大幅に変わっていますが、長い付き合いをお願いします。
まずはプロローグ代わりの一話です。
手始めに
善と悪ってあるよな。
例えば、目の前にとても重そうな荷物を背負っている老婆がいて、自分はこれといった予定もやるべき用件も達成せしめんとする目的も無い、所謂暇な状態であった時。老婆に代わってその重そうな荷物を運んであげる。
これは
じゃあ逆に。その老婆が今にも倒れそうに震えながら、懸命に一歩一歩を踏みしめているのを、高笑いしながら携帯やらスマートフォンやらで撮影し、ネットワークの電子世界でまた笑う。もしくは、直接的にその老婆に足をかけるなり、わざとぶつかるなりしたとする。
これは
だが、もしも。その老婆の荷物が、自爆テロに使われる爆薬がしこたま詰まった、文字通りの脅威の塊なのだとしたら?実は老婆が全国指名手配の犯罪者で、警察がネットワークに情報の公開を求める旨の表明をしていたら?
上記の善と悪は、ひっくり返る。
こんなにも簡単に、善性と悪性は入れ替わるんだよ。ひっくり返って、裏返って、交代するんだ。
だったらさ、この世界の法律とか、人徳とか道徳とかを決定付ける善悪が、こんなにも曖昧で不確かで、足元が覚束ない赤ん坊みたいな概念何だったらさ。
この世は、どうしようも無いほどに終わってるよ。
ーーーーーー
「だから午後の授業サボタージュしたぐらいで、そう目くじら立てて怒髪になんなくてもいいと思うわけですよ、生徒会長」
「私とて一々生徒一人にかかずらう気はありません。問題は貴方が午後の授業だけでなく午前の授業も放棄し、挙句立ち入り禁止となっている屋上で昼寝をしていた事です」
よく晴れた青空が、地にある全てを照らす………まあつまり晴天ってワケだ。
雲がチラホラと流れているが、殆ど無いに等しい数と大きさだ。時刻は丁度昼を少し過ぎた頃。おれは、安いコンビニ弁当を腹に詰めた故にか、満腹中枢を刺激され、否応無しに惰眠を貪っているわけだ。
いやあ心苦しいんだがな、授業をサボるのは。だが、この体の奥底から誘う睡魔という怪物に、おれ程度の器じゃあ抗いようもないってわけだ。
「つまり転寝てしまうのも無理は無いんだよ」
「ですから、今述べたように、私が問題視しているのは、一日中授業を無断で欠席し、如何な手法か屋上で熟睡していた事です」
「
「なお悪いです」
「ぶっちゃけおれは高等学校程度の必修科目は問題無く解決できるぐらいの頭脳はあるから、今更授業受けても意味が無いんだよ」
「前回の貴方の定期試験の順位は下から十六番目だと記憶していますが」
「オイオイオイオイ、いくら生徒会長だからって個人のテスト結果を把握してるのはおかしいんじゃないか?これは何か形容し難い巨大な陰謀がこの学び舎に蔓延ってると見たね」
「補習の生徒欄に貴方の名前が載っていましたもので………」
「おっと、こりゃ一本取られたね。剣道だったら負けてるぜ」
「剣道は二本先取の筈ですが」
「まあとりあえず、アンタも一緒に寝ないかい?おれみたいなだらしねえ男と押し問答してもつまんないだろ」
「お互い主張らしい主張は述べてませんが、兎に角起き上がってください。目を合わせて会話するのは基本のマナーです」
そう言って、彼女ーーー支取蒼那は、ここ駒王学園の屋上のど真ん中で寝そべっているおれこと
艶やかな黒髪はショートに切り揃えられ、厳格な印象を抱かせる相貌とあいまって、まさしく「長」と言えるオーラを纏っている。恐らく、彼女の事を全く知らない他人が見ても、何かしらの組織をまとめている、となんとなく理解できるだろう。
制服をキッチリと着込んだ支取は、屋上で大の字になっているおれの顔を、怜悧な瞳で睨んでくる。いくら彼女がとびきりの美少女とはいえ、並の男では縮み上がってしまう程の眼光の鋭さだ。
しかし、おれにとって女子からの視線は如何なるものであろうと、等しく等しい意味しか無い。即ち、単なる目線以外の何物でも無いって事だ。
と、そこで。
チラッと薄目で生徒会長である彼女のスカートの奥に隠された秘宝を垣間見ようとする。何故そんな事をするのか?膝上のスカート丈とか誘ってるとしか思えないだろう。が、しかし、残念ながらギリギリ覗けるかどうかという男心を擽る位置で立ち止まってしまう。
うーん。これでは御宝が見れないじゃないか!
