偽典・女神転生~偽りの王編~   作:tomoko86355

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登場人物紹介

マダム・銀子・・・・本名は『土御門 清明』
組織”クズノハ”の幹部であり、組織の所属する召喚術師達の御目付け役。
『聖エルミン学園』の理事長を務めている。

壬生・鋼牙・・・・『聖エルミン学園』特殊学科、高等部2年生。
”クズノハ”の暗部・『八咫烏』に属しており、その中でも精鋭部隊の『十二夜叉大将』、伐折羅大将(バサラ)。父親は、葛葉四家当主が一人、14代目、葛葉猊琳(げいりん)。


第二話 『 聖エルミン学園 』

今から、10数年前、関東地区一帯を未曽有の大地震が襲った。

都心部を中心に襲った地震は、第一次関東大震災を遥かに上回り、10万人以上の市民が死亡。

うち数千名が、未だ消息不明であり、遺体すら回収出来ない状態であった。

国は、一時、首都を八王子へと移し、国連の協力を得て復興作業を行う。

しかし、日本人の大半を失った為、肝心の労働力が足らず、他国から、多くの外国人労働者を受け入れた。

国会議事堂がある永田町、新宿などは何とか復興作業が終了し、人々が生活出来る水準まで回復したが、その他は、未だ手つかずのままである。

理由は、”壁”から漏れ出た瘴気により、悪魔が大量発生した為であった。

作業員の多くが襲われ、復興作業が一時、中断してしまったのだ。

超国家機関『クズノハ』が派遣されたが、芳(かんば)しい結果は、見られず、東京23区である渋谷、中野、世田谷は、今も尚、封鎖状態が続いている。

 

 

 

東京湾全体を覆い尽くすかの如く、建設された巨大な壁。

一般市民達には、震災により放射能が漏洩した為急遽、建設されたと伝えられているが、当然、実情は違う。

あの壁の向こうには、異界が広がっており、魔界に住む悪魔達が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)していた。

 

「あれが、”シュバルツバース”か・・・・。」

 

東京ゲートブリッジの上に、聖エルミン学園の制服を着た銀髪の少年が、その巨大な壁を眺める。

三日前に、日本へと移住した魔剣教団の元騎士、ネロだ。

先の戦争により、その咎(とが)を責められたヒュースリー家は、当然、取り潰しの憂き目に会い、親代わりとして育ててくれた義理姉・キリエが長い闘病生活の末、死去した。

還る家を失ったネロは、隣国ディヴァイド共和国の監視を受けていたが、日本にいる17代目・葛葉ライドウから、養子縁組の申し出があり、それを快く受け取り、現在に至る。

 

「ほらほら、何時までも眺めてないで、早くしないと初日から遅刻しちゃうぞ。」

 

御目付け役として、同伴している小さな妖精が、未だ、橋を眺めているネロに声を掛けた。

 

ゲートブリッジを越えた先には、巨大な人工島があり、そこに彼等の目的地である『聖エルミン学園』がある。

最新鋭のAIが、人工島を管理しており、あらゆる交通機関、商業区域を制御している。

ネロは、マベルに誘われるままに、『聖エルミン学園』に続く無人バスへと乗り込んだ。

 

「凄ぇな・・・これ全部、CP(コンピューター)が動かしているのかよ? 」

「そうよ。ウチのH・E・C(Human Electrical Company)が技術提供してるんですからね? 」

 

物珍しそうに無人で動くバスを眺めるネロの肩に、何故かドヤ顔のマベルが座っている。

 

「その他にも、各種飲食店や雑貨、ホテルに娯楽施設まで、ぜーんぶ、”アメトリフネ”が管理してるの。」

 

”アメトリフネ”とは、人工島、『天鳥町』を管轄する巨大AIの名前だ。

24時間、365日、人工衛星で島を監視、あらゆる犯罪行為を未然に防いでいる。

ゲートパスを持つ者だけが、島に入る事が可能で、パスには持ち主のデータが入っており、何か事故や病気等が起こった場合は、適切かつ迅速な対応をしてくれる。

 

