【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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つうといえばかあ

数時間の訓練を経て、時刻は21時。

 

遅めの夕食として約束通り天ぷらを食べるチルドレン達は、サキエルが敢えて残した『皮膚の打撲』に湿布を貼った状態ではあるものの、

 

「まだあちこちジンジンする……」

「ごめんねシンジ君。……しかし、特訓に痛みは付きものだ。完全に回復させては、自分のダメージを軽視した戦いになってしまうし、痛みに怯んでしまう」

「サキエルの言う通りよシンジ。アタシもドイツじゃ教官にボッコボコにされてたもの。あの時アタシまだ12歳だってのに!」

「……もっと頑張らなきゃなあ」

「天ぷら美味しい」

「……レイは自由よね」

「後半一番恐ろしかったのはレイちゃんだけどね」

「ミサトさんの座ってたパイプ椅子奪って凶器攻撃してたからねレイ……」

「レイがヒールレスラータイプとは思わなかったわね……」

「……? 硬いもので殴れば死ぬもの」

「真理だね。まぁ、後でネルフが弁償はするから、ビルでもなんでも使って攻撃するというのは正しいスタイルじゃないかな。レイちゃんは素手は苦手みたいだし」

 

そんな物騒なことを言いつつも、揚げたて天ぷらに舌鼓を打つチルドレン達。さしあたって今日は戦闘訓練のみとなったが、明日からの六日間は、葛城ミサト、加持リョウジ、赤木リツコ、ルイス・秋江によるスペシャルメニューの特訓が待っている。

 

今日のメニューでもずいぶん疲労したのだ。英気を養う為にも、シンジ達にはこの夕食の時間で反省会を行いつつも、ストレスの解消を行ってもらう必要があった。

 

故にサキエルとしても、彼らのケアを兼ねて食事面には拘っている。

 

「あ、この海老天美味しい……」

「テラオボタンエビの天ぷらだよ」

「ボタンエビって高級品なんじゃ……」

「まぁシンジ君達に頑張って欲しいなと思ってね」

「じゃあサキエル、明日はハンバーグね!」

「私はラーメンが良い」

「わかったわかった。僕が腕によりを掛けて作るとしよう。ところでレイちゃんは何ラーメンが食べたいの?」

「家系豚骨ラーメンチャーシュー抜き太麺ほうれん草山盛り紅生姜追加焼き海苔増量煮卵3つトッピングメンマ追加セット半炒飯肉抜きで」

「レイ、なにそれ呪文?」

「……レイ、豚骨はイケるの? 肉の汁だけど」

「出汁は大丈夫」

「そうなんだ……サキエルは作れそう?」

「善処はしよう。……レイちゃんがどこでラーメンのこだわりを覚えたのかは非常に気になるが」

「……秘密よ」

「いや、なんでよ」

「なんとなく?」

「……つくづく不思議ちゃんよね、レイは」

 

そう言って肩を竦めるアスカと、苦笑するシンジ。しっかりもののアスカ、優しいシンジ、天然気味なレイ。共同生活をする内に姉弟や兄妹のようになってきた彼らの関係性は、互いに心を重ねているが故。

 

そして、その心の重ね合いを鍛えるのが、翌日の、加持リョウジ考案の特訓であった。

 

 

* * * * * *

 

 

そして、翌日。加持リョウジと葛城ミサトは、ネルフの研究棟にある、実験室と併設された監視室の中にいた。

 

「ねぇ加持? アタシ、チルドレンの訓練見に来てるのよね? 超能力者育成プロジェクトとかじゃなくて」

「おいおい、葛城、何言ってるんだよ」

「……そうね、ごめんなさい。ちゃんと意味があっての訓練————」

「いや、超能力者育成プロジェクトに決まってるだろ、どう見ても」

「————よし、殴るわ」

「おいおい落ち着け、無意味とは言ってないだろ? まぁ見てなって。俺だって死ぬのはゴメンだ。真面目な訓練だよこれは」

 

