では、どうぞ。
伊式がソーナに連行、もとい連れられて教室(3-A)に入った際、クラス中からどよめきが立った。
皆一様に困惑と疑念と………少しばかりの恐怖を顔に浮かべ、当惑したような視線を二人に向けている。
「………おい」
「どうしました?」
「なんかクラス全員から『何でお前ここにいんの?』的な眼差し向けられてるんだけど」
「そうですね」
「ちょっと心折れそうなんだけど」
「普段から素行不良が目立つからです」
「成る程………自業他得って訳だな」
「自分の過ちを他者に押し付けないでください」
「あーかったりいなぁ、もう仮病でも使って保健室に篭ろうかな」
「自分で仮病と言いますか」
「待てよ?自分で自分の指折れば休めんじゃね?うっは、おれ天才」
「一人で勝手に折ってなさい」
あーだこーだとボケるも、ソーナの反応はにべにもないものだった。
「ソーたんからの愛が無い……」
「誰がソーたんですか!ていうか何ですか!愛って!」
「アイ、それは【私】」
「ぶち殺しますよ!?」
静まり返っているクラスとは反対に、漫才のように騒がしい二人の掛け合いを見て、「ああ伊式って結構マトモなのかも。ただしリア充になった場合、てめーは殺す。てか生徒会長がヒロイン的な(以下略)」とその場の全員が思った。
ひとしきり騒いで満足したのか、今にも掴みかかりそうな勢いのソーナを手で制しながら、「俺の席って何処だっけ?」と、転校生でもないのに間抜けな質問をする伊式。
私の隣です。そう言った彼女は、伊式の腕を掴んで引っ張っていく。
だが、その腕をさりげなく振りほどき、手と手で掴む伊式。ソーナが恥ずかしさからか、怒りからから、顔を真っ赤にして肩を震わせるが、「我慢……我慢………!!」と必死に抑えている。口に出てる時点で負けのようだが。
しかしまあ、公衆の面前で手を握り合う、それもソーナのような美少女と(傍目には)仲睦まじい姿を披露すれば、当然男子諸兄から燃え盛る嫉妬の眼力を向けられるのが世の常だ。
「爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発……………」
「クソッタレ、空気が甘過ぎる」
「誰が茶ぁくれ、とびっきり渋いヤツ」
「恨みで人が殺せたらなぁ………」
「生徒会長prpr」
「あーあっちいな、まだ春だってのによー」
そんな鋭い視線の嵐もなんのその。全く堪えずに伊式は席についた。雨あられと降り注ぐ呪詛の声も尽く無視している。だが最後から二番目、てめーはダメだ。
「おー、久しぶりだなあ
「貴方、三年生になってから一度も座ってないでしょう」
「じゃあ他人で」
「他人の方に『久しぶり』という言葉は使いません」
席に対して『方』をつけるソーナもソーナだが、氷のように冷たい雰囲気をまとっている彼女に口を挟む輩はこの場にはいなかった。
と、そこで。自身の持ち物を確認した伊式が、漸く初歩的な問題に気づいた。
「鞄を持ってきていない………!!」
「はあ!?」
コイツ本当に高校生なのだろうか。
しかし事実として彼は手ぶらで登校してきた。校舎に教材を置いている可能性はゼロ。そもそも自席とは今日が初対面だ。
呆れ果てたように額に手を当て、どうしたものかと悩むソーナ。しかし当の伊式は「まあ教材の五つや六つ、大丈夫だ、問題ない」とのたまっている。五つや六つとは、ほぼ一日の時間割である。
「仕方ありません。購買部でノートを買ってきなさい。どうせ自前のなんて、自宅にだって無いでしょう?教科書は私のを共用しましょう」
「ご名答、よく分かったな。ご褒美にちゅーしてやる」
「股間を蹴り飛ばされたくなかったら早々に行きなさい」
「おぉ、怖い怖い」
有無を言わさぬソーナの眼光に、へらへらと笑いながら立ち去る伊式。
じゃらじゃらとアクセサリを鳴らしながら歩く様はまさに不良のそれだが、彼とソーナのやり取りを見て、クラスメイトは伊式に対する見解を変えていた。
「問題児」から、「よく喋る馬鹿」へと。
◇◇◇◇◇
さて。
この街には様々な人間が存在する。
「人間」、という
例えば、六式伊式。通称《断罪の碧》。
度々言ったように、過去現在未来において、人間という種族の頂点に位置する人外を越えた人外にして、人間である。
例えば、玖賀出流。通称《水色の殺人鬼》。
単純な戦闘能力ならば、暴力の世界でもトップを争い、その殺人技能は伊式と並び立つ程の実力に、裏側の住人からも忌避に忌避を重ねて恐れられる殺人鬼集団《玖賀一族》の族長という肩書きを持つ。
