【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

29 / 107
要望が多かったので、本日は裏公演(R18)を別作品として投稿しております。
読みたく無いに投票した方はスルーで全く問題ないです。
(内容が無いよう(激うまギャグ)なので)


毬栗も内から割れる

エヴァンゲリオンパイロットのメンタルバランスは至って良好。エヴァンゲリオン内の母親ないし姉との対話も順調であり、暴走のリスクは非常に低くなっている。

 

シンジとレイのみならず、アスカについてもサキエルへの依存は日増しに強くなっており、現在の懐柔戦略が決して間違っていないのだと証明する結果が得られた。

 

計画は順調。サキエルはこのままじっくりと腰を据え、補完計画と使徒襲来の妨害に備えるだけである。

 

その為に打てる手は、どんどん打って行く、というのがサキエルの方針だが、相変わらず使徒襲来のタイミングは謎。

 

故に、直近のやるべきことは、チルドレンに対する懐柔工作に終始していた。

 

何しろサキエルの掲げる目標は大きく、『チルドレンをサキエル抜きでは生きられない身体にする』ことだ。

 

手を打っても打っても、過剰ということはないのである。

 

 

* * * * * *

 

 

————惣流・アスカ・ラングレーにとって、エヴァンゲリオンとは自己表現の手段であり、生き甲斐であり、それしか縋るものの無い最後の砦であった。

 

ドイツ支部を発ち、太平洋上にて真のシンクロを知るまでは。

 

だが、今は違う。彼女にとってエヴァンゲリオンは母の魂を宿す機体であり、自身の庇護者だ。

 

そして、同時に、彼女にとってエヴァンゲリオンは、唯一の希望ではなくなった。

 

心を通わせあったレイとシンジ。それを為して見せた使徒サキエル。エントリープラグの中でも外でも、『家族』を得たアスカは、自身の好調を自覚しており、それがメンタルの安定故であると理解出来ていた。

 

何しろ、アスカは今初めて『子供を満喫』出来ているのである。背伸びし続けてきた人生から解き放たれ、地に足をつけた等身大の自分で居られる環境は酷く快適。そして何より、生まれて初めて、『甘えられる』相手が出来た。

 

飛びつけば優しく受け止め抱き締めてくれる。遊びに付き合い、食事の要望を叶え、勉強を教えてくれる。

 

ああ、『親』とはこういった存在なのだろう。

 

父親と継母がドイツに居るのにそう思ってしまうのは、アスカが『ネグレクト』を受けて育ってきたが故なのかもしれない。甚振られたわけではないが、放置され続けた幼少期。その空白を埋めるかのように今、全力で保護者たる『サキエル』に甘えるアスカは、今日も今日とて、甘えている。

 

「サキエル、デートしない?」

「デート? 構わないが、どういう意味のデートなのか聞いても?」

「そりゃあ、女の子らしく扱ってエスコートしてって意味よ」

「また随分と急だね? シンジ君じゃダメなのかい?」

「シンジは弟みたいなモンだし、デートするとなったらアタシがエスコートする羽目になる気しかしないもん」

「あー……アスカちゃんが姉でシンジ君が弟というのはしっくりくるね。……まぁ、なるほど。君の要望は概ね理解した。さてそれじゃあ、準備もあるし30分後に玄関前集合で良いかな?」

 

そう言って優しく微笑むサキエルは、アスカの頭を軽く撫でてから、廊下奥の納戸——半畳しか無いサキエルの私物置き場——に向かうと、テキパキと着替えを済ませ、シンジやレイに出かける旨の連絡と埋め合わせの約束などを交わしてから、玄関の外に向かってしまう。

 

それらをサキエルはものの2、3分で済ませてしまったのだから、30分後に、というのはアスカの為の時間だというのは明白だった。

 

だからこそ、アスカはサキエルが玄関から出ると同時に自分の部屋に駆け込むと、クローゼットと睨めっこして服を選び、洗面所で髪を梳り、お気に入りのリップクリームを塗って、よそ行き用の少しヒールのついた靴を履いてから、部屋を出る。

 

その先に待つサキエルは、男装姿のイケメンモード。待っている間にやったのか、髪を軽く編み込んで後ろでまとめ、細めのストライプが入った紺のドレスシャツに銀灰色のジレとスラックスを着こなし、差し色としてワインレッドの二列穴ベルトとネクタイを締めたサキエルは、実に格好の良い『大人の男』としての雰囲気を出している。