そう告げる彼の視線の先にあるのは、監視カメラの画面。そこに映るのは、ノートパソコンが置かれた個人ブースに閉じ込められているチルドレン達。

 

彼らは現在。パソコンを前にウンウンと唸っていた。

 

アスカの前に表示されている画面には、お風呂上がりのシンジが、ボクサーブリーフ姿で肩にバスタオルを掛けて水を飲んでいる写真。

 

シンジの前には、水着姿のアスカがビーチで日光浴をしている写真。

 

レイの前には、幸せそうにたこ焼きを頬張っているレイの写真。

 

そして、彼らの前にあるのは、シンプルな問題が書かれた回答用紙。

 

『他の2人が見ているものと、それを見て感じている内容を可能な限り詳細に説明せよ』

 

そう書かれたそれは、なるほど確かに、どう見てもミサトのいう『超能力者育成プロジェクト』であった。

 

ちなみにシンジとアスカは、パソコンを見た直後に、表示画像を保存して自分のスマホ宛にメールで転送しているが、なぜか普通に使えるメーラーといい、表示画像といい、『誰かの意図』が透けて見えている。

 

「加持、アンタは訓練がしたいのかシンちゃんとアスカをくっ付けたいのかどっちかに絞ったほうがいいと思うわ」

「一石二鳥って言葉は嫌いかな? ……っと、どうやらレイちゃんが書き始めたぞ」

「……当たるのかしら?」

 

・シンジが見ているもの

赤と白の縞々の下着を着たアスカ。砂場に居る。

 

・シンジが感じていること

アスカが可愛い。海に遊びに行きたい。……海のイメージ。アスカが居るのは砂浜? 私も居る。シンジはアスカを見てる。アスカもシンジを見てる。顔が近い。……イメージが終わる。……自己嫌悪?

 

・アスカが見ているもの

下着を着たシンジ。水を飲んでいる。葛城一尉の家のお風呂?

 

・アスカが感じていること

興奮? ドキドキしている。シンジに抱き締められるイメージ? 何故裸? イメージが飛ぶ。大きな家、庭に白い犬。アレは子供? 背の高いシンジが笑っている。目が合う。顔が近い。……イメージが終わる。……自己嫌悪?

 

「ほうほう。さすがはファーストチルドレン。シンクロには一家言あるみたいだな」

「……加持、これって、レイがシンちゃんとアスカにシンクロしたってこと?」

「ああ。……前回の使徒との戦いで、あの3人は深いシンクロ状態にあった。その感覚を、掴んでもらいたいんだよ。より高度な連携の為にね」

「……本音は?」

「そりゃあアスカにも春が来て欲しいなっていうオヤジ心が……っておいおい葛城、自分でネタ振りしといてゲンコツ構えるなよ……さっきのが本音だよ。使徒が高度な連携をする以上こっちも同じくらいの連携が必要ってのはわかるだろ? 『アレ取ってくれ』が通じるレベルの連携がね。そういう意味じゃ、アスカに春が来て欲しいってのも嘘じゃない。……けど、このテストのアイデアを出したのは俺でも、問題を考えたのは、りっちゃんなんだぜ?」

「え? リツコが?」

「ヒトのATフィールドを検証するんだとさ。りっちゃんの予想ではこの場合シンジ君とアスカには特異な反応が————と、シンジ君が書き始めたな」

 

・レイが見ているもの

たこ焼きを食べているレイ。

 

・レイが感じていること

次はお好み焼きも捨てがたい。イカ玉が食べたい。

 

・アスカが見ているもの

僕が水を飲んでいる。ぼやけてよくわからない。

 

・アスカが感じていること

恥ずかしい……?

 

 

「なるほどなるほど。じゃあアスカは————」

 

・レイが見ているもの

たこ焼きを食べているレイ。

 

・レイが感じていること

たこ焼きからお好み焼きというのは安直だったかも知れない。明石焼きに挑戦してたこ焼き系をまずは押さえておくべき……?

