【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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知らぬ神より馴染みの鬼

世界各地で吹き荒れる、アンチATフィールドの奔流。槍もその身も魂さえも複製品ではあるもののエヴァ量産機は生物の魂を取り込む度に『人造の神』としての力を高め、加速度的にその影響範囲を広げていく。

 

それと共に、量産機はエヴァとしての枠組みを外れ、光の巨人へと近づいていった。

 

15年前のアダムを思わせる巨人が、ゼーレのゴリ押した追加建造によって5〜17号機の13体も存在するというその事実は、明らかに地球という星にとって過剰な負荷だ。

 

あらゆる生命がLCLに還元され、世界は赤く染まり、各地に塩の柱が乱立する。それを原罪の穢れ無き浄化された世界と呼べば聞こえがいいのだろうが、実質的には完全な死の世界以外の何物でも無い。

 

そんな世界を闊歩する光の巨人は皆、槍を手に一路、日本を目指す。

 

血の禊に抗う罪人を裁くべく、神は敵対者(サタン)の守るその地を目指すのだ。

 

 

* * * * * *

 

 

そんな光の巨人の中で、最も早く日本に到達したのは、当たり前ながらネルフ中国支部から出撃した個体であった。

 

飛翔し日本海を越えるその姿を超望遠カメラで捉えた戦略自衛隊からの情報共有により、ネルフ本部発令所内の大型スクリーンには、

 

「……ッ。光の巨人……ゼーレは本当に、15年前と同じように世界を滅ぼすつもりなのね」

「戦略自衛隊より入電! トライデント級陸上軽巡洋艦による攻撃を開始するとの事!」

「了解! 有人機は決してバリアの外に出ないように伝えて頂戴! 外はセカンドインパクトと同じ状況、いえ、それ以上の災害よ! 出れば死ぬわ!」

「了解、伝達します!」

「……とはいえ前衛が居なきゃ足止めも無理か……。日向君! ジェットアローン4号機は!」

「現在急ピッチで最終調整中!」

「なら3号機で時間を稼ぐ! ジェットアローン3号機、発進準備!」

 

そんなミサトの号令と共にジェットアローンの人工知能に命令が打ち込まれ、戦略自衛隊の支援とエヴァンゲリオン量産機の撃破の命を受けた機動兵器はリフトによって黒き月の頂点へと射出され、そこから重力制御装置で飛び立っていく。

 

JA3号機はネルフからの通信により『作戦目標』を入力すれば、現場的な判断自体は内蔵した人工知能が行う半自律稼働型ロボット兵器。

 

アンチATフィールドは生物に対しては絶対致死領域として働くが、機械仕掛けのジェットアローンにとっては、単なるエネルギーフィールドに過ぎない。

 

そして都合の良いことに、量産機の展開するアンチATフィールドは攻撃に対する防御ではなく、単に垂れ流しになっている力場に過ぎない。指向性を持たないそれは、過大な物理的エネルギーを以ってすれば突破可能なものだ。

 

そして、ジェットアローン3号機には、その『高エネルギー兵器』が搭載されている。

 

アラエル戦においても使用された高出力プロトンビーム。大気を切り裂いて直進する陽子の奔流は、立ち込めるLCLの蒸気を電離させながら量産機へと直撃し、その上半身と下半身を泣き別れにさせる。

 

だが。吹き飛んだ筈の腹部は不気味に盛り上がった肉の触手によって結合され、何事も無かったかのように量産機は再生を遂げる。

 

————S2機関。無限の生命エネルギーによる超再生能力。

 

半ば反則じみたその能力に対し、ジェットアローンでは打つ手がない……のは先日までの話。

 

搭載しているS2機関が1つならば、なんとか出来る範疇だ。

 

神に至ったサキエルによる『S2機関の本質解明』と『なぜ使徒に高密度エネルギー兵器が通用するのか』という疑問の検証。

 

