何もないアパートらしき部屋の一室……そこで俺は目覚めた。 部屋は特徴らしい特徴が無く、家具は机とベッドとクローゼット、そして机の上にパソコンが置いてあり、あとは赤い帽子が掛けられているだけ。だがこの光景を見て俺は心の中で興奮していた。
(本当に転生した……遊戯王の世界に!)
この俺(25歳フリーター独身)は車に轢かれ死んだ。そして目覚めたら一面真っ白な空間。 そこであったのは白いアンモナイトでもデカい蝉みたいな顔で全身黒い演技派な大男でもなく、髭がくそ長い爺さんが居た。 何でも爺さんは神様で、死んだのは爺さんのミスなので別の世界に転生してほしいとか。
それを聞いた俺はしばらく悩んでから遊戯王の世界に行く事にした。元の世界じゃ色々失敗した俺でもあの世界ならデュエルさえ出来ればなんとかなりそうだし……という甘々な理由だったりする。
それを聞いた神様は快く承諾してくれて、冒頭に戻る。
(半ば半信半疑だったけど本当に転生してる!やっばい、興奮が止まんない!)
俺は思わず立ち上がり、窓の外を眺める。そこで目に映ったのはKCの文字が掲げられた大きなビルを中心に立ち並ぶビル群、そして下を見れば高速道路のような空中道路が目に入り、所々でバイクが走っている……ここはもしかして
「ネオドミノシティだー!」
俺は思わず誰もいないアパートの一室で叫んでしまった。
ネオドミノシティ、アニメ「遊戯王5D’s」のメインとなる街でおおざっぱに言うと大抵の事はデュエルで解決してくれる……まさしく俺が行きたかった場所だ。
確かこの街は裕福なシティと犯罪者や貧困層が多いサテライトに分かれ、海を挟んで行けないようになっていたが、物語の途中で自由に行き来出来るようになった。
その証にダイダロスブリッジという橋が掛かったのだが……
「あ、有った」
俺は窓から見渡す事でそれを見つけることが出来た。というのもダイダロスブリッジにはまるで金色の指輪のような特徴的なモニュメントがあり、ネオドミノシティの事をアニメでしか知らない俺でも見つけられた。
という事は今はアニメでいえばダグナー編は終わったようだ……それ以上はわからないので後で調べてみよう。
「よし、とりあえず自分の身の回りを確認しよう」
俺は自分が本当にアニメの世界に入ったという興奮が少し落ち着き、自分の身の回りを見る。本当に何も無い部屋だが、机の上には黄色いデュエルディスクと黒いスーツケースが有るのを見つけた。
「何だろ、これ」
デュエルディスクを付けてみたいが、今は未知の物が先。俺はスーツケースの鍵止めを開け、中身を確認する。
中には棒状の小型の機械、元の世界で俺が使っていた黒い財布、そしてスーツケースの殆どを遊戯王カードが占領していた。
「うわーお……」
この光景に思わず変な声が出てしまった。お札なんかを入れるスーツケースにびっしり入った遊戯王カード。こういう世界だと分かっていてもシュールさに言葉がでなくなってしまう。カードを見てみると「戦いの神オリオン」なんていう通常モンスターから「No.102光天使グローリアス・ヘイロー」なんてエクシーズモンスター、「時詠みの魔術師」なんていうペンデュラムモンスターまでよりどりみどり。元の世界のカード全てが有るんじゃないかな。しかも3枚ずつ。神様太っ腹である。
「じゃあ、早速デッキ作ろうかな~」
俺は文字通り山のようにあるカードを鼻歌交じりで漁りながら、デッキを作る。
この世界はまずデッキが無くては始まらない筈、詳しい事はその後でも良いよね?
