わくわくゆうえんち
新世紀10年現在、世界最大の遊園地はどこか?
衛星放送のクイズ番組でそんな問いが流れれば、お茶の間の正答率はほぼ10割に達する程に、その遊園地は有名かつ巨大であった。
新横浜ネオコスモワールド。
地球神国日本州神奈川県に所在地を置き、神国首都第3新東京市に最も近いこの遊園地は、幾度もの天災を乗り越え、『なぜか』ネルフの支援をたっぷり受けて、超巨大化して復活した史上最大最強のテーマパークである。
海上の人工島に作られたその施設のサイズたるや、なんと総面積700平方kmの化け物サイズ。
『旧東京23区や琵琶湖や淡路島、対馬、十津川村よりも大きなテーマパーク』
という狂った売り文句が掲げられたこのテーマパーク、『雨の日でもパーク内はいつもお天気!』という名目のもと、直径30kmの半球ドーム構造を有しており、この規模でまさかの完全屋内型遊園地。
天候を気にすることなく、超強化ガラス——透明かつ屈折率1、反射率0.1のサキエル細胞——の天蓋から空を眺めることも可能、空調完備な施設で遊ぶというのは実に優雅なひとときであり、ネオコスモワールド全てを満喫するには1ヶ月は滞在する必要があるとされている。
そして、そんなネオコスモワールドの中心に聳える、地上高5kmというイカれた建物。ドーム内が一望できる代わりに最上部の階には『加圧設備』が付いているという『建物内に生命維持機構が必要な商業建築物』こそは、ネオコスモワールドホテル。
現在、そんなスーパーホテルの最上階のウルトラスイート20室を全て占拠しているのは、世界一有名な姉妹とその保護者であった。
「私はネオコスモクロックに乗りたい」
「
「直径400mだもの。ゴンドラがレストランになってるからお昼に乗りましょう」
「わかった。
「まずはスーパーダイビングコースターバニッシュ。海の中の水中トンネルに突っ込むらしいわ」
「怖そうね……私はシューティングライドがいいわ」
「『新エキドナの洞窟4D』と『ゼーレブレイカー4D』のどっち?」
「ゼーレブレイカー。マリ
「シンジ兄とレイ姉とカヲルも居るって」
「その3人はあんまり揺れないってネットに」
「おっぱいね……」
「揺れるの?」
「マリ姉はブルンブルンらしい」
「「それから乗るわ」」
そんな会話を繰り広げるのは、全員同じ顔の姉妹たち。
綾波レイの妹、綾波家の百つ子ちゃん10歳——肉体の成長的には15歳相当——が、全員で示し合わせてコスモワールド1ヶ月宿泊チケットをサキエルにおねだりした結果、こんなカオスが起きているのだ。
ネオコスモワールドは入場料は無料でパーク内の乗り物に料金が発生するタイプの遊園地。『ホテルの宿泊に関しては出してあげるけど乗り物は自分のお給金で乗りなさい』という甘いのか厳しいのかよく分からないサキエルの方針により乗り物代だけ自腹な楽しい1ヶ月を過ごす予定の彼女達は、『リリスの依代のクローンに人工的な魂を搭載した人造人間』という重い背景を気にも掛けず、人間としての日々を満喫しているのだった。
* * * * * *
一方。そんな100人の長姉たるレイは、シンジとアスカ、レリエル、そしてシンジとアスカの間に生まれた男女の双子ちゃんを連れて、同じくネオコスモワールドホテル内に居た。
「シンジ、アスカ、
「毎年ありがとうね、レイ」
「家族だもの」
「それでもよ。普通祝うのって銀婚式とかぐらいでしょ? これはもう、レイの時には盛大なご祝儀贈らなきゃよねぇ」
「無限にキャリーオーバーすると思う。私は独身が好きだもの。子供部屋おばさんを極めるわ」
「レリねぇ! はやくあそびにいこーよぉ!」
「ちょっと待て。パパとママとリリスがお話している。私がそこの自販機でアイスを買ってやろう」
「あいしゅ!? ケンはイチゴのやつがいい!」
「はいはい。ショウは何が良いんだ」
「チョコミント」
「渋いな。ミントだが大丈夫か?」
「好き」
「そうか。では買ってやろう」
シンジとアスカ、そしてレイ。24歳になった彼らとその子供たちは、レイの妹達とは別に、シンジとアスカの結婚記念日を祝うべくこのコスモワールドを訪れているのだ。
正確には1週間後なのだが、3人のネルフ勤務のシフトなども考慮した結果がこの日取りになったのである。
戦いの日々から10年。事実上の世界政府と化したネルフの業務は、基本的な行政を担うスーパーコンピューターMAGI、技術開発特化型の三貴神、インターネット監視マシンと化したクリフォトによる自動化が進んでおり、相変わらずの人数でも意外と回っている。
そんな中で、成人したチルドレンたちは技術二課に籍を置いて、人工進化研究に携わっていた。
現在の技術二課は具体的に言うと、サキエルが産み出そうとする『新種』の設計を担う部署であり、課長はリツコ。エヴァの運用とMAGIの管理を担う一課課長の職をマヤに譲ったリツコは『聖母』として祭り上げられてしまっている他は、いつも通りの研究者として、40歳を迎えてなお積極的に研究に取り組んでいる。
そんな彼女の下で働くチルドレンたちは、一応ちゃんと高卒検定を受けて大学も卒業しており、ネルフの採用試験にちゃんと合格した上で研究職になっているのである。
まあそもそも、超人揃いのチルドレン達。彼らの身体機能が人間を超えているのは知っての通りではあるが、演算能力についてもそれが言える、というわけだ。
「今日はシンジとアスカでデートしてほしい。私はレリエルと一緒に子供を見ておく」
