【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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(●v●)ノシ


終わり良ければ全てよし。

世界が滅びの危機を越えてから数ヶ月。

 

この間に、アスカの家族はどうにか無事に目を覚まし、戦自がおっかなびっくり日本の外に調査に出て、巨大生物の楽園と化した国外の世界に日本国民が驚愕した。

 

だが今日は、リツコにとってそれら全ての情報より価値がある日である。

 

大きく張り出したリツコのお腹。大事をとって医療設備で入院していた彼女は、今朝破水し、現在分娩台で出産を行なっていた。

 

それを見守るスタッフは全てサキエルであり、彼女が産む『本体』の誕生を全力でサポートしている。

 

リツコは無痛分娩を選択しており、ネルフの優れた医療技術もあって一切の痛みなく、はっきりとした意識で分娩に臨んでいる。

 

加えて、会陰マッサージや膣拡張などの準備にリツコ以上にサキエルが熱心だったためか、初産にもかかわらず超安産で産まれてきたサキエル本体。

 

リツコの感覚とすれば、お腹が重く押されるような感覚に合わせて4、5回いきむとスポンと出てきた、とでも言うべき安産ぶりだ。

 

だが、それでも疲労はするし、力は抜ける。『本当に産んだのかしら?』という困惑と、『無事に産まれて良かった』という安堵が混ざった複雑な心境。産湯や臍の緒の処置を終え、後産で胞衣を排出したリツコは、そこでようやく「産声」を耳にした。

 

臍の緒の切断により酸素供給が途絶えてから肺呼吸に移行するまで随分と掛かったサキエル本体。その産声はリツコからすれば非常に可愛らしいもので、介添えの分体に抱かせて貰うと、優しくその胸元へと抱き寄せてやる。

 

乳を吸うその小さな生き物が無限に愛しく思えると同時に、愛する者を自身の胎で産み落としたという狂気的シチュエーションに溟い快楽を覚えるリツコ。

 

独占欲の強さで言えばネルフ随一なリツコにとって、妻と母という人生における最重要女性のポジションを押さえ、更に職場でも共に働いているというサキエルとの関係は究極的な満足と言ってもいい。

 

サキエル分体からシンクロによる治療を受け、肉体を回復させつつ、胸元の本体にたっぷりと母乳を与えるリツコは、今日この日世界で一番幸せだった。

 

 

* * * * * *

 

 

その一方で、世界の方は、ちょっとばかり凄い事になっていた。

 

神の誕生。既に産まれて来る以前からサキエル細胞という形で世界に干渉していたサキエルの本体が遂に産声を上げたその瞬間、全世界のサキエル細胞が活性化した事で、世界に異常事態の嵐が巻き起こったのだ。

 

純粋な生命エネルギーの拡散は、あらゆる花々を咲き誇らせ、動物を興奮させ、サキエル細胞を組み込まれた生き物は急成長し、都市や大地は光り輝く。

 

そして、世界の誰もが、ネルフのある方角から産声が響いたような幻聴を耳にし、『神が産まれたのだ』と悟った。

 

溢れ出す無限の生命エネルギーの余波は、病人を癒やし、怪我人も癒し、汚水を清め、寝たきりの老人に立ち上がる活力を与え、目の見えぬ者に視力を、耳の聞こえぬ者に聴力を与え、鬱に苛まれた脳をも癒す。

 

世界がほぼ全て滅んでしまい、暗いムードが漂っていた世間にとって、神の誕生とそれに伴う数多の『好ましい奇跡』は闇に差し込んだ光の如く明るいニュースとなり、まだ見ぬ『神』を信仰し始めるものまで現れる始末。

 

世界は神の誕生により新たな一歩を踏み出し、再び世界は『神代』へと回帰する。

 

 

 

————時に、西暦2015年。

 

 

 

襲来した15体の天使と、その影で暗躍した秘密結社による黙示録の具現化。

 

それら全てを乗り越えて、再誕を遂げた世界は、天使の座を堕とされ、ヒトに味方し『神』へと再臨した使徒サキエルによる支配を受け入れ、新たな時代を迎えた。

 

後に言う、『新世紀元年』。ヒトとシトに福音(エヴァンゲリオン)が齎され、ヒトが徐々にシトへと位階を上げる世界。

 

食物に溢れ、温泉が湧き、無限のエネルギーを得た人類は、ジェットアローンにより建造された天を衝くような巨塔に住まい、皆同じ言葉で話す。

 

バベルの如く栄えるその都市はしかしながら裁きを受けず、むしろ神はその行為を奨励し、人類は徐々に世界各地へと再び歩み始め、神の元に星を統一するに至った。

 

大小様々なジェットアローンの存在により人類は単純労働から解き放たれ、創造的な活動による娯楽と哲学に満ちた『古代ギリシア』の如き理想的な社会。

 

魂は神により繕われ、現人神たるチルドレンの子らはヒトを革新し、成長は無限に続く。

 

もはやヒトにとって死は遠く彼方へと逃げ去り、やがて生きるのに飽いた者だけがLCLと化して輪廻に還る事になる。

 

望むのならば、庭先で果実をもいで朝食とし、二度寝を満喫してからお昼にも果実を食べ、更に午睡を楽しんで、そのまま朝まで寝てしまうような自堕落な枯れ木の如き生活を100年続けようと誰も咎めない。

 

社会は無限の人口を許容し、その全てが『働かなくても』神により社会は回るのだ。

 

だが、人間とは不思議なもので、暇を与えていると勝手に『遊びを生み出す』。その結果、人類は娯楽の創出と学問の探究に腐心しサキエルの庇護のもと人類文化は絶頂の時を迎えた。

 

 

 

————そして。

 

 

————時に、新世紀2015年。

 

 

 

碇シンジと碇アスカは未だに仲睦まじく暮らし、『神祖』と自らを崇める無数の子孫に囲まれている。

 

真希波マリは世界を気ままに駆け回り、面白く進化した生き物などを持ち帰っては、シンジ達に見せびらかしたりけしかけたりと相変わらずの自由人。

 

渚カヲルは、ヒトの生み出す文化を満喫しており、神祖の1人と崇められつつも音楽番組のゲストなどで最もメディア露出が多い。

 

そして、綾波レイは未だ幼年期の終わる兆しは見えず、101人全員がサキエルと未だに同居している甘えん坊さんだ。彼女の存在が世の『働きたくないでござる』という人々の大義名分になっている為かチルドレンで最も信徒が多いのは、ちょっとした笑い話だ。

 

そして、リツコとサキエルもまた、シンジ・アスカ夫妻と同じく、仲睦まじく日々を過ごし続けている。

 

 

 

斯くして人類は、幼年期の終りを拒絶し、無限の幼年期を受容して、神の胸に抱かれ愛される赤児の如き在り方で、永遠に地球という揺り籠の中で愛でられるのであった。




105日間の長きにわたるお付き合い、誠に有難うございました。
皆様のおかげで、2013年の雪辱を果たせました。
感想、評価コメントなどのメッセージなど大変励みになりました。

重ね重ね、ありがとうございました。
またいずれお会いしましょう。





それはそれとして感想とか推薦とか評価は無限に欲しいぞ!(強欲な壺60枚デッキ)

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