【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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我思う、故に我有り

完全生命体に到達し、再生能力は致命傷を瞬時に再生し、無敵の武装を有する。

 

にも拘らず量産機は現在、サキエルどころか、ネルフのチルドレン達に圧倒されてしまっている。

 

ゼーレコピーにとって、その事実は不可解であり、また受け入れ難いものであった。

 

故に、彼等が決断したのは、より出力を向上させる方法。すなわち12体の量産機を合体させ、12基のS2機関を並列稼働させる方法であった。

 

「げ、融合した……!?」

 

アスカが苦々しげにそう呟く目前で、寄り集まり瞬時に融合する量産機。だが、神に等しいその存在の融合は、もはやアダムの覚醒と同義だ。

 

膨れ上がるその肉体は文字通りに天を衝き惑星規模の大きさへと成長していく。だがアダムともリリスとも異なるのは、その神には『貌が無い』ことだ。無個性にして無我の神。盲目にして聾唖の神。ゼーレの下で人類が成り果てたのは、表情を持たない虚ろな神だったのだ。

 

だが、その体躯はリリスやアダムの本来の姿、神として全ての魂を統べる超巨大形態と同格。身長はゆうに1万2000kmを越え、放出されるアンチATフィールドの奔流は地球全てを覆い尽くす。

 

ただアンチATフィールドを展開するだけで物理的な衝撃波が伴い、海は数百m級の大津波で地表を洗い流し、星は原始の様相へと回帰し始める。

 

まさに神の如きその存在を前に、現人神と化しているチルドレン達ももはや抗えず、ATフィールドを侵食されて次々に地上へともがきながら落下していく。

 

だがそれでも、サキエルが展開するアンチATフィールドの内側には日本が残っている。

 

ネルフ本部へと落ちてくるエヴァ達と、日本を覆うフィールドの外、太平洋に顕現した巨大な神。神への叛逆の道は絶たれ、このままではもはや日本も滅びを待つのみ。そんな状況を認識してしまったが故に、ネルフの職員達は絶句する。

 

だが、そんな絶望的な状況にあって、リツコだけは一切の希望を失っていなかった。

 

「エヴァ各機を回収してケイジに戻して頂戴。それから本部の防衛機能を最大に。衝撃に備えるわよ。電磁遮蔽装置も起動して頂戴」

「ですが、それでは外部の観測が……!」

「もはや戦況の観測に意味は無いわ。そうでしょミサト」

「……そうね。今防御に徹すれば生き残る目はあるかも知れない。みんな、リツコの指示通り、エヴァを回収し次第全速力で防衛システムを起動させて頂戴!」

 

作戦課長の承認を得て、実行されるリツコの指示。だがその真意は、ネルフの防衛では無い。

 

自ら目を閉ざしたネルフ、シェルターへと撤退する戦自。何者も、リツコの愛する存在を見る事は出来ないその状態で、唯一リツコは、目を閉じ下腹部へと意識を向ければ、我が子を通じて外の様子を伺う事が出来る。

 

舞台の準備は整った。

 

もはや誰もが知りえぬ戦場、気兼ねなく神が争う事のできる場。それを演出したリツコは彼女が愛する魔神の戦いを見届けるべく、1人瞑目するのだった。

 

 

* * * * * *

 

 

破壊の限りを星に及ぼす無我の巨神。その脅威に対し、取り残されたジェットアローンが奮闘するも、もはや巨神にとっては蚊に刺される際の損傷と近似できてしまうほどにその体格差は絶望的だった。

 

だがしかし。そんな巨神に対し、唯一同格以上の存在が、日本からふわりと飛翔した。

 

その身長は、エヴァ各機と同様の40m。白く輝くその肢体は、レイやカヲル、そして眼前の巨神と同じく、その存在が神である事を示している。

 

第三使徒サキエル、あるいは、魔王サマエル。そう呼称される無限の力を持つ存在は、巨神のアンチATフィールドをものともせず、ただひたすらに天へと飛翔する。

 

そしてその手には、2振りの槍。一方は、ロンギヌスのオリジナル。だがもう一方は、ロンギヌスとは異なる、所以の知れぬ謎の赤槍。

 

これこそが、サキエルがドグマで建造していた最終兵器。ロンギヌスを解析し、自らのコアを結晶化させて生み出した『アンチ・ロンギヌス』。

 

ロンギヌスの本質は生命の木(セフィロト)。その対となる邪悪の木(クリフォト)の具現化こそ、偽りにして叛逆の神槍、カシウスの槍である。

 