「ちっ、でも何で俺が態々、学校に通わなきゃならないんだよ? 訓練校で一通り学業は終了したっての。」

 

大分、機嫌が悪いのか、ネロは、不貞腐れた様子で、バスの席にドカリと座り込む。

バス内は、ネロとマベルしかおらず、閑静(かんせい)としていた。

 

「ライドウが、少しでも早く日本に慣れ親しんで欲しいと思って配慮したんでしょ? それに、アンタまだ16歳になったばかりじゃない。」

 

そんなネロに対し、マベルが呆れた様子で肩を竦めた。

 

ネロが成城にある葛葉邸へと招かれたのが三日前。

豪奢な邸宅の造りに面食らっていたネロの所に、『聖エルミン学園』の学生として通学する様に養父であるライドウに言われた。

当然、ネロは難色を示したが、誰よりも尊敬する17代目の命令だ。

無下に断る事も出来ず、渋々と言った様子で頷いた。

 

『餓鬼は勉学が仕事だからな? しっかりと励めよ? 』

 

ニヤニヤとからかう様に笑うダンテの顔が、脳裏に浮かぶ。

どういう経緯(いきさつ)かは知らないが、あの銀髪の大男は、ライドウの代理番として収まっていた。

フォルトゥナ城にある旧修練場で、あれだけ不埒な行いをしたにも拘わらず、悪魔使いは何故、あの荒事師を代理番に選んだのか?

学校への通学以前に、それだけが、今のネロには癪に触って仕方が無かった。

 

 

10分後、『聖エルミン学園』前。

広大な敷地面積を持つ学園へと到着したネロは、出迎えに来た理事長の秘書だという人物の案内で、応接間へと案内された。

 

「貴方が、17代目が言っていたネロ君ですか? 」

 

応接室には、既に人がいた。

見事な金の髪を頭頂部で一纏めに結い上げ、高価なソファに脚を組んで座っている。

マネキン人形の如く、容姿が非常に整っており、女性か男性か判別が出来ない。

しかし、声質が思った以上に低い事から、男性であろう事が、辛うじて分かった。

 

「私は、当学園の理事長を務めている土御門・晴明(つちみかどはるあきら)と申します。 以後、お見知りおきを。」

 

窮屈そうにエルミン学園の制服を着るネロに、真向いのソファへと座る様に促した晴明は、柔らかい笑みを向けた。

 

「アンタも”クズノハ”の関係者なのか? 」

「はい、組織に所属する召喚術師(サマナー)達の目付け役もしております。 皆は、私を”マダム・銀子”と呼んでいますよ。」

 

優雅に脚を組む美貌の麗人は、ネロの無礼とも取れる質問に対し、快くそう応えた。

 

「編入試験の結果は、拝見させて頂きました。全ての学科に対し、Aクラス以上の評価が出ています。 流石、名門、ヒュースリー家の御子息だけありますね。」

 

ソファの前に置かれている机には、数枚の書類が乗っている。

恐らく、学力検査の為の試験結果と、ネロの簡単な履歴が載っている書類だろう。

マダム銀子は、その一枚を手に取り、満足そうに微笑んだ。

 

「1年前の戦争で家名は取り潰しになった・・・・因みに、今迄習得した剣士(ナイト)の役職全部、剥奪されちまったよ。」

「おっと、これは失礼・・・・・失言でしたね。」

 

忌まわしい記憶が蘇るのか、不愉快そうに眉根を寄せる銀髪の少年に向かって、マダムはあっさりと己の非を認め、謝罪した。

 

「先の戦争で剥奪された貴方の役職ですが、我々の方で返還させる様に”ギルド”には働きかけております。近いうちに申請書類と身分証が貴方の所に届くでしょう。」

「そ、それ、本当なのか? 」

 

思いがけないマダムの言葉に、暗かったネロの表情が、途端に明るくなる。

 

あれだけ苦労して取得した役職だ。

元通りに戻してくれるなら、これ程、有難い話はない。

 