これは困った。おれにとって支取が秘める財宝は、何よりも価値があるというのに!それを嘗め回すようにさえ見つめる事が出来ないとは!こんな拷問がかつてあっただろうか、いや無い。
しょうがない、ここは本人様に頼み込むとしよう。
「もし、そこな麗しき生徒会長。もう一歩此方に寄って来てはくれまいか?」
「貴方の考えは大体察しはついてるのでとりあえず立ち上がるのがよろしいかと」
「それじゃパンツが見れない」
「堂々と言わないでください」
「それじゃパンツが見れない!!」
「大声で叫ばないでください!!」
自分に正直で何が悪い!!穢れを知らぬ純白か、淫靡な雰囲気をかどわかす黒か、怪しくも妖艶な紫か、それともお淑やかで清楚な水色か、それともーーー
「ーーーとりあえず見れば早いか!」
「何がどうしてそうなりましたか!」
そうと決まればやるのは簡単だ。おれは寝そべったままゴロゴロと高速で転がり、一気に支取との距離を詰める。
あと数メートルも進めば、真下からあの御宝を吟味し堪能できる。そう思うとさらに回転に力が入るってもんだ。さあ逝くぞ六色伊式。いざ、桃源郷へ………!!
「ーーーふっ!」
と。
桃源郷へゴートゥしようとしていたおれの顔面を踏んづけ、支取が赤面しながらぐりぐりと踵でおれの頬を捻じってくる。痛い。
「愛の鞭って奴かい?」
「痴漢への迎撃です」
「まだ触ってないが」
「視姦ってご存知ですか?」
へーへー分かりましたよおれが悪かったよ。そうぐだりながら、支取から離れて立ち上がる。
どうせ反省文か何か書かされたりするんだろうな。自慢じゃないが、おれはこの学園でも中々の問題児だと思う。先の会話から察せられるように、授業の無断欠席は当たり前。教師への悪戯、校舎への落書き、とある変態三人組への覗きスポットの提供、立ち入り禁止区域(屋上、資料室など)への侵入。その他数多くの校則違反を度々繰り返している。
普通は停学、最悪退学の処分を受けてしかるべき悪業の数々だが、そこいらの教師や生徒に捕まる程、おれはヤワじゃない。今日まで、その全てから逃げ果せている。
というわけで、おれは今回もこの場から離れる事にした。ー
が、しかし。
「………オイオイ、まさか生徒会長」
「ええ、此度の校則違反で、累計五百回目……悪戯レベルとはいえ、流石に見逃すわけにはいきません」
おれの前に、道を塞ぐように支取が立つ。屋上中央にいたおれと、出入り口からあまり離れていない彼女の立ち位置的に、無視する事はできそうにない。
支取は、アメジスト色の瞳を鋭く細め、此方の全身を僅かな挙動すら見逃さぬというように、鋭利に俯瞰している。
「おれを捕まるつもりかい?」
「そのつもりです」
そう言って、緩やかに体を半身にする支取。その身に纏う雰囲気は、並のそれじゃあない。
どうすっかな、これ。女に手を出す趣味は無いんだが、まあ、なんとかなるか。幸いにしてあの出入り口付近からは動かないようだ。
「ならーーー逃げるなら
そう決意し、おれは、屋上のフェンスまで一気に走り、そのまま高く跳び上がり、空中に身を投げた。
「なっ………!?」
後ろで驚愕の声を上げた支取の声が聞こえる。まさか、飛び降りるとは思わなかったのだろうが、読みが甘いね。たかが校舎の屋上からのダイブ程度、おれにとっちゃあお茶の子って奴だ。
地上が猛然としたスピードで迫ってくる。高所からの落下というのは、様々な力が凄まじい威力で襲いかかるのだが、おれは風や空気抵抗からの暴風など意に介さず、そのまま地へと両足を叩きつけた。
ばあん!!という馬鹿げた破裂音が炸裂し、しかしおれの両足は息災のまま確と地を踏みしめている。
