【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

102 / 107
第七の御使が吹き鳴らすラッパの音がする時には、神がその僕、預言者たちにお告げになったとおり、神の奥義は成就される。

ヨハネの黙示録 10章7節


Rev 10:7

獣と化した3号機へと飛来するのは、量産機のうち1体が投擲したロンギヌスコピー。必殺の勢いを以って放たれたそれは、本来回避不能な攻撃のはずだ。

 

しかしながら、ゼーレの槍はあくまで複製。ロンギヌス本体の如く独自の意思に目覚めているわけでもないその槍の誘導性はいまいちであり、呼び戻せば手元に飛来する無限投擲武器としての役目しか果たせていない。

 

だがそれでもATフィールドを紙切れの様に引き裂く威力は健在。チルドレンの中で唯一『別に神とかではない』マリにとっては当たれば非常に痛い攻撃だ。

 

だがそれは、当たればの話。ATフィールドを活用して空中を蹴って駆ける野獣と化した3号機は、槍の投擲により素手になった量産機へと食らいつき、その喉笛を一撃で引きちぎってしまう。

 

そのまま続けて鉤爪で胴を裂き、終いには後ろ足で臓腑を蹴り出して投げ捨てるその様は、凶暴な魔獣と呼ぶに相応しい。

 

「まっずいにゃあ!」

「うげ! マリ、アンタ何生首投げ飛ばしてくれてんのよ!」

「にゃんと!? わざとじゃないから許してお姫様っ!」

 

そんな会話をシンクロを介して行うマリとアスカ。空を駆ける速度ならば5機の中で最速な『鳥の天使』ことアスカがマリより遅れたのは、手を繋いでシンジを牽引していたが故。

 

胸に赤いコアを輝かせ、ヒーローの様に空を飛ぶアスカと融合した弐号機は、得意の脚技を駆使して獲物を狩る隼の如く量産機を蹴撃(しゅうげき)すると、その翼から眩い輝きを放ち、量産機へと『強制的にシンクロ』する。

 

使徒アラエルの心の光。精神を揺さ振るその波動によって量産機の内面を覗き込んだアスカは、ゼーレの理想の成れの果てを覗き込むと、その有様に顔を顰めた。

 

「ヒトの魂を全部混ぜ合わせて、その結果がこれってわけ? こんなの『何も無い』じゃない!」

「……みんなの気持ちが混ざりすぎて、逆に心を失ってるのかな。……好きも嫌いも無い、永遠に1人の世界か。ちょっとそれを望んじゃうのもわかる様な……他人に傷付くのは疲れるし」

「何バカな事言ってんのよシンジ、こんなの他人に傷付けられない世界じゃなくて『他人の居ない世界』でしょうが。アタシとアンタが他人だから、キスも出来るし手も繋げるの! ブン殴る拳を怖がって握手する掌まで無くしてんのよ? コイツら」

「昔の僕ならそう望むかもって話だよ。……でも、そう、昔の僕なら辛くて苦しくて逃げ出してたけど。それでも今は違うから、このエヴァの中の人たちにも、もう一度『ヒトのカタチ』を————」

 

そんなやり取りを交わすアスカとシンジは、互いを背にして周囲を舞う量産機に立ち向かい、斬り伏せ、蹴り落とす。

 

マリが織りなす獣の殺戮とは異なり、あくまでヒトが持つ『武』を振るうその戦いは、獣性と本能のままに戦う心無い量産機に比べて美しさすら感じさせる。

 

誰かの好きは、誰かの嫌い。

 

誰かの味方は、誰かの敵。

 

故に人格とは、無数の他者の視線によって多角的に切り取られた魂の断面であり、そんなペルソナの重なり合いこそが、個人を形成するATフィールドに他ならない。

 

故に他者の中の己と向き合い、己の中の他者と向き合い、その断面を研磨していく事で、ヒトの魂は『欠けた魂』から『カットを施された宝石』へと生まれ変わるのだ。

 