「ですが、貴方は今は唯の学生です。 狩猟者(ハンター)の免許はお返ししますが、当学園の生徒である事だけは忘れないで下さいね。」

 

喜ぶネロに対して、マダムは一応の釘は刺す。

矢無負えない事情である以外は、悪魔(デーモン)の狩猟は控えろと暗に伝えているのだ。

 

「ちっ、分かったよ。 」

 

失った資格が元通りに戻るのならば、それに越した事はない。

多少の不満はあるものの、父親と同じぐらい尊敬しているライドウの気遣いを無駄にはしたく無かった。

 

 

理事長との軽い挨拶を終えたネロは、一人の学生を紹介された。

名前は、壬生・鋼牙。

ネロと同じ16歳で、エルミン学園高等部2年生である。

度の強いレンズの嵌った黒縁眼鏡を掛け、如何にも優等生と言った感じの立ち居振る舞いをしていた。

 

「彼も私達”クズノハ”に属する人間です。 鋼牙君、後の事は頼みましたよ? 」

「はい、晴明様。 」

 

恭しく、上司に一礼をした鋼牙は、改めてネロへと向き直った。

着瘦せする体質なのか、間近で見ると意外にもがっしりと鍛え上げられた体躯をしている。

にっこりと微笑むその表情は、歳相応の顔をしていた。

 

 

 

「このエルミン学園では、一般学科コースト特殊学科コースの二つがあるんだ。」

 

学園内にある各施設を案内しながら、ネロの数歩前を歩く鋼牙がそう説明した。

 

鋼牙曰く、国際学校である『聖エルミン学園』には、当然、各国から様々な人種の学生達が登校し、勉学等に励んでいる。

しかし、この学園は、通常の国際学校とは明らかに違う所があった。

 

「君の母国、フォルトゥナ公国では、魔導技術を専門に学ぶ施設が豊富らしいね? 」

「まぁな・・・・それと、慣れないウクライナ語は止めてくれ。 気を遣ってくれるのは有難いが、聞き取りずらくてかなわねぇよ。」

 

ゲルマン語でもちゃんと通じる旨を、黒縁眼鏡の少年へと伝える。

 

この時代、ドイツ語、オランダ語、英語等、共通のゲルマン祖語が世界共通言語となっていた。

先の大震災で、日本人の約半数以上を失った事により、国は多くの外国人労働者を受け入れざる負えなくなった。

その為、必然的に日本もゲルマン祖語が広まる結果となったのである。

 

「僕は、皆と違って純粋な日本人でね・・・・英語もあまり得意じゃないんだ。」

 

そう言って、鋼牙は苦笑するが、発音は、ネロよりも綺麗で流暢としている。

 

「此処は、魔導の訓練もしてるのか? 」

「うん、一応、適正検査を受けないと駄目だけどね。 殆どの学生達が一般コースを学んで大学に進学するか、企業に就職している。」

 

渡り廊下の窓から、グラウンドを見下ろすネロに、鋼牙が簡潔に説明した。

 

適正検査を通る学生達は、驚く程少ない。

適正値に達するマグネタイト量を持つ人間達が、あまりいないのだ。

それでも、魔導の技術を学ぼうとする者達は、後を絶たない。

理由は、安定な職と高額な収入にあった。

 

「自慢じゃないけど、ウチの学校は、その手の設備が豊富でね。学生達の他に、大学院生や、研修医、果ては警察関係者まで学びに来てる。」

 

特殊学科コースがある、地下施設へと案内する為、鋼牙はネロと一緒に学園内のエレベーターへと乗り込んだ。

各階を指定するボタンの横にあるカード読み取り機に、身分証にあるバーコードを通す。

すると、エレベーターは特殊学科のある地下3階へと降りて行った。

 

「俺は、ずっと騎士団で育ったから、魔導専門の職業とかあんまり分かんねぇけど、儲かるもんなのか? 」

「勿論、魔法薬に使用される特殊な球根や果実は、育て方が難しい分、高額な値段で取引されてる。 だから、特別な才能を必要としない薬学師(アポテーカー)は物凄く人気があるんだ。 国家試験は、相当難しいらしいけど、それに見合う年収が必ず約束されるからね。」

