恋の駆け引き after OPENING   作:しおり@活字は飲み物

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《10 》登龍花蓮の言い訳【後半戦】

 事務室で部屋の鍵を返しながら、空先生を見ていないか確認した。帰る時はマスコミ対策の為に職員さんが東京駅まで付き添う予定だけど、まだ事務室に来ていないとの回答。まだ会館を出ていないようだった。

 どこにいるのかと、目ぼしいところは大体見て廻ったけど、どこにもいなかった。

 もしかして、あそこかな?

 

 空先生は、女性という少数派である上に、アウェーな東京の将棋会館で休息を取る時、五階の隅にある女流棋士室を利用されている。

 ダメ元で五階まで登ってきて、廊下の端の女流棋士室の扉をノックをしようとしたら、扉が数センチ開いていて、中から空先生らしき人の声が聞こえてきた。

 

「もう!ばかやいち!!」

 

 やっぱりここにいたんだ。でも、声がするってことは、誰か他にも人がいるのかな?今『やいち』って聞こえたような…

 でも、次会う機会なんていつ来るか分からないし、申し訳ないけど三段リーグ最終日のように部屋の外で待たせてもらおう…

 すると、室内から何やら言い争いをする空先生と九頭竜先生らしき人の声が聞こえてきた…

 

「バカバカ、ばかやいち! へんたい!! あの時、一体何思い出してたのよ!」

「え、それ聞いちゃう? 言っていいの?」

「え? …ふぇぇ!?」

「バスルームで恥ずかしがってた銀子ちゃんでしょ。俺の膝の上でどう攻めるか悩んでた銀子ちゃんでしょ。それから、俺に組み敷かれて息も絶え絶えになってた銀子ちゃ…」

 

『バシッ! バシバシッ!!』

 

「ほ、ほんとに言うな! ヘンタイ!! え、エロ魔王!!」

「いてて…なんか新しい罵倒の名称増えた気が…」

 

 ひ、ひえぇ…

 や、やっぱり、そーゆーゴカンケイなんですね!?

 っていうか、九頭竜先生がどうして東京に? 空先生のことで頭いっぱいで九頭竜先生の対局までチェックしてなかったけど、もしかして昨日順位戦だったかな?

 

「と、ところで、小童はまだ師匠の家に家出してるの?」

「うぐっ! 家出とか人聞きの悪いこと言わないでよ! アパートにマスコミが押しかけて危険だから、避難させてるだけだし!」

「どーだか。桂香さんから聞いた感じだと、テレビのワイドショーで知って、かなりショックだったみたいだけど? 第二局終わった時点で、観念して早く自分から言えばよかったのに、嫌われたくないからって最悪のバレ方して…」

「うう…反論できない…」

「帝位戦の三局目は小童が聞き手なんでしょ? それまでにちゃんと話をつけておかなきゃ、また大盤解説が成り立たなくなるわよ?」

「た、確かに…」

「黒い小童は? 二日目の大盤解説では聞き手の癖に、解説者をガン無視したらしいじゃない?」

「……あれから会えてません…」

「先が思いやられるわ…」

 

 そ、それにしても、なんか会話の内容ほとんど聞こえちゃってるよ!?

 僕の今の状況って、声だけだから『立ち聞き』になるんだろうけど、なんか『覗き』をしてる感じになってる!?

 そういえば、覗きをするヤツのこと『 出歯亀(デバガメ)』って言うらしいけど、余計に悪いことしてる感じになるな…

 でも、本返さないといけないし…

 もう少し離れたところで待つ? いや、中の会話が気になり過ぎて、正直動けないや…

 

「とりあえず、明日、空家に挨拶行くのは大丈夫なんでしょ? お父さん、出張から戻るんだよね?」

「今日の夜には帰ってくる予定だから、だ、大丈夫だけど…」

「空家に挨拶済ませなきゃ、公式発表できないし。もうそろそろ将棋連盟もマスコミ抑えるの限界になってきてるみたいだし」

 

 ええ!?『娘さんを下さい』的なイベント!? でもまぁ、高校生の娘が週刊誌に取り沙汰されて、それが全部嘘でもないなら、大人として責任を持って挨拶に行くか…

 いや待てよ? 九頭竜先生、僕より一歳年上なだけだから、まだ十八歳の未成年じゃん。将棋界の常識で考えると竜王だし、プロだから『社会人』って印象が強いけど。まだ学校に行ってたら、高三か…

 

「それと、師匠に報告もしないとだけど、清滝家も見張られてるしなぁ…銀子ちゃんが昇段したお祝いで飲み過ぎて、体調崩して病院に運ばれてから、桂香さんが外出禁止にしてるし」

「本当に、肝心な時にいつも使えないのよね…」

「来週は? なんかうちの親父がニュース見て、喜び過ぎて繁忙期だってのに、早く両家顔合わせしたいって言ってきてるんだけど」

「り、両家顔合わせ!?」

 

 り、両家顔合わせ!?

