【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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縁あれば千里

アスカのデートの際にサキエルが行った埋め合わせの約束。

 

それに対して、最も子供っぽく分かりやすい要望を伝えたのが、レイであった。

 

『丸一日美味しいものを食い倒れる』という、ヒトというより『全生物、それが嫌な奴は居ない』とでも言うべきその最強企画。

 

そんなレイの要望通り朝食の時点で開始する為、本日はサキエルとレイは朝からお出かけで、シンジとアスカは仲良くお留守番である。

 

「朝ごはんはたこ焼き。ここのお店が7時から開いてる」

「リサーチが念入りだねレイちゃん……」

 

食事の楽しみに目覚めて以降、腹ペコキャラになりつつあるレイ。しっかりと食事で栄養を摂る事でアスカ共々発育が目覚ましいが、アスカもレイも割と食べるのにさっぱり太る様子はない。

 

おそらく、エヴァパイロット故の人間としては強固なATフィールドが『理想の自分』を魂の器として形成しているのが原因なのだろう。ただ、食べた分の栄養が消滅するはずもなく、アスカは胸元、レイはお尻の肉が増加気味であった。

 

ちなみにシンジ君の方だが、普通に成長期なので背が伸びる方向にエネルギーが使われており、サキエルと出会った頃と比べれば既に5cmも背が伸びている。父親のゲンドウは180cmを越える長身なので、シンジも最終的にはかなり背が伸びる事だろう。

 

その成長ぶりの割にヒゲが生える気配が全く無いのは、ヒゲに良いイメージが無い影響だろうか。サキエルの見立てではシンジのATフィールドが最も強固な節があるので、彼の理想の自分にはヒゲが一切ないのかもしれない。

 

閑話休題。

 

さて、そんなわけで食いしん坊と化しているレイだが、今日の装いは白と青のボーダー長袖Tシャツに若草色のサロペットを合わせて、同じく若草色のキャスケットを被ったお出かけスタイルだ。全体的にゆるっとした服をチョイスした動機は、おそらくお腹が膨れるまで食べようという無意識の影響なのだろう。

 

一方でサキエルは童貞を殺す服、もといコルセットスカートにブラウスと言ったガーリーな装いだ。食べたものを即座にエネルギー変換できるが故にお腹の締め付けは特に気にしていない。

 

そんな2人が並んで歩く姿は美人姉妹という印象が強い。第3新東京を離れ新横浜市に繰り出した事もあって2人の姿は衆目を集めており、若い男性諸君の視線が無遠慮に突き刺さっている。

 

が、レイもサキエルもそんな視線を気にする性格ではないので、全てを無視してたこ焼き屋に直行。無事に朝食にありつく事ができていた。

 

「外はカリッと、中はトロッとして美味しい。タコも大きい」

「ご機嫌だねレイちゃん」

 

美味しいものは大体好きだがどちらかといえば和食好き、肉や魚は嫌いだが、海老タコ蟹イカと出汁は好き。あとついでに言えばソースが好きで最近はサッポロポテトのバーベQ味ばかり食べている。

 

そんなレイにとってはソースと出汁とが絡み合い、タコも入っているたこ焼きはお気に召したのだろう。

 

サキエルも摂食し、味覚による分析を行なっているが、なるほど確かになかなかの美味。

 

たこ焼き器でも買って自作も考えるべきかと思案しつつ、たこ焼きを焼いている大将に軽いシンクロを仕掛けてレシピと焼き加減を盗み取る。

 

……この道ウン十年の技術をサクッと模倣される大将からすれば堪ったものではないだろうが、流石にサキエルもレシピを言いふらすような非情な真似はしない。ただちょっと私的に使うだけである。

 

先日購入したギターに関してはそういったズルは行っていないが、科学のエッセンスの一つである『調理』に関しては、工程を完全模倣するのが最も効率的なのだ。秤量し、混合し、反応熱を調整する。それらの作業に求められるのは究極的な正確性なのである。

 

もっとも、ただこれだけでは家庭料理の最高難易度である『毎日美味しいお味噌汁』には到達できないのだが。……何故かシンジ君は作れるので、やはり知恵の実を持たぬサキエルには難しい部分もあるのだろう。————今日はアスカが疲れてそうだから鰹出汁とお豆腐とオクラでちょっとお味噌濃いめに、などという微妙な調整はサキエルには非常に困難なのである。

 

閑話休題。

 

さて、たこ焼きを食したレイとサキエルだが、彼らが次にやってきたのは、本場台湾仕込みの『タピオカミルクティー』専門店。セカンドインパクト以前の第一次タピオカブーム、セカンドインパクト後の復興の中で起きた第二次タピオカブームのうち後者に由来する黒糖タピオカが楽しめるお店である。

