Zの輝き   作:なのでごぜーます

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 二年。俺が地球人として紛れ込み、組織であろう存在から身を隠せていた時間である。どこかでボロを出した覚えもないのに、三年持たずにバレてしまうとは地球人の能力の高さを甘く見すぎていたらしい。

 いくら文明レベルが低くとも、それは無能の証拠になりはしない。彼らの力を低く見積りすぎていた、自身の傲りこそが今回の失敗に繋がったのだと確信した。

 だがしかし、この拘束に不満がないかと言われればそれは嘘となる。

 

「……おい、そろそろ離せ。これでは仕事にならない」

 

「ここでの話ならすぐに終わるさ」

 

「ご、ごめんなさいオメガさん。でも私たち、純粋に貴方と話がしたいだけなんです。だからちょっとだけ我慢してください」

 

 右手には朱色の髪の地球人、見覚えがあるどころかこの二年間で何度も現場で見かけたことがある。あとテレビでも幾度か見かけた覚えがある。

 左手には先日にあったばかりの茶髪の地球人、名前は確か立花 響と言ったか。猫好きの彼女が言うのであれば、少しだけ時間を割いても良いかもしれない。猫好きに悪い人間はいない。

 そして真ん中に俺。まだスイッチも入っていない鉄板の前で、座敷に腰かけた状態で拘束されている。

 とはいえやはりこの拘束には不満が残る、腕に抱きつく形で自らの体を絡ませてきているのだ。

 手錠等であれば力付くで抜け出すことになんの躊躇もいらないが、こう密着されている状態で力を使っては彼女達を傷つけかねない。信用されていると取ればいいのか、それともこちらの指名を逆手に取っているのか。なんにせよ、むず痒い。

 

「それに、あんたとしても悪い感触じゃないだろ?」

 

「なに? どういうことだ」

 

「どういうって、見ての通りさ」

 

 ますます彼女はこちらとの距離を縮める。もはやこちらに寄りかかっているんじゃないかと言えるほどの密着具合、しかし別段何かを感じることはない。それ以上視覚情報で得られることもない。地球人の女の言葉は理解に苦しんだ。

 

「奏! 婿入り前の女性がそんなはしたないこと!」

 

「はいはい、冗談だってば」

 

 正面に立つ青い髪の地球人が彼女に叱咤をかけると、朱色の地球人はすぐに元の距離に戻った。次にはすぐに青い髪の地球人がこちらを睨み付けて、

 

「その煩悩、すぐに忘れろ。考えを動きに出してみろ、墓に名を残せるとは思わぬことだ」

 

 確かに怒りのこもった言葉でそう言った。

 何か勘違いをされているような気がするが、わざわざそれを指摘する必要もない。先程から彼女がこちらへぶつけてくる敵意は間違いなく本物だ、余計な口出しをして錆びにされてはこちらが敵わない。

 

「……それで、俺はいつまでこのままで居ればいい?」

 

「もうそろそろ繋がると思うんだけど──」

 

『すまない、待たせてしまったな』

 

 それは青い髪の地球人が持っている、通信端末から流れてきた合成音声であった。彼女は端末を机に起き、軽い操作を行うと画面は空中ディスプレイへと移り、そこには一人の地球人の男の姿が映っていた。

 

『奏、確かにそこにいるのだな』

 

「ああ、間違いないよ旦那。肉眼ではしっかりと確認できる」

 

 朱色の彼女へと視線を向けていた男が、こちらへと視線を向ける。正確にはこちらの目ではなく、俺のいる辺りを見ていると言った感想を受けた。

 

『初めまして、というべきだろうなゼット。俺は風鳴 弦十郎。特異災害対策機動部二課の司令官を務めている』

 

 そう名乗った男の体は確かに鍛え抜かれた体と、切り抜けてきた場数の多さを思わせる気迫のようなものを映像越しでも感じさせた。その姿はかつて顔を合わせたことのある、U-40出身の彼を彷彿とさせる。

 この男は強い、少なくとも真似ているだけの俺には到底勝てはしないだろう。友の師匠であるウルトラマンであれば、あるいは渡り合えるかもしれないが。

 

「あの武装した人間たちのリーダー、か?」

 

『っ。……そちらは一課のことだな。彼等は避難誘導等が仕事。対して我々はノイズの対処の方が仕事だ』

 

「彼女たちも、その二課に所属しているということか」

 

『そうなる。……しかし、妙な気分だ。何もないところから、声だけが聞こえてくるのは』

 

 そう言ってくる風鳴という男に、少しだけ申し訳なく思う気持ちは沸いてくる。

 話し合いというのだから、と声だけは干渉を許しているがそれ意外のものは今まで通り。映像向こうの人間からすれば、風鳴の言う通りの光景が広がっているだけだろう。

 

「そろそろ本題に入らせてもらっていいか、こちらもまだ仕事が残っている」

 

『すまないが、その仕事は早退してもらえないだろうか。今から話すことは機密事項に触れることとなる。もしも無関係な人に聞かれてしまっては、その人にまで危険が及ぶ可能性がある。話し合いはこちらで行わせてもらいたい』