 それって、婚約とかが決まったらするイベントだよね!? そんなところまで進展しちゃってるの? 早くない!?

 空先生、僕より年下だし、十六歳になったばっかだよ!? そりゃ、女性は十六歳になれば結婚出来るけどさ…

 

「き、気が早くない!? まだ付き合い始めたばっかりなのに!? さ、指し過ぎじゃないの!?」

「当然、銀子ちゃんと空家の意向次第だけど。一応この前うちには挨拶に来てもらった訳だし。俺としては帝位戦に続いて竜王防衛戦が始まるまでには、ハッキリさせておきたいところだね。銀子ちゃんの隠れファンがどんだけ将棋界にいるのか、前回の前夜祭でよーーく分かったから。一晩眠れないくらい…」

「うう…」

「どうせ、中途半端に報告したってマスコミは満足しないんだし、寄せ切っておいた方がいいでしょ?」

 

 うわぁ…

 付き合い始めたばっかりって言ってたのに、この畳み掛けるような寄せのスピード感。さすが竜王だよ。

 今まで、空先生の方が九頭竜先生に気があるのかと思ってたけど、九頭竜先生、ベタ惚れじゃん…

 ロリキングの設定、どこいったの。

 

 ここまで聞いといてなんだけど、どうしよう…このままここにいるのは良くない気がする。出てきて鉢合わせた時、多分お互い気まずいし…

 でも、本返さないといけないし!

 そ、それに、ここにいるのが事情を知ってる僕だからいいけど、他の人がここに来て立ち聞きしちゃったりしたら、マスコミにリークするかもしれないし!

 そう! 監視! 他の人が近づかない為の監視役が必要だよね!

 

「帰りの新幹線の時間は? 俺のより一本早いので帰るんだよね。」

「まだ大丈夫だけど…」

「そう…」

 

『ガタッ』

 

「ちょ、ちょっと…近い!」

「もう少し、触らせてよ。キスだけで、我慢するから…」

「ば、バカ!! し、神聖な将棋会館で、き、キスだけだってダメに決まってりゅでしょ!?」

「じゃあ、どこならいいのさ?」

「へ?ど、どこって…」

「大阪じゃ、無理じゃん? 連日あの大騒ぎだし。マスコミだけならまだしも一般の『浪速の白雪姫』ファンまで紛れてて見分けつかないし。東京だって、将棋会館の外に今も報道陣がチラホラいるでしょ?」

「うぅ…まあ、そうね」

「明日空家に挨拶に行くから会えるっちゃ会えるけど、さすがに二人きりになるのは無理だろうし」

「確かに、無理でしょうね…」

「その次、いつ会えるか分かんないし。指し直し局だってお預けなんだよ? 俺、頑張って勝ったのに……」

「そ、それは…分かってるけど…」

 

 ん? 「指し直し局」って言ってるように聞こえたけど、いつの対局のことだろう…

 

「そんなに、イヤなの?」

「ち、ちがっ! ……え? はっ!!」

「ふーん。イヤじゃないなら、いいよね?」

「ちょ、ちょっと! ……んんっ!」

 

 ちょ、ちょっと待って!!

 今ここで始めちゃうの!?

 む、無理だよ!! 音だけとは言え、推しのキスシーンなんて!

 ココロの準備! いや、準備しようがしまいが、無理なものは無理だ!!

 

 動揺した僕は、うっかり手に持っていたサイン本を床に落としてしまった。

 

 バタンッ

 

「「「……………」」」

 

 あわわわっ!!

 し、しまった!!

 外にいるのがバレちゃう!

 せっかく今日空先生と一緒にお仕事ができて少し距離が縮まったのに、こんなデバガメみたいなことするヤツだなんて、絶対思われたくない!

 

 慌てふためいた僕は、女流棋士室から二人が様子を伺いに出てくるより前に、一目散にその場から逃げ出した。

 

 

*****************

 

 

 はぁ〜

 今日はなんだかものすご〜〜く疲れた気がする…

 明日の対局に備えて、早く寝よう…

 ナップザックを背負って、トボトボと今日泊まる予定のカプセルホテルを目指して歩いていたら、ポケットに入れてあるスマホが揺れた。

 登録されてない番号からの電話?