「よし、出来た!」
カードを入れては抜き、カードの山を漁り、入れては抜く……といった作業を始めて1時間。やっと満足の行くデッキが出来た。
内容はシンプルな【ライトロード】。モンスターはオネスト以外はみんなライトロードで固められているが、エクストラデッキはその分容赦ない面子が入っている。
若干、心許ないと言われればそうだが、まだシンクロ現役のこの時代なら「ライトロード・アサシン ライデン」などのチューナー入りライトロードならまあ、大丈夫だろう。
「ん~」
ずっと同じ体勢でカードを睨めっこしていたためか少し目が疲れたので、体を伸ばしながら顔洗おうと洗面台を探す。
洗面台は直ぐに見つかり、俺は洗面台の前の鏡に立ちながら、普通に顔を洗おうとした……が
「誰?」
俺は鏡の中の自分に問いかけてしまった。そこにいるのは肩まで掛かる茶色い髪をした少女の姿が有った。
赤いジャンパーに下はジーンズを履いている男っぽい格好のこの少女は鏡の中で目を丸くしてこちらを見ている。いや、驚いているのは俺か。
しかし、この少女(俺)は中々悪くはない。そこまで特徴的ではないが整った顔立ち、ちょっと大きい茶色の瞳。そしてそこまで大きくは無いが、小さくもない胸。全体的に「普通に可愛い」という言葉が似合う少女であった。俺としてはモロタイプ。
けど……
「俺はこんなの望んでなーい!」
思わず鏡の前で叫んでしまう。確かに見た目はタイプだが、こんなのは望んでない!女の子は好きだが別に女には成りたい訳じゃない!
「ふざけんな神様ー!」
俺は先ほどまで感謝感激していた神様に向かって、思いっきり暴言を吐くのであった。
「……まあいいや」
よくよく聞いてみると高くなった声でため息をつく。あの叫び続けていて、女になった衝撃からしばらくして頭が冷静になってきた。うん、遊戯王の転生はしているしまあいっか……カードさえあれば。
なんてひとまず落ち着いたら今度は別の問題が見つかり始めた。まずこのアパート。家具は必要最低限有るが、服は今着ている一着だけ。それ以外はスーツケースの中のものとデュエルディスクしか持っていないのだ。
つまり日用品が0。冷蔵庫の中も、クローゼットの中も何も入っていない。ひとまず俺の財布にこちらの世界で使えそうな貨幣が入っていたが……こちらの世界の物価を知らなくても不安になる額しかなかった。
ヤバい、デュエルだけじゃ何とかならそう。
「……ひとまず、食べ物買ってこよう」
しばらく悩んだが、どうすることも出来なさそうだ。
俺はとりあえず食事を取りたいと思い、財布とデュエルディスク、そしてデッキを持ち部屋から出た。
「……無い」
アパートから出て約30分。俺は目を虚ろにして、街を歩いていた。
アパートの外は住宅街だった。まあそこは良い、治安は良さそうだし。
だが、歩けども歩けども、物を売ってそうな建物は見つからず、延々と歩き続けている。時刻は昼くらいで人影はなく、誰にも道を聞けずひたすら歩く。暫く歩いていた為かお腹からは可愛らしい音が鳴り始めていた。
……ヤバい、大都会の真ん中で遭難する。
「ちょっと!近寄らないで!」
俺は頭の中でネガティブな方向に考え続けていると、怒気の籠もった少女の声が俺の頭に入ってきた。
「良いじゃんちょっと位、なあ?」
「嫌!触らないで!」
声のする方に首を向けると、赤い制服みたいな服を着ている少女と金髪で如何にもな男が居る。会話の内容からして金髪が彼女をナンパして、それに対して少女が怒っているみたいだ。
「あの制服……」
よく見たらデュエルアカデミアのものだ。
デュエルアカデミアとはこの世界に存在するデュエルの専門学校?のような所だ。確かアニメでも十六夜アキや龍可、龍亜などの人物が通っていた。
「まあまあ、そんな事いわずにさぁ~。ちょっとだけ、ちょっとだけだから」
「キャッ!触らないでよ!」
頭の中でアニメの事を考えていたところ、チャラ男が女子生徒の手を無理矢理掴み、引っ張って何処かへ連れて行こうとする。これは大変な場面を目撃しているのでは?
「でも殴られたりはしたくないな……」
あのチャラ男、そこまで強そうではないが、今の俺は女。変に関わって怪我でもしたらどうしよう……。
「い、嫌!ちょっと離してよ!」
少女が目に涙を浮かべながら必死に叫んでいる。
それを見て俺の心にスイッチが入った。とりあえず、目の前で起きているのは犯罪だ!これを見過ごす事は出来ない。
俺が思った瞬間、体は2人の元へ駆け出し、少女を握る手を精一杯強く掴む。
「あっ?」
俺の手を不快そうに眺め、俺の顔を見る男。少女は助けが来たからか嬉しそうな笑顔を浮かべている。
俺は少女の笑みに優しく微笑み返し、その後鋭い目で男を見る。そして俺は口に出す。
「おい、デュエルしろよ」
感想は一週間に一度くらいしか返せませんが歓迎しています。