「ふうん、成程ねぇ・・・。」

 

今も尚続く、世界大恐慌。

他国では、職を失った者達が溢れ、犯罪件数が驚くほど伸びているのだという。

此処、日本も当然、不景気の荒波に襲われ、職を求める市民達が毎日の様に、職業安定所に詰め掛けていた。

 

「着いたよ。」

 

鋼牙が、ネロを促し、エレベーターから出る。

長い通路を歩き、重厚なドアの前にあるカード読み取り機に、再び身分証のバーコードを通した。

 

「随分と厳重なんだな? 」

「一応、機密事項だからねぇ・・・。」

 

開いた扉を潜ると、そこは広大なドーム状になっていた。

AIによって生活環境が管理され、幾つも学び舎らしき建物が建っている。

人工の芝生に河まで流れていた。

 

「凄ぇ・・・・・此処だけ別の世界みたいだ。」

 

この上に、普通の学生達が通う、学園があるとは到底思えない。

城の様な建造物と、それを取り囲む様に建てられたカントリーハウス。

まるで、映画の中に迷い込んだ気分だ。

 

「理事長の趣味でねぇ・・・・僕は、もっと近代的な建物が好きなんだけど。」

 

眼下に広がる魔導施設に、始終驚嘆するネロを横目に、鋼牙が大袈裟に肩を竦める。

早速、施設内に入る為、二人は、階下へと降りるリフトに乗り込んだ。

 

「因みに、此処の施設は『クズノハ』が出資してる。当然、関係者は全員、僕と同じ組織の人達で固められているからね。」

「・・・・・ライドウさんも此処に来るのか? 」

 

不図、一つの疑問がわいた。

『クズノハ』が、この施設を運営しているのならば、その幹部であるライドウが、視察に来ているのではと思ったからだ。

 

「あの人は来ないよ・・・・てか、来れない。此処の職員連中に嫌われているからね。」

「? そりゃ、一体どういう意味だ。」

 

何か意味あり気な鋼牙の言い回しに、ネロの眉根が不快気に歪む。

 

17代目・葛葉ライドウと言えば、組織を代表とする悪魔召喚術師だ。

組織最強の誉れを持つ彼を、何故、関係者達が嫌うのか?

 

「ライドウは、葛葉の正統な血筋じゃないからよ・・・・この組織は、狭い世界で出来上がってる、だから余所者は信用出来ない。」

 

それまで、大人しくネロの肩に座っていたマベルが、憤懣やるかたないと言った様子で、ぼそりと呟いた。

 

「そういう事。 僕の父親を含め、上層部連中は、全員頭が固いんだよ。」

 

マベルの辛辣な言葉に、鋼牙が思わず苦笑を浮かべる。

 

超国家機関『クズノハ』の上層部、葛葉四家は、蘆屋道満大内鑑の正統な血筋を持つ一族によって構成されている。

鋼牙の父、葛葉猊琳(げいりん)も、蘆屋道満の血を色濃く継ぎ、四家当主の一人である。

 

「何で、苗字が違うんだ? 」

 

階下に降りる為、リフトに乗り込んだネロが、至極当然な疑問をぶつける。

 

「代々、四家当主は決められた銘を襲名する事になってる。 僕の父は、初代から数えて14代目になるよ。」

「ふーん、そうなると、何時かは何とかゲイリンって名前をお前も継ぐのか? 」

 

何気ないネロの質問に、鋼牙の表情が暗く陰(かげ)る。

どうやら、彼の中で触れてはならないモノに、触れてしまったらしい。

 

「僕は、父の銘は、継げない・・・・召喚術師(サマナー)の才能が無いからね。」

「ご、御免ね? 鋼牙。 」

「良いって、あの人とは既に親子の縁は切れてるからね。」

 

すかさずフォローに入ろうとするマベルに、鋼牙が朗らかな笑みを浮かべて応える。

何気なく気まずくなる雰囲気。

そんな一同の耳に、素っ頓狂な女性徒の声が、無遠慮に割って入る。

 

