「ミサト、貴女いつまでそうしてモジモジしているつもり? ぶっつけ本番上等の作戦課長様はどこに行っちゃったのかしら?」
「んなこと言ったってぇ……」
「貴女が『心細い』っていうから日付を合わせてあげたのよ? これ以上の手助けは流石に出来ないわ。覚悟を決めなさいな」
「そうなんだけどぉ……」
「おぉい、葛城、りっちゃん、俺たちまだ入っちゃダメかい?」
「もういいわよリョウちゃん。埒が開かないから」
「ちょっちまってぇ!?」
そんなミサトのか細い叫びを無視するように開けられた扉。その向こうから現れたのは、純白のタキシードに身を包んだ加持リョウジと、『使徒仮面』の紋を入れた紋付き袴のルイス・秋江。
そして、それを迎え入れたリツコは黒無垢に身を包んで髪を結い、鏡台の前でヴェールに閉じこもるミサトは純白のウエディングドレスを身に纏っていた。
時に新世紀3年。ミサトと加持、リツコとサキエルはとうの昔に入籍しているものの、色々と落ち着いてきた事でようやく『合同披露宴』を行う運びとなったのである。
が、32歳になって子供の様に『恥ずかしいからイヤ』と駄々を捏ねているのが、加持・葛城両家の愛でたい日を迎えることになった新婦のミサトなのだった。
「いやぁ、2人とも綺麗だな。お姫様みたいだ」
「リョウちゃん、そこは『2人とも』じゃない方が良いわよ?」
「そうかい?」
「加持君にとって今日の主役は葛城さんであるべきだからね。僕のりっちゃんはいつも通り世界一可愛いとして、加持君にとっては葛城さんがそうだろう?」
「そりゃそうだ。……似合ってるから頭抱えてないでこっち向いてくれよ、ミサト」
「————ッ。……そうよね。私は今日主役なんだからエスコートしてもらうわよ加持!」
「お、その調子その調子。……さて、それじゃあ皆待ってるだろうし、そろそろ行こうか」
「ははは、加持君存外緊張してるね? ブライズメイドが迎えにきてくれる手筈だろう?」
「————そうだった。いやぁ、葛城のこと笑えないな俺も。……まぁ、似たもの夫婦って事で仲良く待とうぜ、葛城」
そんなセリフと共に差し出される加持の腕にそっと手を添えるミサトと、静々とルイスに寄り添うリツコ。洋風と和風のダブル披露宴は、あくまで披露宴。
神前での誓いやらはカットした2組の幸せ夫婦は、招待客の待つ宴会場に直行するスタイルを今回採用している。
そして今回のブライズメイドを務めるアスカ、レイ、マリのチルドレン3人娘が揃いのドレスに身を包んで控室を訪れば、間もなく式の始まりというわけだ。
「にゃっはー。いやぁ、綺麗だねぇお二人さん。今日ばかりはアスカ姫よりお姫様してるにゃあ」
「ええ。葛城一尉も赤木博士もお姫様みたい。とても綺麗」
「そうね。……あ、加持さんもルイスもばっちり決まってるわよ? でも今日はやっぱり女の子の晴れ舞台って感じよね」
異口同音にミサトとリツコを褒めそやす少女達。だがそんな軽口を叩きつつも、ちゃんとミサトのドレスの裾を捌き、ベールを掲げて歩行を補助する彼女達は、今日この日を楽しみにしていた者達の筆頭でもある。
そんな少女達に連れられた先の宴会場で司会を務めるのはシンジとカヲル。
着込んだ礼服もあっていつもより大人びて見える2人の少年。だが見た目だけで無く、そつなく司会を熟す様は、実際に彼らが『大人』になったのだと示している。
「では皆さま、新郎新婦の入場を是非盛大な拍手でお迎えください!」
そんなシンジの声と共に、万雷の拍手を以って迎えられた2組の夫婦は、彼らにとって最も良き日を実現すべく、夢の舞台に歩み出るのであった。
* * * * * *
ナイフがマゴロクエクスターミネートソードの複製だったり、ケーキの盛り付けに『スイカ』が使われていたりとなかなか愉快なケーキ入刀を済ませて、豪華なコース料理が賓客に振る舞われ始めてしばらく。
宴の場に必要不可欠と言っても良い『余興』のトップバッターを担ったのは、シンジのチェロ、カヲルのピアノ、青葉のギターを伴奏にマヤとルイがデュエットする『愛を込めて花束を』。
曲の後に行われた花束贈呈の際に感極まったマヤが涙ぐみ、釣られてリツコが涙ぐんでしまったのは、平時ではなかなか見られない一幕だったのは間違い無いだろう。
それに続くのは、作戦課の日向マコトが企画した、スタッフからのビデオメッセージ。
仕事中の凛々しいミサトの姿や、真剣な表情でコーヒー片手に黙々と書類を捌く加持の姿。そして実験中のクールなリツコの振る舞いや、チルドレンと1対5の格闘訓練を熟すルイスの姿を編集しつつ、部下からのメッセージを込めた力作は、随分と見応えのある内容だった。
そして、続いて行われたのは新郎新婦への祝辞。
それを務めるのは、少しばかり意外な人物『達』であった。
「————葛城博士に連れられて、ちょっと不機嫌そうに歩いていたミサトちゃん。ナオコ先輩の後をついて歩いていたシャイなりっちゃん。2人が今日、こうして幸せな花嫁姿を見せてくれているのはなんだか夢の様で、エヴァの中から活躍を見ていた私達としても、子供時代の2人を知る私達としても、とても感慨深く思います」
などとスピーチをしているのは、ミサトやリツコと同年代にしか見えない2人の女性。
————碇ユイと惣流・キョウコ・ツェッペリン。
エヴァ初号機からゲンドウ共々サルベージされた2人の天才博士達が祝辞を述べているのである。
まぁたしかに、ゼーレに深く関わっていたユイは少女時代のミサトやリツコを当然知っているし、キョウコも同様だ。
色々気まずいらしいゲンドウはこの場に居ないものの、彼女達が祝辞を述べるのは一応筋の上では間違ってはいない。
だがそうは言っても、ちょっとした浦島太郎になっているせいでキョウコとユイが幼少のミサトやリツコを語るのはシュールな絵面というしかなかった。
そんな、ちょっとカオスながらも楽しい披露宴の後。
2組のカップルがそれぞれハネムーンへと旅立った事でしばしネルフから課長職が不在となった事で、ネルフの内部は少々いつもと異なる空気感となったのは、余談とするべきだろう。