Zの輝き 作:なのでごぜーます
異星人という存在は星によって扱いがマチマチだ。
当然だ、この広大な宇宙において宇宙開拓が出来るほどの文明力を持っている星というのはかなり珍しい。確かに数をあげれば俺なんかでは数えきれないだろうし、まだ知らぬ星も山ほどあるだろう。しかし宇宙という未だに広がり続ける世界において分母があまりにも大きすぎる、山ほどあろうとそれが可愛く見えるほどには。
この地球という惑星は宇宙開拓という面で言えば、分母に入る側である。まだ宇宙開発の真っ最中で、異星人の存在すら掴めていないだろうということがありありと感じられる。
宇宙ステーションは小さすぎるし、遠方へ望む宇宙船は無人機、有人機にしてもなんの武装もついてなければ防備すらない。惑星侵略を狙っている宇宙人がこんな物を見つければ、すぐにでも襲いかかりに行くだろうと察せれる。
要するに、地球人達からは宇宙には自分達以上の知的生命体はいないと傲っているのが容易に見れ取れるのだ。
では、そんな惑星に自分達の想像を越える自分達と姿形の違う存在が現れたとしたら、どうなるか。
これは地球に限らず文明が進んでいない惑星おいてに言えることだが、おおよそ行動は二択。即ち対話か敵対のどちらかだ。
対話をして自分達の文明力を、知見のレベルを上げようと考えるもの。知らぬあまりに恐怖し攻撃を行うもの。惑星内でもこの二つの意見に別れる。
俺が母星からの使者であれば腰を落ち着けて話すのも敵対するにも、別にいいだろう。けれど俺がここにいるのは友の使命を代わりに果たすためであり、異星人として存在を知られるのはこちらとしても望んでいない。
つまり地球人として見た目を装う必要がある。
普通の異星人ならこれはそこそこ難しい問題に入るだろうが、生憎と俺は生まれが生まれであるためこういうのが一番得意だ。
友の姿を写すのとやることは変わらないのだから。
話は変わるが、地球に訪れたことがあるという異星人は思った以上に数が多い。
地球は宇宙開拓もままらない文明レベルの低い惑星ではあるが、知名度はとある理由があるせいで抜群に高い。全ての異星人が同じ地球に行ったかどうかは知らないが、少なくとも俺は有名な地球とは別の地球にいることはまず間違いない。
何故そんなにも地球は知名度が高いのか。例をあげるとすれば、コーヤコーヤ星とトカイトカイ星の話になるだろうか。
これは宇宙をある程度渡り歩いている者なら知っている話ではあるが、コーヤコーヤ星人の一人がなんの関係もない地球人に助けを求め、地球人はこれに応え義を持って悪を成敗。コーヤコーヤ星の人達は救われたという話だ。
トカイトカイ星は星全体が開発された高度な文明力を持っている星の一つであり、宇宙旅行者なら一度は立ち寄って見たいと言われているほどに有名である。だからこそこういう喜劇のような話は広まりやすい。曰く地球人は義理堅いとか、曰く地球人は勇ましい戦士達であるとか。
前々から宇宙警備隊を通して地球の話は広まりつつあったのだが、これを機に宇宙では地球ブームが勃発。地球に遊びに行く者、地球を支配しようとした者がしばらく後を絶えなかった(もちろん後者はウルトラマンや勇気ある地球人達によって撃退された)。
とはいえ、地球を救ってきた異星人は何もウルトラマンだけではない。他の異星人だって地球を気に入り地球のために尽力を尽くすことがある。俺はまだ地球について知らないことの方が多いが、友の使命を胸に自己満足のため戦っている。
そんな俺の、地球で気に入っている数少ない要素の一つ。
「なー」
「……」
「なー……」
「……ふ、」
猫である。猫はいい、自由気ままに歩いているだけというのにその姿から愛くるしさを感じざるをえない。毛繕いも、飲食を取る姿も、寝ている姿さえも、まさに鼻の先から尻尾の先まで全てにおいて可愛らしい。
今この瞬間を生きているのは猫の可愛らしさを堪能するためだったのかと錯覚してしまうほどに。それぐらい猫が大好きだ。
「……どうだ、食べるか? 鰹節だ……」
「ン゙ミ゙ャァッ!」
「……お気に召さなかったか。ふふ、可愛らしい……」
手を引っ掛かれてしまった、しかも逃げられてしまった。ふふ、痛い
「あの~……大丈夫ですか?」
「ん、ああこれぐらいならすぐ治……」
背後からかけられた声に反応し振り返り、姿を目視したその瞬間に言葉が詰まった。
目の前には全身葉だらけ土埃だらけに擦り傷までしている地球人の女が一人。
「……お前の方こそ、大丈夫か」
「あ、あはは……」
言える立場ではなかったことを自覚したのか、彼女は後頭部をかいて苦笑を溢すだけだった。
◆◆
「ごめんなさい……治療までしてもらって」
「気にすることはない。俺もよく怪我をするからな、一通り持ち歩くようにしているだけだ」
多分、言葉通りなんだろう。絆創膏やら消毒薬やらを箱に直しショルダーバックへと戻す一連の動作はテキパキとしていてすごく手慣れているように見えた。
