉キョウジは颯爽と現れた。
『クズノハ』の戒律に縛られず、自由奔放で、周囲の者達から慕われる彼は、当時のライドウに眩しく映った。
彼の親友であり恩人でもある百地・三太夫や妻の月子も、キョウジに懐いていた。
「兄様、兄様。」とキョウジを呼び、彼に懐く妻の姿に、常に嫉妬と羨望の感情を抱いていた。
(裏切者め。)
脳裏を過るのは、濡れ羽色の長い黒髪を持つ美少女に抱き着かれ、苦笑を浮かべるキョウジの姿。
常日頃、従者として彼女に仕えているライドウには、決して見せてはくれない笑顔だった。
「・・・・っ! 」
その時、背筋を形容し難い寒気が走った。
殆ど条件反射で、疾走していたモーターラッドを急停車させる。
隻眼の召喚術師の頭上を、2メートル以上の巨躯を誇る白銀の獣が跳び超えた。
悪魔召喚術師の退路を完全に断つ、二頭の白銀の魔狼(まろう)。
そして、回廊の奥から、豪奢な甲冑に覆われた騎士が姿を現す。
汚れ一つない純白の鎧と、手には身の丈を軽く超える槍を携えている。
兜の奥から、炯々と光る真紅の双眸が、数歩離れた位置で対峙する隻眼の召喚術師を睨みつけていた。
「ランスロット卿・・・・。」
甲冑の隙間から、瘴気を漂わせているこの魔剣士の名は、かつてアーサー王に仕えていた円卓の騎士の一人だ。
君主、アーサー王の妻、グィネヴィアと不義の恋に堕ち、円卓の騎士の結束を分断させた咎人である。
「否、違うな・・・・マーリンが卿の肉片から造り出したグールか。 惨い真似をしやがる。」
モーターラッド‐ キャバリエーレから降りた悪魔使いは、腰に吊るしてあるガンホルスターからGUMPを取り出す。
トリガーを引くと、蝶の羽の如く液晶パネルが展開し、そこに何桁か打ち込んだ。
空中に展開される魔法陣。
そこから、漆黒の毛並みをした一匹の蝙蝠が飛び出す。
「アラストル頼む。」
「了解。」
キャバリエーレをGUMPに戻し、代わりに魔神・アラストルを召喚するライドウ。
主の言葉に頷いた魔神が、魔具の姿へと変わる。
二振りの双剣へと変わったアラストルを握ると、眩い光が悪魔使いを包む。
真紅の背旗に、白を基調とした鎧。
狐を模した面頬を付けるその姿は、まるで童話に登場する騎士そのものであった。
好敵手の登場に、対峙する騎士の双眸が細くなる。
右手に持つ長大な槍を一閃させ、切っ先を真向かいに立つ白銀の魔狼へと向けた。
平崎古墳大迷宮、最下層8階。
広い室内の中央には、歪な形をしたオブジェがあった。
クリフォトの根で造り出された台座。
そこには、外果皮に覆われた真紅の石が、眩い光を放ちながら、回転している。
その様子を聖櫃の上に腰掛けた白髪の少年が、無表情に眺めていた。
あの果実の中に宿っているのは、多くの罪なき人々の生き血を啜って生み出された代物だ。
多くの錬金術師達が求め、様々な手法で生み出そうとしたが、彼等の願い虚しく実現する事が叶わなかった魔法の石。
一説では、不老長寿を与える霊薬として、また、どんな金属でも黄金に変える事が出来る魔法の石として、様々な説が飛び交った。
「・・・・アーサー・・・もうすぐ、君に会えるよ。」
伝説の英雄、ユーサー・ペンドラゴンを父に持ち、勇猛果敢な12人の騎士を従え、戦場を駆け抜けた英雄、アーサー王。
マーリンにとって、アーサーは唯一自分と言う存在を認めてくれた人物であった。
王としての絶大なる威厳を持ち、かつ、子供の様に無邪気に振る舞う人。
「はぁ・・・・・君達が此処に来るのを許可した覚えは無いんだけどな。」
甘い記憶の中に浸っていたマーリンは、嫌悪感も露わに深い溜息を吐きだす。