それを放棄した量産機の中の魂は、完全な球であってもガラス玉。覗き込んだとて何も映らない無色透明のガラクタに成り果てている。

 

魂を見る事の出来る完全生物の位階に至った者からすれば、使徒レリエルやエヴァの因子をルチルの様に散らしたシンジの魂や、アラエルの魂と双晶の様に寄り添うアスカ自身の魂の方が余程面白みがあると自信を持って言える。

 

だからこそ、再びこの巨大なガラス玉を無数の破片に砕いてやろうと、アスカとシンジは再生し続ける量産機をひたすらに倒し続けるのだ。

 

彼らの攻撃は、出力こそサキエルに及ばぬものの超越者のATフィールドであるアンチATフィールドを纏っており、量産機の体を穿つ度に、少しずつその魂を削り、飛び散らせる。

 

それらの多くは量産機によって再び補完されてしまうが、サキエルの元を目指して天から降る魂も僅かながら存在しており、量産機の巨大な魂はごく僅かながらその総量を減らしているのだ。

 

その兆候を目にして、このまま戦い続ければ、持久戦の果てに勝利を掴むのは自分たちだと固く信じて戦うのはシンジやアスカ、マリだけでは無い。

 

カヲルとレイもまた、彼等なりの方法で量産機の群れと戦っていた。

 

生物として完成してはいるものの小ぶりなシンジやアスカの魂とは異なり、カヲルとレイの魂は大量の生命を取り込んだ量産機にも引けを取らないほどの巨大なもの。

 

アスカやシンジの魂が宝石ならば、カヲルやレイの魂の輝きは星とでも言うべきだろう。

 

見つめて愛でるには眩しすぎる神の魂。矮小なヒトの魂にとっては『遠くから眺めているくらいで丁度いい』と思わせてしまうが故に孤独な絶対者。

 

だが、覚醒し宝石の煌めきを帯びたシンジやアスカ、『今や彼等より強力に輝くエゴの群体』と化したサキエルなどの存在により孤独とは無縁となった彼等は、その強大な力をヒトとシトの味方として振るう。

 

具体的に言えば、神の権能により強引に量産機から魂を引き剥がし、ガフの間へと引きずり込もうとしているのだ。

 

無論、カヲルが権限を持つアダムのガフの間は機能を停止している為、主体はレイでカヲルはその補助に回る形だ。

 

量産機が健在であればその魂に干渉するのは至難だが、マリやシンジ、アスカの活躍で量産機は常時傷を負わされており、干渉の余地は充分にある。

 

とはいえ傷ついているのはシンジ達も同じ。特にマリは超インファイトを行っている影響で槍の一撃を受ける事も多く、カヲルはレイのサポートの合間に『アダムとして』自身の複製である3号機にシンクロし、その傷を癒してやると言う役目もこなす羽目になっている。

 

だが、そんな厄介な槍への対抗策の一つがこの戦場には存在していた。

 

(J.A.) 2

 

ネルフに吸収合併された日本重化学工業共同体の開発陣が、ネルフと自身と加持の暗躍で入手した戦自の技術すらも複合して組み上げた史上最強の巨大ロボットが、その右手に1.21ギガワットの雷光を宿し、左手には面妖な大型ハンマーを担いで、分速88マイルで空を飛ぶ。

 

凄まじいアーク放電を放つその手のひらで量産機の腑を灼き、特殊合金の機体にとっては生命体では無いが故にロンギヌスコピーもただの槍。

 

近距離での拳による格闘だけでなく、担いだ奇怪な機械ハンマー『百式グラビティインパクト・ハンマードリル・パイルバンカー』による攻撃は、大気が震えるほどの轟音と共に量産機を爆砕し、ミドルレンジでの戦いにも死角は無い。

 