手当てはすごくありがたいし、気持ちもすごく嬉しい。でも、なんというか。
「……これはやりすぎなんじゃ……」
擦り傷のあった膝小僧にはそれ相応の絆創膏が──というわけではなく、何故だか包帯ぐるぐる巻き。ちょっとした擦り傷がこれじゃまるで大怪我みたい、しかも巻かれすぎてちょっと歩きにくい。
「どれだけ傷口が小さくとも、ウィルスが入り込めばそこからたちまち容態が悪くなることもある。それに地球人は体が小さく弱い、これぐらいが丁度いいだろう」
「そ、そうですか、あはは……」
ちょっと物が大袈裟というか、考えが大きいというか。そもそもこの人も地球人のはずなんだけど。なんだかおかしな人に出会っちゃったなぁ、さっきも猫に引っ掛かれても笑ってたし。
「それぐらい君には死んでほしくない、ということだ」
「はぁ……どうしてですか?」
「君の側にいるその猫だ」
指のさされた方を見れば、そこにはさっき困っていた猫ちゃんが一匹。私に体を擦り寄せてくれていた。
さっきは落ちた衝撃で逃げちゃったみたいだけど、戻ってきてくれたんだ。よかった、この子に怪我はなさそう。
「すごく懐いている、きっと君が猫好きだからだ。だから死んでほしくない、猫好きに悪い存在はいないのだから」
さっきまでの無愛想な顔からは想像出来ないほどのすごいキメ顔で、彼はそう言った
そのギャップがなんだかすごくって、ツボに入ったみたいに可笑しさが込み上げてくる。
「……っぷ。あははっ!」
「……何か可笑しいところでもあっただろうか?」
「あ、ありまくりですよぉ! ふふふっ……! あー可笑しい!」
彼は心底わからなさそうに首を捻っている、それがまた面白くってまた笑いが止めどなく溢れてくる。
可笑しい、可笑しい! あんまりこういう人とは出会ったことがないから、耐性がない分余計に可笑しい!
なるほど、ちょっとだけ彼の人となりがわかった気がする。この人はキッチリとしているけれど、どこか抜けているんだ。おかしな人だけど、もう悪い意味じゃない。
うん、悪い人じゃない、絶対。
「はぁ、はぁ……ふー、お腹痛い……。ごめんなさい、笑いすぎちゃって」
「……いいさ。俺は気にしてない」
「ふふ、本当にごめんなさい。……私、立花 響って言います。貴方は?」
だからこのおかしな人と、少しだけ仲良くなってみたかった。
「ゼッ──。……………………」
と思ったのに黙り込んでしまった。え、ぜっ……ってなんなんだろう……?
「……え、っと。大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。もちろんだ、もちろん大丈夫だ。名前だったな、俺、の名は……」
また言い淀みだす。もしかしたら聞いてはいけない感じだったのだろうか、それとも何か訳アリだとか。
名乗ってはいけない訳、って。もしかして有名人だとか?
──そういえば、この顔どこかで見覚えがあるような。
「……お、オメガだ。そう呼んでくれ」
「は、はい……じゃあ、オメガさんで……」
絶対偽名だよねこれ!? やっぱりかなりの訳アリだってことだよねこれ!?
と、とりあえず名前には触れないようにしよう、人助けは私の趣味だし、うん。
あーだこーだと思考がぐるぐると回っている時、ふとふくらはぎにもふもふを感じた。見やれば、そこに居たのはさっきの猫ちゃん。
「んなー」
「え、っと……もしかしてお腹空いてるのかな」
「む、そうか。それはいけないな、この鰹節を……」
「ミ゙ャァアオ゙ッッ!」
「……ただの鰹節なんだがな。ふふ、可愛らしい」
あ、すごいだらしない顔してる。私を見ていたおじいちゃんもこんな顔をしていたっけ。
というかまた引っ掛かれてる、怪我が多い理由ってこうやって毎回引っ掛かれてるからじゃ……。
「鰹節が気に入らないなら……やはり朝○ックか。この時間はまだやっていただろうか……」
「いやいや、猫ちゃんはハンバーガーとか食べないです、って……」
────時間?
急いで電話を開いて時間を確認。
──九時、五分? 未来からの不在着信五件?
嘘、マナーモードになってる。
「……ち、」
「血? いや猫は血は好かな……」
「遅刻だぁぁーーーッッ!!」
まずいまずいまずいよぉ! 入学初日に大遅刻はかなりやばい! とにかく今すぐダッシュで一秒でも早く教室に行かなきゃ、ああいやでも入学式はホールの方なんだっけうわあああ未来に案内してもらおうと思ってたから入学資料も校内図も録に見てないよまずいまずい!
「ああああああのっ、オメガさんっ! 私遅刻なんで今日はこれで失礼しますっ猫ちゃんもこっちでなんとかしてみますっ怪我の手当てありがとうございましたそれじゃあーー!!」
「あ、ああ、気をつけて……」
猫ちゃんを抱えて急いでダッシュ。今から全力で向かえば十分もかからずつくはず。なんだけどやっぱりこの包帯邪魔だよ走りにくいよぉ!