 

・シンジが見ているもの

アタシ? なんかボヤけてる。

 

・シンジが感じていること

……恥ずかしい?

 

 

「……りっちゃんの予想通りだなぁ。これがATフィールドか」

「心の壁、ってこと? 2人は、お互いに対する好意を本人に知られたくなくて、互いに向けてATフィールドを張った……?」

「そうなるな。じゃあ、2問目だ。今度は、試験室に対して、りっちゃんが作ったハーモニクス調整機……要するにエヴァに積んであるシンクロ補助装置を起動する」

 

そう言って、加持が監視室のコンソールを操作すれば、チルドレン達の前に映された画面が切り替わる。

 

アスカの前に表示されて居るのは、昨年の発表会で正装してチェロを弾くシンジの姿。シンジの前に表示されているのは、Abiball(卒業パーティー)の為にドレスを着て薄化粧をしたアスカ。そして、レイの前にはリツコからの差し入れのケーキを頬張るレイの写真。

 

「ねぇ加持。なんでレイだけ腹ペコセレクションなの……?」

「俺に聞かれてもな……まぁなんだ。色気より食い気なんじゃないのか? レイの心を動かす要素が。さて。じゃあ装置の補助ありだと……レイはさっき同様、早いな」

 

・シンジが見ているもの

ドレスを着たアスカ。メイクをしている?

 

・シンジが感じていること

可愛い。天使みたい。綺麗。いつか見てみたい。元々可愛いのに反則じゃないの? 相手役の男に嫉妬する。着飾ったアスカとデートに行ってみたい。……自分が釣り合う自信がない。でもアスカが好きと言う気持ち。葛藤。

 

・アスカが見ているもの

チェロを弾くシンジ。劇場にいる? 正装している。

 

・アスカが感じていること

格好いい。真面目な表情なのが特に良い。普段と違う格好で新鮮。大人な感じがする。……甘えてみたい。煩悶。興奮している? また白い犬と家……? 料理をして居るシンジ……? シンジが好きと言う気持ち。

 

「……アスカって結構乙女なのね」

「葛城、それ本人に言うなよ?」

「わーってるわよ流石に。————って、シンちゃんとアスカが悶えてるわよ!? 精神汚染でも起きたんじゃないでしょうね?」

「いや、相手はエヴァじゃなく同じ人間なんだぞ……アレは多分、羞恥心の発露だな」

 

そう言って見守る先で羞恥心を刺激され、ジタバタと悶えるシンジとアスカ。

 

互いのATフィールドを中和してしまった事で生まれた『無言の告白』は、嘘では無いと理解してしまえるが故に、極限に恥ずかしい。

 

この短期間で両思いになるなど、お互いにとって予想外だったのだから。

 

シンジのそれは、一目惚れ。アスカという美しい少女との洋上での出会いにときめき、その後の戦いで心を交わして、共同生活をする内にますます恋慕を募らせたもの。

 

アスカのそれは、シンジより少し後。戦いの中、痛みのフィードバックを引き受けて自分を庇うシンジに、不覚にもときめいた。守って欲しい。抱き締めて欲しいと願って過ごした幼少期を持つ彼女に取って、初めて『自分を守ってくれた男の子』はシンジだったのだ。そして、共同生活で彼の優しさに触れて、彼女はささやかに恋を秘めていた。

 

本来であれば、その事実をお互いに認識するのはずいぶん後の事になっていたのだろう。

 

だがしかし。加持とリツコの策によって、その運命は随分と早回しにされてしまった。

 

「うわー……うああ……」

 

そんな幸せなんだか苦しいんだかわからない喘ぎを漏らすシンジとアスカ。

 

しかし、それと同時に部屋に仕込まれた計器は、チルドレン間のシンクロ率の劇的な向上を示すのであった。

 


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