屋上を見上げてみると、支取が唖然とした表情で見下ろしており、おれはそれに向かってピースをしたのち、そのまま敷地外へと走り出した。
「さあて、今日はどこに寄り道しよっかなー」
◇◇◇◇◇
崩れた刃でその身を濡らせ。照らした鉛で頭蓋を壊せ。
重ねて一つ、合わせて三つ、折って砕いて纏めて零に。
飽きたら次へ、継いだら進み、進んで命を差し上げろ。
初めも終わりも間を中ち、下世話なオチで幕閉じよう。
丸め込んだら鞘走れ。穿ち切ったら装填し。
断ち破いたら擦り潰せ。快刀乱麻で
情状酌量の余地は無い。二つで一つを斬り殺そう。
◇◇◇◇◇
六色伊式は転生者である。
いたって普通の学生だった彼は、放火魔に家を燃やされ、自身もその炎に飲み込まれ生き絶えた。
その後は、二次創作においてはよくある展開で、神様の手違いどーのこーの、お礼の転生どーのこーのと話が進んで、彼は今、『ハイスクールD×D』の世界へと新たな生を受けた。
しかし、原作知識などと呼ばれるモノは無い。特典らしい特典も無い。悪魔や堕天使、天使、妖怪、神、精霊、そういった化物の類いとの関わりも無い。
神魔霊獣が跋扈するこの世界において、何故彼はそれら二次創作転生におけるアドバンテージを捨てたのか?
彼は、転生する際、手違いで己を殺した神にある願いを告げた。
ーーー今からおれが言う組織や集団を、D×Dの世界に作り出してくれ。
果たして、その願いは聞き届けられた。
彼が存在を望んだ組織及び集団は、数多あった。
《殺し名》七名、《呪い名》六名、《十三階段》十三名。
正史とは大きく異なるが、計十三の組織と十三名が、ハイスクールD×Dの世界へと紛れ込んだのだ。
巨大すぎる異分子が混ざり合い、濁流となってD×Dの世界へと流れ込んだこの世界は、最早別種の異世界というに相応しい。
これは、その異世界に生きるある人間の物語。
最も力を持った人類として名を残す事になる、六色伊式の物語である。
◇◇◇◇◇
「さって、カラオケもゲーセンも楽しんだし、今日も今日とて良き日だったなぁ」
伊式は支取からの逃走の後、一度自宅であるボロアパートにまで帰宅し、緑を基調としたシャツと、やや草臥れたジーンズと、タクティカルブーツに眼にはサングラスをかけて街中に出かけていた。
警察に見つかったら補導されそうなものだが、伊式はその身に纏っている雰囲気が浮世離れしているせいか、今の今まで税金で働く青服の人達に声をかけられずに、昼間から夕方まで堂々と遊び歩いていた。
ひとしきり楽しんで満足したのか、その表情は晴れやかな笑みを浮かべており、高い身長には不似合いのあどけなさの残る顔立ちが外界に晒される。
だが、そんな年相応の可愛らしい仕草も、脱色した長めの髪を髪留めで無理矢理結い、ピアスや指輪をじゃらじゃらとつけているせいで台無しになっている。
「喉渇いたなぁ………自販機で買うのも面倒だ。確か近くに公園があったな、そこで水を飲もう」
金のかかる自販機よりも、無料で何度でも利用できる給水機を選ぶあたり、彼はややけち臭いというか何というか、器が小さいようだった。
幸いにして、然程歩かずに目的地の公園には辿り着けそうだ。本当に今日は良き日だ、と呟きながら、伊式は人気の全く無い
「ーーーん?」
その瞬間、何か嫌なーーーぞわり、とした肌寒い感覚が走ったが、それもほんの僅かな時だけであったので、彼は気にせずに公園の奥へと進んでいった。
「給水機、給水機っと………あっれ、見当たらねえな。どこにあんだろ」
暫くぶらぶらと歩き回っていた伊式だったが、中々給水機が見つからない。
これではわざわざ来た意味が無い。とりあえず反対側にまで進もうと、更に奥まで歩を進める。