「な、何で丹精込めて育てたマンドレイクちゃんが枯れてるのよぉ! 」

 

女生徒の声は、リフトを降りたすぐ先にあるガラス張りの巨大な温室からであった。

鉄骨の枠組みに、強化ガラスをはめ込んだその建物には、外からも様々な植物が栽培されているのが見える。

興味本位で、一同が中に入ると、赤毛の少女が、呆然自失とした様子で枯れた鉢植えを持った状態で、床にへたり込んでいた。

 

「水と肥料の割合が間違ってる。 マンドレイクはデリケートな植物、ちょっと間違えただけですぐ枯れてしまう。」

 

傍らにいる大男が、口から大量のエクトプラズムを吐き出している少女に、簡潔的に説明してやる。

どうやら、この大男が薬学を教えている講師らしい。

硝子の温室内には、女性徒を含め、数名の生徒らしき人間達が、思い思いに作業を続けていた。

 

「ううっ、この半年間の努力が全て水の泡・・・・。」

 

真っ黒に変色したマンドレイクを眺めながら、赤毛の女性徒―日下・摩津理は、滂沱と涙を流していた。

 

「マツリ・・・・元気出すホォ・・・・。」

「そうよ、又、やり直せば良いじゃない。」

 

そう慰めているのは、雪だるまの姿をしている妖精・ジャックフロストと摩津理の親友、八神・咲だ。

二人共、学園の支給している運動用のジャージにエプロンを付けていた。

 

 

「驚いたな・・・・普通に悪魔が居るぜ。」

 

摩津理の傍に妖精・ジャックフロストがいるのに驚いたのか、ネロが思わずそう言った。

 

「此処は、悪魔工房でもあるからね。 僕達、人間に友好的な妖精族や地霊族が居ても不思議じゃないよ。」

 

鋼牙が言う通り、良く見ると悪魔らしき姿が、生徒達に混じっているのが分かる。

この温室内には、妖精族が多くいて、学園の生徒や外部から魔導を学びに来た者達に、薬草の育て方や、魔法薬を造る為の工程などを教えていた。

 

「因みに、私も此処の出身ですからね。」

 

ネロの肩に座るマベルが、自慢げに薄い胸を張る。

 

マベルの話によると、彼女は17代目と契約する前は、この妖牧場で生活していたらしい。

 

「普通は、悪魔達から技術を教えて貰うのは珍しいらしいね? 悪魔(彼等)を倒す為の技術ってのが当たり前らしいから。」

 

組織『クズノハ』が運営する妖牧場には、講師として多くの悪魔達が生活をしている。

しかし、一般的にこういう行為は、大変稀であり、他国の妖牧場や魔導関係の施設は、人間が講師を務めるのが常であった。

 

「皆、アルフレッドのお陰だよ・・・・彼の地道な努力が、今、こうやって実を結んでる。」

「アルフレッド・・・・? 」

 

聞きなれない名前に、ネロが自分の肩に座る小さい妖精へと、胡乱気な視線を向ける。

 

「アルフレッド・アシモフ博士・・・・有名な宗教学者だよ。 魔導士職(マーギア)の役職を全て習得した”到達者(マスター)”で、SS(だぶるえす)級の召喚術師・・・そして、この施設の創立メンバーの一人さ。」

 

鋼牙の説明によると、アルフレッドは、大統領府専属の召喚術師だったらしい。

悪魔の研究をしており、実際、何度も魔界へと足を運んでいたのだそうだ。

彼は、妖精族と地霊族の二種族と太いパイプを持ち、彼等の為に農耕の技術や生体マグネタイトを提供する代わりに、両種族から、魔導に関する技術を得ていた。

 

「博士のお陰で、魔導技術は飛躍的進歩を遂げた。 母国であるアメリカも彼の功績を讃えて、幾つも勲章を贈ったんだけど・・・・。」

「あっ! いたいた! 壬生! 壬生鋼牙! 」

 

