最強の呪術師、五条悟。
最強の鬼、鬼舞辻無惨。

己が属するカテゴリーにおいて、最強の座に君臨する両者が、もしも同じ世界にいたら。例えば呪術世界に無惨達もいて、戦国時代に無惨が縁壱に敗れてもなお生存し、特級呪物となっていたら。

そんな妄想から書いてみたバトルです。
独自解釈、設定がかなりあるので、苦手な人はブラウザバック推奨。

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五条悟VS鬼舞辻無惨を妄想してたら出来上がった一品。
楽しんでもらえると嬉しいですが……。
独自解釈、設定多めなので、苦手な人はブラウザバック推奨です。


無限VS無惨

 人類最強は五条悟だ。

 それはこの世に生き、呪術の世界を知るものであれば、誰もが理解している常識である。

 当たり前。わざわざ言葉にする必要すらない事実。万物万象、全てに等しく与えられる究極の現実である。

 

 無限を実在化させ、あらゆる干渉を拒絶し、或いは反転させ悉く打ち砕く無下限呪術。

 全ての領域使いを凌駕する、極限の展開たる無量空処。

 数多の術式を見抜く六眼。

 それらを絶対の精度で操る、経験値と素質に裏打ちされた五条本人の実力。

 

 五条悟に弱点はなく、およそ人類という括りの中であれば間違いなく最強であろう。

 

 

 しかし━━━人間外であれば?

 

 

 呪いの王・両面宿儺。

 特級過呪怨霊折本里香。

 呪いの極点たる二体ならば。

 前者を悟は「キツイ」と称し、後者の討伐は命懸けになると判断していた。

 

 人間ならば悟は頂点だ。

 

 しかし、呪いを交えれば。

 

 或いは。

 

「……鬼、ね」

 

 ━━━ここに、受肉した特級呪物がある。

 

「不死身、人食い、更には血を以て広がる異形の生命……まさか、相手をする日が来るなんて思わなかったよ」

「……貴様が当代最強、五条悟か」

 

 ペイズリー柄の服。

 うねった黒髪。

 蛇のごとき瞳孔。

 刃を思わせる鋭利な爪。

 肉食らう獣の牙。

 

 平安の世に生まれ、数百年もの間日本の闇を暗躍した、極限の悪意がそこにいる。

 

 戦国の時代に死んだはずであった。死の直前に粉々に砕け飛び散った肉片は、一人の剣士が全て切り捨てた。

 しかし、残ってしまった一滴の血。

 触れることすらできず、ただ封じることでしか対処できなかった鬼産みの血液。以来、高専結界内部に厳重保管されていた。

 

 それが、今。

 

 交流会のどさくさに紛れ、盗み出された鬼の血が。

 

 受肉を果たし、君臨している。

 

「貴様━━」

 

 あらゆる干渉を拒絶するのが五条悟であるのなら。

 それは、あらゆる干渉を否定する命。

 

 悟の脳裏を過る、旧き書物の一説。

 ━━その男は暴力的な生命力に満ち溢れていた

 ━━火山から吹き出す岩漿を彷彿とさせる男だった

 ━━ぐつぐつと煮え滾り全てを飲み込もうとしていた

 

 大地への畏れから生まれた特級の呪いを、悟は知っている。

 眼前で燃え盛る生命は、その比にならない。

 破格だ。

 火山と、太陽を比べるようなもの。

 

 そんなおぞましき男は、問う。

 

「青い彼岸花を知っているか」

「興味ないね」

「そうか、ならば━━」

 

 名を━━鬼舞辻無惨。

 

「死ね」

 

 人ならざる者━━━鬼である。

 

 ━━五条悟はそれが無下限の防御圏へと突入してからようやく知覚した。

 ほぼ同時に、周辺の森が木っ端微塵に砕け散る。

 そう、森が。比喩ではなく。富士山麓、半径三百メートル圏内の全ての木々が、刹那の間に薙ぎ倒された。

 

 無惨の背から放たれた極薄の触手。六本のそれは五条の知覚を超えた速度で、五条の想定を超えた軌道をなぞり、そして五条の予測を超えた角度から、それぞれ迫った。

 

 しかし全て、等しく停止する。

 無下限。五条悟に攻撃は届かない。

 

「アキレスと亀だよ」

 

 術式の開示。

 無限の防御力が、より増強される。

 

「君の攻撃は、僕に近づくほど遅くなる」

「そうか━━」

 

 無惨は感慨なく呟く。

 

「止まるなら、押し出せばいい」

 

「━━━━!!」

 

 瞬間。

 五条悟は瞠目した。目隠しの奥の六眼が、全力で危険を訴えた。

 

