【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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ぬめこ様よりサキエルアバターの挿絵をいただきました!
https://img.syosetu.org/img/user/146878/72926.png

エロい(確信)


一攫千金

シンジの綾波家へのお泊まり……とそれに付随するシンジやレイにとっては随分と恥ずかしい記憶から数日。

 

あの日以降サキエルはレイの家に住み着いており、シンジも合間を見てレイの家を訪れる事が多くなった。

 

だが、サキエルは相変わらず、自身の存在をATフィールドや特殊能力を駆使して隠蔽している。

 

流石にもうカメラ破壊はしていないが、インターネット上で膨大な知識を蓄積したサキエルは、監視カメラ内の画像処理エンジンに干渉し、監視画像を書き換える方向で自身の存在を隠蔽しているので、よりタチが悪い。もちろん、『居ないはずの人間に話しかける人物』の映像から存在を察知されるなどという凡ミスもなく、周辺込みでガッツリと改竄を加えている。

 

故に大手を振って往来を行くサキエルは、今日も今日とて、第3新東京市の調査と情報収集に余念がない。

 

故にこそ、彼はそのニュースが少しばかり気にかかった。

 

『国連軍太平洋艦隊、来月観艦式の為、相模湾に寄港予定』

『日本重化学工業共同体、今月末に新兵器の公開プレゼンテーションを実施予定』

 

前者は、明らかにネルフ関連だろう。わざわざN2をぶち込んだ傷跡の残る相模湾で観艦式をする理由がわからない。大方、軍事物資の引き渡しといったところか。

 

で、後者だが、これがなかなか興味深い。工業系の業界紙が報じているだけだが、ヒト型決戦兵器だというのである。

 

エヴァでは無い決戦兵器。実に気になる。ここはひとつ、日本重化学工業共同体の発表に潜り込めないか?

 

そう考えてからの、サキエルの行動は早かった。彼の冷徹な脳細胞が導き出した最適解は、資金調達。ビッグなプロジェクトに必要なのはビッグな資金と相場が決まっている。

 

故にまずは、戸籍を調達するところから。あの手この手でネルフの情報を引き出そうと第3新東京市のデータベースに侵入を試み続けていたサキエルからすれば、日本政府の戸籍データベースへの侵入はそう難しいものでもなかった。

 

ちょっと厚木に飛んで、市庁舎に何食わぬ顔で侵入し、データベースにダイレクトハックしてデータを改竄したのである。ついでに一通りの個人証明書類を市庁舎の機械で発行してしまえば、IDもバッチリなイギリス系日本人『ルイス・秋江』の完成だ。

 

セカンドインパクトでお亡くなりになられた顔も知らぬ秋江さんの息子として戸籍を捻じ込んだので、背後関係を疑われることもまず無い。独特な髪色と美形の顔も『西洋の血を引いているんです』で万事解決である。

 

で、このルイス君の名義を使って次に実施するのは、銀行口座の作成、過去に遡っての納税記録の偽造、その他諸々のあらゆる手口での『元々口座があった事にする』というとんでもないイカサマである。

 

至って当然なことではあるのだが、今や銀行口座というのは電子管理である。故にこそ、口座のデータ自体を書き換えられれば、それに気づくのは至難の業だ。

 

そして、サキエルは入念な事にただ口座を作るのではなく、その取引記録さえも偽造して、『一切怪しくない、預金が百万円ちょっとある個人口座』を作り上げたのである。ちなみに手法としては、全国の塩漬け口座からそれっぽい名称で引き出した数千円を色々経由させて振り込んだ事にしてある。

 

この改竄に気付くには、MAGIを持ち出してくる必要があるだろうが、そのMAGIはサキエル本体と情報戦を行いつつネルフの運営もやりつつ、第3新東京市の市政も行うという大忙しの状態。他所のサーバーにちょっかいをかけている暇は無い筈だ。

 

かくして無事に、先程まで存在しなかった7年前から存在するはずの口座から幾らかの現金を引き出したサキエルは、続いて川崎に移動。引き出した10万円で『誰が見ても不人気で無謀』な3連単の馬券を大量購入し、ついでに牛丼を買って競馬観戦と洒落込んだ。

 

まぁ、ATフィールドによる馬への強制シンクロでレースを完全に掌握したので、文字通り出来レースだったのは言うまでもない。大荒れにも程があるレース展開に、馬券が多数空を舞い、泣き崩れるおじさん達が多数生まれたが、サキエルはほくほく顔で万馬券を換金し、一瞬にして大金持ちへと変貌した。何しろ倍率が倍率。14番人気→13番人気→12番人気の3連単という狂気の沙汰が的中した大穴故の28万倍というエグい倍率もそうだが、賭け金が10万なのも凄まじい。一瞬で280億稼いだ事になるのだから。

 

これは同時に、それ以上の額がパァになっていることを示しており、競馬場が阿鼻叫喚の地獄絵図になるのも致し方ない状況であるといえよう。

 

そしてこの資金を元に、サキエルは個人投資家として資産運用を開始。全世界のニュースを高速で処理していれば、株式デイトレードで資金を増やすのはそう難しいことでは無い。それが常人には不可能であることを除けば完璧なトレード方法と言えるだろう。

 

そして、一気に膨らませた資産を元手にしたサキエルことルイス・秋江は、札束で日本重化学工業共同体に加盟している中規模企業をブン殴り、無事に新兵器お披露目会への切符を手にしたのであった。

 

もちろん、会場に潜入するだけならここまでする必要はない。だがサキエルが求めたのは、人間社会の上での地位だ。会場への参加という目的のついでに、サクッと地盤固めを行ったのである。

 

————そしてその大胆な行動は、ある意味でネルフに対する挑発行為。ルイス・秋江などという露骨に『サキエル』をもじった名前と、異常に急激な資産増加がネルフの目に留まらぬ筈はない。

 

絶対に、確実に、何らかのコンタクトは発生するだろう。……その人物が、エヴァとは別口のヒト型決戦兵器の開発に手を伸ばしているのであれば尚更だ。

 

故に、会場に出席すれば、ネルフからのコンタクトと、新兵器の解析で2度美味しい。というのがサキエルの計画であった。

 

だがもちろん、お金持ちになった理由は他にもある。

 

「レイちゃん、流石にあの部屋じゃあ女の子が暮らすにはアレだしね。シンジ君のいるコンフォート17に引越し申請してみたら? 家具とかはほら、僕が手配するからさ」

「……赤木博士に相談してみる」

「シンジ君と彼の保護者のミサトさん? にも協力して貰えば良いんじゃ無いかな」

「葛城一尉に?」

「うん。話を聞く限り、割と適当というか、勢いで行動しそうだからね。その上、どちらかといえば善人。多分良いように動いてくれると思うよ」

 

そんな入れ知恵をレイにする際にサキエルが浮かべた酷く優しげな微笑みは、ネルフという組織から見れば、さぞかし邪悪に映った事だろう。

 

チルドレンの精神のみならず、その周囲にすら根を張り始めた第3使徒。その暗躍は、止まるところを知らないのであった。


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