対使徒、対エヴァを想定した(J.A.) 2の武装コンセプトは『一点集中超高エネルギー兵器』。ATフィールドをブチ抜く為にはプロトンビーム然り、ポジトロンスナイパーライフル然り、とにかく過剰なまでのエネルギーを集中させるのが得策だ。

 

それ故、(J.A.) 2は格闘の為に大電流を放つ拳を有しているのである。

 

では、百式グラビティインパクト・ハンマードリル・パイルバンカーなる『のーみそさんしゃい(脳味噌3歳)』な名前の武器はなんなのか、といえば、このコンセプトを極限まで追求した逸品だったりする。

 

この武装、ハンマーの頭部分が機械装置になっており、内部に太い杭を格納している。コレを打撃の瞬間に作動させる事で、相手にパイルを撃ち込む、というわけだ。

 

『じゃあ柄付きパイルバンカーでいいじゃねえか名前』と思うだろうが、ちゃんと『百式グラビティインパクト・ハンマードリル』部分にも意味がある。

 

まずグラビティインパクトだが、コレは単純にハンマーの動作機構が重力操作による『斥力』を利用したものだからだ。物理的な加速度そのものを杭に付与するので安定性が高く、動作機構と作動部が離れているので破損もしづらい嬉しい仕組みだ。

 

そしてハンマードリルだが、コレは造語の類ではなく一般名詞。工事現場で『ガガガッ、ガガガッ、ガガガッ、ガガガガッ』と音を立てている鑿岩機的な意味での『ドリル』なのだ。

 

そう。そこでこの武装が重力駆動である意味が出てくる。ハンマードリルとは、杭を『高速で何度も叩き付ける』事で岩を削る工具であるのは知っての通り。そして重力操作とは引力と斥力を操る力。

 

そこで最後に説明するのが『百式』。ここまで来ればわかるだろう。

 

『百式グラビティインパクト・ハンマードリル・パイルバンカー』とは『重力でインパクトの瞬間に100回ブチ込む、ハンマードリルみたいな、パイルバンカー』なのである。

 

当たった瞬間に空間歪曲を引き起こし、鋼鉄を粉砕するかのような轟音と共に量産機を爆散させるその一撃は、まさにスーパーロボットに相応しい必殺武器。

 

一度作動させるとある程度の冷却が必要だが、赤熱するただのハンマーとして振るっても十分に凶悪なので戦闘に支障はない。

 

なお、そんなに強い武器ならエヴァにも寄越せという当然な意見はネルフ内でも出ているのだが、この武装、発生する反動を柄に組み込んだ吸収装置だけでは抑制しきれないのである。

 

それ故に現状ではジェットアローン側の左手にありったけの衝撃吸収機構を積んでなんとか運用できている化け物装備な為、エヴァが普通に使うと自分の腕が爆散する。

 

今回にせエヴァンゲリオンが不参加なのは、そんなハンマーの欠陥を身を以って証明し、肩どころか左側の肋骨を全部持っていかれたからだったりするのだ。

 

だが反動以上に凄まじい威力は今も活躍しており、紫電と衝撃を武器に戦うその勇姿は、ネルフ側から意図的に政府へとリークされ、国民不安の払拭に貢献している。

 

そしてまさに主役級の活躍をしているジェットアローンを隠れ蓑に、ネルフは現在、国内のインターネットとあらゆる通信に干渉し、エヴァがチルドレン化している事実の隠蔽に直走っていたりする。

 

いろんな方面で八面六臂の活躍を見せるジェットアローンと、グロかったり機密がヤバかったりで画面には映せないがジェットアローン以上に活躍する5機のエヴァ。

 

その戦いは現在、ネルフ側の優位で推移し、再生し続けられるとはいえ量産機の中のゼーレコピー達にも明確な『敗北の色』を知覚させている。

 

世界全てを屈服させてなお足りぬと言わんばかりの『背教者』の構成に歯噛みするゼーレの面々は、やがて一つの決断へと至る事になるのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。