野太い胴間声が、鋼牙の言葉を遮った。

見ると、温室の出入り口に、紺色の背広を着た50代半ばぐらいの教師らしき男性が、物凄い形相でネロと鋼牙の所へと歩いて来る。

 

「反谷教頭、一体どうしたんですか? 」

 

風紀委員の腕章をつけた男子生徒二名を従え、怒りのオーラを纏う反谷浩二教頭に、鋼牙が呆れた様子で問い掛ける。

 

「どうしたんですか? じゃない! 今すぐ正門前に行け! 奴が又暴れて手が付けられんのだ! 」

「・・・・はぁ、また明の奴が何かしたんですね? 」

「そうだ! 早く行かんと貴様も停学処分にするぞ! 」

「はいはい。此処では余り大声は出さないで下さい。 周りの方達に迷惑になりますよ? 」

 

鋼牙が指摘する通り、温室内で作業をしている学生達や、講師役の地霊や妖精達が、興味津々で遠巻きに此方の様子を伺っている。

枯れたマンドレイクの鉢植えを両手に持つ日下摩津理と親友の八神咲も、予想外の闖入者に驚いて固まっていた。

そんな周囲の様子に、途端にバツが悪そうな表情になる反谷教頭。

鋼牙に窘められた事が、相当気に喰わないのか、肩を怒らせ、風紀委員の生徒二人を促し、温室の外へと足早に出て行く。

 

「いいか!今すぐ奴をどーにかしろ!」

 

それだけ捨て台詞を吐くと、反谷教頭は、上階へと続くリフトに乗り込んだ。

 

「変な所を見せちゃって御免。」

「あ、い、否・・・・別に気にしちゃいねぇよ。」

 

この突然すぎる寸劇に、どう対処したら良いのか分からず固まるネロに向かって、鋼牙が大袈裟に肩を竦めた。

 

「ハンニャの奴、此処はトロル先生の大事なアトリエなのに・・・・。」

 

枯れたマンドレイクの鉢を棚に置いた摩津理が、憤懣やるかたないと言った様子で、鋼牙とネロの傍へと近づく。

 

あの反谷という教師は、相当、学生達から煙たがられている存在らしい。

 

「あ、日下さん丁度良いや、僕、ちょっと野暮用を済ませなきゃいけなくなったから、暫く彼の事頼んで良いかな? 」

「別に良いけど、アンタ達”探偵部”もいい加減、ハンニャに目を付けられない様、気を付けたらどうなの? 」

「ハハッ・・・確かにその通りなんだけどねぇ・・・。」

 

摩津理に痛い所を突かれ、鋼牙が苦笑いを浮かべる。

 

本音を言えば、無駄な諍いは起こしたくは無いが、相方の副業のせいで、いらぬトラブルに巻き込まれるのは何時もの事だ。

 

鋼牙は、妖牧場の案内を摩津理達に任せ、正門前で起きている乱闘騒ぎを収めるべく、足早にリフトへと向かった。

 

「君が噂の転校生君? アタシ、日下・摩津理。 一応、薬学部の部長をしているの。宜しくね? 」

「うん? ああ・・・よ、宜しく。」

 

日本人と外国人のハーフなのか、摩津理は彫りの深い整った容姿をしており、薄いグリーンの瞳をしている。

鋼牙の様なたどたどしいウクライナ語ではなく、聞き取り易い綺麗な発音に、ネロは思わず面食らった。

 

「ウチのお婆ちゃん、純粋な東スラヴ人なの。矢来銀座で占い師をしてるわ。」

 

そんなネロに、軽い自己紹介をすると、少し離れた位置に立つ八神・咲と仲魔のジャックフロストを呼んだ。

 

「副部長の八神・咲です・・・・て、英語は大丈夫なのかな? 」

 

咲は、摩津理と違い、今の時代では大変珍しい、純、日本人だ。

標準語であるゲルマン祖語以外に、日本語の二つしか話せない。

 

「大丈夫だよ。訓練校では皆、英語しか話せない奴等ばかりだったから。」

 