 

 真剣な表情でそう伝えてくる風鳴の言葉に、嘘は感じられなかった。どうやらこの国は少し難しい立場に立たされているのかもしれない。

 

「……こちらも同居人に聞かせるような話ではない。わかった」

 

『すまない、既に迎えは──』

 

「迎えは必要ない。()()()()()()()

 

 その言葉に風鳴の男は疑念の声をあげた。しかし()()()()()()()()()()()()()()()()

 既に体は拘束を抜け出し、粒子となり、空間に侵入し繋がっている道を通り、画面向こうの場所へとたどり着いている。

 そして自身の姿も、もはや地球人のそれではない。

 

「な、にぃ!?」

 

 背後から驚愕の声が響く。風鳴の声だ。

 宇宙開拓が出来ていないということは、未知なるものが多いということだ。俺たち宇宙人からすればこのような技を持っている存在は珍しくない、だが地球人はそれを知らない。

 電子空間を移動できる存在がいる、なんてことは。

 

「改めて初めまして、だな。俺の名はゼット」

 

 地球人たちの視線が集まる中、強く宣言した。

 

「異星人だ」

 

◆◆

 

「異星人、だとぉ!?」

 

 目の前に現れた存在、ゼットに対して風鳴 弦十郎は、驚愕の叫びをあげた。だがその驚愕も一瞬、その容姿を見やれば異星人であるという言葉に説得力を感じさせるには十分なものだった。

 銀と青だけの体色。頭頂部にトサカのついたまるでマスクを被っているかのような顔つきに、おおよそ人間味を感じさせない銀色の瞳。胸には鉄製にも見えるプロテクターに宝石のようなものにも思えるZと象られた何か。身長は彼の胸辺り、おおよそ185センチ前後。

 まるで無機物、一見すれば機械のようにも見えるが弦十郎の超人的な聴覚は確かに彼の鼓動を感じ取っている。間違いなく生物ではあった。

 人間以外の二足歩行生物、地球外生命体。それが目の前に立つ存在、ゼットであった。

 

「君は、宇宙から来たというのか!?」

 

「ああ。地球からおおよそ300万光年先にあるM78星雲、そこからこの星へとやってきた。使命を果たすために」

 

 300万光年、とてつもなく長い距離だ。1光年はおおよそ秒速30万km。もし本当に300万光年も先から来たのだとしたら、彼は何兆、いや何京以上の距離をも宇宙空間を飛んできたと言うのだから、もはやスケールが大きすぎてオペレーター達はその思考が追い付けていない。

 

「使命……? それは一体」

 

「君たち地球人を守ることだ」

 

 胸を張るわけでもなく、高らかというわけでもなく、ただ淡々とゼットはそう語った。まるで感情を感じさせないその口調に、弦十郎は何か引っ掛かりを受けた。

 

「詳しく語ることはできない、俺は正式な光の国の使者でも、ましてや母星の使者でもないからだ。そして信じて欲しいというつもりもない、本当にこうして使命を果たすべきは俺ではなく、俺はその代わりとして使命を全うしようとしているにすぎない存在だからだ」

 

「君たち地球人は、俺の命にかけてでも守る。使命は必ず果たす。それが俺に出来る、唯一のことだ」

 

 ゼットはそこで口をつぐんだ。彼から話すべきことはもう終わっているのだと、その場の誰もが感じていた。重苦しい雰囲気の中、弦十郎が口を開いた。

 

「……わかった。これ以上俺たちから質問するつもりはない」

 

 その言葉にオペレーター達は声をあげた。彼はようやく訪れた疑念をぶつける機会を、ここで振るというのだ。異星人であるというのであれば、まだ話が通じる内に得体の知れなさを解消するべきであることは疑いようのない事実であるというのに。

 弦十郎は口を開いた。

 

「彼の言葉には重すぎるほどの硬い覚悟を感じた。そこまでのものを疑えるものか」

 

 それに、と彼は続ける。

 

「ゼットは初めて会ったばかりの俺たちをどこまでも信じてくれている。なら、俺たちもそれに応えなければならない」

 

 ゼットの言葉には多くの前提条件が存在していることが伺えた。如何に元公安警察官である風鳴弦十郎とはいえ、その全てを理解することは出来はしない。ましてや相手が宇宙人であるというのであれば尚更に。

 しかし弦十郎には腕っぷしだけでなく、優れた人物観察眼も持っている。長年警察官として頼りにしてきたその自分の目が言っている。

 『彼はどこまで地球人を、心の底から信用してくれている』のだと。

 ならばこちらもその信用を裏切らぬよう、誇れる姿で在らねばならない。

 それが男の覚悟に対して自分の見せる、大人の覚悟なのだと。

 

「……感謝する、弦十郎」

 

「本当に、共に戦うことは出来ないのか」

 

「すまない。俺はどこまでも異星人だ、それに()()()()()()()。俺と関わることは、きっと君達に良くない後味を残すことになると思う」

 

「それはどういう──」

 

