仮面ライダー鎧武外伝・仮面ライダー斬月×戦姫絶唱シンフォギア 作:クロウド、
ある病院の一室、貴虎はベッドの上で穏やかな寝息をたてていた。その傍らにはトップアーティスト『ツヴァイウィング』の片割れ、天羽奏が椅子に座って貴虎の様子を見ていた。
「―――なぁ、アンタはなんでこんな身体で戦ってくれたんだ?」
あの事件の後、二週間の間目を覚ましていない青年にそんなことを問いかけた。
―――奏はあの事件、ツヴァイウィングのライブで起きたノイズ襲撃事件の後のことを思い出す。
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「了子さん!あの人は!?」
「奏、落ち着いて」
自身の治療が終わり搬送された貴虎について慌て他様子で尋ねる奏。自身も重症であるというのにそれを忘れた様子に翼がなだめる。
奏達は今特異災害対策起機動部二課の本部にいた。
―――触れるだけで人間を炭素に変えてしまう特異災害―――ノイズに対抗するために作られた組織。奴らは空間から滲み出すように現れ、位相差障壁と呼ばれるものにより自身の存在を別世界にまたがせることにより一般的な物理エネルギーを減衰、無力化することにより通常兵器による効果をほぼ無効化することができる。
唯一の対抗手段それは、櫻井了子が提唱した『櫻井理論』に基づき聖遺物の力によって運用される『シンフォギア・システム』。存在を別世界にまたがせているノイズをこちらの世界に引きずり込み、、攻撃が通用するようにし、さらに炭素変換を無力化するバリアコーティングによって攻撃と防御を行う。
しかし、その特殊性によって纏える人物は限られ、それがアーテイスト『ツヴァイウィング』の天羽奏と風鳴翼ということだ。
そして、今二人の前にはワインレッドのシャツを来た屈強な男二課の司令官翼の叔父である『風鳴弦十郎』と白衣を着た女性シンフォギアシステムの開発者である『櫻井了子』、そして、スーツを着込んだ翼のマネージャーであり二課のエージェントである『緒川慎二』だった。
「翼の言うとおりだ、少し落ち着け奏。それで、了子君彼の容態は?」
「……身体の傷は酷いけど命に別状はないわ。信じられない頑丈さね、普通なら死んでるわよ」
弦十郎の問に了子は説明を始める。
度重なるインベスとの戦闘、斬月・真を除くゲネシスライダー達による強襲、そして、光実との戦い、一般人なら死んでいるであろうダメージを受けながらも貴虎の命は無事だった。
フェムシンムの王、ロシュオに助けられヘルヘイムの森にいる間、大量の養分の詰まったロックシードを常にベルトにつけていたのが幸いしたのかもしれない。
しかし、櫻井良子は『でも』と付け加えて問題を口にする。
「問題は頭部よ、かなり強烈な一撃を喰らったみたいね」
光実から受けた最後の一撃。アーマードライダーのマスクすら破壊する一撃を至近距離から受けたのだ。頭部へのダメージは他の傷の比ではない。
「……この状態で戦っていたなんて、時限式の奏ちゃん以上にきつかったはずよ。」
「……目を覚まさない可能性もあると?」
「残念だけど」
「そんな……。」
奏はその言葉にうなだれる。自分の代わりに身体を張って戦い、目を覚まさなくなった青年に対しひどい罪悪感を感じていた。
「―――彼のことは心配だが、今はその正体についてだな」
弦十郎も貴虎が心配ではあるが彼はノイズと闘う組織の司令官、彼の正体をはっきりしておく必要があった。なにせシンフォギア以外で初めてノイズを倒した事例なのだから。
「奏ちゃんの話だとこのベルトと錠前を使って戦っていたのね」
了子は持って来ていた貴虎の戦極ドライバーとメロンロックシードを見せ、奏はそれにうなずく。
「調べた結果、ベルトの方は材質自体は難しいものではなけど、テクノロジーに関しては私にも理解できない理論でできてたわ、それでこの錠前だけコレ一個でかなりのエネルギーを内包していることがわかったわ。多分、こっちのベルトでこの錠前のエネルギーを開放するって仕組みなのね」
どんな人間がこんなものを作ったのよ、と呆れ半分、技術者としての嫉妬半分で説明する。
「他に彼の持ち物は?」
「社員証のようなものがありました。ですが、」
慎二が差し出したカード型の社員証には彼の顔写真と『呉島貴虎』の名前、そして世界樹のロゴに書かれた『YGGDRASILCORPORATION』の文字。
「ユグドラシルコーポレーション?」
「調べてみましたがそんな企業はどこにも存在しませんでした。呉島貴虎という人物に関しても」
「ということはやはり……。」
「そう考えるのが普通ね……。」
「どういうことだよ、旦那、了子さん?」
慎二の話でわかり合っている様子の弦十郎と了子に奏はしびれを切らして問いかける。その問いに弦十郎は彼女の顔を見て答えた。
「―――彼はこの世界の住人ではない」
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貴虎は気付くと何処かの海岸に立っていた。一瞬、夢かと思ったが波の音や砂浜を踏む感覚が夢としてははっきりしすぎていた。