戸惑う咲を安心させる様に、ネロが口元に柔和な笑みを浮かべて応える。

 

八神・咲という少女は、大和撫子を絵に描いた様な人物であった。

長い黒髪を背後に垂らし、一房三つ編みに結っている。

黒曜石の瞳に雪の様な白い肌。

摩津理が、現代風な美少女に対し、咲は、古風な感じの美少女であった。

 

「オイラ、ジャックフロストホーっ!皆は、JFて呼んでくれるホーっ!」

 

咲のすぐ傍らにいる雪だるまの妖精が、元気一杯に挨拶する。

摩津理と咲同様、エルミン学園のジャージに大きなエプロンを付けていた。

 

「んで、コッチのでっかい人が、私達、『薬学部』の顧問をしているトロル先生だよ。」

 

摩津理が、まるで大岩の如く巨大な体躯をした大男を紹介する。

通常の男子高校生より高身長である筈のネロが、見上げる程にデカイ。

摩津理の胴体ぐらいはありそうな太く長い両腕に、脚はその半分ぐらいしかなかった。

顎髭を蓄え、意外にも可愛らしいつぶらな瞳をしている。

 

「・・・・・ハルアキラの言う通り、お前、悪魔憑き・・・・か。今は、体内にある『閻魔刀』とナナシの封印式で抑えられているみたいだが・・・。」

 

前もって、理事長からネロに関する情報は知らされていたらしい。

トロルの視線が、ネロの右腕に嵌められた腕輪へと落ちた。

昨日、養父である17代目・葛葉ライドウから、”矢無負えない状況以外は、決して外してはいけない”と忠告され、嵌められたモノだ。

 

「・・・・来い。 俺の工房まで案内してやる。 」

 

警戒するネロを他所に、トロルはあっさりと踵を返すと、巨大温室から出て行ってしまう。

 

「トロルは悪い奴じゃ無いよ。 だから、余り気にしないで。」

「・・・・分かってる。 」

 

心配そうに此方の表情を伺う小さな妖精に対し、ネロはぶっきらぼうに応える。

恐らく、あの大男は悪魔だ。

しかし、今迄、対峙して来た悪魔達と違い、彼からは明確な悪意を感じない。

それを無意識にではあるが、ネロは理解していた。

 

 

 

『聖エルミン学園』正門前。

 

如何にもその手の界隈にいる派手な服装をした男が、悲鳴を上げて正門の硬い壁に打ち付けられる。

血反吐を吐き、地面に倒れ伏す男。

派手な服装の男同様、周りには、打ちのめされ、前歯を折られ、あらぬ方向に手や脚を曲げられた奴等が、大勢地面に這いつくばっていた。

 

「まだやんのか? オッサン。」

 

優に2メートル近くはあるだろうか。

長い前髪で目元を隠した『聖エルミン学園』の制服を着た学生らしき少年が、今時珍しいパンチパーマの40代半ばぐらいの男に向かって、面倒臭そうに言った。

 

「ひっ、て、てめぇ! 俺等を天堂組系列のモンだと知って・・・・・。」

「知ってるよ。 池上組の若頭なんだろ? アンタ・・・・経済ヤクザ気取っている割には、みかじめ料だと何だとほざいて、山谷の奴等に散々、脅迫してた能無しだよな? 」

「うっぐぐぐぐぐっ・・・・。」

 

少年― 遠野・明に、痛い所を突かれ、池上組の若頭は、口惜しそうに唸り声を上げる。

この男は、山谷のドヤ街にある居酒屋や飲食店数軒に対し、みかじめ料と称して、理不尽極まりない脅迫行為を何度も繰り返していた。

警察も見放した無法地帯を良い事に、やりたい放題していたが、堪忍袋の緒が切れた商店街の住民達が、”山谷の用心棒”こと明に、やくざを追い払って欲しいと、依頼して来たのである。

 

「う、うるせぇぞ!糞餓鬼がぁ! 俺等のバックにはて・・・・・。」

「成程、叔父さん達の頭は、天堂安瀬(やそすけ)さんなんですね? 」

 