 

「写真映えが良いし、アスカちゃんが好きそうだね。……うん、甘くて美味しい」

「……帰りにもう一度よって、お土産にする」

「良いと思うよ」

 

そんな事を言いつつ、飲み物片手に新横浜で食べ歩くレイとサキエル。

 

そんな彼女達を見つめる視線の中に、ふと『性欲』が含まれない物を察知したサキエルは、その視線の主である少年少女の3人組に目を向けた。

 

「随分驚いた表情だが……レイちゃん、知り合いかい?」

「……ええ。委員長と……クラスメイトの人」

「や、やっぱり綾波さんなの!?」

「……ワシらはクラスメイトの人かいな」

「仕方ないさトウジ。俺たち綾波さんと話したこと無いわけだし。席も遠かったしな」

「……ああ、なるほど、レイちゃんのクラスメイト達か。学校は無期限休校と聞いていたけれど……」

「……えっと。綾波さんの……お姉さんですか?」

「ああ、ごめんなさい。僕は従姉妹の秋江と言います。今日はレイちゃんと食べ歩きに。……いつもレイちゃんがお世話になっていたみたいで」

「いえいえ! ……綾波さん、学校では1人で居たけど、今は楽しそうで安心しました。……あ! 私、洞木ヒカリっていいます! こっちが鈴原トウジで、こっちが相田ケンスケ」

「なんや、いいんちょ、エラい仕切るなぁ……」

「……美人姉妹を前にして緊張してるんだろ」

「……確かに凄い美人やけど」

「ははは、照れるね。……3人はどうして此処に?」

「私達、纏めて疎開で新横浜の方に移ったんです。それで、今日は遊びに」

「ワシとケンスケが遊びに行く言うたら見張りや言うて来ただけやろ……毎度毎度、いいんちょはワシのオカンか」

「……トウジ、お前……察してやれよ流石に」

「洞木さんは鈴原君の事が好きなのね」

「何ぃ!?」

「ちょっと綾波さん!?!!?」

「……綾波は別の意味で察してやれよ……でもまぁ、良い薬か?」

 

そう言って苦笑いするケンスケと、2人揃って顔を赤くするトウジとヒカリ。そんな中で、ケンスケは興味深そうにレイに話しかけた。

 

「にしても、素の綾波ってそんな感じなんだな」

「どんな感じ?」

「学校じゃ人付き合い悪そうだったけど、普通に話せる奴なんだなって」

「色々あった。シンジとかアスカとか」

「いや、誰だよそれ……」

「……友達? ……家族?」

「……なるほど。友人を得て心境が変わったって事か。……なぁ綾波、それってエヴ————」

 

そう言い掛けたケンスケに対し、サキエルはぐいっと顔を寄せると、ケンスケの唇に人差し指を当てて囁いた。

 

「街中でその話題はよくないよ、ケンスケ君。そこの電柱の影、あそこでワンカップを飲んでるホームレスはネルフ保安部の変装だからね」

「……ごめんなさい」

「で、さっき君が聞きたかった内容だが答えはYESだ。とりあえず、今はそれで知識欲を満足させてくれないかな? ……ああそうだ、君達さえ良ければお茶でもどうかな? レイちゃんもクラスメイトと久々に再会したわけだし、ただこのまま別れるというのもアレだろうからね」

 

ウインクしつつそう提案するサキエルに、顔を赤くしながら頷くケンスケと、未だ機能停止中のトウジとヒカリ。

 

彼らに優しく微笑み掛けつつ、レイにもお茶の許可を取り付けるサキエルの中では、一つのデータが参照されていた。

 

————マルドゥック機関に選抜された、エヴァンゲリオンパイロット候補生。

 

その中に該当する、洞木ヒカリ、鈴原トウジ、相田ケンスケと出会えたのならば、ぜひとも唾をつけておきたいと考えるのは当然のことだろう。

 

だがもちろん、レイとの約束を反故にするわけでは無い。サキエルが指定した『お茶』の席はホテルの高級モーニングビュッフェ。美食をご所望のレイはもちろんこれを了承した。

 

トウジとヒカリの方はドギマギしつつも、どうにか『聞かなかったことにする』という微妙な選択を選んで心の平静を取り戻したようで、お茶の奢りに対しては無邪気に喜んだ。

 

特にヒカリはオシャレなお店には憧れるお年頃。良識のある子なので口では遠慮しているものの、ATフィールドは『とても行きたい』と主張していたので、軽く押せばあっさりと同意した。

 

かくして、サキエルは『仕組まれた子供達』との知己を得るべく、彼らを連れてホテルに向かうのであった。


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