Zの輝き   作:なのでごぜーます

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 無我夢中の戦いとも言えない逃亡劇の最中で、覚えていることは少ない。けれどあの時、確かに彼は来たくれた。銀の瞳の青いあの人──オメガさんは確かに私たちを助けてくれた。命を救われたのはこれで二度目になる。

 彼は現れたと思ったすぐに伏せろと言って、次の瞬間には腕から光線を放ち自身を回転をすることで周りのノイズを一瞬で全滅させた。目の前で秒速の勢いで出来上がっていく炭の山、その光景思わず呆けている間に彼は何も言わずすぐに空へと消えていった。

 だからお礼を言う暇なんてなく、肩をがっくしと落としていると、今度は見知らぬ人達がやってきた。軍服? って言えばいいのか分からないけれど、とにかく自衛隊風の人達。あとはスーツで身を着込んだ、如何にも働いてます!といった風の人達。

 辺りを封鎖したりとか、ノイズだった炭たちを大きな掃除機で吸い取ったりとか、周りがすごくバタバタとしていく。テレビで見たことはあったけれど、ノイズ後の処理って思った以上に大変そうだった。

 

 女の人から暖かい飲み物を受け取って、ほっと一息。する間もなく手には手錠がかけられてあれよあれよと車に乗せられ連れ去られ、ついた先は入学したばかりの私立リディアン音楽院。またあれよあれよと流されて、エレベーターで降りて、進んだ扉の先にあったのは思わぬ歓迎会の雰囲気だった。

 如何にも格闘家やってます! っていう風貌の風鳴弦十郎さん。すごく大人の色気を醸し出している櫻井了子さん。そして、私の憧れの二人! ツヴァイウィングの天羽奏さんと風鳴翼さん!

 

「ま、なんにせよ今日はアンタの歓迎会だからさ。肩の力抜いてゆっくりしなよ」

 

 そう言ってくれた奏さんは、さっき手錠をはずしてくれた男の人と同じ黒いスーツを着こなしていた。

 こうして目の前で見ると、テレビや雑誌で見るよりもずっと綺麗でかっこいい。私、幸せです!

 

「いいえ、ここはそんな場所ではないわ。ここは無辜の民を守るための最前線、軽い気持ちで入ってこれる場所では……」

 

「翼は硬くなりすぎなんだって。またちょっと肩が凝りだしたんじゃないか~?」

 

「っひ!? ちょ、やめ、って! もう、奏!」

 

 テレビで見ていて知っていたけれど、本当にツヴァイウィングって仲がいいんだなぁ。テレビやライブの本番前で緊張している空気を解くのも奏さんだって言っていたし、翼さんにとって奏さんは無くてはならない、文字通りの片翼なんだ。

 もしかしたら、言う機会は今しかないのかもしれない。

 

「あ、あのっ!」

 

 大声をあげると、彼女たちはじゃれつきをやめてこちらへと向き直ってくれた。

 やっぱり、今しかない。二年前の感謝を伝えるのは。

 

「私、ずっと前からツヴァイウィングのファンだったんです! それで、あの、お礼を言わせてほしいんです!」

 

「……ああ、やっぱり。アンタだったんだね、二年前のライブに居た子だろう?」

 

「っ、はい! 覚えていてくれたんですか……!?」

 

「そりゃあ、ね。アタシにとっても、あの日は人生の分岐点だったわけだし。それにアタシのせいで大怪我負わせちゃったのも、よく覚えてるよ」

 

 苦虫を噛んだような顔で、奏さんはそう言った。翼さんは寄り添うように奏さんの手を握っている。

 

「怪我が完治して、退院したってことだけは聞いてたんだけど……謝罪の一つも出来なくって、悪かったね」

 

 消えない胸の傷、確かにそれは二年前のあの時についたもの。でもそれが奏さんのせいだとは私には到底思えない。けれど確かに、奏さんはそれを悔やんでいる。なら、私がするべきことは一つだけ。

 

「奏さん」

 