「じゃあ早速お言葉に甘えるわ! いくわよシンジ!」
「ちょ、アスカ、胸が……!」
「シンジはそろそろ腕を組むのに慣れるべき」
「この感触に慣れられる男子は居ないって……」
「あら、じゃあ腕を組むのはやめようかしら?」
「ずっと組んでたいぐらいだから戸惑ってるんだよ……?」
「ふふふ、相変わらず可愛いわねシンジは」
父と同じ程度に背が伸び、誰もが認める長身の美青年になってなお、アスカに頭の上がらないシンジ。
その腕にギュッと抱きつくアスカは、幸せいっぱいと体現するかのような満面の笑みで彼の腕に身を預け、遊園地をエスコートされていく。
10年前に初々しいデートをしていた彼らは、相変わらず、周囲にアドバンテーム並みの甘さを振りまきながら、イチャイチャと遊園地を巡るのであった。
* * * * * *
そして。サキエルとリツコもまた、お忍びでこの遊園地へとやってきている。
人目を引くレイやその姉妹、アスカとシンジを同日に遊園地に誘導したのは、自分達のデートに視線が一極集中するのを避けたかったから、という裏事情がある2人は、しかしながら十分に目立ってしまっている。
何故なら、彼らは子供連れ。というよりサキエル自身も成長を早めたとは言えまだ15歳前後の中性的な少年の姿であり、正確には『お母さんと子供達』とでもいうべき光景だ。
だがその実情は、見た目とは大きく異なる。
サキエルの胎内に卵として宿っていた使徒達は、リツコの卵と融合された人工受精卵として『リツコによって』受胎され、終戦後5年で全員がこの世に生を受けた。
家系図を書くとヤバいことになる事が確定した赤木家について突っ込むものは既におらず、使徒のグレートマザーと化したリツコは、夫であり子であるサキエルに愛され、子であり孫である使徒達と幸せな日々を過ごしている。
リツコの胎からヒトとして生を受けたのは、サキエル(とイロウル)、シャムシエル、ラミエル、ガギエル、イスラフェル×5、サンダルフォン、マトリエル、サハクィエル、バルディエル、ゼルエル、アルミサエルの15(+1)体。
4年で10体の使徒の誕生を見届けて最後に自身も改めて懐胎されたアルミサエルを末っ子とするリツコの子供達は、その全てが前世同様かそれ以上の能力を持つ使徒だ。
サキエル以外は弱体化しているのでは? と思うかもしれないが、サキエルの14人の弟妹にして子の肉体は75%がリツコ由来とはいえ25%は神たるサキエル由来。事実上、ほぼ全使徒の合体個体が10体いるような状態なのだ。
今のリツコの周囲こそ、この世界で最も安全かつ物騒な場所と言っても過言ではないだろう。
だがしかし、『母』を囲む彼らには、物騒さはカケラも存在していない。
「サキエル、私はフリーフォールが気に入ったぞ」
「サハクィエルらしいな。君は相変わらず落ちるのが好きなのか……?」
「いやどうだろう。その理論が正しければサンダルフォンは溶岩に浸かるのが好き、シャムシエルはSMプレイが好きという事にになってしまうが」
「ん? 僕はまぁ、サウナと岩盤浴は好きだよ」
「なんという事だ、仮説が証明されてしまった」
「待て。私のSM趣味を聞くまでもない確定事項として扱うのはやめろ」
そんな会話を交わす可愛らしい少年たちは、兄のサキエル同様に中性的。サキエル含めて正確には『両性具有』な彼らは、思い思いに女の子と男の子の服をその日の気分で着ているので、サキエル含めて性別不詳の15人になってしまっている。
だが今日は遊園地という事で、リツコが『いざという時の識別の為』にレイシリーズも着ていたヒヨコの着ぐるみパジャマを着せており、サキエルも流れに乗ってニワトリの着ぐるみパジャマを着ているため、とりあえず大衆的には『可愛い女の子達』といった風に見える事だろう。
そんな彼らに手を引かれて遊園地を巡るリツコは、40歳どころか若返って20歳に見える程にイキイキとしており、幾人もの『神』の出産によりその身を『リリン』として覚醒させている。
故に、彼ら全員はうっすらと認識阻害のATフィールドを自ら纏っており、『神々御来園!』と大騒ぎになることは避けられているのである。
「りっちゃんは次は何に乗りたい?」
「貴方と一緒なら何でも」
「僕も同じだから困っちゃうなそれは。ゼルエルはどう思う?」
「さっきパンチングマシンの屋台があった。やりたい」
「……千葉県壊滅パンチは禁止ね」
「うん」
「じゃあ私の荷電粒子パンチなら?」
「ダメです」
「「「「「じゃあ私達の縮退パンチ」」」」」
「論外」
「つまりオレの伸びるパンチもダメか」
「んー……腕を増やさないならセーフかな……」
「バルディエルずるいぞ!」
「「「「「ずるい」」」」」
「えぇ!?」
そんな会話をかわしてはしゃぐ賑やかなヒヨコさんたちは、天使のような可愛らしさを振りまきながら、黄色い声をあげてぴょこぴょこと歩道を走り、ズベッと転んだマトリエルが「待ってぇ」と泣きっ面で後を追う。
そんな姿を微笑ましく思いつつも「危ないから走るんじゃない!」と叫んで全力の早歩きで後を追うサキエルと、彼の後からゆっくりとついていくリツコ。
神の一家とは思えぬほどにほのぼのとした彼らは、遊園地を満喫するのであった。
なお、パンチングマシン最強の座は素の身体能力でも最強だったゼルエルに軍配が上がったのは余談である。
活動報告に質問コーナー作ったのでよろしければそちらもご活用ください。