「ああもう、私ってば呪われすぎ~~!」
──それが、彼との初対面だった。
◆◆
どうしてこうなってしまったのか、酸欠の頭ではもう考えが回らない。
覚えているのは私が女の子の手を握って、追いかけてくるそれらからひたすらに逃げて、たどり着いた先でもう駄目だ、ってなった時に胸から歌がこみ上げてきたってことだけ。
無意識だった。胸から溢れ出た言葉がそのまま喉へ口へと流れていって、気がつけば私の全身が変わってしまっていた。
リディアンの制服から、まるで漫画で主人公たちが着込むような戦闘アーマーへ。
そこからは混乱の嵐だった。口は勝手に動くし、服が変わっただけなのに私は猫ちゃんの何倍も高く跳躍出来、まるで熊みたいな強い力で手足を振るうことが出来る。直感的に振るった拳に触れただけで、相手は炭へと還っていく。
「(『ノイズ』、が。炭に)」
触れた拳を見る、機械的な籠手がある以外に変わったことは何にもない。ノイズは触れた人間を自分諸とも炭に変えてしまう、人類の天敵。なのに私のこの手は以前として炭に変わる様子もない。
もしかして、私がやっつけたの? ノイズを、この手で?
──なら、きっといける。
この何倍も飛べる体で、何倍も早く走れる脚で、何倍も強く突き出せる手で、最低限のノイズをやっつけながらそのまま振り切る。これしかない、腕の中のこの子を守るためにはそれしか……!
『────ッッ!!』
「っ、うくぅっ!」
槍のように飛んでくるノイズたちをなんとか紙一重で躱していく。反射神経にそこまで自信があったわけじゃないけれど、歌ってからはなんだかよく見える気がする。だけどまだ全然見えないッ。槍へと変型するその一瞬の切っ先を見ることでしか躱せない!
「おねえ、ちゃん」
「ッ、大丈夫、私が守るからね!」
歌が間奏に入り、その僅かな間で女の子を励ます。さっきまで以上に激しく動くことになるかもしれないけれど、ごめんね!
激しくかられる焦燥感、それは女の子の心配だけじゃない。確実にさっきよりも状況が悪くなってしまっていることが、なんとなく分かってしまうから。
「……ッ。逃げ場が、どんどん少なくなっていってる……ッ!」
それに数もさっきより増えてる気がする、ノイズってこんなに一回で出てくるものなの!?
もしこのノイズたちが全員槍の雨となって降ってきたら……!
「(私じゃ、避けきれないッ)」
私はきっとノイズに触れられても大丈夫だ、さっき大丈夫だったんだからきっと大丈夫だ。
でも、この子はッ。
「……へーき、へっちゃら……!」
それは自分を励ます言葉、自分を鼓舞するだけの小さな呟き。
大丈夫、忘れてない。あの言葉は常に胸の中にある。
「私は生きるのも生かすのも、諦めないっ!」
ノイズ大進撃、まさにそんな状況が目の前で広がっている。絶望はない、例え二年前のような怪我をしたとしても、この子だけは絶対に守ってみせる。
そう、覚悟した時だった。
青い閃光が夜闇を切り裂き、ノイズを貫き激しく瞬いたのは。
真っ直線に炭の山が出来、ノイズたちが一斉に背後を振り向く。そのぶち抜かれた中央の先にいたのは、
「オメガ、さん?」
手に持った何かの機械が鼓動のリズムで青い光を放つ。その光に照らされて見えた顔は、間違いなく昨日出会った猫好きの彼。
ちょっとおかしな人のオメガさんに相違なかった。
═══ Access Granted
誰も声をあげない静かな空間で、ノイズがかった機械音声が鳴り響く。
彼は静かに機械を変形させると、更により強く光を放たれる。
その時、何かを恐れるかのようにノイズたちが一斉にオメガさんへと飛びかかった。私は声をあげようとしたけれど、襲いかかる攻撃はそれよりもずっと早い。けれど彼は何も焦ることなく、ただ本当に静かな動作で手を掲げ、トリガーを強く押し込んだ。
その瞬間、光が爆発した。あまりの強い光を前に、思わず腕で目を隠し瞼を閉じる。
それでも僅かに開いた瞼の先で、それが見えた。
「……群青の、嵐」
あの日、二年前のライブの惨劇で私が見たそれそのままのものが、目の前で渦巻いている。
ノイズ達が嵐に巻き込まれて吹き飛ばされていく、そのまま炭に還っていくのがいるも見えた。
ほんの数秒、青の輝きがパイプラインたちを明るく染め上げている。そして嵐は真っ二つに叩き斬られた。
光の嵐が消え去った後、台風の目に立っていたのは、澄み渡るような青空の色と銀の二色だけで彩られた存在が一人。
ULTRAMAN Z
あの日と変わらぬ銀の瞳が、闇の中に浮かんでいた。