そこから導き出された『S2機関は過負荷により容易に暴走する』という事実を元に搭載されたのが、JA3号機の最終兵器『反物質パイルバンカー』である。

 

どういう仕組みなんだそれは、と考えたくなってしまうが中身は単純。杭状の真空容器に重力制御装置を組み込み、真空中に反物質を浮かべているのである。

 

正確には浮遊ではなく全方向からの重力でガチガチに固定してあるので、普段の運用で杭の内部に接触して大変な事になる心配はない。

 

使用時には槍が標的に着弾すると同時に重力制御装置が自壊。慣性に従い杭の内部で先端に衝突する反物質が対消滅を起こし、対象を高エネルギーで吹き飛ばすのだ。

 

だが、この必殺兵器の欠点は、その射程の短さにあった。

 

設計上自爆兵器な点や安全面など諸々を考慮した結果この兵器の砲口はジェットアローンの胸の中央にあるのである。

 

つまり、相手に組み付かなければ使えない。

 

だが、量産機とて馬鹿ではなく、自身の胴を吹き飛ばしたジェットアローンをそう易々とは近寄らせてくれない。そればかりか、口から使徒よろしく破壊光線を吐き出してジェットアローンを撃墜しに掛かる。

 

流石に重力を制御しているだけあり、鈍重そうな見た目のくせに機敏に回避するJA3号だが、接近は至難の技。破壊光線には破壊光線とばかりに、両手に組み込まれたプロトンビームで牽制をすることしか出来ないのだ。

 

そこに助けに入ったのは、ようやくJAに追いついた自衛隊の戦闘ロボット『トライデント級陸上軽巡洋艦』だ。

 

陸上といいつつちゃんと水中や水上でも作戦行動が可能な優れものであるこの機体、『コックピットの設計がクソなのでパイロットが死ぬ』というあまりに致命的な欠陥を抱えていたのだが、ネルフから供与された『人工知能技術』により、JA同様の遠隔操縦が可能になっている。

 

ジェットアローンとは学習データが違う上に恐竜じみた造形なのでその動作は全く異なるが、基本OSとハードは同一規格。それにより識別コードを交換することで、連携した共闘が可能になっているのである。

 

この機能は本来トライデント級で『艦隊』を組んで戦う為の機能なのだが、初のお披露目は『遠い親戚』とのコンビネーションとなったのである。

 

だが、初対面でもそこは流石に高性能コンピュータ同士。即座に作戦を共有したジェットアローンとトライデントは互いの武器を活かして、無限に再生し破壊光線と紫色のロンギヌスで暴れ回る量産機へと対峙する。

 

基本的に格闘戦が得意なジェットアローンと、戦自仕込みの多彩な兵器が売りのトライデント。自然と前衛後衛に分かれた両機は、息のあった、というか同期が取れた動きで作戦を開始。

 

決戦仕様としてハードポイントにしこたま兵器を担いで来たトライデントがまずぶっ放したのは、戦自研の開発した超兵器『ポジトロンキャノン』。

 

イスラフェル戦での戦訓により『ポジトロンスナイパーライフル』の使徒への有効性が確認されたことで産まれたこの兵器は、トライデント級の熱核原子炉からの給電で十分に発射可能な小規模版ポジトロンスナイパーライフルと言える。

 

その最大の特徴は、照射する陽電子を安定させる為、まずプロトンビームを発射しその直後にポジトロンビームを発射するという二段構え方式を採用したことだ。

 

陽子の照射により進路状の大気から電子を根こそぎもぎ取った上で陽電子を照射する事により、従来より遥かに低エネルギーながらも絶大な破壊力を維持する事に成功したのである。

 

そんなポジトロンキャノンの一撃は不意打ち気味に量産機に炸裂し、上半身を吹き飛ばされた量産機は大きくタタラを踏んだ。

 

が、そんな凄まじい一撃さえも何事も無かったかのように再生してしまうのが量産機の恐ろしさ。

 