「ここは……?」
「ようっ!」
困惑していると背後聞き慣れた声が聞こえ、振り返ると、そこにはオレンジのパーカーを来た貴虎がよく知る青年が立っていた。
「葛葉、紘汰……?」
彼の名前は葛葉紘汰。アーマードライダー鎧武であり、人類を救う方法を巡って貴虎と何度も刃を合わせ、わかりあった戦友だった。
「ようやく見つけたよ、結構探したんだぜ。まさか、別世界に飛ばされてるなんて思わなかったからな」
「葛葉、ここはどこなんだ?」
「ここか?ここは、俺が黄金の果実の力で作った空間だよ。今お前の体はあの世界の病院のベッドの上だから意識だけここにつれてこさせてもらった」
『黄金の果実』、世界を塗り替えるほどの力を持つ禁断の果実。ヘルヘイムの森が一つの世界を飲み込もうとするとき一つだけ実を作り、森の試練に打ち勝ったものにのみ与えられる進化の力。
「黄金の果実の力……そうか、お前があれを手に入れたのか」
「ああ」
「……ということは、全部終わったんだな」
「ああ」
「なるほど……通りで、安らかな気分なわけだ」
貴虎は何処か胸のつかえが取れたような気分だった。数年に渡りヘルヘイムの森の侵食から人類を守るために様々なことをしてきた。
戦極ドライバーの開発、ビートライダーズによる人体実験、クラックの隠蔽、褒められたようなことばかりではないのは無論承知している。
だが、どんな形であれその全てが終わりを告げた、貴虎にとってそれ以上に嬉しいことはない。頭上で偽物とは思えない輝きは放つ太陽を見ながらそう思った。
「貴虎、アンタはもう十分すぎるほど苦しんだ。アンタが背負ってたのは一人で引き受けるにはおもすぎる荷物だったしな」
近くの倒木に腰をすえ、水平線を眺める。
「―――もう楽になってもいい、そうなんだろ?」
「まぁね……だけどあと一つだけ、頼みたいことがある」
「この期に及んでか……」
「アンタにしかできない。他の誰にもできないことなんだ」
「私に、一体何をしろと?」
「―――ミッチのところに戻ってやってほしい」
貴虎は紘汰の言葉に一瞬驚愕しながら、彼の顔を見る。
ミッチ、貴虎の弟光実がビートライダーズ『チーム鎧武』にいたときに仲間から呼ばれていたニックネームだ。
なぜ自分でとはあえて聞かない『黄金の果実』とは人智を超えた力、そんなものを手に入れて人間でいられるはずがないからだ。つまり彼は、もう仲間のもとへは戻ることができないのだろう。
自分を殺そうとした弟の顔を思い出し、戸惑いを見せながら口を開く。
「―――あいつが私の言葉を聞き届けるだろうか」
「大変なのはわかってる。今ではもう……あそこの場所はアンタにとって辛い場所になるだろう。いっそこのまま眠り続けるか、この世界でただの人間として幸せに生きたほうがいいのかもしれない。でもな……」
紘汰は言葉を探すように顎に手をやり、顔を上げて再び貴虎の顔を見る。
「ミッチに伝えてほしい、どんな過去を背負っていたしても新しい道を探して先に進むことができる、って」
「それは、私にもできなかったことだ」
貴虎は光実を救うではなく、始末することで止めようとした。紘汰のいうことができなかったということだ。
しかし、紘汰は言う。
「諦めないでほしいんだ、人は変わることができる。俺みたいなやつでも違う自分になれたんだ。
―――変身だよ貴虎」
「葛葉……」
「今の自分が許せないなら、新しい自分に変わればいい。それができるってことをミッチに教えてやってほしい、貴虎―――アンタ自身が変わることで」
「…………。」
紘汰は貴虎を後押しするように彼の背中を叩く。だが、貴虎は未だに弟と向き合う覚悟ができない。自分のせいで歪め、傷つき、道を誤らせてしまった弟と。
言葉を出さない貴虎に紘汰は笑いながら言う。
「すぐに答えを出してもらおうなんて思ってないさ、まだいくらか時間がある。この世界でお前なりの答えを見つけてほしい」
瞬間、紘汰の姿が普通の黒髪の青年から白い鎧を纏った白い髪のオッドアイの青年へと姿を変えた。
「葛葉、お前その姿は……。」
「お前がこの世界で変わる姿を見せてもらうよ」
紘汰が手をかざすと空間がひび割れそこから光が漏れ、一面が光に覆われる。両腕で光を遮ろうとする貴虎の耳に、最後に紘汰の声が聞こえた。
「―――俺からの餞別も役立ててくれよ」
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「ん……」
「!?」
ベッドで眠る貴虎が声を漏らしたのを見て奏は直ぐに反応した、そしてゆっくりとその瞳が開き、その目と彼女の目があう。
「君は……」
「ちょっと待っててくれ!先生呼んでくるから!」
奏はそう言って病室を飛び出していった。
―――貴虎が状況を理解したのはそれから二時間ほど後のことだった。
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