 空いた片手を手で包み込む。細くて綺麗な指だけど、感触は私よりもずっと硬かった。これがきっと、戦っている人の手なんだ。

 

「あの日、奏さんの言葉が今の私を形作ってくれたんです。諦めず挫けずにここまで来れたんです」

 

 辛いことなら、沢山あった。今でも思い出したくないことだっていっぱいある。けどそんな私を勇気づけてくれたのは間違いなく、死の間際にあったこの人の言葉。辛くとも今と向き合える力をくれたんだ。

 

「『()()()()()()()()()』。……私、今とっても幸せなんですっ。未来……えっと、親友と笑い合えて、今日はもう一人の恩人にも会えて! 色んな人の手助けをしてこれました!」

 

 私なんかじゃ奏みたいに歌で人を元気づけることなんて出来やしない。でも私から動けば、もしかしたら人の力になれるかもしれない。人の心に元気を分けれることが出来るかもしれない、そう思って私は今日までやれてきた。その心を教えてくれたのは、銀の瞳のあの人だ。

 私には二人の恩人がいる。奏さんは生きる勇気をくれた、オメガさんは人のために動ける心をくれた。

 だから、胸を張ってほしい。

 

「ありがとうございました。奏さんのおかげで、私は今も幸せなんです」

 

「──嗚呼、本当に」

 

 そう一呼吸すると、

 

「こちらこそ、ありがとう。生きていてくれて、本当に嬉しい。本当によかった」

 

 慈愛に満ちた優しい顔で、笑ってくれた。

 

 

 

 

 この後、私はメディカルチェックを受けた。あの力を起動させた後の負荷がどれほどかかっているのか、それを調べるためなんだって。それがもう人間バンクなんじゃないかってぐらい精密でやることもいっぱいあって、終わった後の私はへとへと。時間も時間だったから、そのまま帰らせてはくれたけど……未来には、その理由を伝えることは出来なかった。

 それが私の周りの人達を守ることに繋がるんだ、って奏さんは言ってくれたけれど。親友に隠し事をするのは、かなり心苦しい。

 そしてその翌日、私はまたあの施設に訪れることとなった。

 そこで聞かされたのは私が見に纏った力、シンフォギアについて。でもなんというか、聞いたことのない単語をいっぱい伝えられても私の頭じゃ分かるわけもなく……分かったのは歌の力でノイズと戦えるってこと。私が歌って、それが人の助けになれるなら、私は迷わない。絶対に。勧誘の言葉には二つ返事で頷いた。

 聞きたいことを一つ消化出来たけど、私にはまだこの人達に聞きたいことがある。

 

「その、あの青い人は……」

 

「ゼットのことか」

 

「ゼット……?」

 

「彼は名前を尋ねられると、一様にしてそう答えるのよ」

 

 弦十郎さんたちも、ゼットさん……もといオメガさんについてはよくわかっていないことが多いらしい。どうしてノイズと戦えるのか、どうしてノイズの出現を察知できるのか、どうして彼は人を守るのか。特に一番最初の、ノイズと戦える理由に一番頭を悩ませているらしい。

 

「ゼットは何故か、()()()()()()()()()()()

 

「映らないって、どういうことですか?」

 

「アタシ達は日々ノイズと戦っているから、その出現を察知するためにこの街のあらゆる場所にレーダーや監視カメラを設置してる。もちろん、悪用なんかしないけどね」

 

「けどゼットはそのどれにも映らない。まるで鏡に映らない吸血鬼のように、そこにいる痕跡は見えても姿形は可視化出来ないのよ。だから映像やレーダーから研究することが出来ない。科学者の天敵みたいな存在ね」

 

「幸い、出現時には特徴的な群青の嵐を目視することが出来るため居ることは分かる。だが着いた頃には、もう炭の山しか残っていない。目撃情報から容姿はわかるが……」

 

「実際に遠目でもわかるのは、見たことがある私と奏。そして、貴方ということになるわね」

 

