「何だ!? 何が起こった!?」
「5時の方向より巨大物体が急速に接近中! 規模不明!」
「水中衝撃波を確認! なんだこの規模!? 何かが爆発したとしか!」
「艦長! Yak-38改が一機無許可で発艦しました! 搭乗者は加持リョウジッ! 特務権限による接収書類は既に新横須賀基地に提出済みだそうですが、どうしますか!?」
「クソッ、捨ておけ! 書類を出すだけマシなんだろうさ! しかしこれは一体何事だ!? ビキニ環礁からはずいぶん離れてるハズなんだがな!」
「艦長ッ! これは使徒の襲撃です! エヴァ出撃の許可を!」
「葛城君! 君に本艦および艦隊への指揮権はない! 本艦が輸送中であるエヴァの出撃についても同様だ! 加えてこの攻撃が————」
使徒によるものとは限らない。
その言葉を艦長が言い終わるより先に、水平線の向こうから巨大な津波が押し寄せ、巨大な水の壁の向こうで、巨大な魚影がトビウオの如く跳躍した。
「ほらやっぱり使徒ッ————てデカすぎィ!?!!?」
「で、出鱈目だ————ッ!?!!?」
ネルフの指揮官と歴戦の海の男をして、そう言わざるを得ない、超巨大生命体。
海上に飛び上がったその巨体は、どう見ても尾鰭込みで『
体長3km、体重200メガトン。
史上最大最強の生物が、太平洋艦隊を打ち倒すべく、その顎門を広げて宙を舞う。
押し寄せる大津波と大海獣を前に、波に揺られる
————その、ハズだった。
「艦長ッ! オセロウより入電!」
「オセロウ? ————ああそうか、パイロットの子供はあの艦に移っていたな! 脱出であれば許可すると伝えてくれ!」
子供を巻き添えに死ぬ気は無い。そう暗に告げた艦長に対し、入電を受けた通信士は否定を返す。
「いいえ、艦長、これは————エヴァ弐号機、パイロット3名搭乗の上で起動中!」
「何ィ!?」
「何ですってェ!?」
* * * * * *
「いやぁすまないね、僕まで乗せてもらって。僕は最悪、泳げばどうにでもなるんだが……」
そう言ってハハハと苦笑するのは、弐号機のエントリープラグ内に転がり込んだサキエルだ。
衝撃に反応して格納庫をこじ開けたアスカたちが見たものは、水平線から迫る巨大な津波と巨大な使徒。慌ててサキエルを回収して、現在に至ると言うわけである。
「泳げばって、無理に決まってんでしょ津波よ!? このままだったら船ごと沈んじゃうでしょーが!」
「いや、アスカ。今起動しても船ごと沈んじゃうのは変わらないんじゃ……」
「船伝いに飛んでいってニミッツ級の電源が使えればワンチャンスくらい有るわよ!」
「アスカ落ち着いて。それだとエヴァに蹴られた船が沈むわ」
「レイの言う通りだと思う。……それにさっきから内部電源で起動してたから活動時間もあと999時間しか————えっ、999時間?」
先程見た時は1分前後だったような、と思うシンジに対し、答えたのはサキエルだ。
「ああ、流石にタダ乗りもアレだしね。電源くらいはまあ手伝うさ」
「サキエル、後でバレない?」
「んー。とりあえずプラグ内の余計な記録装置は入ると同時に停止させたから、エヴァの暴走と言い張ればどうにでもなるかな」
「まぁ今は電源があるなら良いわ! それでサキエル、あの津波どうすんのよ!」
「ATフィールドで防ぐしかないかな」
「足場は!?」
「ATフィールドで水を拒絶すれば理論上エヴァは海面に立てるはず」
「全部ATフィールドじゃない!?」
「大体の事はATフィールドを操れればどうにでもなるからこそ、僕たち使徒は準完全生物なんだよ?」
「それはそうかもしれないけどもっと何かあるでしょう!」
「アスカ、言ってる場合じゃないよ! 津波! 津波来てる!」
「割とアンタも時間喰ってんのよバカシンジ!」
「ごめん!」
「アスカ、私達も手伝うから」
「ちくしょぉぉッ! ああもうッ! やってやろうじゃんッ! エヴァ弐号機! 発進ッ!」
突然の使徒襲来に対し、混乱していたプラグ内の3人。しかし兎にも角にも迎撃する他ないと腹を括ったアスカの操縦で、エヴァ弐号機は極力船を壊さぬようにATフィールドを構築しながら海面へと降り立った。
艦隊を守るかのように津波に向かって走るその姿は英雄的であり、無意味と知りつつも回避行動をとっていた各艦の乗組員たちも、思わずその姿を目で追ってしまう。
無理もない。巨大怪獣に立ち向かう真っ赤な巨大ロボットという絵面はあまりにもヒーロー的。欧米人の多い国連軍クルーだが、ヒーローというのは万国共通の概念だ。軍に志願するような連中なら、一度は憧れるほどに。
そして、事実として、赤いエヴァ弐号機とそのパイロット達は、ヒーローとしてのスーパーパワーを持ち合わせていた。
「ATフィールドォッ!」
「全ッ!」
「開ッ!」
聳え立つ、可視化された光の壁。太平洋艦隊を庇うように展開された巨大なATフィールドは、パイロット3人とエヴァの完璧なシンクロによる激烈なエネルギーが可視化したもの。打ち寄せる莫大な海水を受け止めてみせるその出力は只事ではない。
だが、セカンドインパクトを彷彿とさせるその大海嘯を前に、エヴァ弐号機は「艦隊を守る」事を強いられる。
それをいち早く察知したのは、歴戦の海の男だった。
「クソッ、我々が邪魔になるとは……!艦隊各艦に通達! 空母各艦は艦載機を全機発進! 日本まで飛ばせ! 魚雷及び弾薬は緊急投棄! 少しでも船体を軽くして速力を稼げ! 機関室! エンジンを爆発させても構わん! 全力で戦域を離脱せよ! ————繰り返す! 我々は足手纏いだ! 可能な限り全力で戦域を脱出せよ!」
「ちょっと艦長!? アスカ達は————」
「回収は不可能だ! だが彼らだけならば戦える! 我々さえいなければ! そうだろう葛城一尉!」
「————ッ! 艦長ッ!」
「なんだ葛城一尉!」
「撤退前にエヴァンゲリオン弐号機に『出撃命令』を!」
「何を————いや、そうか。……太平洋艦隊司令官としてエヴァ弐号機に出撃を命じる! ……命の恩人を軍命違反にする訳にはいかんからな」
「ご理解に、感謝します……」
武器弾薬を投げ捨てながらの全速前進。空母の巨体でありながら35ノットに迫るその全力の逃走はしかし、戦いの規模を考えればあまりにも遅々とした速度に感じてしまう。
それでも太平洋艦隊の海の男達は、全力で『ヒーローの邪魔にならぬよう』逃げる他ない。
————無力な一般人にとって、ヒーローにできる事は『邪魔をしない事』ぐらいなのだから。
* * * * * *
————では、力持つものならば?
「芦ノ湖湖底に高エネルギー反応! パターン青! 第3使徒です!!!」