 彼に慢心はなく、故に即座に動き出す。

 体を剃らす。その上を、届かないはずの触腕が駆け抜けた。

 

(━━━なるほど)

 

 鬼舞辻無惨は鬼である。その肉体は、彼の意のままに変形できる。故に、だ。

 彼は六本の触腕、その内の一本を用いた。

 限界を越えて増大した肉が、五条の無限を埋め尽くしたのだ。

 

(強いな)

「その触腕から血を流せば。お前は鬼に変ずるか、死ぬ」

(術式の開示、本気か━━これが━━)

 

 ━━鬼の王。

 夜を統べる者。太陽に嫌われた者。

 極限の人食い。人類への優越者。

 

「簡単にはいかないか」

 

 五条悟が人類である以上、鬼舞辻無惨は捕食者の位置にあるのだから。

 

「お前は、アレ程ではないな」

 

 地上の王は嘆息する。

 そして、安堵と軽蔑を込めて、思い付いた最適解を告げる。

 彼の理想は不変。

 彼の願いは太陽の克服。

 その手段は問わない。青い彼岸花だろうと、太陽を克服した鬼であろうと、なんであっても利用するつもりだ。

 故に彼は、五条悟と出会い、その方法に辿り着く。

 

「だが、より好都合だ。お前を鬼として取り込めば、その無下限の術式で忌まわしき日の光を克服できる」

「やってみろよ」

 

 振るわれた爪。同族を増やす毒の触腕。

 悟の六眼が、音すら超えた連撃を辛うじて捉える。

 

 大自然への畏れから生まれた特級、その最速なる大地の呪霊━━━を、完膚なきまでに翻弄した悟をして、なお速いと思わせる、即死の魔手。

 

 食らえば死ぬ。あれには特級の呪血が込められている。鬼に変じてしまう上に、鬼となったら無惨には逆らえない。事実上の死であると同時に、人類最強である悟の敗北は、そのまま人類の敗北となる。

 

 故に悟は、一撃すら浴びることが赦されない。

 

(上にいては狙い放題か。なら)

 

 即座に降り立ち、大地を蹴った。

 

 木々は切り倒されているが、障害物としてならまだ役立つ。

 

 月が隠れた。明かりが消える。夜の闇の中、最強は駆け抜ける。

 

 

「そこか」

 

 

 しかし捕食者は逃さない。無下限の攻略法を得た怪物は、更に魔手を増加させる。

 両腕を変化させた肉塊の如き極太の二本、背中から伸びる先端に骨の様な刃の着いた血管状の細い十本。

 計、十二。一年を示す月の数と同数。

 重ねて、無惨自身も動き出した。

 鬼の脚力は人間を越えている。その最上位たる鬼舞辻ならば、音速程度容易く超える。

 今の彼は、毒で弱っているわけでもないのだから。

 

「そう逃げ回るな」

 

 追い付く。

 否、追い越す。

 

 十二の軌跡を回避しきった悟の目の前へと、鬼舞辻が回り込んだ。

 

「逃げてんじゃない」

 

 悟は、焦らない。

 いや、笑みすら浮かべている。

 

「ここなら、外さない」

 

 その右手には、既に無限が握られていた。

 

 術式反転・赫。

 

 押し出された無限が、無惨を吹き飛ばす。

 角度は僅かに上を向いていた。鬼王の肉体が空を舞う。

 

 奇しくも、開幕とは真逆だ。

 

 狙い放題。

 最強の左手に、呪力が回る。

 最強の右手では、逆回し。

 順転と反転を掛け合わせ、最大火力の一撃が解き放たれる。

 

 

 虚式・茈。

 

 

 空間を駆け抜けたエネルギーは、地上に放てばキロ単位で大地を抉る程の破壊の色を帯びて。

 鬼王の肉体を完膚なきまでに消し飛ばす。

 

 ━━━が。

 

 それだけで死んでいては、鬼の王は名乗れないだろう。

 

 大半は蒸発した。しかし残った極一部、爪の先程度の肉片が、地に落ちる。ポトリという音すら立てない小さな小さな塊。それで十分すぎた。

 

 六眼で捉えた悟が接近しようと構えた瞬間、既に無惨は完治している。

 

 両者の距離は、二キロ。

 しかし二人は、互いを正しく認識している。

 超絶の視野。にらみ合い。西部劇のガンマンか、或いは間合いに踏み込んだ剣士の勝負であるかのように。

 

 最強と不死の激突は、二キロ程度の距離でも近すぎる。

 

 静止━━。

 刹那の隙が死に直結する世界で、両者は完全に停止していた。

 一手のミスで勝敗が決まる。

 それはどちらも同じこと。

 

(茈でも生存されたとなると、こちらにはアレを消しきる手段がない。なら━━)

(無限は突破できる。が、やつの落ち着きを見ろ。勝つための手段を持っている顔だ)

(……無量空処。領域に引き込んで停止させ、日光を浴びせるしかないな)

(ここは撤退か。いや━━奴の目!あの男のソレに近い……。引いた所で、完全に欺ききれるか?こいつに寿命はあるのか?)

