ハリー・ポッターと天使の眼 作:はぎ
荷物を全て部屋に運び終わり、グレイスはただ1人ベッドに腰掛ける。
彼からは表情が抜け落ちており、まるでこの世の終わりでも見たかのような様子。
彼がこうなった原因、たった数時間前の話だ。
「足元気をつけて」
「うん、ありがとうハーマイオニー」
「そこ、段差が高いわ。ちょんと捕まってて」
目の見えない僕に気を使い、ハーマイオニーはまるで当然かのように手を引いてくれる。ホグワーツに着いたものの、敷地内に入っただけだ。ここからは、小舟に乗り、ホグワーツ城へゆっくりと進んでいく。
「わぁ…。すごいね、ものすっごくカラフルだよ」
「へえ、どんな色?」
「赤や黄色、緑に青…もっともっとある」
「やっぱりあなたの目は私たちに見えないような物を映し出すのね…。でも、大丈夫? 少しでも辛くなったら目を閉じなさいよ?」
「わかってるよ。ありがとう」
少し、光が強すぎて酔ってしまった感じはするけど、それよりも興奮が抑えきれない。色鮮やかな光は弧を描くように宙を舞い、枝葉を広げるかのように拡散する。あぁ!なんて綺麗なんだろう!
ザアザアという船が水をかき分け進む音、虫たちの合唱、そして、ホグワーツ新入生の興奮した話し声。しばらくハーマイオニーとの会話を楽しみながら、揺れる小舟に身を預けていたが、先頭の方から大きな声が聞こえ立ち上がってしまった。急に僕が立ち上がったことで小舟は大きくグラッと揺れ、目が見えない僕は転ばないように慌てて踏ん張ろうとするが、抵抗虚しく水の中へ真っ逆さま───
「グレイスッ!?」
──になることはなく、僕の手を掴んだハーマイオニー、一緒の小舟に乗っていた残り2人の新入生に助けられることで僕は再び座ることができた。
「はあ…本当に、注意しなさい!」
船が対岸に着くまで、ハーマイオニーは僕の手を話さなかった。
もちろん手首だけど。
「さあ皆さん、今からあなた達はこの扉の先の上級生たちと合流せねばなりません。ですが、その前に皆さんが入る寮の組み分けをします」
厳格そうな凛とした女性教授。マクゴナガルが軽く寮の説明をする。ハーマイオニーは恐らくレイブンクローに行くのではないか、などと寮分けについて考えながら扉をくぐる。
瞬間、歓声が鳴り響く。
ホグワーツ自体が色で溢れかえっているというのに、ここはそれとは比べ物にならない。様々な上級生の色、教諭、壁や床に至るまで、全てのものが色を放っていた。
「大丈夫? 顔色が悪いわ」
「…いや、大丈夫だよ。 でも、少し目は閉じておく」
目を閉じることでいくらかマシになる色の主張。ああ、僕はこの場所で卒業までやっていけるのだろうか。目が見えないことは、魔力が見えてもどうしようもないことに感じる。
僕の不安そうな雰囲気がハーマイオニーに伝わったのか、彼女は僕の手を取り、他の新入生に置いていかれないように引っ張ってくれる。
おそらく、組み分けの事を不安がってると思っているのだろう。
「そこで止まりなさい」
しばらく進んだところでマグゴナガルによって整列させられる。とうとう組み分けが始まるのだ。組み分けまえにダンブルドア校長からの簡単な注意事項が述べられたが、僕にはあんまり関係の無さそうな内容だった。どこどこに近づくな、どこどこは立ち入り禁止などと言われても、僕は1人でそこにたどり着くことができないのだから。
次々と生徒が組み分けられていく。当然彼女は僕よりも早く呼ばれ寮が決まる。ハーマイオニーの寮はグリフィンドール。レイブンクローが似合うと思っていたが、僕に対する彼女の行動を振り返ってみたら、グリフィンドールが適していることは何となく腑に落ちた。
「ハーマー・グレイス!」
ハーマイオニーに何人か後に、僕の名が呼ばれる。色々な色に眩みながらも、僕は目を開きゆっくり、ゆっくりと進んでいく。つま先が段差にあたり少しよろけたところで、マクゴナガルはサッと受け止め、僕の歩きを補助してくれた。事情の知らない生徒たちが笑っているのを感じたが、特に気にする必要もないだろう。
椅子に座った瞬間帽子のような、凄く、色の主張が激しい何かが乗せられる。
『…あぁ、これまた面白い子がいたものだな。 才能もある、だが自尊心と積極性が恐ろしく無い。優しさに溢れているが、どこが冷酷な一面もある』
──褒められてるのか、貶してるんだか…
『もちろん褒めているとも』
思ったことが声に出たのでは、と僕は少し焦ってしまったがどうやらそうでは無いらしい。
『勤勉家であり忍耐もあるからハッフルパフにも適性があるな。勇気や気力もありグリフィンドールにも行けよう。反面、狡猾さや知識が少々足りない』
──やっぱりハッフルパフが僕にはお似合いですか
『ほう、君は彼女と同じ寮にどうしても行きたがると思っていたのだが…だが、君が先まで望んでいた寮がグリフィンドールだということはとっくに知っているんだよ』
まるで元々決めていたのに、会話をするためだけに、僕に他寮の話題を振ったとしか思えない。
『グリフィンドールで君は決まりだ。 大丈夫。安心するといい。君のように家族を1人
「は?…待ってください。一体どういう──」
『グリフィンドール!!!!!』
その言葉の真意もわからず、帽子を取られる。そのままマクゴナガルに支えられながら段差を降りきるが、僕には全く喜ばしい感情はなかった。頭に残る帽子の声と喜色を含んだハーマイオニーに「グレイス!こっちよ!」という声が頭の中で木霊する。
──エリーシャ…君なのか…?