【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

104 / 107
神はまた言われた、「わたしは全地のおもてにある種をもつすべての草と、種のある実を結ぶすべての木とをあなたがたに与える。これはあなたがたの食物となるであろう。また地のすべての獣、空のすべての鳥、地を這うすべてのもの、すなわち命あるものには、食物としてすべての青草を与える」。そのようになった。

創世記 第1章 29-30節


Gen 1:29-30

最後の決戦と呼ぶべき戦いから数日。

 

使徒の襲来で毎日が非常事態だった日本には概ね『日本から出て行くのは嫌だ』という頑固な日本人しか住んでいなかったため、世界崩壊により外国籍の人間だけでなく割と日本人もガフの間に飲まれてしまっており、唯一人間の生活圏が維持されたとはいえ、日本においてもそれなりに悲嘆に暮れる者はいた。

 

サキエルは取り急ぎガフの間からヒトの魂を引き出そうとしたものの、量産機として死と再生を繰り返し続けていた魂の多くは自我を崩壊させており、呼び戻しは不可能に近い。

 

流石のサキエルも、数十億の発狂した人間を全員チマチマと元に戻すのは『面倒臭い』為、手間を掛けて復活させたのは数名に留まった。

 

具体的に言えば、アスカの家族だけである。実父と継母、そして腹違いの妹。

 

彼等には『ネルフの用事で偶々来日していた』という記憶を植え付けて復活させたものの、容態は芳しくなく現在も植物状態のままネルフの医療設備で入院中だ。

 

アスカがこまめにお見舞いをしているが目を覚ます様子は今のところなく、一度無我に返ってしまった魂の修復の困難さが窺える。

 

何しろ犬だろうが猫だろうがハエだろうがミジンコだろうがインフルエンザウイルスだろうが、全部一緒くたに魂が融合していたのだ。帰ってこれるような強靭な魂の持ち主はほぼ居ないと言っていい。

 

そして、居たら居たでインドの苦行僧だったりして解脱してしまうのだ。なかなか難しいものである。

 

故にサキエルは、人間達の魂を含めて、全ての生物の魂をもはや死んだものとして考え輪廻させることにした。

 

人間については、ガフの間を通常運行させるだけなので、魂の在庫過剰により授かり物が単に増える事になるだろう。先んじて母子に対する支援策を政府に捻じ込んでおけば、問題はない。

 

生まれる予定の人間達の魂は、せめてもの助力としてサキエルによる『補間』が施され、欠損が修復された状態で産まれられる。魂の強度が高めでシンクロ能力の少しある新人類として、元気に生きてくれることだろう。

 

まぁサキエルの見立てでは、寿命差の関係で人類は徐々に『リリン』に置き換わる筈だが、それは数万年規模の話。今考える意味はあまりない。

 

しばらくは普通の人類が住める環境の確保に向けて動かねばならないわけだ。

 

では人間についてはそれで良いとして、その他の生物は、というとこれがなかなかの難問だった。基本的に日本に生息していない生き物は全て絶滅したので、割とマジで『創造論』よろしく神の手による生命の創造をやるしかないのである。

 

そこで、サキエルは、いっそ好き勝手に新生物を作ることにした。

 

「バクテリアみたいに『僕』を散布して共生させれば、自由に生命エネルギーを付与できるし多少無茶しても楽勝だな……」

 

という、もし本物の神がいれば『雑ゥ!』とツッコミが入るだろう『生態系そのものをサキエルに依存させれば護身完成』という無茶苦茶をやらかす事を決めた彼は、日本から自身の分身を鳥の姿で飛び立たせると、雲の上をマッハで飛び回りつつサキエル細胞を広域散布し、ありとあらゆる環境の侵食を開始した。

 

流石にゼーレが健在な時にこんな事をすれば『サキエルVSメカサキエル』とでも言うべき厄介な事態が起きて居ただろう事は想像に難くなく、ある意味世界が滅んだが故に可能になった行為と言える。

 

そんなこんなを経て地上に満遍なくサキエルが行き渡った今日この日、サキエルは世界に新種を生み出した。

 

まず巨大なもので言えば体高4m、体重10トンのゾウ並みにデカい牛『ベヒモス』と、20mの巨大タチウオ『レヴィアタン』。

 

創造した理由はそのものズバリ『どっちも美味しいからいっぱい食べれると嬉しいよね』である。両者共にがっつり生態を『腸内に共生しているサキエル細胞に依存する』という形で設定しており見た目に反して非常に少食。

 

環境破壊を今更気にするでもなくこれらに『強靭な繁殖能力』まで付与して野に放ったサキエルは、一旦食欲から離れてまじめに考えた結果、とりあえずタンポポと自身の細胞を組み合わせた『ジャンボタンポポ』を生み出し、これを荒れ果てまくった大地に植えた。

 

タンポポは生命力の強い多年草で、根っ子が残っていれば容易に地上部が再生し、種を風に乗せて飛ばせるので繁殖力も強靭。そこにサキエル細胞を組み込めば、その強靭な生命力はさらに増幅されること請け合いだ。ついでにタンポポの種の特徴であるフワフワ綿毛部分に超強力な撥水性を付与し、雨で湿気って飛べない悲しい事態が起こらないように工夫しておく。

 

一応通常品種と区別できるよう、花の色は青。巨大に育つことも含めて識別は容易だろう。

 

とりあえず、草が生えていれば生態系というものはなんとかなる。だがそれだけでは寂しいので、サキエルは『常に果実が実りまくる』という『年中発情期仕様』なイチジクの木を作り出して、これまた適当に植えまくる。

 

実に雑な創世記だが、まぁ葉っぱと果物があれば、割と多様な生物は生きられるものだ。変に生き物を増やしてもアレだから、という理由で日本から持ち出されたバッタやらゴキブリやらは既に元気よくタンポポを齧っており、気合の入った個体が韓国経由で大陸にまで渡ったのか、アジアではイチジクの実をつつく鳥の姿もちらほらと存在している。

 

その他にもドブネズミやカエル、蚊、ミジンコにアオミドロなどを日本から持ち出して放流したりミシシッピ州があったあたりにミシシッピアカミミガメを持ち込んでみたり、天竺鼠だからと『出身が南アメリカなのに』インドにモルモットを放ったり、かなり雑に行動しているサキエルだが、まぁ生態系などというものは最初は適当でも勝手に進化して上手いこといくものである。

 

『意志が肉体を形成する』以上、進化を求める種は進化できるのが世の理。LCLの海からLCLが蒸発してLCLの雨が降るという随分と赤みの強い世界になった地球でも、生きようと思えば生き物は生きていけるのだ。

 

巨神の死骸は、神の遺骸であるが故に『腐らない』為、LCLが永続的に地球に垂れ流しになるのは確定しているし、今まで通りの生態系を望むのは不可能なのである。

 

故にサキエルは、図鑑を眺めつつ、次に生み出す生物を適当な気楽さで考えているのだ。

 

「……ダイオウイカは美味しくないけどクソデカいスルメイカを作れば美味しいのでは……名前はクラーケンでいいか……」

 

なお、眺めている図鑑が『食材図典』だったりするのだが、それに関してサキエルに突っ込むものは1人もいなかった。




聖書の神様も前書き通り食い物ばっかり作ってるし多少はね……?

いつも感想、評価などありがとうございます。大変励みになっております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。