(問題があるとすれば、領域は呪力の消費が大きすぎること。それに印を結ぶ以上、隙が出来てしまうのも困るな。その隙を奴は逃さないだろう)

(ここで仕留めて憂いを断つ。太陽も克服する。━━しかし、本当にそれでいいか?アレには及ばずとも、近い領域にあるだろう男を、果たして)

(無駄打ちはできない。過程を積み上げ、確実に詰ませる。……しかし、かつてない敵だな)

(ここで取るべき選択は━━)

(ここまで詰められたのは、学生以来か)

(一つだけ。決めたぞ五条悟)

(でも大丈夫だ。だって━━)

 

「私が勝つ」

「僕、最強だから」

 

 

 組み立てた戦闘論理が。

 積み上げた戦術仮定が。

 

 世界を鮮やかに塗りあげる。

 

 まず動いたのは、無惨。

 長身の肉体が、膨れ上がる。秒すら置き去りにした速度で、爆発の如く膨らんだ肉塊は、二キロの間合いごと五条を飲み込む。

 

 悟は揺らがない。

 落ち着いたまま術式を回した。

 

 埋め尽くす肉の海の中に、無限が現出する。

 蒼と赫。一方にのみ破壊をもたらす茈ではなく、広範囲にバラまかれる無量大数。

 六眼すら埋め尽くした肉を、片端から消し炭に変える。

 

 だが、これすら。

 並みの相手であれば勝敗を別つこの大技すらも、次の一撃への起点にすぎない。

 残存する肉塊が自ら割れていく。内部には、生え揃った不揃いの牙。異臭を放つおぞましき人食いの口が開かれる。

 閃光。

 無惨がはじめて用いた━━呪術とはまた異なる体系に属した一撃。すなわち、血鬼術。

 六眼がその性質を看破する。

 

 神経を狂わせる衝撃波、と。

 

 全方向、三百六十度から、解き放たれた。

 

 悟には届かない。無限の壁は衝撃波だろうと飲み込んでしまう。

 けれど、肉の海に加えて衝撃波、それも全方位からの逃げ場なき攻撃。流石の六眼も情報過多だった。埋め尽くされた術式情報に、視界が奪われる。

 術式回転は維持したものの、その場から動けない。

 

 刹那━━無惨の三手目。

 

 悟の背後の肉塊から、無惨の体が形成された。

 攻撃は、既に放っている。伸ばされた右腕は変形し、見るもおぞましい刃となっている。弾丸すら超えた速度で、空間を貫く魔の手刀。掠りさえすれば血を送り込み、己が下僕へ作り替えれる。その一撃は、無下限を無限の質量で押しきることで無効化できることを、既に彼は確かめている。

 

 故に、これで詰みなのだと確信していた。

 

 

 そう、詰みのはずだった。

 

 

 

 情報過多による視野の封殺。

 死角からの急接近。圧倒的身体能力による一撃。

 そして無下限の攻略法。

 

 ここまで揃えた以上、敗北などあり得ないはず。

 

 しかし。

 

 無惨に敗因があったとしたら、それは。

 

 

「それはもう、知っている」

 

 

 五条悟唯一の敗北。

 ただ一人の最強に至った、あの日の戦い。

 

 天与の暴君。伏黒甚爾。

 ただ一人、悟を攻略した人間。

 

 その経験を経ているか、否かであり。

 

 

 ━━━五条悟は、越えていた。

 

 

 右耳の脇で回る術式。蒼が空間を収束させ、鬼舞辻の魔刀を僅かに反らす。

 悟は予期していた攻撃に対応しながら、振り返って鬼を見た。

 その顔から、目隠しは外されている。

 

 無惨は見た。宇宙の星々のように美しい、その輝ける双眼を。

 

 ああ━━━知っている。その目の光を。瞳に宿る埒外の権能を。

 

 鬼舞辻無惨唯一の敗北。

 ただ一人の最強から転落した、あの日の戦い。

 

 始まりの剣士。継国縁壱。

 ただ一人、無惨を圧倒した男。

 

 その経験に、無惨の体は硬直し。

 増えた脳すら、動かせず。

 

 

 ━━領域展開━━

 

 

「無量空処」

 

 

 

 そして、無惨は全てを知るに至る。

 


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