「おっと、失礼・・・・想い出に浸っている所を邪魔してしまいましたね?」
霊廟の出入り口から姿を現したのは、10代後半ぐらいの少年であった。
癖のある髪を肩まで伸ばし、人形の如く整った容姿をしている。
くたびれたトレンチコートと幾何学的な模様をした覆面を被る中折れ帽の男を従え、少年‐ 狭間・偉出夫は、聖櫃の上に座る白髪の少年に対して、恭しく一礼した。
「私の名前は・・・・・。」
「狭間・偉出夫、軽子坂高校の三年生。 10年前の一家連続殺人事件の唯一の生存者・・・今は、エルバの民という掲示板の管理人をしている。」
軽い自己紹介をしようとする偉出夫の言葉を、マーリンが素っ気なく遮った。
硝子玉の様な緋色の双眸が、二人の闖入者へと向けられる。
「流石は、12世紀を代表する大魔導師だ。 こうも簡単にフィルターを外されるとはね。」
簡単に深層心理まで潜り込まれ、偉出夫は感嘆の吐息を吐く。
史実のマーリンは、グレートブリテン島の未来について予言を行い、アーサーの父、ユーサー・ペンドラゴンを導き、ストーンヘンジを建築した偉人だ。
魔導に関する様々な書籍を世に残し、彼の技術は今も尚、魔導士ギルドに大きな影響を与えている。
「君は、特異点だろ? 石なんて欲しがる理由なんかないじゃないか。」
偉出夫は、17代目・葛葉ライドウと同じ『帝王の瞳』を持つ人間だ。
その気になれば、因果律を捻じ曲げ、自分の思いのままに操る事が出来る。
”賢者の石”と同等、否、それ以上の力を持っているのだ。
「それがそうもいかなくてね。 魔導師ギルドに加入する為には、どうしても石を手土産にする必要があるんだ。」
「・・・・・・ふん、馬鹿々々しい。」
値踏みするかの如く、偉出夫とヴィランの二人を眺めていたマーリンは、指を慣らす。
すると、硬い岩盤を突き破り、数体のクリフォトサップリングが姿を現した。
「お前みたいな奴は、早めに死んだ方が良い。」
主の意を受け、クリフォトサップリングが偉出夫とヴィランに襲い掛かる。
しかし、偉出夫の背後から躍り出た妖獣・ケイオスが、刃の様に鋭い背びれで醜悪な触手の群れを斬り裂いていった。
飛び散る紫色の体液。
二体の妖獣が、主を護るかの如く、両脇へと降り立つ。
この悪魔(デーモン)は、マーリンが異界から呼び出して来た者達だ。
飼い犬に牙を向けられ、少年の秀麗な眉根が不快に歪む。
「おや? もしかして仲魔に裏切られたのがショックですか? 」
怒りを露わにするマーリンに、偉出夫が皮肉な笑みを口元に浮かべる。
妖獣達は、猫の様に喉を鳴らし、愛しい主へとすり寄った。
「彼等にも心はある・・・・力で従わせるなんて、野蛮で下品なやり方だ。」
「・・・・・太陽神・ラーか・・・・面倒臭い奴を持ってるな。」
正式名称は、アメン・ラー。
エジプト神話に登場する最高神の一人だ。
ヘルモポリス創世神話を造った神で、古代エジプトの偉大な文明を構築した神で、絶大なるカリスマで、信徒達を支配していた。
「だったら、こうしてやるまでだ。」
マーリンが、今迄腰掛けていた聖櫃の上に乗る。
すると、石の棺に罅が入ると、そこから醜悪な姿をしたクリフォトの根が飛び出した。
無数の根は、一つの束となり、巨大な悪魔へと変貌していく。
かつて、マーリンが四大魔王(カウントフォー)として君臨していた仮初の巨人が、そこに立っていた。
無数の目が、不埒な侵入者を見下ろしている。
「先生、お仕事の時間ですよ? 」
「ちっ・・・・泣けるぜ。」
天井を突き破る程に巨大な魔神を前に、ヴィランは右手に持っているアタッシュケースの開閉ボタンを押した。
ラストまであと少し。