【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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私事ですが昨日は第4回P1グランプリ供養祭に「クトゥルフじゃん」で走っていました。第3回本戦の「触手式邪神パンジャン」共々よければ見てみてね♡


獅子の子落とし

「特訓するわよ!」

 

敗退した日の夜。無事回収された後に、ネルフの自動販売機コーナーで気炎をあげるのはアスカ。

 

ボッコボコにブン殴られまくったのが効いたようでアスカはとてもお冠なのだ。

 

意外にも、それに同調しているのはシンジ。彼の場合は、袋叩きにされた恨みというよりは『アスカの前でカッコ悪い事になってしまった』というのが大きいのだろう。スーパーパワーボムを受けて頭から地面にめり込んだ初号機は、どう見ても『犬神家の一族』だったのだから。

 

その一方で、訓練の必要性には同意しているものの熱くなってはいないのがレイだ。

 

もちろん活動停止まで追い込まれたのを何とも思っていないわけでは無いが、基本的には彼女は淡白な性格なのである。

 

「アスカ、シンジ、特訓って、何するの?」

「……うーん。ミサトさんに相談?」

「そうね……ミサトは一応アレでもネルフでは珍しく軍人としてガッチリ訓練を積んでるし……」

「じゃあ葛城一尉に連絡————」

 

「あら? 呼んだ?」

「ミサト! ちょうど良いとこに!」

「僕達、特訓が必要じゃ無いかなって、アスカが」

「あらそうなの? 気が合うわね。アタシ達もちょうど特訓用のスペシャルメニューを考えてたとこなの」

「……葛城一尉『達』?」

「そ。アタシはシンジくん達をその件で迎えに来たってわけ。じゃ、善は急げね! ついてきて頂戴!」

 

————心が折れてないどころか、立ち向かおうとするなんて、シンジ君も随分強くなっちゃってまぁ。……アスカさまさまね、これは。

 

そんな内心は笑みとなって溢れ、ミサトは足取りも軽くチルドレン3人を引率する。

 

その先にあるのは、ネルフが格闘訓練用に用意している一室だ。床や壁は特殊ウレタンフォーム入りのキャンバス材で覆われており、怪我のリスクを低減し、利用者が全力で戦えるように配慮されている。

 

そんな場所でチルドレン3人を待ち受けていたのは、タンクトップにホットパンツという随分ラフな格好をしたルイスことサキエルだ。

 

「やあ、3人とも。今日は残念な結果になったね」

「……うん」

「ま、そうね。言い訳はしないわ。ギタギタにされて負けたのよ、アタシ達。だから特訓ってわけ」

「……ルイスが相手? 格闘訓練?」

「レイちゃんの言う通りだね。とりあえず、まずは僕を相手に格闘訓練をしてもらおう。大丈夫、本気で叩きのめすけれど、後に残るような事にはならないさ」

「……ルイス、今『後に残らなければ何やっても良いよね』ってニュアンスじゃなかった?」

「シンジ君は賢いなあ。今日の夕飯はシンジ君が好きな天ぷらにしてあげよう」

「……アタシ達に食べれる元気が残ってればね」

 

剣呑な光を宿したアスカの瞳。その青い輝きが、突如深く沈み込んで、疾駆する。

 

低姿勢からのタックル。なるほど、きちんとドイツで訓練を受けたアスカらしい基本を押さえた攻め方だ。だが、サキエルは慌てず騒がず、その側頭部に膝蹴りをブチ込んでアスカを床に這いつくばらせると、何事もなかったかのように解説を続行する。

 

「今回の使徒は格闘戦に長けている。今のように、常識的で堅実な手で攻めても迎撃されるのは必至。————そこで、3人には喧嘩殺法を学んでもらおうと思う。この短期間で格闘技を無理に習っても付け焼き刃だ。それなら、野生の本能のままに暴力を振るう方が強い」

 

そんなことを言いつつ、頭を押さえて転げ回るアスカを抱え起こしつつ、瞬間的にその肉体を構成するATフィールドに干渉したサキエルは、内部的な蹴りのダメージの一切を治療しつつも、皮膚の痛覚だけはそのままに残す。

 

「女の子の顔蹴るとかマジィ……?」

「アスカ、その、大丈夫……?」

「めっちゃ痛いわ。でもめっちゃ痛いだけよ。……シンジ、レイ。とりあえず今はルイスをブッ飛ばすわよ。使徒だと思って闘いなさいよね!」

「了解」

 

————いや、思えも何も使徒じゃない?

 

そうシンジが考えるうちに、レイが果敢にサキエルに突進するが、突進の勢いそのままにフランケンシュタイナーで首投げを食らってマットに叩きつけられ痛みに転げ回る。

 

それを見ていたシンジに対し、サキエルは挑発する様に手招きをする。だが喧嘩しろと言われても、シンジは喧嘩などしたこともない。

 

しかし。シンジが悩む中、ふと何かがシンジの心に触れた。

 

————エヴァ? ……父さん?

