【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

21 / 107
人をみて法を説け

「手荒な真似で失礼。御同行願えますかね、ルイス・秋江さん? ああ、手は上げなくて結構。目立ちますからね」

 

波乱のJAお披露目会がどうにか終了し、時田代表の誘いもあって日本重化学工業共同体の打ち上げ会に参加した後の事。

 

夜道を行くサキエルは背中に硬く冷たい鋼鉄を突きつけられていた。

 

無論、たとえそれが50口径の馬鹿げた拳銃であったとしてもサキエルの柔肌に傷を残す事すら叶わないだろう。だが、そもそも『怪しい組織からの刺客』を待ち望んでいたサキエルとしては抵抗する理由もない。

 

かくして、非常にあっさりと後ろ手に手錠をはめられ、頭に袋を被せられて拉致されたサキエルは、黒塗りの高級車で神奈川県郊外の廃ビルに連れ込まれたのであった。

 

 

* * * * * *

 

 

「小汚い部屋ですみませんね」

 

そう告げた先には、パイプ椅子に縛り付けられた男。華奢な男前で、歳の頃は精々20といったところだろう。

 

ルイス・秋江。そう名乗る目の前の男に対する接触ミッションが課された際には、この様な手荒な真似をする予定はなかったのだ。

 

だが、腕利きのエージェントである『加持リョウジ』がそんな手を選ばざるを得ない様な『言いようの無い凄み』がこの秋江という男にはあった。

 

戸籍、口座、その他あらゆる過去がデータの上にしか無く、『紙媒体』の様なアナログな記録が一切存在していない謎の男。突如として財界に現れ、異常な才覚で見る間に資産を増やした『究極の成金』。

 

にもかかわらず今日のパーティーでは多岐に亘る工業知識を披露し、JA暴走時には残された通信回線からJAのシステムをハッキングしてみせた万能の男。

 

内調? CIA? MI6? はたまたモサド?

 

あらゆる情報機関の諜報員を疑ったものの、むしろ『何なんだアイツ』と思っていたのはその全機関だったというケチがついた謎の存在。

 

————それらの情報を一言で表すならば、『怪人』というべきだろう。

 

そして、現実に対面した本人は予想通り、いや予想以上の『怪人』だった。

 

「小汚いで済むのかなぁこれは。普通は廃墟って言うと思うんだけど。……これが小汚いで済むってなると……内閣情報調査室って相当貧乏なのかい?」

「ははは、全くです」

「ああ、ネルフの方から出してもらうとか、それかゼーレから引っ張るとかどうかな? 加持くんがセーフハウスに必要だって言えば3つのうちどれかはお小遣いくれると思うよ?」

「……たはは、参ったなこりゃあ」

 

完全なる身バレ。余裕があるように苦笑して見せては居るが、加持の背中には脂汗が滲む。いつ、どこで、どうやって入手したのかわからないままに、自分の素性が丸裸にされてしまったのだから当然だ。

 

————その答えは、当然ながらATフィールド干渉による記憶の覗き見だ。情報ソースは加持リョウジ本人なのである。

 

そして、加持の心の動揺に付け込んでより深い記憶に手をつけた秋江ことサキエルは、いつもの『酷く優しげな微笑み』を浮かべて、加持リョウジに提案する。

 

「3つも4つも変わらない。そうは思わないかな、加持くん」

「手駒に成れと?」

「セカンドインパクトの真実を知りたいんだろう? 僕なら大抵は答えられると思うんだけどね」

「……アンタ、一体……?」

「僕はサキエル。第3使徒サキエル。ネルフに()所属している君なら、この名前の意味がわかるだろう?」

「使徒……? いや、使徒は芦ノ湖に住み着いて……待てよ、まさか……」

「分裂ぐらい何と言うことはないんだよ、僕にとってはさ。……こうして人間の世界で暮らすなら、人間の身体の方が便利っていうのはわかるよね?」

 

そう言って、何事も無いかのようにロープと手錠を紙のように引きちぎったサキエルは、逃走しようとした加持の行く手をATフィールドで阻み、ゆっくりと余裕をもって、彼の両肩に手を掛けた。

 

「ま、そういうわけで、僕は人間の社会を勉強中でね。ついては色々と教えてくれる人材を求めているわけなんだ。……どうかな加持くん。僕は払いも良いし、君の知りたい話も知っているし、悪くない上司になれると思うんだけれど」

 

にこやかにそう告げるサキエルの笑みはどこまでも優しく、その一方で加持の肩を掴むその手の力はあり得ないほどに強固。

 

ATフィールドで逃げ場は断たれ、頼みの綱の拳銃は、どうにも効きそうに無い。

 

どう考えても抗えず、そして同時に『加持からすれば断る理由が無い』のが、サキエルからの提案だ。

 

だが、それはあくまで、その発言が真実であれば、という前提での話になるのだが。提案者であるサキエル自身が、その点に気づいて居ない筈はなかった。

 

「セカンドインパクトの原因は、第1使徒アダムに対して第2使徒リリスの裔たるヒトの遺伝子を注入した事だ。生命の果実の根源たるアダムと、知恵の果実のカケラを持つヒト。その接触は、生命と知恵の実による究極生物の誕生を一瞬とは言え成し遂げた。だが、ヒトの不完全な魂では完全生物には至らず、暴走したアダムの生命エネルギーが爆発。南極大陸を消滅させ、全世界の沿岸部を未曾有の大津波が襲った————その後については、君の方が詳しいだろうね。……と、まぁ、スカウトついでのお土産話なんだけど、お気に召したかな?」

 

世間話のようにそう述べたサキエル。その発言内容は、加持リョウジという男にとっては劇薬だ。

 

セカンドインパクトの真実を知りたい。たったそれだけの思いでネルフにゼーレ、そして内調のトリプルフェイスにまで至った加持。彼にとって何よりも重要な『答え』を知る天使を前に、加持は生唾を飲むことしかできない。

 

「加持くん。今僕が言った事を調べて、納得できたら、第3新東京市のコンフォート17までおいで。君の彼女の2つ下の階、綾波レイの部屋に僕は居候しているから。その時に、僕の味方になるかどうかを教えてくれたら————」

「————いや、秋江さん。いやサキエル。俺は、アンタにつく事にしますよ。……これでも、自分なりに色々調べてるんでね。今の話の裏取りになりそうなネタは、頭の中に沢山あるんです。……しっかし。————これで俺も人類の敵になっちゃうのかな?」

「いやあ、国連軍虐殺の件を突かれると無い胸が痛むね。当時はまだ下等な思考能力しかなかったもんで」

 

そう言って苦笑しあうサキエルと加持。暗闘と暗躍を得意とする策略家同士の邂逅は手数の差からサキエルの勝利となり、加持リョウジという男を引き入れた事で、天使はその残酷さを一層増す事になるのだった。

 




感想とファンアートが無限に欲しいです(強欲な壺並感)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。