恋の駆け引き after OPENING   作:しおり@活字は飲み物

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5/23『キスの日』記念の短編です。
八一と銀子ちゃんの身長差が判明した時に勢いでTwitter上にあげたSSを加筆しました。


《18》キスと身長差

「ん〜!」

 

 俺が銀子ちゃんの研究部屋で研究会の準備の為にタブレットを立ち上げていると、冷蔵庫から飲み物を取り出そうとしている銀子ちゃんが、何やら苦戦している声が聞こえてきた。

 

『身長低めの女の子が高いところの物取ろうと背伸びしてる後ろ姿って、妙にえっちぃな…』とか思って、しばらく眺めてたけど、どうも取れそうにないみたいだから、助けに行くことにした。

 

 俺が170㎝で、銀子ちゃんが確か154㎝だから、身長差は約16㎝。

 『カップルの理想の身長差は15㎝』らしいけど、こんなに身長差がつき始めたのはいつ頃からだったんだろう。

 俺が中1の頃くらいかな。あの頃は身長も棋力も伸び盛りで、毎晩のように節々が(きし)んで寝られたもんじゃなかったし、寝られないくらいなら将棋を指していたかった。銀子ちゃんが寝静まった後、こっそり二段ベッドから起き出して将棋をしているのを桂香さんに見つかって早く寝るよう(たしな)められたりしたな…

 

 こんなに背丈に差があることすら気づかないくらい、ずっと近くにいて。

 でも、いつの間にか彼女は俺より小さくて華奢な『女の子』になっていた。

 お互いを一番大切な人だと言い合えるようになった今は、この差を少しでも縮めたいと思ってしまう。

 

 

「ん〜! はぁ、取れない…」

「どうしたの?」

「八一が前に買ってきて、冷蔵庫に入れてくれたお茶が一番上の棚にあって取れない…」

「冷蔵庫の棚に手が届かないってあるんだ?」

「自分がちょっと背が高いからってバカにして!」

「いや、170㎝なんて男子の平均なんだけど…銀子ちゃんは平均より低いのか」

「そうよ! 悪い!? 電車の網棚の上とか、ちょっと高いところのものは取れそうで取れないんだもん! しかも、八一が調子に乗って、必要以上におっきい冷蔵庫を買うから!」

「だって、冷蔵庫なんてそう頻繁に買い替える物でもないし、4人家族用のにしたんだけど…」

「!? ……ばか! いいから早く取って!」

 

 ん?? なんで怒られてるんだろう?

 まあ、照れ隠しみたいだから、とりあえず謝っとこう…

 

「ごめん、ごめん。これ取ればいいの?」

 

 冷蔵庫の前にいる銀子ちゃんの背後に立って、さりげなく左手を細い腰に回しながら、一番上の棚に入っている緑茶のペットボトルを下ろす。

 一本は銀子ちゃんに手渡して、残りの二本は一段下の棚に移す。

 俺が自分用に買ってきたミネラルウォーターはどうしよう? と思ったら…

 

「もう! これからは、一番上の棚は八一のだから。私の物は入れないでよ!?」

 

 ドキッとした。

 銀子ちゃんは照れ隠しにプンプン怒ったフリをして、上目遣いで俺を見上げながら言ってるけど、一緒に使うために自分で買った冷蔵庫とはいえ、

『彼女の部屋にある俺の棚』

ってなんだ!? その特別な感じ!?

 

 あ、ヤバい。変なスイッチ入った…

 でも、これから研究会だから、軽いので終わらせとかなきゃ…

 冷蔵庫の扉をパタンと閉じて、銀子ちゃんの体を反転させて冷蔵庫の扉に軽く押し付ける。銀子ちゃんはペットボトルを手に持って、きょとんとした顔で俺を見上げてくる。

 くそぅ……超絶かわいい…

 研究会、研究会と頭の中で唱えながら、少し腰をかがめて顔を近づける。

 俺の影に隠れて明るさを失った、彼女の無防備で柔らかな唇を奪う。

 

「んん!?」

 

 チュッ

 重ね合わせて、一度(ついば)むだけのキス。

 

「ちょっ! 急に何するのよ!?」

「だって、かわいいこと言うから」

「か、かわいいことなんて、言ってないのに…」

 

 真っ赤になって(うつむ)く銀子ちゃんの首筋が眩しくて、甘い香りにクラクラするけど、今はここでおしまい。研究会に切り替えないと前の時みたいに止まらなくなって、銀子ちゃんに怒られる。

 

 研究会を始めようと声をかける為に、一歩後ろに離れた。

 そしたら、赤い顔をした銀子ちゃんがペットボトルを左手に持ち替えて、右手で俺のシャツの端を引っ張りながら、俺の顔を見ないで、(ささや)いた。

 

「ねえ」

「ん?」

「もう、おしまい?」

「!?」

 

 そんなことを言われてしまえば、続けざるを得ない。

 

「あっ…!」

 

 左手を腰に、右手を首の後ろに回して抱き寄せて、さっきより強めに冷蔵庫に体を押しつける。

 首を少し引き寄せて、顔を見上げるようにさせた。

 視線が合うと、続きをねだったけど、こうなることまでは想像してなかったって感じの表情だった。

 驚いた拍子に少し開いた彼女の唇を捕らえて、『大人の封じ手』をする。

 

「……んんっ!」

 

 だって、ここは俺の彼女の部屋で、ここには俺と彼女しかいなくて、俺の彼女はこんなにもかわいい。

 今日やる予定の研究も大事だけど、それを後回しにしたからって、誰が俺達を責めるっていうんだ。

 ()いて言えば、将棋の神様か。

 

 

 

 

ドコッ

 

「ッ!!」

 

 鈍い音と共に俺の右足の甲に衝撃と痛みが走った。

 さすがにキスを続けるような余裕はなく、唇を離して被害状況を確認すると、足元に銀子ちゃんが持っていたペットボトルが転がっていた。原因が分かったら、途端に痛みが増してきた。

 

「いっつ〜〜」

「ご、ごめん!! 手が滑って!」

「だ、だいじょうぶ……」

 

 将棋の神様、大丈夫です。

 ばっちり、目が覚めました…

 

 

 その後?

 ちゃんと予定通りにしましたよ?

 もちろん。

 

 

 

 完




冷蔵庫は『研究会』の最後に買ったという噂のやつです。
多分「自動で氷作れる方がいいよな…」とか調子に乗って大きいサイズを買ってしまったんでしょう。
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