そんな二人の間に割って入る第三者の声。

池上組の若頭が其方の方に振り返ると、スマートフォンを片手に、黒縁眼鏡の少年―壬生・鋼牙が数歩、離れた位置で立っていた。

 

「全く、暴れるなら場所を考えてよね? 明。」

「悪い。」

 

わなわなと震えるパンチパーマの男を他所に、鋼牙は慣れた手付きで何処かへと電話を掛けた。

 

「あ、安瀬さん? 僕です”葛葉探偵事務所”所長代理の壬生・鋼牙です。 あ、はい。その説はどーも・・・実は、ウチの学校に池上組の若頭さんと名乗る方が・・・え?今すぐ変わって欲しい・・・・あ、はい・・・分かりました。」

 

どうやら通話相手は、関東最大のヤクザ組織である天堂安瀬本人らしい。

一体、どんな関係なのかは、皆目見当もつかないが、黒縁眼鏡の学生は、組長との直通電話番号を知っているのだ。

一通り、安瀬と会話を終えた鋼牙は、真っ青な顔をして固まる若頭に、自分のスマホを差し出した。

 

「安瀬会長が、貴方と話をしたいそうです。」

「かっ・・・・・・か、か、会長が・・・・・? 」

 

いくら天堂組系列とはいえ、池上組等、地べたを這い回る蛆虫と同じぐらい小さな組織だ。

当然、天上人である天堂組、会長等、定例会議で顔をちらりと見る程度である。

カタカタと震える手で、スマホを受け取ったパンチパーマの男は、固唾を呑みつつ耳へと近づける。

 

「この糞馬鹿野郎がぁ!! 」

 

鼓膜を突き破らんばかりの胴間声。

聞き間違える筈が無い。

天堂安瀬本人であった。

 

「てめぇ! 天堂組の恩人に対して何て事をしやがる! しかも、一般人を恐喝だぁ!? その腐った根性叩き直してやるから、今すぐ、西麻布にあるワシの邸宅に来い!! 」

 

スマホから流れる天堂会長の怒りの声は、当然、明や鋼牙にも聞こえていた。

池上組の若頭は目頭に涙を溜め、振り子の如く頭を上下に揺らし、何度も此処には存在しない安瀬に向かって頭を下げる。

そして・・・・。

 

「すいませんでしたぁ―!! 」

 

恭しくスマホを鋼牙へと返した若頭は、石畳に頭を擦り付け、渾身の土下座をする。

白目を向いて失神している手下を叩き起こし、怪我を負った連中を黒いリムジンへと押し込み、安瀬がいる西麻布に向けて去って行った。

 

 

「さてと、問題が片付いたみたいだから、僕は本来の仕事に戻らせて貰うよ。」

 

去っていく、黒塗りの高級車を眺めつつ、鋼牙は、摩津理達に預けているネロの所へ向かおうとした。

 

「もしかして、マダムが言っていた例の転入生か? 」

「うん、元魔剣教団の騎士だって・・・・しかも、”ソロモン12柱の魔神”が封印されているらしい。」

 

鋼牙が意味あり気な視線を、背後にいる長身の少年へと向ける。

 

「”混沌の器”・・・・・じゃ、ねぇよな? 」

「さぁ・・・・・さり気なく霊視をしてみたけど、”ソロモンの魔神”が居座っているだけで、それらしい気配は無かった。」

 

鋼牙が、正門の扉の影に隠れている反谷教頭と手下の風紀委員の生徒二人組に手を振る。

『聖エルミン学園』きっての問題児である、遠野・明の存在が余程恐ろしいのか、反谷教頭は、苦虫を1000匹噛み潰したかの様な渋い顔をしていた。

 

「まぁ、此処には、清明様の他に炎の巨神(スルト)がいる。 もし、彼が”混沌の器”だったとしても、あの二人なら幾らでも対処は出来るでしょ。」

「だな・・・・。」

 

それだけ会話を交わした二人は、受け持っている仕事を済ませるべく、それぞれの場所へと戻って行った。

 




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