【完結】我思う、故に我有り:再演   作:黒山羊

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一心精進

「うひゃあ、気持ち悪ッ」

 

そんな素っ頓狂な悲鳴を上げながら、アスカは木製の十字槍を手に、まるでその道ウン十年の達人かの様に手足の如く槍を振るう。

 

その術理は、宝蔵院流槍術だけでなく、中国式の六合花槍なども取り入れたもの。到底14歳の子供が使う武術とは思えない完成度を誇っており、心得があるものなら『立ち会えば死ぬ』と思わせるほどの迫力がある。

 

そんなアスカの少し向こうでは、鞘に納めた真剣を構えたシンジが居合斬りで巻藁を斬っており、こちらも電光石火の早技である。

 

抜刀一閃。畳表ではなく古式ゆかしい『巻藁』を使っているせいか藁が弾け飛び、一見すれば刃筋が立っていないのではと錯覚してしまいかねないが、その太刀筋は正確無比。

 

目に負えない程の抜刀速度も相まって、瞬間的に藁が爆散したと思ったらシンジが刀を振り切っていた、としかいえない光景だ。

 

そして、最後にレイだが、彼女が行っているのは見たところ武術の型。

 

見るものが見れば、それが中華系の八極拳の套路、そして日本の躰道の型であることがわかるだろう。

 

至近距離において無類の強さを誇る八極拳。一方で回転と重心操作によってロングレンジ高威力の奇襲攻撃を行う躰道。両者は一見すると全く違う武術だが、『強力な体幹制御』という点で共通項を持ち、相互にレンジ差を補う組み合わせとなる。

 

さらにいえば、双方ともに基本的に『ブチ込まれるより先にブチ込む』『攻撃は躱すかカウンター』という超アタッカースタイル。防御はATフィールドで行えるエヴァにとっては、攻撃の手法が多いこの二つの拳法は相性が良いと言えるだろう。

 

そして何より重要なのは、八極拳の極意は『槍』にあるということだ。そもそも、槍使いの為の技術なのである。

 

 

————で。

 

 

当然ながら、チルドレン達がこんな達人レベルの技を使えるわけがない。

 

「イダダダダ……!」

「おっとシンジ君肉離れか。すぐに治すから頑張ってね」

「ぎにゃあッ!」

「アスカちゃんは豆が潰れたの? 見せて。はい治った」

「〜〜〜ッッ!!」

「レイちゃんは……こむら返り? すぐ治るからね」

 

肉体の破壊と再生。S2機関から生命エネルギーをブチ込んで強制的に修復する荒技を繰り返し、とにかく格闘能力を肉体に覚え込ませるその手法は、サキエルによる『超特訓』。

 

サキエルがパクってきた達人の武術を、シンクロでチルドレンの肉体制御を奪うことで強制的に実行させるというこの訓練方法は、言うなれば肉体のスピードラーニング。

 

脊髄と小脳に肉体操作の『正解』を叩き込み続けるという脳筋というか『筋肉で洗脳する』様な手法だが、効果は確実。

 

何しろ延々と最適解を実技として叩き込み続け、筋肉の超再生はエネルギー注入でゴリ押し気味に促進されるのだ。

 

その結果手に入るのは、最適な動作と、その動作に必要な筋肉を持つ肉体。

 

しかも、サキエルの『操縦』によって繰り出されるのは達人から見ても『会心の一撃』と呼べる動き。スポーツでいう『ゾーンに入った』動きなのである。

 

強制的にゾーン状態の超人的動作を延々と反復学習。これで強くならない理由がない。

 

「なぁ、サキエル。これネルフの保安部にもできないか?」

「シンクロに慣れていなければ十中八九精神に不調をきたすと思うよ?」

「じゃあ無理か……りっちゃんならイケるってことかな?」

「あら、私の身体を操るの? ふふふ、何をやらされちゃうのかしら?」

「……いや、やらないからね? 加持君、あまり揶揄うなら僕にも考えがあるよ?」

「考えというと?」

「葛城一尉とコンビでの泊まり掛け出張の予定を極力捻じ込む」

「あら、優しいのね。ミサトも喜ぶわ」

「ははは……りっちゃんとサキエルだけは敵に回したくないなあ」

 

「クッソ! 見学組がいちゃついてて腹立つわね!」

「……アスカ、今日はシンジの部屋で寝ると良いわ」

「ちょ、レイ!?」

「……あと一緒にお風呂に入っても良いわ」

「……レイ、アスカのストレス解消には取り敢えず僕をくっつけておけば良いとか思ってない?」

「思ってる。事実だもの。アスカはシンジにくっ付いてる方がおとなしい。だからシンジは、帰ったらアスカとずっと一緒に居て。アスカ、きっと疲れてるから。甘えさせてあげたほうがいい」

「〜ッ!!!」

 

「おっと。アスカのキレが増したな?」

「恥ずかしさのあまり限界を越えたのかしらね」

「レイちゃんは言葉が豪速球のデッドボールだからねえ」

「ドッジボールじゃなくてか?」

「レイちゃん本人はキャッチボールのつもりだから……」

「あー……。ん? シンジ君も何やら動きが明鏡止水って感じになってきてるぞ」

「あれは……アスカちゃんとお風呂に入ったあと同衾する状況を遅ればせながら想像して脳が思考を辞めているね」

「あら。随分とウブね?」

「シンジ君、コンビニで月刊ヤングエース買うのを躊躇する子だから……」

「サキエル、それは流石にまずいんじゃないか? 俺は世代が世代だしそんな暇無かったが、14歳だったら落ちてるエロ本の一冊や二冊、ベッドの下に隠してるもんだろ」

「まぁ、その辺のフォローはアスカちゃんに任せようかなと」

「……なるほど。耳年増なアスカとはバランスが取れてるのか……?」

「総合的に2人ともなんだかんだと身持ちは硬いし、間違いには発展しないでしょうね。……そう考えるとレイはその辺り大丈夫なの?」

「ああ、レイちゃんの欲望は概ね睡眠欲と食欲だからねえ」

 

大人達がヒソヒソと会話する中で、ひたすらに武術をインストールされていくチルドレン達。

 

限界まで行われたその超特訓は、彼らに確かな手応えとえげつない筋肉痛をもたらし、疲れ果てた彼らは、這々の体で家に帰って、気合いで入浴してから、お布団へとダイブした。

 

なお、その際にレイが尋常ではない根性を発揮してプルプルと震える手で強引にアスカをシンジの部屋に押し込めたりといったハプニングが勃発したが……。

 

最終的に桃色砂糖味な雰囲気を出しつつ同衾したシンジとアスカが若干元気になっていたので、レイの行動は悪くない采配だったのかもしれない。

 




ちょっぴりエネルギー切れ気味……。
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