そして、もう一人。否、二人。
前述の伊式と出流はまだ気づいていないが、彼らと比べても遜色ない個性と力と能力を兼ね備えたプロのプレイヤーが二人。
誰からも見つかる事なく、存在すら悟られる事なく。
この街に這入っていた。
一人は、長い長い緋色の髪を後ろで縛った、人形のように整った顔立ちの美青年。
黒のシャツの上に、赤というよりは緋に近いブルゾンを羽織り、暗い赤のズボンを履いた高いモデル体系の鍛えられた肉体。
息を飲む程に美しい切れ長の瞳は、透き通るスカーレットに染まり、端正なつくりの肌白の顔にアクセントを添える。
彼の名は、
暴力の世界における『例外』的存在の集まりである《無飾》の一員にして、玖賀出流の友人である。
高層ビルの屋上庭園に備えられているベンチに優雅に腰掛け、最新型のスマートフォンで誰かと何事かを話している彼は、見た目相応の美声で通話する。
「ほうーーーー《
『俺も念の為っつー事で、出流のヤツに呼ばれたんだけどさ。朝から張り込んでるってのに、なーかなか見つかんねーんだわ、コレが。だからさー、お前もそれっぽいの感じたら連絡してくれ』
「ああ分かった。私は旅目的で訪れたからな、敵方からのアプローチも無いだろう」
『んじゃ、頼んだぜー』
「ではな」
そう言って、通話は切れた。
ポケットにするりとスマートフォンをしまいながら、あ、と思い出したように声を上げる緋人。
額に手を当て、やってしまったと言わんばかりに表情を悩ましげにする。
「出艸のヤツに言ってなかったなぁ………この街に、《人類最上》がいる事」
◇◇◇◇◇
その《人類最上》こと六色伊式は、購買部でノートを買いーーーーに行くことも無く、駅付近の繁華街をゆらりゆったりと、いけしゃあしゃあと歩いていた。
サボりーーーーである。
「明日また生徒会長からなんやかんや言われそうだけど、まあ、その時考えればいいか」
この男、ノートを買いに行く振りをして、ソーナの拘束が外れたとばかりに遊びに出かけやがったのである。
一度自宅に戻ったのか、ご丁寧に私服に着替えて。
緑と白を基調にしたカジュアルなファッションは若者らしく、細身ながら筋肉質な体を持つ伊式の風貌によく似合う。が、肝心の本人がじゃらじゃらと無駄にアクセサリをつけているせいで台無しだ。
「さって、今日はどこで遊ぼっかなー………」
当てもなく歩く彼は、カラオケかゲームセンターか、はたまた趣向を変えてショッピングでも楽しむかと、ふらふらと彷徨いながら思案する。
「そういや最近、漫画とか読んでねぇな………書店にでも行くか」
伊式は、彼が愛読している小説のコミック版の新刊が発売されたのを思い出し、近くのデパートに向かう。その六階に、フロアを丸々使った大規模な本屋があるのだ。
「そうと決まれば、早速………」
「ーーーなぁ、そこのだっせーアクセサリわんさかつけたニーチャンよー」
と。
デパートへの道のりへ足を向けた瞬間。
背後から、妙に聞く者をイラつかせる若い男の声がかけられた。
「俺ちっとばかし道に迷っちまってよー………駒王学園ってー場所、知らねーかい?」
伊式はあえて振り返らずに答える。
「ああ、知ってるぜ。一応在籍しているからな」
(こいつ、裏の連中か………先日のお礼参りってトコが妥当な線か)
伊式は、声をかけられるまで背後にいた事を悟られなかった技量から、おおよその所属を見切っていた。
「そいつは良かった。じゃあさ、時間があるなら、そこまでの道案内頼めっかなー?」
そこで漸く、声をかけてきた者へ振り返る。
その男は十代半ばか二十歳ちょうどといったくらいの若者で、伊式と見た目の年齢はそう変わらないように思える。
白い服を上下共に着て、さらに黒い千切れ千切れのシャツとズボンを重ね着している。モノクロというか白黒というか、どことなくシマウマのような服装だった。
そして何よりも目を引くのが、体中を雁字搦めに縛っている数多のベルトだった。別に腕やら足やらを拘束しているのではなく、まるでファッションの一つとして使っているようだ。
白髪と黒髪が混ざった短髪はひどく不格好だが、この男の雰囲気にはよく似合う。
そして伊式は、このモノクロのオッドアイの若者の名を知っていた。
《六番目の地獄の道先案内人》、
会うのは初めてだが、噂には聞いている。
曰く、「希代の殺人鬼集団《玖賀一族》の中でも、トップクラスの実力者」ーーーー族長である出流が言うには、戦闘力はそこそこ高いが、何よりも継戦能力の高さこそが一番の強み、らしい。
(って事は、先日の連中とは関係ないのか?)