 

現在シンジがいるのはネルフ本部内。エヴァ側からシンクロを試みるのなら十分に射程圏内だ。

 

だが、何故?

 

そう考える間もなく、シンジの身体はサキエルへと襲いかかった。

 

正面からの突撃。それを胴回し回転蹴りで迎撃するサキエルに対し、シンジは急激なステップバックで回避すると、即座にステップインで切り返して蹴りを外したサキエルに組み付き————そのまま首に噛みついた。

 

一般人において最強の攻撃技である噛み付き。それを躊躇なく選択したシンジに誰もが驚いたが、一番驚いたのは、当然そんなことをやらかしたシンジ。

 

押し倒され首に喰らいつかれているサキエルよりも驚いているのだから、その驚きたるや凄まじいものがある。

 

「きゃー♡ シンジくん大胆♡」

「ふむ。確かに葛城一尉の言う通り、大胆に押し倒されて首筋に舌を這わされているようにも見えなくは……」

「へ!? え!? うわぁ!」

「バカシンジ! なんでマウント取ってるのに離れちゃうのよ!」

「だって! なんかルイスが変なこと言うから!」

 

そう言って慌てるシンジ。無理もない。今の動きは完全に、シンジの予想外だったからだ。

 

慌てるシンジをサポートするかのように、まだシンジに乗られているサキエルの頭を、レイがサッカボールキックで蹴り飛ばす。

 

どうもフランケンシュタイナーが痛かったのか、その蹴りには明確な殺意が乗っていた。

 

だがしかし、そんな一撃を喰らいながらも強引に筋力で飛び起きたサキエルは、シンジを吹き飛ばすと手近にいたレイを背負い投げで倒れるシンジに叩きつける。

 

そんな彼の背後にアスカがドロップキックをぶち込んで隙を作らなければ、シンジもレイも2人まとめて完全にノックアウトされていたことは想像に難くない。

 

「シンジ! レイ! 立てる!?」

「な、なんとか」

「立てる。……シンジ、大丈夫?」

 

ヨロヨロと起き上がる彼らと、ドロップキックのインパクトを利用してサキエルから距離を取ったアスカ。3人が示し合わせたように行ったタックルは、サキエルを見事に捩じ伏せ、倒れるサキエルにアスカは膝を入れまくる。

 

レイもシンジを見習ったのか噛み付き攻撃を敢行しており、シンジはサキエルの腕を曲がってはいけない方向に曲げようとしていた。

 

だが、サキエルは先程同様に力技で身体にしがみつくチルドレンごと起き上がると、全力で回転して3人を遠心力で投げ飛ばしてしまう。

 

だが次第に連携の感覚を覚えたチルドレンは、めげずにサキエルに対してあらゆる手を駆使して襲いかかり、3対1の『喧嘩』が延々と繰り広げられていく。

 

無論それはサキエルが治療ついでにATフィールドへの干渉でシンジ達の闘争心を刺激しているからに他ならない。本来、レイは人を噛めるような女の子でもないし、アスカも優しい子なので倒れる人間の頭に膝をブチ込みまくる殺人拳の使い手ではない。

 

だが、シンジの身体に染み込んでいく『喧嘩殺法』に関しては妙に『人間を叩きのめす』事への慣れが伺える。おそらくそれは、エヴァを経由して伝えられた、ゲンドウの経験なのだろう。

 

「ぜぁッ!」

「眼球狙いの一本貫手とは殺意が高いなあシンジくんは。でも良い事だ。敵に抗うのならば殺意は研ぎ澄ませねばならない」

「ちぇすとぉッ!」

「アスカちゃんも足技が冴えるね。弐号機もスタイルが良いし、そのまま蹴り主体で戦って見ても良いかもしれない。手技は牽制に使ってキックをブチ込む的なイメージだ」

「えい」

「レイちゃんは……うん。元気は認めよう。でも武器使った方が向いてるかもね。ステゴロタイマンってタイプじゃないのは知ってたけど」

 

そんなやり取りと共にシンジ達にカウンターを決めて行くサキエル。その凄まじい格闘センスは、ルイス・秋江として活動している『金策&工作+暗躍担当』が仕事の合間を縫って総合格闘技の観戦や古流武術の見学に勤しんでいたが故だ。

 

そう、たこ焼き同様の『術理まるパクリ』である。でなければ、サキエルに格闘センスなどがあるはずがない。何しろ本来の彼は人間と身体構造が違うのだから。

 

だが、借り物でも力は力。チルドレン達の闘争本能を掻き立て、それに晒されたとしても捌く事が可能なその力を用いて、サキエルはチルドレン達の『喧嘩慣れ』を促進するべく、彼らをギタギタに——内部にはダメージが残らないように——叩きのめすのだ。

 

敵はきっと、手加減などしてくれないのだから。

 

「ハイパーボッ!」

「ぴぎっ!?」

「シンジぃ!?」

 

……まぁサキエルも、治せるからこそ手加減はしないわけなのだが。

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