帰路からは真逆だが、たかだか数十メートル長く歩くだけだと自分で納得させる。だったら最初から手近な自販機で買えよという話になるのだが、まあそこはいいだろう。
ーーー目の前にある、一人の男子の死体によって。
「…………何だァ、こりゃ」
腹にぽっかりと寂しげに空いた空洞と、そこから長ったらしい内臓が漏れ出て、真っ赤な鮮血が夥しく溢れ返り、投げ出された四肢には力は無く、信じられないといった断末魔の表情を浮かべた死体は、伊式が通う駒王学園の生徒で、彼も面識のある卑猥事が大好きな男子、兵藤一誠だった。
伊式は暫く足元に転がっている生物
(普通のやり口じゃねえ………人体に対して、こうまであっさり綺麗に風穴開ける手口からして、まあ、妥当な所で悪魔か堕天使か…………)
およそ常人では考えつかない思考をしながら、伊式は辺りを警戒する。
ーーーまでもなく、そいつはいた。
瞬きの時に現れたとしか思えない出現だった。気がついたら、伊式から十メートル程離れた場所に、学生服と学帽を目深に被った昭和チックな服装の、ガタイのいい男性がいた。
「………疑問」
口を動かしたのかと疑う程に僅かにしか聞き取れない小さな声で、声音から恐らくは壮年だて判断できる男が話しかけてきた。
「人払いは事前に仕掛けておいたはず………何故にこの場にいるか」
「あ?おれが知るかよダンディなおっさん。おれはただ、水飲みに来ただけだっての」
「ーーー?疑問、再問。何故この場にいるか」
「だから……水飲みに」
「何故この場にいるか」
「…………あ、そう。そういう態度ね。そんな感じでくるわけね」
聞く耳を持たないあやしげな男を前に、しかし伊式は話を聞かない彼に怒りで肩を震わせていた。
「いいぜ、教えといてやんよ。おれがこの世で最も嫌いなヤツだ。まず一つ、やりもしねぇでピーチクパーチク嘆いている馬鹿。二つ、無条件で上から目線で関わってくる馬鹿ーーー」
伊式は、ピクピクと口元をひくつかせながら、ワナワナと拳を握りしめる。
「ーーーそして最後に、人の話を聞かない馬鹿だ!!」
イラつきが最高点に達した彼は、迷う事なく異質な男へと殴りかかった。
死体を飛び越え、一直線に突っ込む彼に対し、男は冷静に対応した。
ぱんっ。
乾いた音が公園に響き渡り、遅れて何かが倒れる音がした。
「………愚行」
男が右手に取り出したのは、小振りなハンドサイズの拳銃だった。
ポケットにもしまいこめそうな程に小さなそれを、男は微塵も躊躇わずに発砲し、伊式に対して鉛玉をぶち込んだのだ。
伊式は、眉間に弾頭を直撃され、仰け反るように地に倒れ伏したのだ。
ダラリと両手足が投げ出され、それは奇しくも昼の屋上で彼が寝ていた時と同じ大の字になっていた。
男は取り出した時と同様に、静かにポケットに拳銃をしまい、新たに増えた死体にも一瞥すらくれずにその場を立ち去ろうと、出口に足を向け、
「ーーーおいちょっと待てやファッキン野郎」
瞬間、背中から受けた圧倒的な衝撃に、数十メートルも吹き飛ばされた。
公園の木々を薙ぎ倒しながら、漸く止まった彼は、今しがた自分が喰らった攻撃を発した輩を見据える。
そしてすぐに驚愕した。
そこにいたのは、こちらを蹴り飛ばした格好のまま、銃弾を喰らった眉間から一滴の血も流さずにいる、六色伊式の姿があった。
ワナワナどころか、ガタガタと震えて激怒の感情を溜め込んでいる彼は、叫びとしてそれを放った。
「ひっさしぶりにカチンときたぜ…………いいぜ、おれのブチ切れスイッチに新たに刻んどいてやる。四つ目!いきなり!眉間に鉛玉をぶち込んでくる馬鹿が!おれはこの世で最も嫌いだッ!!!」
ーーー怒りの化身が、男へと飛びかかった。
まだ第一話ですし、感想や意見もあまり無いでしょうが、いつでもお待ちしています。