 どうやらオメガさんの存在は、秘密組織のこの人達でさえも頭を悩ませているらしい。でも会える手段がないとわかったのは、少し残念。

 ゼットさんとこの人達、目的はノイズの撃退と同じみたいだからもしかしたら手を取り合っているのかもしれない。それなら会うことだって難しくない、って思ったんだけど……世の中はそこまで甘くないみたいだ。

 

「でも、どうしてゼットさんは皆さんと協力しないんでしょう……?」

 

「さぁな。だが何かしらの理由があって我々と会うことを避けているのは、間違いない」

 

「やっぱりあれじゃないか? 翼が姿を見るなり大技で脅しをかけたから……」

 

「か、奏!」

 

 その話も少し気になるけれど、それはまた後で聞くことにしよう。奏さんなら教えてくれそうな気がする。

 じゃれあっているツヴァイウィングの二人を尻目に、私は口を開いた。

 

「あの、ゼットさんのことで、もしかしたら力になれるかもしれません。私、ゼットさんと変身する前に出会ってるんです」

 

「なに……?」

 

 私はオメガさんのことについて皆さんに語った。普段は私たち人間と同じ姿をしていて性別は男性であること、オメガと名乗っていたこと、猫が物凄く好きであるということ、駅近くの公園出会ったこと。とりあえず情報になりそうなことは全部伝えきった。

 

「……なるほど、ありがとう響くん。これは彼を特定するのにかなり大きな進歩となる!」

 

「すぐに駅近くでの猫好きの男性について情報を洗い出します!」

 

 職員さんたちの動きが急にバタバタとし出した、言葉通りオメガさんの特定に動き出すんだろう。

 奏さんもそれにならって部屋を退出した、スーツを着ていたからもしかしてとは思っていたけれど、私には今は職員さんとして働いているように見えた。

 それをぼけっと見ていると、了子さんが身を寄せてこそこそ話の距離に。

 

「因みに、顔はどんな感じだった? イケてる感じ?」

 

「え、えっと……そうですね、なんだかテレビで見たことのある顔をしていたような……」

 

 あれ、そういえばあの時、私何を思い出そうとしていたんだっけ。あまりにも誰かと似ていたから、それを思い出そうとしていたような……。うーん、駄目だ。もう思い出せない、早々ない出会いだったから覚えているつもりだったんだけどなぁ。

 

「……あっ。あ、あのっ。もしそれでオメガさんを見つけても、あんまり手荒な真似は……」

 

「それは向こうの出方次第、抵抗するのであれば私が──」

 

「翼。……分かっている、彼と我々の人を守りたいという想いはきっと一緒だ。我々としても、話が聞きたいだけだからな。もちろん、協力要請が出来ればそれに越したことはないが」

 

 この人が言ってくれるなら、大丈夫なんだと思えた。責任者、と言ってたし、それに義理人情に暑そうなのは言葉の節々から理解出来る。

 ほっと、胸を撫で下ろして一安心。

 

「しかしオメガ、か。ギリシャ文字最後の言葉……ゼットの名から来ているのだろうか」

 

「終わりの者、ね……」

 

「えっと、すごく悩みに悩んで出した名前みたいでしたけど……」

 

 多分あの人そこまで深く考えてないんじゃないかな。なんというか、すごく抜けてる人となりをしていたし……戦いの時の雰囲気とはまるで大違いだった。

 

 ──オメガさんにとって、もしかしたら私がしたことはいい迷惑なのかもしれない。恩を仇で返す行為なのかもしれない。

 でもやっぱり、私は話し合いたい。どうして戦っているのか、どうしてこの人達を避けているのか。もし協力は出来ないと言われても、私はあの人と戦いたい。

 そして、お礼を言いたいんだ。奏さんの時は私一人だったけれど、今度は未来と、絶対に。

 

 

 

 その後は特に何かが起こるわけでもなく、私はまた遅くはなったけれど部屋に帰ることが出来た。

 未来はまた疑いの目でこっちを見ていたけれど、やっぱり打ち明けることはできない。未来を信用していないから、ってわけじゃない。私はいつだって未来を一番に信頼してる。

 だけど言うことで未来にまで危険が及んでしまうと言うのなら、あの日の追われてる私と同じような目に合ってしまうと言うのなら、しかも追ってくるのがノイズではなく人になると言うのなら、やっぱり私にそれが出来るわけがなかった。