普通の使徒なら死んでいる一撃なのだから素直に死んでおいて欲しいものだが、トライデントは慌てず騒がず機首の100mm機関砲と多連装ミサイルを打ち込んで、その再生を阻害する。

 

そして、その爆炎を掻い潜ったジェットアローンが、量産機へと見事に組み付き、その動きを抑え込む。

 

だが、量産機もタダでやられるような甘い存在ではない。かろうじて空いた手でロンギヌスコピーを呼び寄せ反撃を試み、その必殺の一撃をジェットアローンに突き立てようとする。

 

だが、その一撃に対してトライデントが割り込みをかけ自ら槍に貫かれたことで、ジェットアローンの最終兵器は無事に起動を成し遂げた。

 

轟音と共に射出されるパイル。トライデントとジェットアローンから緊急脱出する制御用人工知能ユニット。

 

量産機のコアにめり込んだパイルバンカーの先端が反物質により純粋なエネルギーへと変換され、量産機の体内で暴れ狂う。

 

その強烈な一撃に、量産機が搭載しているS2機関は耐えられない。

 

元よりディラックの海から汲み出した反物質と現実世界から汲み上げた物質を対消滅させる『陽電子機関』こそがS2機関。そのバランスはかなり繊細であり、強力なATフィールドで全てを遮断し諸々のバランスを調整できるからこそS2機関は成り立っている。

 

故に、大過剰のエネルギーにより『S2機関を構成するATフィールド』が破損すれば、暴走したS2機関は盛大に爆発するのだ。

 

それこそが、使徒の死の象徴たる光の十字架。

 

同じくその十字架と化した量産機はその肉体を失い、ジェットアローンとトライデントのボディを道連れに跡形もなく消し飛んだ。

 

だが。

 

その十字架の中から、巨大な赤い光の塊が飛び出して、ネルフ本部を目掛けて飛来する。

 

その輝きは、常人には目視出来ない魂の輝き。魂を感知し得るチルドレンや使徒達、そしてサキエルを孕むリツコにのみ見ることが出来る生命の光だ。

 

そして、ジェットアローンの戦いの推移を見守っていたサキエルは、この瞬間、ゼーレの作戦が二段構えである事を確信し、瞬間的な判断によりリリスの肉体をディラックの海へと飲み込んだ。

 

死した魂のガフの間への回帰。それを利用し、量産機が撃破されたとしても統合された魂をリリスのガフの間に至らせることで今度はリリスの肉体を乗っ取りそれによる補完を発動させるのがゼーレ第二の策だったのだ。

 

リリスの魂は堕落してるけど肉体は使えるよね! 的な都合の良い判断だが、本来サキエル達が警戒していたのはリリスを使う補完。流石にリリスを逃す準備はしているし、リリスを隠した後の対策も存在している。

 

リリスを目指していた筈の赤い光の奔流。目標を見失ったその魂は、自然と次の標的を目指すのだ。

 

それは当然、今やリリスと同格の超越者たるサキエル。

 

それを宿すリツコは、自身の下腹部へと数億の魂が飲み込まれているのを目にして、自身の孕んでいる存在が紛れもなく神である事を深く実感し、深く昏い冒涜的興奮に子宮を疼かせる。

 

恍惚に歪みそうになる表情をいつものクールな仮面に隠して、内心喜悦するリツコは、究極の歓びに身を浸している。

 

愛する男は神であり、自らが孕んだのもまた神。そして彼女が孕むのは愛する男の魂。

 

父と子と聖霊の模倣。三位一体を体現する究極的存在が自身の子宮に宿っているという実感は、女としてのリツコ、科学者としてのリツコ、そして母としてのリツコの欲望を最大限に満たす悦楽だったのだ。

 

自然とお腹を撫でてしまうリツコは、この戦いの勝利を一層確信しつつ、戦後に来たる神の出産を期待して軽く陶酔してしまうのであった。




連載100日。皆様長々とお付き合いいただきありがとうございます。
もうちょっとだけ続くんじゃ。

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