 ゼットが手で弦十郎を制する。それ以上は語れないと、これ以上入り込むことは止めてほしいと。

 

「安心してほしい、宇宙警備法の話だ。この惑星の法は一度だって破ったことはない」

 

「……わかった。君を信じよう」

 

「ありがとう、弦十郎」

 

 彼の表情は決して変わらない、硬性度の高い物質で顔を構成しているゼットは表情を変えることすら出来ない。しかし確かに、その声色は柔らかく感じられるものだった。

 彼は善意の存在であるのだと感じさせるには十分な程に。

 

 ゼットがディスプレイに手をかざす、画面向こうには神妙な顔つきをした三人の少女の顔が映っている。電子空間を移動し、向こう側に戻ろうとしているのだ。

 移動する直前に、風鳴弦十郎は声をあげた。

 

「ゼット! 俺たちは肩を並べて戦えはしない、だが臨む戦場は同じ!」

 

 彼が一体何を背負って戦っているのか、何を思って戦いに臨むのか。まだ少し会話しただけの人間にはまだわからない。

 だが弦十郎は確かに感じられたことがある。それをそのまま一言一句、言葉にしてぶつける。司令官などと偉ぶれる肩書きがあろうとも、風鳴弦十郎は肩書きに相応しい器用さなど持ち合わせていないのだから。

 

「俺もお前を信じる!」

 

 最後に彼を見た異星人の瞳は、優しい銀の煌めきを感じさせた。

 

◆◆

 

 ディスプレイから光の粒子が溢れていく、粒子は集い形取り、一秒もたたぬ内に一人の男性へと姿を変えた。

 男が、ゼットがこちらを見る。瞬時に身構え、首にかけた己の刃を握りしめる。いつでも振り抜けるように、いつでも守れるように。

 

「翼」

 

 しかしその構えは、奏に腕を掴まれることによって崩れることとなる。その眼差しは、どこか咎めるような色を伺わせる。

 わかっていない、わかっていないのは奏の方だ。なのに、

 

「いや、その地球人の方が正しい。天羽 奏」

 

 ゼットが口を開いた。

 

「俺は異星人だとは言っているが、それを信じれるかどうかはまた別の話だ」

 

「アタシは信じるよ。それにアンタが異星人だろうとそうでなかろうと、どっちでもいい」

 

「異星人を容易く信じるな。弦十郎には言いそびれたがな」

 

 そうだ、異星人なんて言葉を吐く存在などと分かり合うことはできない。確かに私たちと目的は同じだ、守るべき者も、敵対するべき相手も。

 けれどそれは奴の言葉を全て鵜呑みにすればの話。その腹の中で悪意が渦巻いていないのだと、どうして断ずることが出来ようか。それが異星人であるのだというのであれば、尚更に。

 尚も話に食らいつこうとする奏を、手で制する。

 

「奏、奴は犯罪者よ。容易に近づかないで」

 

「翼ッ!」

 

「宇宙警備法だがなんだか知らないが、直ぐにでも出頭するがいい」

 

「そのつもりだ、使命を終えた後にな」

 

 使命。画面向こうでしつこく何度も口にするその言葉を聞く度に、私は不快感を隠しきれなかった。

 地球人を守ることが使命ならば、いつまでもこの国に居てないですぐにでも他の国に発つべきだ。日本に居座り、力を見せびらかし、一体何のつもりの当て擦りだと言うのだ。

 

「貴様の言うそれはッ! 剣である私の、防人の使命だッ!」

 

 奪うつもりか、私から。戦う理由までも。

 

「異星人が土足で踏み込むなッ!」

 

「なんと言われようとも、これだけは譲れない」

 

「──なら、力付くにでも」

 

「や、止めてくださいッ!」

 

 その間に割って入ってきたのは、先日に適合者であることが判明した少女、立花 響。

 少し前までただの学生だった彼女が、顔に悲しさを滲ませて私の前に立ちふさがっている。

 

「どうして二人とも話し合ってくれないんですか、同じ言葉が通じる相手なのに!」

 

「……さっきの言葉は、貴方にも言えることなのよ」

 

「えっ?」

 

 やはり彼女は何もわかっていない。その力を持つ意味を、その力を軽々しく振るう意味を、戦場に立つ意味さえも。

 分からないのなら、軽々しく頷くべきではなかった。あの時、叔父様に協力を要請された時に何も知らぬまま安請け合い等するべきではなかった。

 

「防人の戦場に、貴方のような軽い気持ちの人間が土足で踏み込ないでちょうだい」

 

 私は私の想いだけで立っているのではない、私の背には皆の想いがある。それは当然、奏の分も。

 だから私が戦うんだ、奏の分も。背に託されたこの両翼で、私はどこまでも防人の使命を果たし、剣とあってみせる。

 

 通信端末に着信が入る。それはノイズ到来を示す、戦前の角笛。私が剣として振るわれる時が来たのだ。

 

「この風鳴 翼の剣、恐れぬのなら着いてこい」

 

 ノイズを切り伏せた後、そこで決着をつけてやろう。

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