 そして、またその翌日。休日の真っ最中に、連絡先を交換したばかりの奏さんからメッセージが飛んできた。

 

『ちょっと親交会を開かないか?』って。

 

◆◆

 

 駅前近くの鉄板焼き店、『ふらわー』はアタシも懇意にしていた店だ。うまくってボリュームもあって、何より安い。

 アーティストとして活動するようになってお金は増えたけれど財布の紐は緒方さんに握られているから、毎月の小遣いは上手く使わないといけない。

 っていうか、アタシもう高校卒業してるのにまだお小遣いかよ。ちょっとおかしくないか? そういうことを翼に相談しても「普段の行いでしょ」って素っ気なく返されてしまう。ちょっと前までの人怖じする可愛らしい翼は一体どこに行ってしまったんだろうか。アタシは悲しい。

 

 高校を卒業してからはアーティストとしての活動にソロが増えたこともあってますます忙しくなり早々立ち寄る暇がなかったけれど、今日は珍しく翼がオフだし立花……っと、もう名前呼びでいいんだった。響も連れて、親交会の銘を打って久しぶりのふらわー満喫といきますか。

 

「そういえば、オメガさんの捜索はどういう感じなんですか?」

 

 駅前で待ち合わせした合流した後、駄弁りながらの道中で響がそう切り出してくる。

 そうか、響も二年前のあの時に居たからゼットには何か言いたいことがあるのか。でもあんまり大きい声では言えないから、響の肩に手を回して距離を縮める。

 

「まだ情報の洗い出し途中。あそこの公園、猫が集まるって評判みたいでさ。猫の世話をしてる男性なんて、それこそ小学生からサラリーマンまでいるんだよ」

 

「そ、そうなんですか……結構特徴的なんで、見たら分かるんですけど……」

 

「周りの人からすれば、猫の世話をする男なんて珍しくもないんでしょうね」

 

 こそっと自分も距離を縮めて話に入ってくる翼。

 ははーん、さてはアタシが響と仲良くしてるのがつまらないんだな? 顔にありありと書いてあるからすぐに見て取れる。

 笑って顔を見ていると翼も悟られたことに気付いたのか、脇腹を毒手でついてくる。地味に痛い。

 

「ま、そういう話も後にして、今日は楽しく行くぞ! ほら、言ってる間についたしな!」

 

 昨今お洒落を第一に考えているような店とは程遠い店構え、香ばしいソースの匂いの懐かしさを更に際立たせてくれる。ついでにアタシの空腹も。思わず腹が鳴りそうだな、なんて考えているとすぐ傍からくぅと鳴る音。

 見やれば、響が頬を染めて照れ臭そうに笑っている。こりゃ、一瞬でも早く後輩の腹を満たしてやらないとな。

 意気込みを勢いに変えて、扉を開く。

 

「おばちゃーん、来たよ~!」

 

「む、いらっしゃい。好きな席に座ると、いい……」

 

 あれ、店番してるのおばちゃんじゃない。知らない男だ──いや、知らなくないな。この顔どっかで見たことあるな、それもつい最近に。どこで見たっけか……もう喉のこの辺りまで来てるんだけど。

 黙って見つめあっていると、立ち止まっていることを不審に思ったんだろう響が後ろから顔を出して、大きな声をあげた。

 

「あぁーーっ!! お、オメガさんッ!」

 

「……君は、あの時の。どうしてここn」

 

「響ッ! アタシとアイツを拘束! 翼は旦那に連絡!」

 

 驚いた表情を見せるが、戸惑いながらも頷く響。後ろでは翼が連絡を取っている声も聞こえる。よし、行くぞ。

 

「確保ーーーッ!!」

 

「うぉぉおーーッ!?」

 

 小さな店に、男の大きな悲鳴が店内に響き渡った。

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