 

ちょっと顔の良さも相まってホスト感が出てしまっているが、その顔に浮かべた柔らかな笑みは、服装の少しオラついた印象を中和して『遊び心のある大人』程度に思わせてしまうのだから、美形というのは得である。

 

そして、そんなサキエルとのデートに臨むアスカの格好は、青いリボンのカンカン帽に白いノースリーブのワンピースというシンプルながら清楚な魅力のある格好。足元のウェッジサンダルのヒールは高めで、『今日はエスコートしてね』という意図を窺わせる。

 

それを瞬時に理解したサキエルがそっと腕を差し出せば、アスカは嬉しそうにサキエルの腕に自分の腕を組ませる。

 

————そこにあるのは、決して恋愛感情ではない。

 

アスカが抱える感情は前述の通りの『甘え』。喩えるならば、『大好きな兄と出かける妹』だろうか。あるいは父と娘でも良いだろう。

 

アスカが期待するのは包容力であり、頼り甲斐であり、父性。だがそれは、人間の男性にとっては非常に困難な要求だ。

 

何しろアスカはとびきりの美少女。そんな彼女に腕を組まれれば、どんな男でも下卑た性欲が脳裏をよぎってしまう。

 

もちろん、アスカが求めるのが恋人なら、その性欲も恋のフレーバーとなりうるだろう。だが、『頼れるお兄ちゃん』を求めていたら性欲が返ってきた、というのは恐怖でしかない。

 

その点において、サキエルは満点だった。どこまでも優しいその視線には一切の性欲の色はなく、敏感な乙女の勘も、サキエル相手では警報を発しない。

 

それでいて、『サキエルにとってアスカは眼中にない』というわけでもないのだ。

 

「待った? サキエル」

「ああ。一日千秋の思いでね。アスカちゃん、そのワンピース新しくおろしたての奴だろう? 良く似合っているよ。君の黄金色の髪が白地に良く映える」

「口説いてる?」

「褒めてる」

 

少し芝居がかったやりとり。それは『アスカのイメージするクールな大人の男性のぼんやりしたイメージ』をサキエルが読み取り、その理想を叶えるべく演技をしているが故だが、アスカからみれば理想の顕現にしか感じられない。

 

なんだかんだ、彼女もまだ14歳。大人という生き物が図体の大きくなった子供なのだという事実には気付かずに、大人になれば素敵な何かになれるのだと思い描くお年頃なのだ。

 

「さて、レディを歩かせるのもなんだし、今日は車で行こうか」

「どこ行くの?」

「映画なんていかがかな?」

「その後は?」

「ゲームセンターにでも寄ってから食事して、カラオケ行ったあとボウリングかな」

「何それ、子供っぽい」

「じゃあボウリングが終わったら、大人なお店に連れて行ってあげよう」

「変な店じゃないわよね?」

「新横須賀の夜景が見えるフレンチ」

「! 行く!」

「じゃあ決まりだね」

 

アスカの履き物を考慮して移動の少ないプランを選択。かつ、アクティブなアスカに合わせて『絶対に靴を履き替えるので足元が安心』な娯楽スポーツであるボウリングをプランに組み込み、最後にはアスカのイメージする『大人のデート』の要素としてお高めのレストランをチョイス。お昼は午後から運動することも考慮して、喫茶店で軽く済ませる計画だ。

 

そして、そのデートを支えるのは、サキエルがルイス・秋江名義で購入した愛車の『ミツオカ・ビュート』だ。エメラルドグリーンの可愛らしい車だが、外装と内装をハンドメイドで仕上げた通好みのクルマである。

 

クラシカルでちょっとメルヘンなその外観は、サキエルが『男としても女としても振る舞う』が故。どちらの性別であっても良く似合う様に、というちょっとしたこだわりの結果がこの車なのだ。

 

そして、アスカはこの『普通とは違う』クルマが気に入っていた。『特別』に固執する生活とは離別したアスカだが、『特別』を好む性格まで失ったわけではない。

 

どこに乗って行っても『可愛らしく自己主張』するこの車は、アスカのお眼鏡にかなったというわけだ。

 

そんな車に乗り込んで、街に繰り出したサキエルとアスカは、プラン通りのデートに少々のアドリブ——アスカの希望でブティックや雑貨屋に寄り道——を加えつつも充実した1日を過ごすことになったのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。