【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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同じ釜の飯を食う

「さて、お鍋はこれでよし。キノコだけは火が通るまで食べちゃダメだよ? 他は基本的に野菜だから好きなタイミングで良いけれど。あ、2人とも育ち盛りなんだからお豆腐と湯葉はたくさん食べるように」

「う、うん。……使徒って料理出来るんだ……」

「まあ、料理番組を幾つか参考にね。水炊きであれば失敗率もほぼないし」

「……美味しい。ポカポカする」

「出汁の隠し味におろし生姜を少し入れたからね。シンジ君も食べれば?」

「あ、うん。……いただきます」

 

ボロボロな綾波家。サキエルがホームセンターで買ったちゃぶ台を囲んで鍋をつつくシンジとレイは、少しの緊張感に包まれている。

 

シンジの場合、それは概ねミサトのせい。

 

『スーパーで綾波と出逢って夕飯をご一緒することになった』とサキエルに入れ知恵された通りに連絡を入れた返答が『お泊まりは良いけど避妊はしっかりね!』だったのだ。揶揄われていると理解していても、意識してしまうのは仕方がない。

 

一方でレイの場合は、今日一日で起こった様々な出来事による部分が大きい。

 

健康で文化的な最低限度の生活が急に舞い込んできた事で、彼女は早くも人間性を少しばかり獲得しつつあったのだ。

 

そしてサキエルはといえば、そんな2人を眺めつついそいそと鍋奉行をしていた。

 

————生物の心が緩むのは、睡眠時と満腹時と相場が決まっている。であれば、たらふく食べさせて寝かしつけてから精神干渉するのが1番効率的だ。

 

そんな打算から、餌付けを行なっているのである。ちなみにコンロも無いのに鍋が煮えているのは、サキエルがIHクッキングヒーターの代理を務めているからだ。

 

ラミエルもまさか、自分の電撃能力が誘導加熱調理器具として使われるとは思っていなかっただろう。

 

そんな常識外れな食卓にもかかわらず、シンジとレイが平然としているのは、エヴァンゲリオンという超常存在に搭乗している経験からだろう。

 

有り体にいえば、常識感覚が麻痺しているのだ。

 

だが、レイに限っていえば、使徒よりも初めての鍋料理に関する興味の方が大きいというのもあるかもしれない。

 

「レイちゃん結構がっつり食べるね? その食欲でどうやって今まで栄養剤で我慢してたの……?」

「美味しくないもの」

「ああ、腹一杯食べるなんてゴメンだ、的な方向だったのか……」

「え。綾波、栄養剤だけ食べてたの……?」

「赤木博士が『これで1日分の栄養は補給できるわ』って言ってたわ」

「い、言いそうだね……」

「碇君は? 葛城一尉と暮らしてるんでしょう?」

「あー、うん。……ミサトさん、家事壊滅してるから、僕が冷凍食品とか適当に……」

「凍らせて食べるの?」

「保存の為に凍結させておいて、食べる時に温める食品のことだよレイちゃん。……それにしても、シンジくんは自炊してるのか、偉いね」

 

そう言って、サキエルはシンジの頭をヨシヨシと撫でる。と同時に指に絡んだ『抜け毛』を吸収して、シンジの遺伝情報をしれっと入手。

 

レイの毛髪は既に入手済みなので、サキエルが『仮説』を立証するための材料は揃った事になる。

 

であれば、今晩の夢の中でそれを証明するのみだ。

 

 

* * * * * *

 

 

シンジにとって、誰かと鍋を囲むという経験は初めてのことでは無い。ミサトと食べたことがある。

 

なのに何故、こんなに新鮮な気持ちで、こんなに楽しいのだろう。

 

そう考えて、初めに思いついたのは『美人2人と食卓を囲んでいるから』というもの。だが、ミサトだってなかなかの美人だし、胸も大きい。

 

中学生男子特有の元気すぎる肉体からか、家では隙の多いミサトのせいで『前屈み』になったことも何度かある。

 

————では、それとは何が違うのか?

 

そう考えているうちに、サキエルの手によってシンジの茶碗にバランスよく具材がよそわれたことで、シンジはその原因に思い至った。

 

————これはきっと誰かに、食事の世話をしてもらっているからだ。

 

手料理を食べるなど、幼少の頃、母親がまだ健在だった頃以来。11年も前のことで、もうサッパリ思い出せないが、ただ、記憶に微かに残る温かみは、今この場に漂う雰囲気と良く似ていた。

 

「ちょっとレイちゃん、湯葉1人で食べ尽くす気?」

「碇君は箸が止まっているもの」

「シンジ君、良いのかい? ……おーい、シンジくーん?」

「えっ、あ。うん。綾波が食べたいなら良いよ」

「ありがとう、碇君」

 

そう告げてモグモグと湯葉を食べているレイ。随分と綺麗に箸を使うその姿は、普段の物静かな印象からは程遠い。

 

だがおそらくそれは、物静かというよりは、

『何を喋るべきかわからない』が故の寡黙だったのであろう。

 

無邪気とも言える今のレイ。その在り方は、何故かシンジの心を温かくしてくれる。その所以は何なのだろうか?

 

そんな事を考えてまた箸が止まってしまうシンジと、今度は白菜を標的に定めて黙々とモグモグしているレイ。

 

決して不快では無い優しい沈黙。その中で考え続けていたシンジは、考えても何も思い浮かばないままに、諦めて鍋に手をつけつつ不完全燃焼の疑問を溢してしまう。

 

「綾波って、なんというか、放って置けないというか、守ってあげたくなる感じだよね」

「な、何を言うのよ……」

「え、あ、いやごめん……口に出ちゃって……」

 

そんなイチャイチャとしたやり取りをする2人に対し、サキエルはシンジの思考を読み取った上で、爆弾発言を投下する。

 

「まぁ、レイちゃんはシンジ君の妹だし、シンジ君がそう感じるのも無理はないよね。あ、シメなんだけど雑炊で良い?」

「あ、うん。雑炊で…………ん? え?」

「……私が、碇君の、妹?」

 

呆然とするシンジとレイ。その様子からサキエルは会話の主導権を掌握した事を確信し、自分に都合の良い案を提示する。

 

「まぁ込み入った話になるし、壁に耳あり障子に目ありとも言う。……一応ATフィールドで防音してるけどね。だから詳しい事は食後に3人でシンクロして話そうと思うんだ。どうかな?」

 

その案を、2人が了承したのは言うまでもなかった。

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