恐らくは、出流への訪問か、あるいは助力か。何にせよ、伊式には関係の無い話だ。
「悪いが、今忙しいんでな。駒王学園なら有名だから、そこいらの通行人にでも聞いてくれ」
そう言って踵を返そうとする伊式に、「ちょっと待てよ」と引き止める出艸。
「何だよ?」
「俺ァ確かに駒王学園にも用事があるんだけどよ、あんたにも用件があるんだなーこれが」
「ふーん、で?その用件ってのは?」
「こういうことかな」
瞬間、出艸がその場で後ろ回し蹴りを放った。
無音無動作無気配で繰り出された神速の回し蹴りに、さしもの伊式も反応できずに直撃を許してしまう。
回転の乗った強烈な一撃は彼の側頭部を的確に打ち、歩道に面していた服飾店へと吹き飛ばす。
「一度手合わせしてみたかったんだよなー、《人類最上》とやらと。さあさあ、六色伊式さんよー。一丁楽しく死合おうじゃねーか」
様々な小物に押しつぶされた伊式は、しかし健在であった。
側頭部への一撃も、大したダメージは無いようで、むくりと起きあがる。
今の騒ぎで周囲に人だかりが出来ているが、二人は気にした様子は無い。野次馬のような命知らずの馬鹿どもにまで気を回す意味は無い、とでも言うように。
服についた埃を叩きながら、伊式はにいっと笑った。
「いいね、いいね、いい感じだぜ。久しぶりにイイ蹴りを喰らったぜ」
「そいつぁ良かった。もっと喰らわしてやんよ」
「おれは六色伊式。《人類最上》だ。お前は?」
「俺は玖賀出艸。しがない殺人鬼だ」
出艸はゆるやかに構え、ちょいちょいっと指で伊式を手招いた。
「遊んでやるよ《人類最上》。この俺、《地獄の道先案内人》が、三途の川まで案内してやる」
◇◇◇◇◇
「やれやれーーーーそりゃ、あの鈍色とかいうプレイヤーを殺したのは俺だけどさ」
校舎内にまで来るかよ?
そうボヤいたのは、殺人鬼集団《玖賀一族》が族長。戦闘能力だけならば六色伊式にさえ匹敵しうるという最強の殺人鬼、玖賀出流だった。
場所は屋上。しかし、彼は伊式よろしく授業をサボってここにいるのではない。
彼が学園の敷地内の至る所に張り巡らせてある《武器》に、侵入者の反応があったのだ。
わざわざ仮病まで使ってその侵入者を屋上にまで誘導し、今こうして対面しているわけだ。
出流は、十メートル程離れた地点から此方を見据える男を見やる。
病的な程に痩せ細った痩身も痩身なひょろ長い五体に、雪よりも白い霊的な肌。
黒と白の横線が入った、所謂囚人服と呼ばれるものを着た彼は、両腕をだらりと下げて、涎をだらだらと零しながら、じぃっと出流を見据えている。
「………はぁ、こんな薬中みたいな奴と関わり合いになんてなりたくないんだけどな」
出流は両手をポケットにしまったまま、眼前の敵に宣戦布告を言った。
「それじゃーーーー殺して崩して引き裂いて、廻して遊んで捨ててやる」
惨殺を始めよう。
いかがでしたか?緋垣も出艸も、人気だったオリキャラです。
さてさて、次はとうとう伊式と出流の本領発揮、とまではいかなくとも、実力のその一端は見れると思います。
ソーたん可愛いよソーたん(迫真)