【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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朝起き千両

真夜中の騒動から一夜明けて、翌朝。

 

早朝に目を覚ましたサキエルは、周囲の状況を確認して苦笑を漏らすと、彼らを起こさないように、布団の中でじっとしたまま考えを巡らせる事とした。

 

横向きに寝ていたサキエルと背中を合わせてシンジが眠り、シンジの胸にはアスカが、サキエルの胸にはレイが抱きついて幸せそうに眠っているのだ。到底動ける姿勢ではなかった。

 

加えて言えばレイは口寂しいのかサキエルのパジャマに吸い付いており、ちうちうと寝ながら口を窄める彼女は、サキエルに『起床より、このままレイを撫でておこう』という判断をさせるのには十分すぎる可愛さを発揮している。

 

故に、レイの頭を優しく撫でつつ、サキエルは今後について思案した。

 

————堕天した肉体はヒトのカタチに縛られる。

 

その呪縛は本体ですら例外ではなく、太平洋沖の海底には現在、身長40mの全裸の中性的美形が潜伏している状態だ。

 

ATフィールドの運用には問題がないが、光のパイルのような肉体的武装は壊滅。地味に遊泳用の器官なども失われており、水中で動きにくい事この上ない。

 

目からのビームや凍結能力、発電能力に飛行能力といった今までの使徒から継承した能力は残っているものの、肉弾戦が『ステゴロ』になってしまったのは悲しい事態だ。

 

エヴァンゲリオン用の武装を拝借することも考えねばならない。

 

だが、何よりも問題なのは、表立って行動できない事。その外見はあまりに『ルイス・秋江』としての外見に近く、明らかに怪しいのである。

 

というか普通に猥褻物陳列罪に当たりそうだ。サキエルを罪に問う法はこの世にないが、流石にサキエル自身が嫌である。

 

戦闘は最悪チルドレンの訓練用にと学習した拳法でどうにでもなるので、本当に外見が問題であった。

 

「天使とヒトの血を混ぜて生まれた巨人か。さながらネフィリムだな。共食いの果てに自滅しろというゼーレからのメッセージか? ……考えすぎか。……しかしコレでは本当に、戦いどころでは無いな……どうしたものか」

 

と、そこまで考えて、サキエルは『イスラフェル』の能力に着目する。

 

「ああ。奴を食えば『分裂できる』のか。人間サイズまで分割すれば中々の量になりそうだが、僕のS2機関が5つ分の出力を得ると考えれば不可能ではない……筈だ。————イスラフェルだけは本気で手に入れる必要があるな。シンジ君達の特訓に一層力を入れなければ」

 

そんな決意を胸に抱くサキエルだが、その呟きを聞いてか、物理的に胸に抱いていたレイがモゾモゾと身じろぎしてしまったのに気づいて息を顰める。

 

まだ暗い早朝の布団の中、眠りが浅くなったせいでご馳走を食べる夢でも見始めたらしいレイにパジャマを涎まみれにされたサキエルがじっと濡れたパジャマのベトベト感に耐える中で、モゾモゾと動く気配が背後にも一つ。

 

意識を巡らせて見れば、その動きの主はシンジの腕の中のアスカ。彼女はレイと違ってきちんと起きたようだが、寝ぼけ気味ではあるのか、普段の『エリートな惣流さん』ではなく『14歳のアスカちゃん』のモードらしい。

 

「シンジだぁ♡」

 

とつぶやいて、眠るシンジにキスをして抱きしめ直して二度寝したのだ。

 

そこで困るのは、シンジである。

 

幸福なことに、そして不幸な事に、アスカがモゾモゾしたところで目覚め、今ので完全に起きてしまった彼は、完全な生殺し状態で、密着するアスカの感触に全力で耐える羽目になった。

 

しかも、健気にも寝ぼけているアスカがATフィールドに滲ませている願いを遂行しようと、彼はアスカの頭を優しく撫でているのである。まさに紳士オブ紳士。中学生男子としては称賛されて然るべき自律精神である。

 

そんな光景に、肩の力が抜けたサキエルは、寝直そうかと目を閉じる。

 

結局4人が揃って目を覚ますのは、それから30分後、朝6時半のことであった。

 

 

* * * * * *

 

 

時を同じくし、リツコの家。早起きなリツコが淹れたコーヒーを飲みつつ、司令官担当サキエルは育児担当から思考を引き継いで思案する。

 

「……全裸の巨人は流石に色々まずいからねえ」

「そうね。でもサキエル。貴方ならどうにかなるのじゃなくって?」

「どうにかというと?」

「ATフィールドによる認識阻害」

「————! その手があった。いや、たしかに。本体に対して使う発想がなかったが、問題点が外見なら使えるね」

「ただ、人間の姿に堕とされたというのは問題が大きそうね。貴方元々は光のパイルで戦っていた訳だし」

「アレは鞭にも剣にもできて便利だった……まぁその点は、ネルフのソニックグレイブを借りる形になるかな」

 

そう言って苦笑したサキエルに対し、リツコは確かな『違和感』を覚えて、その原因を指摘する。

 

「知恵の実の調子はどう?」

「……慣れないね。ストレートに湧き出てくる感情や欲望に振り回されてしまいそうだ」

「そう。例えば?」

「————りっちゃん。僕は思考速度などを失ったわけではないんだよ? ……今からかい?」

「あら、察しがいいのは素敵だけど会話の先読みはマナーが悪いわよ?」

「君は頭の良い奴の方が好きだろう?」

「そうね。……それで、その、今からはダメかしら?」

「僕は構わないよ。……さて、じゃあ先にお風呂を沸かしておこうか。仕事の方も、たまには重役出勤でも怒られないさ。りっちゃんの今日の業務予定のメインは午後からだしね。……何なら影武者でも手配しておこうか?」

「大丈夫よ。元々午前中の予定は空けてあるから。……計算高い女は嫌い?」

「真面目で計画的なのは好きだよ。……それに、僕の為に予定を空けておいてくれた女の子を嫌うわけもないし」

 

そう言って、コーヒーを飲み干したサキエルはリツコの唇を奪うと、お風呂の支度を始める。

 

イスラフェルとの戦いに備える彼らの朝は、比較的穏やかに過ぎていくのだった。


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