 誰だろう?

 無視したいけど、明日の対局関連だと困るし、とりあえず出るか。

 

「もしもし?」

「あの、登龍花蓮さんの携帯電話でよろしいですか?」

「はい、そうですが…」

「あの、そらです」

「?? そらです?」

 

 そらです?

 ソラデス?

 空デス…?

 空です……??

 『空』????

 

「空先生!?」

「は、はい! あの、突然お電話してすみません。番号は連盟の方に特別に教えて頂きました」

「ふぉ!? そ、空先生から、推しから生電話がかかってきてる!?」

「おし? それで、あの。今日は対談お疲れ様でした。それで、連盟の方に聞いたんですが…登龍さんが届けてくれようとした本が…その…五階の廊下に落ちてたんですが…」

「ふぁ!?」

 

 ああ!!

 動揺し過ぎて、本のことすっかり忘れてた!

 ば、バレた!?

 そりゃバレるよね!

 

「「ご、ごめんなさい!!」」

「「…………」」

「「へ?」」

「あ、あの、空先生、その、立ち聞きするつもりはなかったんで…」

「し、神聖な将棋会館で、本当にすみません…」

「い、いえ…一応、取材場所の変更で、一部事情は把握してたので…」

「ら、来週には公式発表する予定なので、それまで内緒にしておいてもらえませんか?」

「も、もちろんです! 誰にも言いませんよ! 内緒にします!!」

「はぁ〜。ありがとうございます。助かります…それと…」

「はい?」

「今日言い損ねてしまったんですが…三段リーグ最終日、エールを送ってくれてありがとうございました。女流タイトルを獲ったこと、廻り道だったんじゃないかと思う時もありましたが、登龍さんの為になっていたと言ってもらえて、嬉しかったです」

「え……?」

「最終戦の前に、勇気をもらえました。ありがとうございました」

「そ、そ、そんな!! とんでもないです!!」

「これからも、お互いがんばりましょう。……大阪に来る機会、あまりないと思いますが…時間があれば、声かけてください。VSしましょう」

「は、はい!! 喜んで!!」

 

 それからその日は 夢見心地(ゆめみごこち)のまま気がついたら朝になっていた。

 日曜日の対局も、なんだか気持ちはふわふわしてたのに、肝心の将棋の読みだけは冴え渡っていて、危なげなく全勝だった。

 

 

*****************

 

 

 翌週の水曜日、将棋連盟ホームページのニュース欄に九頭竜・空両先生が、空先生の高校卒業後の結婚を前提に真剣交際(ニュアンス的にはほぼ婚約)をしている旨が掲載された。

 報道が過熱しているが、お二人とも未成年であり、空先生は高校生なので節度ある対応を求めるとの注意書きを添えて。

 

 

 正直、空先生には幸せになって欲しい。これは、本心だ。

 

 でも、まだ高校生であんなにカワイイ空先生を今からずっと独り占めできるなんて、できるなんて、羨ましすぎる!!!!

 

 

 これからの女流タイトル戦は、規定通りに空先生が出場資格を失うなら、タイトルが二つ空く。

 他の現タイトルホルダーはもちろん、あの夜叉神天衣もタイトル争奪戦に参戦してくるだろう。

 内弟子だという雛鶴あいは直接対局したことはないけど、終盤力が驚異的で、あの岳滅鬼さんの必至すら跳ね除け勝ち星を挙げたというバケモノ級の天才だ。

 二人とも、さすが西の魔王である九頭竜八一竜王の弟子。

 

 でも、女将棋指し空銀子の後継者はこの僕、登龍花蓮だ。

 空先生が今まで守ってきた女王と女流玉座は、他の誰にも渡さない。

 

 別に、八つ当たりとか嫉妬なんかじゃない、ただの女性奨励会員の意地だ!

 

 でもでも、九頭竜門下にだけは、ぜ〜〜〜〜ったいに負けない!!!!

 

 リア充爆発しろ!!




花蓮ちゃんには、女流タイトル戦でも九頭竜門下の前に立ちはだかる強敵になって活躍してほしいです。

次回、例の『指し直し局』の為、
R-18指定の『恋の駆け引き after OPENING【大人編】』に掲載しております。
https://syosetu.org/novel/242250/3.html
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