ロンギヌスとカシウス。相反する存在をその両手に収めるサキエルにとって、もはやアンチATフィールドなど恐るに足らず。

 

ロンギヌスの力はATフィールドの消滅。そしてそれに反するカシウスの力はATフィールドの創造。

 

無数の人間を学習し、無数のエゴを模倣したサキエルのコアを、無数に使用して作り上げた偽の槍は、巨神を切り裂いた瞬間にその体内の魂へと、再びATフィールドを与える『もう一つの神殺し』。

 

ロンギヌスの力が肉体と魂を切り離すのならば、カシウスは魂に肉体を与える。

 

そしてその双方の力を行使するサキエルは、巨神をカシウスで切り裂く事で神の魂からヒトの魂を削り出し、それをロンギヌスの力でガフの間へと還元する事で、巨神の肉体を駆け上がりながら、その力を急激に削ぎ落としていく。

 

補完計画によって融合し、完全であった筈の魂に刻まれた傷は見る間に広がりを見せ、巨神はその肉体のあちこちからLCLと魂を溢して力を失うばかり。

 

逆転の一手を打ってなお、上回ってくる怨敵を前に、巨神と化したゼーレは形振り構わず、巨体がその形を保ちうる間に攻撃を仕掛けていく。

 

だが星のほぼ全てを支配するその力を以てしてなお、サキエルが上回った。

 

投げつけられたオーストラリア大陸を荷電粒子砲で叩き割り、積層ATフィールドで粉々の砂にまで粉砕して、溶解液で原子まで分解。その合間にマグマを操りオーストラリア大陸をそれっぽく作り直して、凍結能力で冷やして固める。

 

そして原子まで分解されたオーストラリア大陸を重力制御で荷電粒子砲へと装填し、大陸一つ分のイオンで巨神の腹をブチ抜くその有り様は、大きさこそ27兆分の1でもその権能においては完全にサキエルが巨神を上回っている証左である。

 

だからこそ、サキエルは最後まで戦場に姿を現さなかった。自身の力を意のままに振るう行動は『人間に怯えられかねない』という点で不都合であり、その人間には神と化したチルドレンすらも含まれるのだ。

 

随分と重い腰ではあるが、サキエルの行動は終始彼のエゴによって行われるもの。星の如き魂を持つ巨神に対し、自己増殖を繰り返し、無数のエゴを積み重ねた銀河の如き魂を持つサキエル。その最大の違いは、『強大なエゴ』の有無である。

 

ATフィールドが生命のカタチを作るこの世界においては、自我が最も強い存在こそが、最強なのだ。

 

我思う、故に我有り。

 

自我の強さが勝敗を分けるこの世界において、融合の果てに個としての在り方を見失い無我の神に成り果てたゼーレには、元より勝ちの目など存在しなかったのである。

 

もはや、巨神の身体に宿る魂は完全なものではなくなり、その肉体はもはや無貌ではなく、醜怪な老人のものへと変貌していた。

 

神に至らんとしたゼーレの老人達。彼等が最後に晒したその姿は、彼等が魂すらも老いていた事を示しているのだろう。

 

その顔面に、ついに天まで駆けたサキエルが、両の手の槍を刺し穿つ。

 

オリジナルのロンギヌス、その対として生み出されたカシウス。その両者を突き立てられた事で、神の肉体の崩壊はいよいよ本格的になり、巨神に囚われていた魂は、リリスのガフの間、ひいてはその中にいるリツコ、更に言えばその胎内にいるサキエル本体へと流れ込む。

 

そして、巨神の頭部に突き立てた2本の槍を握り込み、一閃で天を衝く巨神を叩き切ったサキエルは、神から削り出した生物の魂をガフの間へと回帰させ、太平洋へ崩れ落ちていく神の遺骸からS2機関を回収すると、ロンギヌスとカシウスをディラックの海へと仕舞い込んで、途方に暮れた。

 

「これ僕が片付けるんだよね……」

 

散らかり倒した地球の惨状。とりあえず、自身の住居である日本は無事だが他は何もかもがなくなっており、海も思いっきりLCLと巨神の血の赤に染まっている。

 

そんな惨状を復興させる面倒臭さにしばらく思案していたサキエルは『しばらく日本でゆっくりしてから考えよう』という先送りな結論を出すと、戦いの為に構築した自身の肉体を、無数の細胞へとバラして、再び日本と同化させるのであった。


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